(2003年11月採集)
しかし、”例外のないルールはない”の諺通り、小川山の近くの双晶産地で採集を
一緒にした、仙台市のTさんから、次のような、貴重なコメントをいただきました。
このことは、小川山産の双晶にもそのまま、当てはまると考えています。
『 エステレルは、独特の晶癖を示すタイプと示さないものがあり、難しい。
想像以上の数のエステレルが紛れ込んでいるので、トッコをじっくりと眺めていると
楽しいです。
いくつか気付いたことを示します。
エステレル式双晶は、成長の初期段階にブイ字の谷間(凸入角)に他の結晶が
挟まってしまうと、独特の晶癖を示しません。また、左右の大きさの差がありすぎると
やはり晶癖を示しづらくなるようです。
それと、片方が寝てしまうと、なかなかわかりません。
日本式の方は、やはりy字両錐双晶が一つ入っていました。これには一つの両錐水晶に
枝が二つ生えており、幹に対していずれも日本式双晶の関係で付いており、枝は
両者とも平行連晶の関係にありました。
あれだけエステレルと日本式の密度が濃いと、日本式−エステレル複合双晶も
産出しそうですね。
エステレル式双晶と日本式双晶の産出条件の差は、どこにあるのだろうと、
深く考えされられる一日でした。』
(1)日本式双晶【Japanese Twin】
日本式双晶というと、”乙女鉱山産の蝶形や軍配型”のイメージが強すぎ、”C軸”
および稜線が同一面上にあり、左右の厚さが同じで、”縫合線”がある、と思いがちです。
”C軸”が同一面上にあり、そのなす角が84.56°であれば、日本式双晶と呼んで
構わないようです。
確かに、三ツ岩岳や洞戸鉱山の日本式双晶は、乙女鉱山のものとは、大きく違っています。
このような眼でさがしてみると、探すのはそう難しくなくなります。
(2)エルステル双晶【Esterel Twin】
改めて”エルステル双晶の定義は?”と問われるとシドロモドロです。
「ペグマタイト」誌に、1998年から2002年にかけ、3回にわたって、エステル双晶の
記事がありますので、それを引用させていただきます。
『エステレル双晶は、錐面の1つ{1011}面*1)を双晶面とする双晶である。
C軸が互いに交わる角度は、76.42°で、日本式双晶(84.56°)に比べ、やや鋭角で
ある。』
(*1)赤字は、1にバーがついたものを示す。)
『日本式双晶は平板状になる事が多いが、エステレル双晶では2個体の結合している
位置が日本式双晶とは異なるため、独特の晶癖を持った形態を示す。
高温石英では、最もありふれた双晶とされるが、水晶(低温石英)では
日本式双晶よりも稀で、めったに見られない。
エステレル双晶という名称は、フランス南部 Cannes近郊の”Esterel”から
産する高温石英の双晶に様式に付けられた名称である。
ちなみに、水晶に見られる同じ様式の双晶の正式名称は ”Reichenstein
-GrieserntalLow"と名付けられている。
エルステル双晶は稀な双晶ではあるが、それにも増して結晶形態を結晶図で示した
書物や記載がほとんどない。』
結局、高田氏が実測した結果を元に自ら描いた結晶図は、下図のようなものです。
これらから、いえることは次のような事がエルステル双晶を見分ける
ポイントのようです。
@C軸が対向するのは狭まった面で、日本式双晶のように陵ではない。
AC軸が互いに交わる角度は、76.42°と日本式双晶に比べ狭い場合と
補角をなす103°35′の場合がある。
B錐面は、X型のように理想的には同一平面にあるが、多くの場合
”段違いの平行”になっている。
(光源にかざして見ると、同時に光る。)
(3)日本式−エステレル−ベローダ複合双晶
Tさんの予想にあった、”日本式−エステレル複合双晶”にベローダ双晶が付加したと
思われる5本の水晶が寄り集まった群晶を採集した。
@3本の内、左2本が”エステレル”をなす。
A右2本が55°24′の開き角をなし、{3032}面でベロ−ダ双晶をなす。
上の写真の上方向から見ると、
B真ん中と上の水晶が”日本式双晶”をなす。