長野県川上村大深山(おおみやま)の普通輝石

    長野県川上村大深山(おおみやま)の普通輝石

1. はじめに

   南相木村での採集の帰り、馬越(まごえ)峠を越え川上村の大深山(おおみやま)地区に
  入ると、小Yさんが「あの辺りで輝石が採集できる」、と土取り場の黄褐色の崖を指差した。
   大深山地区には、「大深山鉱山」、「御陵山(みはかやま)林道」など比較的良く知られた
  フィールドがあるのだが、ここで造岩鉱物の1種・輝石が採集できると初めて知った。

   小Yさんと別れても陽が高かったので、産地を訪れてみることにした。道の左右に見える
  土取り場の崖は、八ヶ岳の火山噴出物が確認できるだけでも約20mの厚さに堆積し、その
  特定の層に輝石が確認できた。

   ここでは、「角閃石」も採集でき、高々300mほどしか離れていない左右の産地で普通輝石
  と角閃石の出現率が大きく違うのは興味深い。さらに、特定の層の中に『饅頭石』
  確認でき、川上村としては初めての産出報告となるのではないだろうか。

   貴重な産地を教えてくれた小Yさんに、厚く御礼申し上げる。
   ( 2009年4月採集 )

2. 産地

   大深山遺跡入口を左に見て、川上佐久線を馬越峠に向ってのぼっていくと、道の左右に
  土取り場の崖が見える。ここが産地である。

       
             左                  右
                    産地遠望

3. 産状と採集方法

   産地は風化した安山岩、軽石、火山灰が堆積した地層で、火山活動で吹き飛ばされたか
  安山岩から風化して抜け落ちた輝石が特定の層にかたまっているのが確認できる。

   「饅頭石」は、細かい粒の火山灰が厚く積もった中に”餡”に相当する部分を”皮”が包んで
  産出する。

       
           輝石                饅頭石
                    産状

    ここは崖の表層がめくれるようになっったり、細かく崩れて崩落する。崩れかかった崖や
   崩落して堆積した土砂の中からピンセットでつまみ、ビニール袋に回収するのが良いだろう。
    母岩についた輝石も採集できる。
    産地はレタス畑の縁にあり、レタス栽培時期は採集しないほうが良いだろう。表土が解け
   レタス栽培が始まる前の今時分(4月初旬〜中旬)が良いようだ。

4. 産出鉱物

 (1) 普通輝石【AUGITE:(Ca,Mg,Fe)2Si2O6
      黒色、輝きが強いガラス光沢の短柱状あるいは長柱状結晶として産出する。結晶の
     大きさは大きくても10mm前後で、単晶以外に双晶や複雑な形の貫入双晶も多い。

            
            単晶             燕尾双晶             貫入双晶
                            採集標本

         
              単晶             燕尾双晶
                      結晶図

                      普通輝石

 (2) 鉄普通角閃石【FEROHORNBLENDE:Ca2Fe4(Al,Fe3+)Si7AlO22(OH)2
      普通角閃石【Hornblende】には、苦土普通角閃石【MAGNESIOHORNBLENDE】と
     鉄普通角閃石【FEROHORNBLENDE】があるようだ。分析していないので確かではない
     が、周囲の火山灰が赤茶色に色づいているので鉄普通角閃石とした。
      2つの産地は直線距離で約300mしか離れていないのだが、角閃石と輝石の産出比率
     が、左の産地は、角閃石≒普通輝石 だが、右では、角閃石<<普通輝石 と大きな違い
     を見せている。

          
          採集標本          結晶図
                鉄普通角閃石

 (3) 饅頭石/ハロイ石【Manjyuisi/HALLOYSITE:Al4Si4O10(OH)8・4H2O】
     直径1〜3cmの球状〜ソラマメ状で、饅頭の皮に相当する部分は赤茶色で餡に相当する
    中心部は黄褐色で白いごま塩状の部分も見られる。
     生成後に圧力を受けたようで、形はやや扁平で、乾燥した餅のように表面にヒビ割れが
    観察できるものも多い。

      饅頭石

     「山梨の奇岩と奇石」には、「饅頭石」の成分や成因について次のように説明している。

     『 まんじゅう石の化学成分の特長として、皮の部分が主として珪酸(SiO2)、酸化アルミ
      ニウム(Al2O3)、水(H2O)から構成されており、餡をなす内容物は、これらの成分に
      加えて酸化マンガン(MnO)の量がやや多いことがあげられる。

       まんじゅう石のでき方には・・・・初生的成因・・・・「マグマ説」と・・・・・2次的成因・・・
      「風化説」がある。

       野外の産状から見て、両方のでき方があると考えられる                 』

      しからば、川上村の饅頭石の成因はどちらだろうか? 私は、2次的成因だろうと考え
     る。なぜなら、噴火活動で吹き飛ばされたときに饅頭石(の原型)になっていたとすれば
     同じ堆積層の中に同じような大きさの軽石などがあっても良さそうだが全く見当たらない。
      産状のところで写真を示したが、微細粒の火山灰の中に産出し、細かいものが何かを
     核(あるいは粘結材)として集合した「結核体」と考えたほうが説明しやすいからである。

5. おわりに

 5.1 川上村の「饅頭石」
     山梨県の「饅頭石」産地については、下記のように何回か紹介した。

     ・山梨県敷島町ホッチ峠の饅頭石
      (Gibbsite of Hocchi Pass , Shikishima Town , Ymanashi Pref.)

     ・山梨県饅頭(まんじゅう)峠の「饅頭石」
      ( " Manjyuishi " from Manjyu Pass , Nirasaki City , Yamanashi Pref. )

    山梨県の饅頭石は、木内石亭の「雲根誌」にも記載されるほど有名で、”全国区”だが
   川上村で饅頭石の産出報告は初めてだろう。

 5.2 川上村の輝石産地
     川上村ではいくつかの場所で輝石や角閃石など、八ヶ岳火山活動に伴う造岩鉱物が
    採集でき、HPで下記のように紹介した。

     ・御所平の輝石・角閃石
       (Augite and Hornblende of Gosyodaira,Nagano Pref.)

     小Yさんによれば、この産地は、「御所平(ごしょだいら)」ではなく、近くにある旧石器
    遺跡名と同じ字(あざ)で、「柏垂(かしわだれ)」が正しいので、ここに訂正する。

 5.3 角閃石と輝石の鑑定
     角閃石と輝石の鑑定は簡単そうで意外と難しい。どちらも、黒色、柱状結晶で似たような
    顔をしている。
     上に、結晶図を示したのでお分かりと思うが、輝石は”六角柱状”、角閃石は”断面が
    菱形で柱状”、と覚えておけば間違いは少ないだろう。

6. 参考文献

 1) 正宗 篤夫編纂:日本古典全集 雲根誌 上巻,日本古典全集刊行会,昭和5年
 2) 正宗 篤夫編纂:日本古典全集 雲根誌 下巻,日本古典全集刊行会,昭和5年
 3) 斉藤 忠:人物叢書 木内石亭,吉川弘文館,昭和37年
 4) 柴田 秀賢、須藤 俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,図鑑の北隆社,昭和48年
 5) 益富 寿之助:石 昭和雲根志,白川書院,2002年
 6) 石田 高:山梨の奇岩と奇石,山日ライブラリー,2002年
 7) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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