2014年 ミネラル・ウオッチング納め 『奥三河の大地に眠る石の華』











         2014年 ミネラル・ウオッチング納め
           『奥三河の大地に眠る石の華』

1. はじめに

    12月に入り、2014年も残すところ1ケ月だ。この時期になると、毎年のように今年の『ミネラル・
   ウオッチング納め』をどこでやろうか、と思い悩む。
    糸魚川でヒスイを探し、翌日は石川県で紫水晶採集が真っ先に思いついたのだが、いささかマン
   ネリ化し過ぎている。”暖かいところの初めて訪れる産地”がベストだ、となった。
    愛知県の石友・KDさんに、『奥三河の大地に眠る石の華』と題する鉱物切手をいただいたことを
   思い出した。

     ・ 石友恵与の『鉱物切手』
     −奥三河の大地に眠る石の華−
      ( Mineral Stamps Presented by Mineral Friend , Aichi Pref.
        - Stone Flowers from the Earth in Okumikawa - )

    このページの「おわりに」にまとめておいたが、この切手になった鉱物のいくつかを採集していない
   し、当然産地を訪れていないのが長い間気になっていた。

     ・ 「水苦土石」(吉川鉱山)
     ・ 「ソーダ沸石」(八名井)

    そこで、2014年のミネラル・ウオッチング納めのテーマは、この2箇所の産地を含めて、『奥三河の
   大地に眠る石の華』
をたずねる旅だと決めた。この地域なら海が近いので私が住む山梨より暖かい
   はずだ。

    恒例の『秋のミネラル・ウオッチング』に参加できなかった兵庫の石友・Nさんの奥さんが、Ms.Tや
   妻が採集したすばらしい水晶の載ったページを見て、『切歯扼腕(せっしやくわん)』しているとの
   情報があり、ストレス解消にとお誘いした。また、2日目は地元の石友・Hさんが案内してくれること
   になった。

    初日、当方の目論見(もくろみ)があって12時に「豊川IC」出口でお会いする予定だった。東名を
   西に向って走ると止むはずの雨がやまず、時折土砂降りだ。急遽、豊橋市の鉱物展示施設に集合
   場所を変更させてもらう。
    「豊橋市地下資源館」で合流する頃には雨もやみ、薄日が差してきた。愛知県の鉱物標本を中心
   に見て回る。「南極の石」を囲んで記念写真だ。

     
          「南極の石」を囲む昔乙女たち

    館を出ると晴れ間も見え、時間も2時を回ったばかりなので、「吉川鉱山」を目指すことした。豊橋
   市内の渋滞を抜け、3時過ぎに吉川鉱山に着いた。ズリは見えるのだが、野イバラが生い茂ってい
   て予想以上に手間取ってズリに到着した。陽あたりの良い場所に陣取ってズリ石の表面を観察した
   り、割ってみると白色針状の「アルチニ石」や薄板状の「霰石」がある。
    Nさんの奥さんは、「灰クロム柘榴石」があった、と相変わらずの目聡さだ。私が割ったズリ石の隙
   間を見ると、「将棋の駒」状の「水苦土石」が”華”のようになっている文字通り『石の華』だ。時間は
   遅くないのだが陽が山陰に隠れると肌寒くなり、下山することにした。

     
           ズリ山の上の月【吉川鉱山】

    今夜の宿は「豊川IC」近くのホテルだ。風呂を浴びさっぱりして、来しなに目をつけておいた「味噌
   煮込みうどん」店に入ると団体客で満席で他を探す。ネパール・インド風カレー店に入る。まずは、
   ビールで乾杯だ。
    ナンにカレーをつけて食べるがその量が多い。デザートのアイスクリームも濃厚な味で、女性陣も
   大満足だ。食べきれないナンはお持ち帰りだ。

    ホテルに戻り、われわれの部屋で「大人の時間」だ。まずは、Nさんの奥さんが欲しがっていた標
   本を並べた「玉手箱」、そして山梨の地ワインで何度目かの乾杯だ。
    今回のミネラルウオッチング用にまとめた「標本チェックリスト」を写真を見ながら解説する。嫌が
   おうでも明日への期待が高まる。

    2日目、ホテルで朝食をいただき出発だ。Hさんと合流してご挨拶。Hさんによれば、「この辺りの採
   石場はやめてしまったところもあり、やっていても入らせてくれない」と厳しいようだ。Hさんが持参し
   た昔の標本をいくつか恵与していただいた。
    「照山の採石場」を訪れるが、案の定採集は難しい。次の「八名井の採石場」に行くと、土木建築
   物の解体屋になっているようだ。ここで、仕事があるHさんとお別れだ。
    地図を見るとこの近くに露頭のマークがあるので行ってみることにした。露頭はあるが「蛇紋岩」
   のようだ。車を停めると、地元の人が近づいてきて「車は向こうに停めてくれ」と言われる。この辺り
   で採石している場所を聞くが、「地元のわしらでもよう入れん」と厳しいようだ。「この上に古墳群が
   あって、秋には草花がきれい」だと聞き、訪れてみた。

     
               旗頭山尾根古墳群

    女性陣は、草花を鑑賞したり、種を採っている。ここで、お昼を食べ、「瓶割峠」をめざす。ここは
   中宇利鉱山から三ケ日ICに抜けるとき何度か横目に見て通り過ぎていた場所だが止まってみた。
   この採石場も入るのは難しそうだ。周辺をうろうろしていると、目聡いNさんの奥さんが、「緑青い銅
   の2次鉱物がついた石がある」という。表面に、「ブロシャン銅鉱」らしいものがみえる。割ってみると
   「クリソコーラ(珪孔雀石)」の鮮やかな水色が目に飛び込んでくる。周辺を観察すると中心に「輝銅
   鉱」や「黄銅鉱」があり、その周辺に「赤銅鉱」と「黒銅鉱」そして何と「緑鉛鉱」らしきものまであると
   いうから驚きだ。これを小割して分配し、N夫妻とお別れだ。

    2014年は、こどもたちや学生を案内してのミネラル・ウオッチングが中心だったが、年末になって
   ようやく永年気になっていた産地を訪れ、いくつかの標本を入手でき、産地の現状を確認できたのも
   大きな収穫だった。忙しい中、産地を案内してくれ、昔の標本を恵与してくれたHさんと同行いただい
   たN夫妻に感謝している。
    ( 2014年11月 訪問 )

2. 第1日目

 2.1 集合場所を目指して

    初日の集合は、昼食を済ませて12時、とN夫妻に一週間前に伝えておいた。中途半端な時間に
   したのは、私の都合と読みがあってのことだ。
    某市で開催される骨董市を見ておきたかったのが一つと、天気が思わしくなく午後には回復する
   だろうとの読みがあったからだ。
    実は、最初日本海方面でのミネラル・ウオッチングを計画していたのだが、何となく気が乗らなか
   った。そしたら、白馬村を中心とする直下型地震の発生だ。国道148号線は不通になり行けなかっ
   たはずだ。

 (1) 骨董市
      某市に近づくと雨が降り始めた。骨董市に着くと出店の数がいつもより少ないようだ。馴染み
     の店を回ると山のように古銭が入った箱が目に付いた。明治以降のものが主で、中に江戸時
     代の銭や中国からの渡来銭そして外国コインも混じっている。

      
               古銭の入った箱

      この箱の中の古銭を一枚一枚チェックして欲しいものを探す『選り銭(えりせん)』は楽しい。太
     平洋戦争前と戦時中のアルミ貨幣があった。この期間、金属資源不足は深刻で、貨幣の重さは
     年々軽くなり、昭和18年の10銭アルミ貨には量目(重さ)が1.2グラムと1.0グラムの2種類があり、
     1.2グラムのものは数が少ない。外径やデザインは全く同じで、重さが軽い分だけ厚さが薄いの
     が見分けるポイントだ。
      昭和14年の1銭アルミ貨の漢数字「四」の字体に2通りあり、□の中がカタカナの「ル」の字に
     なったものは数が少ない。
      1時間ほどかけて、箱の中にあった全部の貨幣をチェックし、10枚ほどを200円で購入した。

         
                表面            厚さの違い
                            【左:厚い 右:薄い】
                   昭和18年アルミ10銭貨

         
              「ルの四」                  「角の四」
                   昭和14年アルミ1銭貨

 (2) 東名は秋真っ盛り
      ICから高速に入ると雨はやんでいる。周りの景色をみると雨に濡れた紅葉が美しい。藤枝の
     辺りまでくると時折、雨脚が激しくなるのが気にかかる。Nさんと携帯で連絡すると小牧付近も雨
     のようだ。ということは、集合場所の豊川辺りも雨の可能性が高い。雨の場合のコンテンジェン
     シープランその1の集合時間をお昼にしたのでは対応できないようだ。

 (3) 集合場所を変更!!
      プランその2の発動だ。集合場所を「豊橋市自然史博物館」に変更する。三ケ日ICで出て、博
     物館に向かい12時30分ごろ駐車場に着き、Nさんの車を探すが見当たらない。携帯を入れると
     「豊橋市地下資源館」に着き、われわれを待っている、とのこと。
      インターネットで事前に調べると、「豊橋市自然史博物館」の学芸員が南三河の鉱物を調査・
     報告しているので、テッキリこちらのほうが鉱物標本の展示も充実していると思ったのだ。受付
     で展示内容を確認すると恐竜などの動植物が中心で、鉱物展示はないとのこと。
      ( 大型バスが何台もとまり、小中学生の遠足のコースになっているようだ )

      N夫妻の待つ「豊橋市地下資源館」は目と鼻の先だが、間に東海道線が走っているためグル
     リと迂回して駐車場に着いた。N夫妻にお会いするのは、恒例の『月遅れGWミネラル・ウオッチ
     ング』以来だから5ケ月ぶりだ。

 2.2 「豊橋市地下資源館」

      ここは、入場無料で、資源や今話題のエネルギー、そして誕生石の宝石原石や愛知県から
     世界の鉱物まで展示してある。いろいろな装置を使って実験もでき、子供から大人まで楽しめ
     そうだ。
      ( Nさんの奥さんは、子どもに帰って楽しそうだった )
      駐車場脇の「視聴覚センター」にはプラネタリウムなどもあり、そちらのほうが賑やかだった。

      「地下資源館」の入口は、坑道を模したトンネル状で、壁面には紀州鉱山の坑道に坑夫が刻
     んだ『落書き』のレプリカが埋め込まれている。何でも、13世紀か14世紀のころのものらしい。

         
                 エントランス                     坑夫の落書き
                                           【和歌山県・紀州鉱山】

        展示室のフロアに、「南極の石」が置いてあるので記念写真だ。Nさんの奥さんには、「これで
     すよ」と念を押される。(お解りの方はお解りだろう)

      展示物の内、私は鉱物を中心に見て回る。地元・豊橋市や三河地方を代表的な岩石や鉱物
     が展示してある。

      ・ 「蛇紋岩」(鳳来町黄柳野)
      ・ 「高師小僧」(豊川市高師ケ原)
      ・ 「金鉱石」(津具鉱山)
      ・ 「輝安鉱」(粟代鉱山)

      田口鉱山の「パイロクスマンガン石(通称パイマン)」や新鉱物「中宇利石」などあってもよさ
     そうだが見かけなかった。

      この地域を代表する岩石は「蛇紋岩」だろう。新鉱物の「中宇利石」や炭酸塩鉱物の『石の華』
     も蛇紋岩があればこそだ。
      「高師小僧」の標本は持っているが産地は訪れたことはない。強いて訪れてみたい産地でも
     ないので今回のミネラル・ウオッチングのコースに入れなかった。事務所で売っている10種類ほ
     どの鉱物絵葉書で唯一国産鉱物が描かれている「高師小僧」のを1枚(100円)買い求めた。

         
                「蛇紋岩」【黄柳野産】             「高師小僧」を描く絵葉書

 2.2 「吉川鉱山」の『水苦土石』

      外に出ると薄日が射している。これならミネラル・ウオッチングができそうだ。時間も2時を回
     ったばかりなので、「吉川鉱山」を目指すことした。
      豊橋市内には今も路面電車が走っているのを初めて知った。記念に1枚、「パチリ」。

      
             路面電車【豊橋市】

      市内の渋滞を抜け、山間部を走り3時過ぎに吉川鉱山に着いた。ズリが見えるのだが、野イバ
     ラが生い茂っていた予想以上に手間取って到着した。陽あたりの良い場所に陣取ってズリ石の
     表面を観察したり、割ってみると白色針状の「アルチニ石」や薄板状の「霰石」がある。

      
             吉川鉱山のズリで採集
              【撮影:Nさん】

      Nさんの奥さんは、「灰クロム柘榴石」があった、と相変わらずの目聡さだ。この産地でぜひとも
     採りたい「自形結晶した水苦土石」はなかなか出ない。30分ほどたったころ、私が割ったズリ石の
     隙間を見ると、「将棋の駒」を薄くしたような「水苦土石」が”華”のようになっている文字通り『石の
     華』
だ。
      時間は遅くないのだが陽が山陰に隠れると急に肌寒くなり、下山することにした。

      
          月を背負って下山【吉川鉱山】

      【後日談】
        帰宅後標本をクリーニングして写真を撮った。「水苦土石」は小さいが、まさしく『石の華』だ。
       「水苦土石」を描く鉱物切手と並べて紹介する。

         
                   採集標本                         切手
                           「水苦土石」【吉川鉱山産】

      ここでの目玉は「吉川石」だ。1973年、鈴木・伊藤によって岩石鉱床学会誌発表され『吉川石
     (yoshikawaite)』と名づけられた。似たような化学組成の鉱物に「水苦土石」と「ダイピング石」が
     あるので、一覧表で比較してみた。

  和      名
  英  語  名
  化  学  式 結晶系  備  考
吉川石
yoshikawaite
Mg5(CO3)4(OH)28H2O 斜方 ダイピング石と結晶系は同じで、
水分子(H2O)が多い
ダイピング石
DYPINGITE
Mg5(CO3)4(OH)2・5H2O 斜方  この2つの鉱物は、
化学式は似ているが
結晶系が違うので、
別な種になる。
水苦土石
HYDROMAGNESITE
Mg5(CO3)4(OH)2・4H2O 単斜

      『吉川石』は「ダイピング石」と結晶構造が同じで、水分子(H2O)が多いことから、現在では新
     鉱物とは認められず、『水に富むダイピング石(H2O−rich DYPINGITE )』と呼ぶべきものだ。

      鑑定方法は、外観は「ダイピング石」に似た白色の皮膜状あるいは粒状で、紫外線をあてて
     蛍光しなければ「吉川石」、蛍光すれば単なる「ダイピング石」らしい。
      別々な場所で採った「ダイピング石」2つにミネラライトを照射してみるとどちらも蛍光しないので、
     『吉川石』は多量にある印象だ。

         
                    太陽光                      紫外光
                           「吉川石」【吉川鉱山産】

      これらのほか、「アルチニ石」は新鮮な針状結晶が多量にあるし、「灰クロム柘榴石」もある。

         
                「アルチニ石」                    「灰クロム柘榴石」

 2.3 豊川の夜はふけて

 (1) 「宴会」
      豊川IC近くのホテルにチェックインしたのは、17時だった。風呂を浴びさっぱりしてホテル内で
     「宴会」をする予定だったが、レストランがお休みということで外食だ。来しなに目をつけておいた
     「味噌煮込みうどん」店に入ると団体客で満席だ。外には観光バスが止まり、さらに1台が到着
     した。どうやら中国からの観光客のようだ。
      店の中には数組の日本人客が待っているが注文も取りに来ていない様子で、これではいつに
     なったら食事できるか見当も付かず店を出て他を探すことにした。焼肉店があるが今ひとつだし、
     別な「味噌煮込みうどん店」は閉まっているようだ。看板を頼りに引っ込んだ場所にあるネパー
     ル・インド風カレー店に入る。N夫妻はこの手のカレー店は初めてのようだ。そういう私たちも久
     しぶりだ。
      まずは、ビールで乾杯だ。注文したカレーセットが出てくるとその量の多さにビックリだ。

         
              ビールで乾杯!!                      カレーセット

      ナンにカレーをつけて食べるがその量が多い。デザートのアイスクリームも濃厚な味で、女性
     陣も大満足だ。食べきれないナンはお持ち帰りだ。

      
             デザートはアイスクリーム

 (2) 「大人の時間」
      ホテルに戻り、われわれの部屋で「大人の時間」だ。まずは、恒例の『秋のミネラル・ウオッチン
     グ』に参加できなかったNさんの奥さんが欲しがっていた標本を並べた「玉手箱」だ。

      ・ 「パイロファン石」(群馬県萩平鉱山)
      ・ 「亜鉛スピネル」(福岡県長垂)
      ・ 「母岩付きガドリン石」(山梨県竹日向)
      ・ 「燐灰石」(長野県新産地)
      ・ 「2014年月遅れGWミネラル・ウオッチングの写真」(湯沼鉱泉)
                                           などなど

      【後日談】
       「 ・・・・・・ほしかった亜鉛スピネル、しっかり結晶しているのが眼の弱い者でもわかる。パイ
        ロファンや燐灰石など、ホテルの照明ではよく認識できなっかのですが、今じっくり観察させ
        てもらってます。凄い!」
、と帰宅したN夫妻からメールがあった。

      そして山梨の地ワインで何度目かの乾杯だ。つまみは、MH農園で獲れた生落花生を殻ごと
     塩茹でにしたものだ。

      
               「大人の時間」
               【撮影:Nさん】

      今回のミネラルウオッチング用にまとめた「標本チェックリスト」を写真を見せながら解説する。
     この日ぜひとも採集したかった吉川鉱山の「水苦土石」は採集でき幸先が良い。嫌がおうでも
     明日への期待が高まる。

3. 第2日目

 3.1 照山をたずねて

      2日目の朝、朝風呂を浴びスッキリして朝食をシッカリいただき出発だ。

      
               ホテルで朝食

      この日は石友・Hさんが仕事前の午前中だけ案内してくれることになっていた。Hさんと合流し
     てご挨拶。
      Hさんによれば、「この辺りの採石場はやめてしまったところもあり、やっていても入らせてくれ
     ない」と厳しいようだ。
      まずは、「東海地方をたずねて」に載っている照山の採石場を訪れると採石もやっているよう
     だが建築廃棄物の処理・再生も始めたようだ。しかし無情にも『立ち入り禁止』だ。

      照山の目玉は、「苦灰石(ドロマイト)」だ。塊状のものはミネラル・ウオッチングのオークション
     や玉手箱に出品され入手しているのだがやはり「結晶」が欲しい。
      結局、Hさんが持参した昔の標本をいくつか恵与していただきこれでこの産地を訪れたことにし
     た。

         
                 「苦灰石」結晶                    「方解石」結晶

      
                オパール質「玉髄」
                           Hさん恵与標本【昔の標本】

 3.2 八名井をたずねて

      次の「八名井の採石場」に行くと、土木建築物の解体屋になっているようだ。ここで、仕事のあ
     るHさんお別れした。
      地図を見るとこの近くに露頭のマークがあるので行ってみることにした。露頭はあるが「蛇紋
     岩」のようだ。車を停めると、地元の人が近づいてきて「車は向こうに停めてくれ」と言われる。
     この辺りで採石して場所を聞くが、「地元のわしらでもよう入れん」と厳しいようだ。「この辺りには
     鉱山がたくさんあった。『中宇利石』を知っているか?」と地元の人もなかなか鉱物に詳しい。

      「この上に古墳群があって、秋には草花がきれい」だというので、訪れてみた。女性陣は、草
     花を鑑賞したり、種を採っている。古墳群の最上部に行って見ると、遠くに八名井の採石場が見
     える。露頭の色が黒いので掘っているのは蛇紋岩だろう。

      
               八名井採石場遠望

      私は女性陣から少し離れて八名井の目玉の「ソーダ沸石」を探してみる。しかし「蛇紋岩」ばか
     りで、「ソーダ沸石」は出そうにない。
      結局、切手に描かれた「ソーダ沸石」で我慢せざるを得ないようだ。

      
           切手に描かれた「ソーダ沸石」
                【八名井産】

 3.3 瓶割峠をたずねて

      ここで、お昼を食べ、「瓶割峠」をめざす。ここは中宇利鉱山から三ケ日ICに抜けるとき何度か
     横目に見て通り過ぎていた場所だが止まってみた。瓶割峠を過ぎると静岡県だ。
      この採石場も入るのは難しそうだ。周辺をうろうろしていると、目聡いNさんの奥さんが、「緑青
     い銅の2次鉱物がついた石がある」という。なるほど表面に、「ブロシャン銅鉱」らしいものもみえ
     る。

      
             銅の2次鉱物を含む塊

      タガネを当ててハンマーで割ってみると、「クリソコーラ(珪孔雀石)」の鮮やかな水色が目に
     飛び込んでくる。周辺を観察すると中心に「輝銅鉱」や「黄銅鉱」があり、その周辺に「赤銅鉱」と
     「黒銅鉱」そして何と「緑鉛鉱」らしきものまであるというから驚きだ。これを仲良く分配だ。

         
                   全体                           部分
                           「クリソコーラ(珪孔雀石)」

         
             「赤銅鉱」と「黒銅鉱」                    「緑鉛鉱」(?)

4. いざ、帰りなん

    いつものように、後ろ髪を引かれながらも、N夫妻とお別れした。三ケ日ICから東名にのり、「牧之
   原SA」で早めの夕食を済ませ、東名清水JCT→第二東名「新清水IC」でおりた。国道52号線を北
   上し20時少し回ったところで帰宅した。
    今回、総走行距離は、520kmほどで、N夫妻との中間点を選んだつもりだったが、私のほうに少し
   近かったあも知れない。

5.おわりに

 (1) 「2014年ミネラル・ウオッチング納め」
      2014年は、町内会の役員になったこともあって、ミネラル・ウオチングに出る機会が少なかった。
     数少ないミネラル・ウオッチングもこどもたちや学生の案内が中心だったが、年末になってようや
     く永年気になって産地を訪れ、いくつかのすばらしい標本を入手でき、産地の現状を確認できた
     のも大きな収穫だった。忙しい中、産地を案内してくれ、昔の標本を恵与してくれたHさんと同行
     いただいたN夫妻に感謝している。

      帰宅したN夫妻から次のようなメールをいただいた。

      『 ・・・・・・・2日間のおかげで、この半年間のストレスがだいぶ解消されました。これから奥三
        河の石の華である採集品をじっくり勉強しつつチェックして日々を楽しく過ごせます。・・・・
        楽しい奥三河の旅を有難うございました・・・・・』

      ”ストレス解消”はミネラル・ウオッチングの最大の効用ですね。

 (2) 『現金採集納め』
      今週末は、東京・池袋でミネラル・ショーが開催される。これが『現金採集納め』
     になりそうだ。
      今回入手できなかった「八名井のソーダ沸石」を探してみようと思っている。

 (3) 次なる挑戦
      石友・KDさんから恵与いただいた「鉱物切手」は大事に保管している。しかし、ただ仕舞い込ん
     でいるだけでは切手が発行された目的にも沿わないし、活用法を考えている。

      2014年10月、伝統的工芸品シリーズ第3集の10種類の切手の中に山梨県の「甲州水晶貴石
     細工」を描く1枚が入っていた。「宝石の街 甲府」の宝飾産業の礎を作った明治期の水晶採掘・
     加工・細工品のPRと販売による資金回収をテーマに7種のFDC*を作成した。
      * FDC( First Day Cover )とは、発行された切手にふさわしい図案を印刷した封筒にその切手
        を貼り、その切手に縁(ゆかり)の深い郵便局の印を押したもの。初日カバーと呼ばれる。

     ・ 伝統的工芸品シリーズ第3集
       「甲州水晶貴石細工」切手
       ( Traditional Craft Series No3
        Stamp of “Quartz Craft “ from Yamanashi )

      『石の華』切手も自分なりのFDCを作成するのが次なる挑戦だ。

6.参考文献

 1) 加藤 昭ほか:鉱物採集の旅 東海地方をたずねて,築地書館,1983年
 2) 益富 寿之助:鉱物,保育社,昭和60年
 3) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 4) 山田 滋夫:日本産鉱物 五十音配列 産地一覧表,クリスタル・ワールド,2004年







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