2003年7月ミニ採集会 -小川山の双晶を求めて-

2003年7月ミニ採集会 -小川山の双晶を求めて-

1.初めに

 私のHPを見たSさんから、”水晶を採集したい”とのメールが届いた。
 20年近く前の私がそうであったように、入門者が水晶を楽しく採集できる場所として
山梨県塩山市竹森があったが、掲示板にも書いたように、産地が荒れ、地主の立ち入り
許可を得るのが難しくなっている。
 金峰山の北、小川山には、一面水晶だらけの場所があり、過去何回か採集会で訪れ
好評を博していた。
 そこで、Sさんはじめ、2003年になって知り合った人たちを中心に声を掛け
小川山でミニ採集会を計画した。前の夜、明日は早いので、早めに床に着くと
愛知県のKさんから、「最近、採集会の案内がないが」と催促の電話をいただいた。
 「実は、かくかく、しかじか」と説明すると、是非友人を連れて合流したいとのこと。
 地元山梨をはじめ、群馬、愛知から10名が参加し、”エステレル双晶”の
美晶を愛知のH氏が採集したのをはじめ、2〜3人に1つ、双晶を採集でき、
ほぼ満足いただけたようでした。

           
    愛知のKさん”親子鷹”      初参加のSさん       ”雨男”Hさん

                
      群馬の”弥次さん喜多さん”          ”ベテラン”Kさんとその弟子達

(2003年7月採集)

2.産地

 ここは、山梨県の黒森集落の奥にある不動滝を経て登るコースと、長野県側から登る
コースがある。
 長野県側からのほうが、登山道も整備されており、比較的楽に登れる。
それでも、片道2時間の歩きを覚悟しなければならず、間違い易い枝道も多く
最初は経験者に案内してもらったほうが無難でしょう。
 産地の詳細は、いろいろなHPにも掲載されており、割愛させていただきます。

3.産状と採集方法

 ここの水晶は花崗岩や珪質岩の石英脈に胚胎した晶洞にあり、長い間に
露頭が崩落し、晶洞がむき出しになっている。崩落した拳大〜一抱えある岩に
ビッシリ無傷の水晶が付いたものが、露頭から下の土砂(苔)に埋もれている。
 初参加のSさんは、非力なのでハンマで露頭を割るのは厳しく、”ハイエナ採集”を
伝授する。
(誰かが、露頭を崩した後のおこぼれを頂戴する、労少なくして益大きい採集方法)

4.産出鉱物

4.1 水晶の各種双晶【Various Types of Twin of Rock Crystal:SiO2】
   ここの水晶には、各種の双晶があることを改めて認識した。
   露頭に到着するや否や、群馬のTさんが、「この双晶は何だろう」と持ってきた
   水晶がエルステル式双晶の第1号でした。
   私は、よく解らないので、ベテランのKさんの鑑定にお任せです。
    すぐに、愛知のTさんが「頭はないが、・・・」と言って持ってきたのが
   第2号でした。
    私も、それらしいのを採集したが、Kさんに言わせると「物議を醸すかも」と
   つれない返事。
    皆さんの採集状況を見回っていると、愛知のH氏が「双晶を採った」とのこと。
   見せてもらうと、素晴らしいエルステル双晶。早速全員集合となり、皆が
   羨ましがることしきり。いつもながら、運の強いHさんでした。
(1)日本式双晶【Japanese Twin】
   晶洞の中に、頭こそないが、平板の日本式双晶が鎮座しているものを採集した。
   このような形態を”猿股双晶”と呼んで、さげすさむ御仁もいらっしゃいますが
   採った人の勝ちです。
    日本式双晶
(2)エルステル双晶【Esterel Twin】
   改めて”エルステル双晶の定義は?”と問われるとシドロモドロです。
   「ペグマタイト」誌に、1998年から2002年にかけ、3回にわたって、エステル双晶の
   記事がありますので、それを引用させていただきます。
    『エステレル双晶は、錐面の1つ{101}面*1)を双晶面とする双晶である。
    C軸が互いに交わる角度は、76.42°で、日本式双晶(84.56°)に比べ、やや鋭角で
   ある。』

    (*1)赤字は、1にバーがついたものを示す。)
    『日本式双晶は平板状になる事が多いが、エステレル双晶では2個体の結合している
   位置が日本式双晶とは異なるため、独特の晶癖を持った形態を示す。
    高温石英では、最もありふれた双晶とされるが、水晶(低温石英)では
   日本式双晶よりも稀で、めったに見られない。
    エステレル双晶という名称は、フランス南部 Cannes近郊の”Esterel”から
   産する高温石英の双晶に様式に付けられた名称である。
    ちなみに、水晶に見られる同じ様式の双晶の正式名称は ”Reichenstein
   -GrieserntalLow"と名付けられている。
    エルステル双晶は稀な双晶ではあるが、それにも増して結晶形態を結晶図で示した
   書物がや記載がほとんどない。』

    結局、高田氏が実測した結果を元に自ら描いた結晶図は、下図のようなものです。
         
          V型                 X型
          エルステル双晶結晶図【ペグマタイトから引用】

   これらから、いえることは次のような事がエルステル双晶を見分ける
  ポイントのようです。
   @C軸が対向するのは狭まった面で、日本式双晶のように陵ではない。
   AC軸が互いに交わる角度は、76.42°と日本式双晶に比べ狭い場合と
    補角をなす103°35′の場合がある。
   B錐面は、X型のように理想的には同一平面にあるが、多くの場合
    ”段違いの平行”になっている。
    (光源にかざして見ると、同時に光る。)
    (3)ドフィーネ式双晶【Dauphine Twin】
   ドフィーネ式双晶を理解するには、”右水晶”と”左水晶”を理解する必要が
   あります。
    ”x面”が右(左)肩にあるのが”右(左)水晶”です。
    
      右水晶     左水晶【[鉱物]から引用】

    ”右水晶”なり”左水晶”同士が、C軸で透入双晶をなす場合がドフィーネ式双晶
   ”右水晶”と”左水晶”が透入双晶をなす場合がブラジル式双晶です。
    ドフィーネ式双晶

5.おわりに

(1)小川山は、片道2時間余りの歩きがあり、決して分かりやすい産地ではありません。
   それだけに、荒らされていません。
(2)初めてここを訪れた人は、水晶が豊富にあるのに驚き、あれも、これも持って
   帰りたくなる様です。

6.参考文献

1)高田雅介・今井裕之:山梨県乙女鉱山産 水晶のエステレル双晶
             ペグマタイト第32号,1998年
2)鶴田憲次・高田雅介:水晶のX型エステレル双晶,ペグマタイト第51号,2001年
3)鶴田憲次・高田雅介・後藤慎介:岐阜県蛭川村の花崗岩ペグマタイト晶洞中から
                  産した煙水晶の日本式双晶とエステレル双晶
                  ペグマタイト第55号,2002年
4)益富寿之助:鉱物,保育社,昭和60年
5)Frondel:Dana's System of Mineralogy Seventh Edition VolV
                Jhon Wiley and Sons Inc ,1962年
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