栃木県小来川鉱山の2次鉱物

        栃木県小来川鉱山の2次鉱物

1. 初めに

   栃木県の石友・Sさん一家と2005年夏に湯沼鉱泉社長の仲立ちで知り合い、その後
  「小来川鉱山の藍銅鉱」を差し上げたことがあった(らしい)。奥さんが、”群青色・球状結晶”
  をいたく気に入り、訪れてみたい、というリクエストがあった。
   私も小来川鉱山を訪れたのは、2年余り前の2004年9月で、産地の現状を知りたい
  と考えていたので、ご一緒することにした。

   鉱山周辺では林業用作業道路の整備が進行中で、伐採された木材が鉱山道を塞ぎ
  それらの間を縫って旧「鉱山事務所跡」を経て、藍銅鉱の産地、通称『アズラの森』
  を目指した。

   産地についてすぐ、Sさんの娘・Yさんが最初に拾い上げたズリ石の裏側を見て
  「 あった!! 」と歓声をあげた。駆け寄って見ると、紛れもない群青色の藍銅
  鉱結晶が点々とズリ石を染めている。やがて、Sさんからも「あった!!」との声が
  あがる。
   しかし、Sさんの奥さんは 「 ☆★?□??・・・・・・ 」 、声がない。

   産地は狭く、ズリ表面の雨に洗われた石を一通り見終わると、途端に「あった」
  の声が出なくなる。「そろそろ引き上げようか」、の声がでるころ、ようやく奥さ
  んが、「 あった!! 」の歓声をあげた。近寄ってみると、小さいながら、綺麗な
  群青の花を散らしたような標本だった。

   ズリ石は泥土にまみれており、藍銅鉱が付いているかどうかが全くわからない。
  誰かが掘り返した後の雨上がりに訪れれば、まだまだ採集できそうな印象であった。

   林道作業の人が、鉱山が稼行していたときには、80人前後の人たちが働き、坑道が
  尾根の反対側に通じている、と教えてくれた。
   尾根の反対側にもズリがあるというのは、故草下先生の「鉱物採集フィールド・ガ
  イド」にもある通りである。
   元気なうちに、尾根を越えたズリを探査してみたいと考えている。
  ( 2006年11月採集 )

2. 産地

 2.1 位置
    東北道「鹿沼IC」でおり、板荷を過ぎ、小来川に向かって走る。小来川温泉を
   過ぎ峠道に差し掛かって間もなく、左に入る林道がある。入口には、以前チェーン
   が張ってあったが、今は林道作業中のせいか、外されていた。
    林道を約100m行くと、右側にコンクリートを打った平坦地があり、ここに駐
   車する。
    林道整備が完了すれば、4WD車なら更に500m程上の、昔の沈殿池跡まで乗り
   入れることができそうである。
   ( 今回、途中の狭いところでUターンする羽目になってしまった )

    回収銅を採取していたとされる沈殿池跡は、平坦に整地され、打ち捨てられて赤
   錆びたトロッコや巻上げ機械など、あちこちに鉱山の名残を留めている。

    沈殿池跡【正面のズリの上方に”アズラの森”】

 2.2 小来川鉱山の概要

    大正6年(1917年)、小百鉱山の技師と思われる鳥山氏によって記述された「小
   来川鉱山調査報告」によれば、鉱山の沿革・地質・鉱床・品位・鉱量などは次の通
   りである。

    『 (1)沿革
          発見の時代は詳らかならざるも今を去ること10年前より、現鉱業
         権者たる宮内 簾作氏に依り開坑せられ従来専ら探鉱を主として経営
         し、小字金山と称する裏山下底部を探鉱し之に全力を傾注せるが為め
         好結果を収むる能はず、遂に失敗に終わり、一時中絶休止中之所、近
         来鉱山の勃興と未曾有の銅価騰貴に伴い、一昨年頃より小字尾辰畑方
         面を転換探鉱の結果、全く別種の鉱脈を発見し、引続き鉱況佳良にし
         て現に一部探鉱の傍ら毎月弐拾噸以上の精鉱石を造り日立鉱山に買(
         売?)鉱をなし小規模の鉱山としては可也の盛況を極めつつあり。

      (2)地質
          石英粗面岩、ヒン岩、凝灰岩及び石英片岩の数種を以てせられ鉱床
         の母岩としては東部にありては石英粗面岩、西部は硬質石英片岩及ヒ
         ン岩を以て組成せられたる岩層を裂罅充填せる正規板状鉱床を胚胎す。

      (3)鉱床
          両磐肌に粘土を挟介し規則正しき鉱床の石英鉱脈の部類に属し希に
         方解石及び石英の結晶(六方石=水晶のこと)石膏石を随伴し走向に
         延長し傾斜に継続し実に優良なる鉱脈なり。
          鉱床数は大体全山を通して二条あるも現今稼行中の(?)鉱脈が鉱
         脈が卓越するを以て之れのみに依り詳説せん。
          方位約二十度傾斜六十五度西落しとなり走向傾斜は殆ど変動なく接
         続し品位亦富良なり。

      (4)品位
          分析品位は、小百鉱山分析所に於ける成果に依る。

          小来川鉱山鉱石品位分析結果

         之れを。採取率80%として、平均鉱石品位は、9.49%となせり。

      (5)鉱量
          鉱量を測定し、左(下)表に示す。(図面参照)

          小来川鉱山鉱石埋蔵量

          求積     高さ*長さ*幅
                 200尺*800尺*6寸
          方数     96,000
          安全採掘率  60%
          総方数    57,600
          1方目方   30
          総鉱量    1,728,000
          金銅品位   9.49
          金銅量    163,987〆

       (6)総収入金
           此銅量を壱〆目単価金3円(百斤金48円)として価格に換算す
          れば、但し金銀代は算定せず。
           一金 491,961円 』

3. 産状と採集方法

   小来川鉱山は、珪質泥岩に貫入した黄銅鉱や黄鉄鉱の鉱脈で、閉山して久しいため
  ズリの鉱石は、褐鉄鉱に覆われているものが多い。
   10年近く前、初めて訪れたころはもっと青緑色の2次鉱物を含むズリ石が多かった
  のだが、今ではほとんど目に入らない。
   藍銅鉱は、”アズラの森”と呼ぶ、ごく限られた場所でしか採集できない。

   ズリの表面採集やズリ石を掘り返して”緑色”や”青色”の2次鉱物がついた標本
  を探すが、ズリ石はドロドロで、雨に洗われた後の表面採集が一番良いようだ。

    アズラの森【Sさん一家】

4. 産出鉱物

(1)藍銅鉱【Azurite:Cu3(CO3)2(OH)2
    濃紺色の単斜晶系の単結晶やそれらがバラの花(球顆)状に集合した形で産出す
   る。緑色の孔雀石と共生したり、表面を孔雀石が覆っているもの、あるいは真っ黒
   な黒銅鉱【Tenorite:CuO】に変化したものもある。
    藍銅鉱は、日本画の絵の具の1つ”群青(ぐんじょう)”の原料として珍重され
   ているが、下の拡大写真を見ていただければ、その理由を納得していただけるだろ
   う。

       
          全体            拡大
                 藍銅鉱

(2)ポスンジャク石【Posnjakite:Cu4(SO4)(OH)6・2H2O】
    天青色、燐片状結晶で産する。松原先生の「日本産鉱物種」に数少ない国内
   産地の1つとして、小来川鉱山の名があげられている。

    ポスンジャク石

(3)ラング石【Langite:Cu4(SO4)(OH)6・2H2O】
    ポスンジャク石と化学組成が同じで、結晶系が違ういわゆる”同質異像”
   関係にある。
    青みがかった緑色、ガラス質半透明の四角い結晶で、ポスンジャク石の
   間に点在する。

    ラング石

(4)石膏【Gypsum:CaSO4・2H2)O】
    白色〜半透明、ガラス質で先の尖った薄板状結晶として産出する。

    石膏

(5)孔雀石【Malachite:Cu2(CO3)(OH)2
    銅鉱床の酸化帯に青緑色、皮膜状〜針状結晶が放射状に集合した形で産出する。

    孔雀石

(6)銅緑ばん【Melanterite;(Fe,Cu)SO4・7HO】
   淡い緑〜青色で、粒状や鍾乳石状で産出する。
    銅緑ばん

5. おわりに

 (1) ”アズラの森”は、10m四方くらいの狭い範囲で、この場所を特定できたのは
    3回目の訪山のときであった。
     ここを訪れたのは、2004年9月に、兵庫県の石友・Nさん夫妻を案内して以来であ
    ったが、今でもその当時と変わらない程度に『藍銅鉱』を採集できた。

 (2) 藍銅鉱にかぎらず、2次鉱物のクリーニングには頭を痛めていた。まさか
    歯ブラシで”ゴシゴシ”こするわけにもいかず、水道の水を絞って勢い良く
    掛けた程度では汚れは落ちない。
     そんなことを石友・Mさんに漏らしたところ、『手間なしブライト』なる
    家庭用漂白剤があることを教えてくれた。この原液に一晩(8時間)漬けて
    おくだけで、見違えるほど綺麗になる。この効果には、Sさんの奥さんも”ビ
    ックリ”した、とメールをいただいた。
    ( 鉱物種によっては、ダメージを受けるものもあるようなので、全ての鉱
     物には適用できないので、小さなカケラでテストして見てからの方が安全)

 (3)「鉱物採集フィールド・ガイド」や今回会った林道作業の方の話によれば
    小来川鉱山は、範囲が広く、尾根を越えた反対側にもズリがあるらしい。
    元気なうちに、尾根を越えたズリを探査してみたいと考えている。

6. 参考文献

 1)草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 2)鳥山 栄治:「小来川鉱山調査報告」,小百鉱山,大正6年(1917年)
 3)松原 聡:日本産鉱物種,鉱物情報,2002年
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