小Yさんと別れても陽が高かったので、産地を訪れてみることにした。道の左右に見える
土取り場の崖は、八ヶ岳の火山噴出物が確認できるだけでも約20mの厚さに堆積し、その
特定の層に輝石が確認できた。
ここでは、「角閃石」も採集でき、高々300mほどしか離れていない左右の産地で普通輝石
と角閃石の出現率が大きく違うのは興味深い。さらに、特定の層の中に『饅頭石』が
確認でき、川上村としては初めての産出報告となるのではないだろうか。
貴重な産地を教えてくれた小Yさんに、厚く御礼申し上げる。
( 2009年4月採集 )
「饅頭石」は、細かい粒の火山灰が厚く積もった中に”餡”に相当する部分を”皮”が包んで
産出する。
ここは崖の表層がめくれるようになっったり、細かく崩れて崩落する。崩れかかった崖や
崩落して堆積した土砂の中からピンセットでつまみ、ビニール袋に回収するのが良いだろう。
母岩についた輝石も採集できる。
産地はレタス畑の縁にあり、レタス栽培時期は採集しないほうが良いだろう。表土が解け
レタス栽培が始まる前の今時分(4月初旬〜中旬)が良いようだ。
普通輝石
(2) 鉄普通角閃石【FEROHORNBLENDE:Ca2Fe4(Al,Fe3+)Si7AlO22(OH)2】
普通角閃石【Hornblende】には、苦土普通角閃石【MAGNESIOHORNBLENDE】と
鉄普通角閃石【FEROHORNBLENDE】があるようだ。分析していないので確かではない
が、周囲の火山灰が赤茶色に色づいているので鉄普通角閃石とした。
2つの産地は直線距離で約300mしか離れていないのだが、角閃石と輝石の産出比率
が、左の産地は、角閃石≒普通輝石 だが、右では、角閃石<<普通輝石 と大きな違い
を見せている。
(3) 饅頭石/ハロイ石【Manjyuisi/HALLOYSITE:Al4Si4O10(OH)8・4H2O】
直径1〜3cmの球状〜ソラマメ状で、饅頭の皮に相当する部分は赤茶色で餡に相当する
中心部は黄褐色で白いごま塩状の部分も見られる。
生成後に圧力を受けたようで、形はやや扁平で、乾燥した餅のように表面にヒビ割れが
観察できるものも多い。
「山梨の奇岩と奇石」には、「饅頭石」の成分や成因について次のように説明している。
『 まんじゅう石の化学成分の特長として、皮の部分が主として珪酸(SiO2)、酸化アルミ
まんじゅう石のでき方には・・・・初生的成因・・・・「マグマ説」と・・・・・2次的成因・・・
野外の産状から見て、両方のでき方があると考えられる 』
ニウム(Al2O3)、水(H2O)から構成されており、餡をなす内容物は、これらの成分に
加えて酸化マンガン(MnO)の量がやや多いことがあげられる。
「風化説」がある。
しからば、川上村の饅頭石の成因はどちらだろうか? 私は、2次的成因だろうと考え
る。なぜなら、噴火活動で吹き飛ばされたときに饅頭石(の原型)になっていたとすれば
同じ堆積層の中に同じような大きさの軽石などがあっても良さそうだが全く見当たらない。
産状のところで写真を示したが、微細粒の火山灰の中に産出し、細かいものが何かを
核(あるいは粘結材)として集合した「結核体」と考えたほうが説明しやすいからである。
山梨県の饅頭石は、木内石亭の「雲根誌」にも記載されるほど有名で、”全国区”だが
5.2 川上村の輝石産地
小Yさんによれば、この産地は、「御所平(ごしょだいら)」ではなく、近くにある旧石器
5.3 角閃石と輝石の鑑定
(Gibbsite of Hocchi Pass , Shikishima Town , Ymanashi Pref.)
( " Manjyuishi " from Manjyu Pass , Nirasaki City , Yamanashi Pref. )
川上村で饅頭石の産出報告は初めてだろう。
川上村ではいくつかの場所で輝石や角閃石など、八ヶ岳火山活動に伴う造岩鉱物が
採集でき、HPで下記のように紹介した。
(Augite and Hornblende of Gosyodaira,Nagano Pref.)
遺跡名と同じ字(あざ)で、「柏垂(かしわだれ)」が正しいので、ここに訂正する。
角閃石と輝石の鑑定は簡単そうで意外と難しい。どちらも、黒色、柱状結晶で似たような
顔をしている。
上に、結晶図を示したのでお分かりと思うが、輝石は”六角柱状”、角閃石は”断面が
菱形で柱状”、と覚えておけば間違いは少ないだろう。
6. 参考文献
1) 正宗 篤夫編纂:日本古典全集 雲根誌 上巻,日本古典全集刊行会,昭和5年
2) 正宗 篤夫編纂:日本古典全集 雲根誌 下巻,日本古典全集刊行会,昭和5年
3) 斉藤 忠:人物叢書 木内石亭,吉川弘文館,昭和37年
4) 柴田 秀賢、須藤 俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,図鑑の北隆社,昭和48年
5) 益富 寿之助:石 昭和雲根志,白川書院,2002年
6) 石田 高:山梨の奇岩と奇石,山日ライブラリー,2002年
7) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年