山梨県黒平大株沢の希元素鉱物

          山梨県黒平大株沢の希元素鉱物

1. 初めに

   山梨県黒平は、天河石(アマゾナイト)をはじめ、各種のペグマタイト鉱物が採集でき、
  各種の文献や鉱物採集情報に取り上げられ、一度は訪れたいと言う人が多い。
   しかし、私のHPを見た人から、「黒平」に行ったが場所がわからなかった、とのメールを
  いただいたほど産地はポイントが絞りにくい。

   長野県の石友・小Yさんから、「大株沢を案内して欲しい」、と言われ、翌週案内するこ
  とにした。
   われわれが、2009年最初の訪山者だったらしく、”ガレ”には大きな長石の完形品が
  落ちていて、小Yさんのものとなった。

   私は、以前「苗木石付き長石」を採った近くの露頭の晶洞壁を崩し、全ての土石を土
  嚢袋に回収し、ザックに入れ、沢水がある場所まで下ってパンニングを試みた。
   多数の「苗木石(変種ジルコン)」「ゼノタイム」「褐簾石」「モナズ石」そして「ジルコン」の
  分離結晶や母岩付きが採集できた。

   得られた分離結晶標本はトータルで1グラムにも満たないが、新しい採集スタイルに
  挑戦し、得られた成果の大きさに満足している。

   同行いただき、私がパンニングする間、”あきれ顔”で待っていてくれた小Yさんに感謝
  している。
  ( 2009年5月採集 )

2. 産地

   黒平は昇仙峡の奥にある。黒平の集落を過ぎ、「木賊峠」に向かって走ると、下の地図
  のように左に入る林道がある。
   ( 極め付きの悪路なので、普通乗用車では走行不能 )
   行き止まりにある沢が「大株沢」である。

   
              黒平産地地図

3. 産状と採集方法

   ここ一帯は、花崗岩地帯で、典型的なペグマタイト鉱物産地である。ペグマタイト鉱物は
  石英脈が太くなった場所の晶洞(ガマ)の中に成長している。

   ここでの採集方法は、”ハゲ”と呼ぶガレ場の表面に落ちている水晶や長石(時として
  これらの破片)を見つけ、その上のほうに石英脈を追いかけて晶洞を発見して各種の
  鉱物を採集する。
   従って、”ガマ(晶洞)”を当てれば背負いきれないくらいの鉱物が採集できることが
  あるが、外れて”スカ”になることがほとんどだ。
   ただ、運が良ければ、ガレの表面に落ちている長石や水晶の良品を拾えることもある。

       
           ガレ場                     晶洞
                  産地と産状

   今回は、先人が開けたガマの中に残っているガマ粘土と新たに晶洞壁を崩してでた
  ペグマタイト塊を全て土嚢袋に入れ、背負って下り、沢水でパンニングするという採集法
  を試みた。究極の”エコ採集法”ではないだろうか。
   パンニングしながら、水で洗って綺麗になったペグマタイト塊をルーペで観察し、希元
  素鉱物が付いているものはそのまま標本にした。
   パンニング皿に残った重鉱物は蓋付きプラスチック容器に入れて持ち帰り、自宅でジッ
  クリ『精密パンニング』して、希元素鉱物を選り分けた。

4. 産出鉱物

 (1) 希元素鉱物【Rare Element Minerals】
      大株沢だけでなく、黒平の広い範囲で希元素鉱物が採集できる。国内で最初に
     イットリウム・エシキン石の産出が報告されたのは大株沢だった。
      今回、確認できた希元素鉱物は下表の通りである。

       写真準備中
 鉱 物 名
 (英語名)
  化 学 式   説    明 採 集 標 本 産   状
母岩付分離品
ジルコン
(ZIRCON)
ZrSiO4  淡黄色を
帯びた透明
ガラス光沢で四角柱状
頭部は錐面

 かつて、風信子鉱と
呼ばれ、赤色透明のものは
「ヒアシンス」の名で宝石

    ○
変種ジルコン
(Altered Zircon)

 苗木石
 (Naegite)

(Zr,Hf,Y,etc)
(Si,Nb,Ta)O4
 緑褐色半透明柱状
結晶が平行連晶をなし
扇状に並ぶ
 単に粒状結晶で産出
するケースもある。
 ○ ○
ゼノタイム
(XENOTIME-(Y))
YPO4  灰緑色、複錐体
結晶として産する
 ジルコンと平行連晶を
なすケースもある
 ○ ○
褐簾石
(ALLANITE-(Y))
CaYAl2
Fe2+(SiO4)
Si2O7(OH)
(SiO4)3(OH)
 黒褐色亜金属〜樹脂光沢を
帯びた薄板状結晶で産する。
  ○
フェルグソン石
(FERGUSONITE-(Y))
YNbO4  黒褐色ガラス光沢
四角細柱状結晶で
先端が徐々に尖る(細くなる)
 子持ち水晶のように
結晶が群生している

 結晶面がピカピカで
”鼠の糞”とは大違い

  ○

 (2) 微斜長石【MICROCLINE:KAlSi3O8
      太さ最大11cm、長さ13cmの結晶で重量感がある標本がガレ場の真砂の上に
     落ちていた。これが入っていたであろう晶洞の大きさが推測でき、一生懸命その
     場所を探索したが発見できなかった。

       微斜長石

 (3) このほか、天河石(アマゾナイト)、小さな水晶などがあったが残してきた。

5. おわりに

 (1) 希元素鉱物の道しるべ
      長島乙吉・弘三著「日本希元素鉱物」の中に、『採集のこつ』
     という1節があり、希元素鉱物の特徴とその採集方法が書いてある。

       
  特    徴  採 集 方 法   備     考
 強弱はあるものの
放射能を含む
石英には”ハロ”
長石は桃紅か緑色に着色
 
 黒雲母 の
周辺に集まる

 黒色の雲母の意味

黒雲母あるいはその長石に
接する部分をよく見る
 黒平は黒雲母そのものが少なく
必ずしも当てはまらない
○○○や△△△△沢では
白雲母と共生が見られる
 微斜長石より
曹(灰)長石
に来る
 曹(灰)長石に注目 曹(灰)長石は、へき開が弱く白い
 「大株沢」では微斜長石に「苗木石」
 比重が大きい
緑柱石は例外
パンニングが有効 パンニングは砂鉱など分離結晶
にのみ有効

      今回も、”ハロ”が目印となったのは教科書通りだった。長石部分に埋もれた希元
     素鉱物が水晶に”ハロ”を与え、煙水晶になっているのを見て、この晶洞の土石を
     持ち帰る気になったのが本音だ。

         
               全体                     拡大
                              下部「緑灰色」が希元素鉱物
                         ”ハロ”

      希元素鉱物は、「大株沢」では「曹長石」ではなく「微斜長石」に来ているなど、
     産地による違い(特徴)をつかむことも大切のようだ。

 (2) 「エシキン石-(Y)」
      国内で最初にイットリウム・エシキン石の産出が報告されたのは大株沢だった
     ので今回のパンニング結果には少し期待していた。しかし、「エシキン石-(Y)」は全く
     見当たらなかった。
      満遍なくある訳ではなく、特定の晶洞に固まっているようなので、産出しそうな場所
     を狙って探す必要がありそうだ。

6. 参考文献

 1) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 2) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年(1970年)
 3) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年(1985年)
 4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
 5) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 6) 日本産鉱物分類別一覧 −無名会七十五周年記念−,無名会,2008年
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