福井県和泉村面谷鉱山の蛍石

福井県和泉村面谷鉱山の蛍石

1.初めに

 2003年7月に、和泉村「郷土資料館」を見学して、「面谷鉱山」の名前を初めて知った。
その規模が私の予想以上に大きかったことに驚き、その翌週に「面谷鉱山」を訪れた。
 しかし、準備不足は否めなく、「黄銅鉱」と小さな「蛍石」を採集しただけであった。
 帰ってきて、文献を読み直すと、「握りこぶし大の蛍石」の産地は別な場所だと知り
また、訪れたいと考えていた。
 8月末、某所秘蔵の「和田鉱物標本」をジックリ拝観する好機に恵まれた。これらの中に
面谷鉱山産の「蛍石」と「自然銀」が収蔵されていた。
 仙翁坑での「モリブデン鉛鉱(黄鉛鉱)」を採集した後、「和田鉱物標本」が頭にあって
(脳裏にちらついて?)、自然と面谷川に沿った林道を走っていた。
 ここも、前回(2003年7月)の轍を踏まないよう、昔の採集記を読み直し産地入口までの
”キロ数”を確認しておいた。
 ズリでは、子どもの頭大の母岩に、緑色〜白色の蛍石脈の入ったものや、晶洞中に自形結晶が
ビッシリ付いたものを採集した。
 「蛍石」は、「和田鉱物標本」に劣らない標本を採集できたと思う。
 自然銀の産出も予感させるズリの雰囲気でしたので、再訪を期しています。
(2003年9月再訪)

2. 場所

 中竜鉱山から国道158号線にもどり、和泉村の中心部に来ると、ティラノザウルスの親子が
出迎えてくれ、そこから100mほど離れた場所に、「資料館」があります。
 和泉村中心部から国道158号線を東に走ると、九頭竜湖にかかる「夢のかけはし」があり
これを渡り、「平家岳登山口」を目指すと、面谷川の両側に、鉱山のズリ石や精錬所跡と
思われる遺物が見えてきます。

  鉱山ズリ

3. 面谷鉱山の地質・鉱床、歴史と採集方法

 3.1 面谷鉱山の地質・鉱床
   大正3年に発行された「本邦重要鉱山要覧」によれば『地質は、砂岩及石英粗面岩にして
   安山岩を併発せり。鉱脈はこの石英粗面岩中に胚胎せる正規鉱床なりとす。主なる鉱脈は
   13条にして、竪間歩脈をもって其の最たるものとす。鉱幅は1尺(30cm)以下を普通とし
   3、4尺(90〜120cm)をもって最大とす。』

 3.2 面谷鉱山の歴史
    「本邦重要鉱山要覧」には、『口碑の伝えるところに拠れば、今より五百六十余年前
   康永(北朝年号、1340年ころ)年間、1猟師の発見に係ると云う。降りて、天正年間
   (1590年ころ)碓井 直左衛門更に開坑し、爾来村民各自稼行となり、一盛一衰継続し後
   天保年間、大野藩主・土井氏鉱業を奨励し、稍々事業を拡張せり。維新頃より、再び
   村民の稼行に移り、杉村 次郎と共同して鉱業社なるものを組織して操業せり。
    明治14年(1881年)秋田彌左衛門之を継承し、明治21年(1888年)、三菱合資会社の
   所有に帰し、爾来事業を拡張す。』

 3.3 採集方法
    最近、誰も訪れた形跡がなく、ズリの表面を丹念に見て回る表面採集で、充分良品を
   採集できます。ハンマーは、方解石塊の中に、蛍石が入っているものがあり、これを
   割るのに使っただけでした。

4. 採集鉱物

(1)蛍石【Fluorite:CaF2】
    粘板岩〜砂岩の割れ目を充たす脈状で産出するものと、石英の晶洞部分に自形結晶で
   産出するものの、2通りがある。色は、無色〜緑色で、劈開が著しいので、石英とは容易に
   区別できる。
    白い蛍石は、紫外線による顕著な蛍光は、見られませんが、緑色の蛍石は、紫外線を
   照射すると紫色に見えます。

   「日本鉱物誌」の蛍石の項には、次のような記述がある。
   『越前面谷産は脈石を為すものにして晶面を示すもの極めて稀なり
   然れとも稀れには美麗なる結晶を現はすものあり、三菱会社鉱山標本中にあるものは
   淡緑色透明にして”O”と”∞O∞”との晶面を現はすものなり。』

     
           脈状           晶洞中の自形結晶
                  蛍石

   このほか、黄銅鉱、黄鉄鉱、銅の2次鉱物などが採集できます。

5.おわりに 

(1)仙翁坑でも痛感したが、産地情報のあるなしが、採集結果に大きく影響する。
   私は、かねがね”鉱物採集は、知力、体力を使う、科学的スポーツ”と標榜して
   います。歳の割りにという相対的な体力はともかく、絶対的体力は、年齢と
   共に低下するのは、避けられず、それを”知力”でカバーするのが、今後の
   私の課題です。
(2)知力には、つぎのようなものが含まれると思う。
   @産地・標本情報収集能力
   A見当識能力(方向オンチでなく、産地のニオイを嗅ぎ取る嗅覚が発達)
    仙台のTさんから、水晶の日本式双晶に関する、和英文の論文を多数、送って
   頂いた。これらを読破し、知力の低下に少しでもブレーキを掛けたい。
(3)面谷鉱山のズリは広大で、自然銀も出そうな雰囲気でしたので、再訪を計画して
   います。
   「日本鉱物誌」の自然銀の項には、『・・・・・然して自然銀の最も多量に産出するは
    越前面谷にして該地に於ては・・・・・・・・・・・・』
と手懸りを
    与えてくれています。

6.参考文献

1)農商務省鉱山局編:本邦重要鉱山要覧,東京製本合資会社,大正3年
2)和田 維四郎:日本鉱物誌,東京築地活版製造所,明治37年
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