大正6年小来川鉱山調査報告

大正6年小来川鉱山調査報告

1.初めに

栃木県宇都宮市の栃木県立図書館に備え付けのPCで、鉱山関連の
資料を検索したところ、足尾銅山関係のほかに、「小来川鉱山調査報告」なる
ものがあることが判り、早速、書士の方に出していただいた。
和紙にカーボン複写した本文に和紙に彩色した図面2葉が添えられている。
コピー可能とのことなので、コピーをとらせていただき、解読しましたので、
内容をお知らせします。
この報告書は、大正6年(1917年)小来川鉱山の買収にあたって、小百鉱山
鉱山技師(?)の鳥山 栄治氏が、自社宛てに作成したもののようです。
小来川鉱山調査報告表紙
「合名会社藤田組小百鉱山事務所」の社内便箋に漢字・カタカナで書かれており、
カーボン複写であることから、原紙は会社宛てに提出されたものと思われます。
(2002年3月情報)

2.小川来鉱山調査報告
2.1 総収入金の部

(1)登録: 試第八二二号(元五九二号)
(2)坪数:弐拾六萬四千三百五十坪(元三二三一〇〇坪)
(3)権者:鉱業権者 栃木県上都賀郡今市町大字今市306番地
      宮内 簾作
(4)位置:栃木県上都賀郡小来川村大字黒下小字台持場他七字民地山林に跨り
      日光町へ西北二里余り今市町へ東北2里の黒下川の上流に位(置)し、
      海抜弐千参百の所にありし鶏鳴山の西北に相対峙す。
小来川鉱山鉱区
(5)沿革:発見の時代は詳らかならざるも今を去ること10年前より、現鉱業権者
      たる宮内 簾作氏に依り開坑せられ従来専ら探鉱を主として経営し、
      小字金山と称する裏山下底部を探鉱し之に全力を傾注せるが為め好結果を
      収むる能はず、遂に失敗に終わり、一時中絶休止中之所、近来鉱山の
      勃興と未曾有の銅価騰貴に伴い、一昨年頃より小字尾辰畑方面を転換探鉱の
      結果、全く別種の鉱脈を発見し、引続き鉱況佳良にして現に一部探鉱の傍ら
      毎月弐拾噸以上の精鉱石を造り日立鉱山に買鉱をなし小規模の鉱山としては
      可也の盛況を極めつつあり。
(5)地質:石英粗面岩、ヒン岩、凝灰岩及び石英片岩の数種を以てせられ鉱床の母岩と
      しては東部にありては石英粗面岩、西部は硬質石英片岩及ヒン岩を以て組成
      せられたる岩層を裂罅充填せる正規板状鉱床を胚胎す。
(6)鉱床:両磐肌に粘土を挟介し規則正しき鉱床の石英鉱脈の部類に属し希に方解石
      及び石英の結晶(六方石)石膏石を随伴し走向に延長し傾斜に継続し実に
      優良なる鉱脈なり。
      鉱床数は大体全山を通して二条あるも現今稼行中の(?)鉱脈が鉱脈が
      卓越するを以て之れのみに依り詳説せん。
      方位約二十度傾斜六十五度西落しとなり走向傾斜は殆ど変動なく接続し品位亦
      富良なり。
(7)品位:分析品位は、小百鉱山分析所に於ける成果に依る。
小来川鉱山鉱石品位分析結果
之れを。採取率80%として、平均鉱石品位は、9.49%となせり。
(8)鉱量:鉱量を測定し、左(下)表に示す。(図面参照)
小来川鉱山鉱石埋蔵量
      求積     高さ*長さ*幅
             200尺*800尺*6寸
      方(?)数  96,000
      安全採掘率  60%
      総方(?)数 57,600
      1方目方   30
      総鉱量    1,728,000
      金銅品位   9.49
      金銅量    163,987〆
(9)総収入金:此銅量を壱〆目単価金3円(百斤金48円)として価格に換算すれば、
        但し金銀代は算定せず。
        一金 491,961円

2.2 経費見積予算総額の部

(1)総支出金:一金 236,736円
   (2)内訳:  採鉱費    1〆金3円60銭   62,208円
          製錬費    1〆金2円80銭   48,384円
間接費    1〆金2円      17,280円
        運搬費    1〆金2円80銭   48,384円
        資本債金利  1〆金3円50銭   60,480円
(3)純利益金:差引き  金 255,225円

2.3 資金調達の部

此鉱山を買収且つ相当起業設備をなすには、畧左(下)の資金を要す。
(1)鉱山買収金   25,000円(見積りに付き、多少の増減は免れず)
(2)探鉱及設備費  10,000円
(3)道路修繕費    1,000円
(4)家屋建築費    5,000円
(5)排水器械費    4,000円
(6)計       45,000円

2.4 交通

鉱山に達するに今市よりすると文挟を経由すると2路あるも今市よりの距離近きを以て
現今は無論将来と雖も今市よりするを可とす。
現今鉱石並に諸荷者を昇降するには重(主)に馬背に依り今市より連絡を取れり。

2.5 運賃

鉱山より荷物を下げる場合の運賃は、左(下)の通り。
鉱山今市間      2里余
1日馬運2回1回16〆入の叺2ケを(?)荷して64貫を運び賃金70銭を支払う。
1噸運賃 金2円90銭
100貫運賃 金1円9銭4厘に当る。
今市より日立鉱山までは100貫金53銭に相当せり。

2.6 人員

現今使用人員は左(下)の如し。
現場員   1名
事務員   1名
現場員   1名
嘱託員   1名
鉱夫   13名
雑夫    5名
選鉱    3名
計    24名

2.7 賃金

現今使役人員に対する1日の日給額を示せば、左(下)の通り。
鉱夫  1日 金75銭以上金1円30銭以内
雑夫  1日 金47銭以内
選鉱  1日 金25銭以内

2.8 物価

現今事務所が販売を取次せる品物の価格は左(下)の通り。
他は何れも今市商人に鉱山が保証を与え直き取引をなすを以て今市の物価と同格に付
省略す。
白米      1両   4升5合
    味噌      1樽5メ 1円60銭
カーバイド   1メ   80銭
ダイナマイト  50束入 5円30銭
其他総て今市町の価格と大差なし。

2.9 結論

当山の鉱脈は一見硫化鉄の粘土脈に類似せるも実は予想外の金銅品位を有する
銅鉱にして、多少の金銀をも含み、希に見る優等鉱石なり。脉勢は、走向に持続し、
延長と同様下底部を向けて何等変化なく、良鉱石有し、殊に規則正しき板状鉱床なり
とす。然して、下部に進むに随って、脉幅肥大し品位も亦昇騰するやの傾向あり。
故に現今は勿論、将来に於ても、より以上の鉱量を増加算定するを得べり。
付近に珍しき安定鉱量を然も最も(安)全に、見積り得べし。此條是れを買収して、
小百鉱山の支山として経営するに適当と確認するのみならず、操業方法の一部改良が
加えたられしには、前掲経費予算以内にて仕上り、資本に対照してより以上の好結果を
収め得れ。
右(上)及報告(?)也。
大正6年7月5日     鳥山 栄治 (印)
付言
坑区図     1葉
坑内見取図   1葉
鉱量計算図添付

3.おわりに 

(1)この報告書は、鉱山の収支を事前に検討した目論見書で、原価(コスト)を仕事の
一部にしている私にとって非常に興味深いものです。
以前、長野県の骨董店で「尾小屋鉱山(福井県)」の原価計算書を入手したことがあり、
時間ができたら、比較して見たいと考えています。
(2)大正3年刊の「本邦重要鉱山要覧」に依れば、小百鉱山は、明治38年に発見された
栃木県河内郡(今市市)にあった鉱山で、小百川と戸(砥)川に挟まれた位置にあったことから、
小百鉱山と呼ばれたようです。
ここの銅品位は4.4%とあり、小来川鉱山の平均品位9.5%は、魅力的だったと思う。
(3)小来川鉱山の鉱石を日立鉱山(茨城県)が買鉱していたとなると、その輸送径路は・・・・など
調べて見たいことが、際限なく出てきます。
(4)小来川鉱山には、2回ほど行ったが、1回目は場所がわからず、2回目は黄鉄鉱と
孔雀石を採集した程度でした。
暖かくなったら、この図面を参考に、再チャレンジしたいと考えています。
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