奥飛騨の赤い○○○を訪ねて







             奥飛騨の赤い○○○を訪ねて

1. 初めに

    2012年7月中旬、会社の第1回目の夏休みが始まった。夏場の電力不足対応で、4月〜6月の
   土曜日を出勤し、その分7月、8月に9連休の夏休みという計画だ。
    久しぶりの長期連休で、どこかにミネラル・ウオッチングに出かけようと考えたときに思いついた
   のが「奥飛騨の赤い○○○」だった。
    産地情報を調べると、GPS情報もあり、国土地理院の地図に落として持参すれば、探しだせる
   だろうとの読みだった。
    ここまで行くのなら、新潟のヒスイや岐阜県でのミネラル・ウオッチングも楽しみたいと兵庫の
   石友・N夫妻と2泊3日の旅となった。

    初日のヒスイ海岸は、梅雨明け前の強い風雨で、テトラポットを越えて大きな波が繰り返し押し
   寄せていた。

       ヒスイ海岸

    海岸に着いて早々にアクシデントが勃発した。護岸近くに座って小砂利の中からヒスイを探して
   いた私が上体を捻(ひね)ったとたん、”グキリ”という嫌な音がして、腰のあたりに激痛が走った。
    こうなると私はミネラル・ウオッチングどころではない。歩くのがやっとの状態だ。昼食の後、
   痛みを堪(こら)えながら宮崎ヒスイ海岸を訪れた。
    この日、N夫妻は、10ケ近い白・緑・ラベンダーの良品を手にしていた。私たち夫婦は、これは
   ヒスイ(??)、というのを2ケ拾っただけで、富山市の宿に向かった。

    宿の最上階にある展望風呂で腰を温めると気のせいか痛みが和らいだような気がするが、姿
   勢を変えるたびに痛みが走り、早々とベッドにもぐりこんだ。

    翌朝、富山市内から奥飛騨の集落をめざして走る。谷沿いの林道を登っていくと、道は途中で
   寸断され、道なき道を藪こぎしながら進む。2時間半あまりで、産地情報にあるポイントらしき場
   所に到着した。女性陣は、ギブアップ寸前だ。ここで、持参したスイカを沢水に浸してから、Nさん
   と手分けしてポイントを探したが、それらしい場所は見つけられず、撤退する事にした。
    この夜の宿・下呂温泉まで2時間のドライブだ。草津・道後と並んで3名泉と称される下呂温泉に
   浸かり、ジックリと腰を温め、飛騨牛を食べ、元気を回復したかに見えたが、腰の違和感は失せ
   ていない。

    翌日、私の腰を心配したN夫妻が「3日目の予定は次回に」、と気遣っていただき、ここでお別
   れすることになった。
    中津川鉱物博物館に立ち寄って、帰宅したのは15時過ぎだった。
    今回、私のアクシデントのお蔭で、十分なミネラル・ウオッチングができず、N夫妻には申し訳な
   く思っている。また、石友の皆さんと御一緒できるのを、楽しみにリハビリに励む毎日だ。
    ( 2012年7月 ウオッチング )

2. 第1日目【糸魚川のヒスイを求めて】

 (1) 青海川河口でヒスイ探し
      前日の夜遅くに単身赴任先から戻った翌朝、5時前に起床し、自宅近くのSAから高速にのる。
     3連休の初日のせいか、車の量がいつもより多いようだ。梓川SAで朝食のあと、豊科ICで下
     りたのが6時30分だった。そこから、糸魚川に向けて一路北上、N夫妻が待つ青海川河口の
     いつもの翡翠採集ポイントに到着したのは約束の9時ジャストだった。
      青海川は濁流が白波をたて、海岸の雨風は強く、テトラポットを越える大きな波が寄せては
     返していた。Nさんの「どないします?」の不安そうな声に、「危なくない場所で探しましょう」、
     と答えたのが間違いの元だった。

      傘を片手に海岸の砂利のある場所を歩き始めると大きな波がテトラポットを越え、滝のように
     塩水が降り注ぐ。傘が全く役に立たない。長靴の中は、すぐにグショグショになり、全身ぬれ鼠
     状態だ。
      渚での採集は無理と悟り、護岸近くに座って小砂利の中からヒスイを探していた私が上体
     を捻(ひね)ったとたん、”グキリ”という嫌な音がして、腰のあたりに激痛が走った。
      こうなると私はミネラル・ウオッチングどころではない。歩くのがやっとの状態だ。Nさんが緑
     色の素晴らしいヒスイを採集したが、私たち夫婦は収穫のないまま、1時間ほどで駐車場に
     戻ってきた。

       ヒスイを手に

 (2) 「フォッサマグナ・ミュージアム」で一休み
      風雨が一段と強まり、私の腰を気遣ってくれたN夫妻の提案で「フォッサマグナミュージアム」
     に避難した。

         
              改装中の外観                   糸魚川の岩石・鉱物
                        「フォッサマグナミュージアム」

      トイレ休憩やミュージアムショップで地元のヒスイや赤谷鉱山の青色霰石のど「新潟県の代
     表的な鉱物」を描く絵葉書(1枚50円)を6枚ほど買って、後半戦に備えるべく、糸魚川の岩石・
     鉱物を目に焼き付けて館を後にした。

 (3) 橋立金山に因む『金山丼』を食す
      ちょうどお昼時になり、ミュージアムショップでもらったパンフレットに橋立金山に因(ちな)ん
     だ『金山丼(きんざんどん)』の店があるというので入ってみた。女性陣は、「タラ汁定食」と「カ
     ニ汁定食」、男性陣は「金山丼」を注文した。待っている間、店に飾って(放って?)あるヒスイ
     を見せてもらう。
      さすがに地元だけあり、素晴らしヒスイがある。われわれの感嘆の声を聞きつけた店主が
     出てきて採集した場所やその時の模様などを話してくれた。『重機で運び出すのは罪になる
     が、手で持てる範囲のヒスイなら、持ち帰っても良い』、というのが地元での暗黙のルールら
     しい。

      そうこうするうちに、注文した料理が運ばれてきた。期待の『金山丼』は、ご飯の上に千切り
     のキャベツを敷き、その上にヒレカツが3つ、そして真ん中に三角の厚焼き卵が載っている。

       『金山丼』

      店主に『金山丼』の由来を聞き損ねてしまったが、勝手に解釈するに、ヒレカツが橋立金山
     のある深山幽谷(しんざんゆうこく)、黄色い卵焼きが「金」をイメージしたものではなかろうか。
      ヒレカツの肉も柔らかく美味しく、女性陣の定食もマズマズの味だったようだ。

 (4) 宮崎海岸でヒスイ探し
      腹ごしらえができたところで、後半戦がスタートだ。新潟県から富山県に入り、越中宮崎海
     岸でヒスイ探しだ。海岸を見て驚いた。海岸線の浸食防止工事が行われていて、すでに四角
     い枠が海岸線に沿って埋められ、その手前にテトラポットが敷き詰められる計画らしい。これ
     では、新しくヒスイが打ち寄せられる可能性は極めて低くなってしまいそうだ。

       護岸工事中の宮崎海岸

      痛みを堪(こら)えながら、しかも苦手のヒスイ探しでは、良い成果が得られるはずもない、。
     この日、N夫妻は、10ケ近い白・緑・ラベンダーの良品を手にしていた。私たち夫婦は、これは
     ヒスイ(??)、というのを2ケ拾っただけで、富山市の宿に向かった。
      途中のドラッグストアで、「湿布薬」と「腰ベルト」を急遽買い求めた。

 (5) 富山の夜
      富山市中心部のホテルに着き、最上階にある展望風呂で冷えた身体、特に腰を温めると
     少し楽になったような気がした。ホテルで夕食を食べた後、N夫妻の部屋で短時間「大人の
     時間」を過ごし、部屋に戻りベッドに横になった。

3. 第2日目【奥飛騨の赤い○○○を訪ねて】

 (1) 2日目のスタートだ。
      6時過ぎに起き、最上階の展望風呂で身体を温める。7時に朝食バイキングに会場に行くと
     富山名物の「ホタルイカの沖漬」、「鱒寿司」などが並んでいる。いつも利用するホテルチェー
     ン・Rの無料朝食と違って1,050円払っただけのことはある。

         
             富山・北陸名産が並ぶ                 剣岳を望む
                           2日目のスタートだ!!

 (2) 赤い○○○を訪ねて
      朝食の後、路面電車が走る富山市中心部から奥飛騨の集落をめざして走る。途中の「道の
     駅」で情報を仕入れ、谷沿いの林道を登っていくと、道は途中で寸断され、道なき道を藪こぎ
     しながら進む。2時間半あまりで、産地情報にあるポイントらしき場所に到着した。女性陣は、
     ギブアップ寸前だ。
      ここで、持参したスイカを沢水に浸してから、Nさんと手分けして1時間ほどポイントを探した
     が、それらしい場所は見つけられず、撤退する事にした。
      その前に、沢水で冷やしておいたスイカを食する。赤い○○○とは、スイカに終わってしまっ
     た。

         
                 林道を進む                  スイカを食す
                           奥飛騨の赤い○○○

      諦めきれない私だけは別行動で沢筋を探りながら戻った。しかし、それらしい標本は見つけ
     られず、林道の入口近くで追いつき、合流した。
      先行していたNさんの奥さんが見せてくれたのは、林道を開削したときの転石らしく、大粒の
     「灰ばん柘榴石」が付いた標本だった。この付近には、石灰岩が変成作用を受け、結晶の粒
     が大きくなった方解石などが観察でき、大きめの塊を叩くと晶洞が現われ、その中から3cm
     大の「犬牙状方解石」が観察できた。「晶質石灰岩」の中に最大数mmの『銀箔状の鉱物』が
     観察でき、鑑定したところ、「輝水鉛鉱」に決着した。

         
                 方解石                   石墨
                                      輝水鉛鉱
                       奥飛騨の鉱物

 (3) 下呂温泉の夜は更けて
      この夜の宿・下呂温泉まで2時間のドライブだ。草津・道後と並んで3名泉と称される下呂温
     泉は素通りするだけだったが、今回初めて宿泊した。

       飛騨牛の陶板焼き

      温泉に浸かり、ジックリと腰を温め、飛騨牛を食べ、元気を回復したかに見えたが、腰の違
     和感は失せてはいない。
      私たちの部屋で、「大人の時間」を楽しんだあと、早めに就寝となった。

4. 第3日目【いざ、帰りなん】

 (1) 腰が・・・・・
      朝5時過ぎに起き、下呂温泉の湯に浸かり、腰を温めたが、姿勢を変えるたびに鈍痛が走
     る。狭い駐車場に止めた車に乗り込むのも一苦労で、妻に車を出してもらうありさまだった。
      私の腰を心配したN夫妻が「3日目の予定は次回に」、と気遣っていただき、ここでお別れ
     れすることになった。

      帰途、中津川鉱物博物館に立ち寄った。月遅れGWミネラル・ウオッチングの「玉手箱」で入
     手した「苗木の玉滴石」が三重・Oさんの情報では緑色に光るらしい。私が持っているミネラ
     ライトでは、黄色くしか光らないのでミネラ・ライトを買う積りだった。
      ミュージアム・ショップでサンプルを借りて紫外線を照射してみたが、結果は私が持っている
     ものと同じで、買うのを見送った。
      木曽街道を北上し、塩尻から高速に乗り、帰宅したのは15時過ぎだった。

      今回、私のアクシデントのお蔭で、十分なミネラル・ウオッチングができず、N夫妻には申し
     訳なく思っている。

5. おわりに

 (1) 腰・・・・・その後
      帰宅した翌日、自宅近くの整形外科に行った。レントゲンを撮り、診察を受けると「年相応に
     変形しているが、骨に異常はない」、とのこと。背骨の周りの筋肉が強張っているらしく、「鎮
     痛剤」、「筋肉弛緩剤」と湿布薬をいただき、布団に横になりゴロゴロしていた。

      日本古典全集にある平賀源内の「物類品隲(ぶつるいひんしつ)」や明治20年代の鉱物学
     教科書「小金石学」などを読み終えた。こんなにノンビリと過ごした日々はいまだかつてなか
     ったような気がする。

      2、3日経って、多少良くなった気もするが、再度整形外科に行き、単身赴任先に戻ることを
     告げ、多めに薬を出してもらった。

      1日、山梨県内の会社に出張し、翌日、草取りと収穫で久しぶりに畑仕事に精を出した。

         
                 ジャガイモ                  トマト

         
                 スイカ畑                 スイカ試食
                          農園の収穫

      ジャガイモは、畑仕事を始めて40年近く、毎年作っているが、今年は最低の出来だった。
     例年、種イモの10倍、約100kgの収穫があるのだが、今年は種イモの2倍位の収量しかなく、
     子どもたちの所に送ることもできないだろう。
      妻が毎日のように手入れしているトマトやナスは元気で、良く言えば『自然農法』、人が見
     れば『ほったらかし』のスイカも元気で、10ケほど収穫した。形、味もマズマズのできで、夫婦
     だけでは食べきれず、ほとんどを御近所におすそわけした。

      こうして、気づいてみれば、腰はスッカリ良くなったようだが、もう若くはないのだから、油断
     しないようにと自戒する昨今だ。

6. 参考文献

 1) 須永 友三郎:初等教育 小金石学,博文館,明治24年
 2) 正宗 敦夫編纂・校訂:平賀國倫編輯 物類品隲,日本古典全集刊行会,昭和3年
 3) 茅原 一也:ヒスイ −其謎と輝き−,青海町自然史博物館,平成12年
 4) 宮島 宏:とっておきのヒスイの話 第3版,フォッサマグナミュージアム,2010年
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