2003年11月ミニ採集会 -小川山の双晶を求めて-

2003年11月ミニ採集会 -小川山の双晶を求めて-

1.初めに

 私のHPを見た愛知県のIさんから、”小川山で水晶を採集したい”とのメールを
2003年10月採集会の前に、頂いていた。
 仕事仲間の女性2名が一緒との事なので、できるだけ女性が増えたほうが
2人にとって気が楽かと思い、急遽、ミニ採集会を呼びかけた。
(静岡の石友・Yさんの奥さんと娘のAちゃんが参加してくれ、助かりました。)
 2003年5月、偶々小川山で奈良の石友・Aさん親子と一緒になった長野のIさんは
腰までの雪に行く手を阻まれ、リベンジを期しての参加。
 先週、白鳥山を案内していただいた静岡のYさん一家5名、同じく先週一緒だった
千葉のK君、T大のF君も参加。その結果、Yさんの子ども小学生3人を含め総勢16名で
ミニと呼べない規模になった。
 長野県のIさんは日本式双晶を採集し、リベンジどころか、お釣りが来たようです。
また、神奈川のMさんは、いつものようにシッカリと目的の”エステレル双晶”を
発見するなど、参加者の成果も”ビッグ”な採集会になった。
 今回、愛知県の”雨男”Hさんが不参加で、抜けるような青空の下、金色に色づいた
カラマツ林を見ながら、楽しい1日を過ごしていただけたようです。

     
    静岡・Yさん一家       愛知・Iさんグループ      Kさん・K君・F君・T君

(2003年11月採集)

2.産地

 ここは、山梨県の黒森集落の奥にある不動滝を経て登るコースと、長野県側から登る
コースがある。
 長野県側からのほうが、登山道も整備されており、比較的楽に登れる。
それでも、片道2時間の歩きを覚悟しなければならず、間違い易い枝道も多く
最初は経験者に案内してもらったほうが無難でしょう。
 産地の詳細は、いろいろなHPにも掲載されており、割愛させていただきます。

3.産状と採集方法

 ここの水晶は花崗岩や珪質岩の石英脈に胚胎した晶洞にあり、長い間に
露頭が崩落し、晶洞がむき出しになっている。崩落した拳大〜一抱えある岩に
ビッシリ無傷の水晶が付いたものが、露頭から下の土砂(苔)に埋もれている。
 苔むした岩陰の窪みには、人知れず眠っているクラスターもたくさんある。
集合少し前に、初参加・愛知のIさんが発見したクラスターには、「日本式双晶」
「エステレル双晶」のほかに、小川山では初めての報告となるであろう
「ベローダ双晶」と思われるものがあった。
 初参加の女性、HCさんとHTさんもタガネとハンマーを使って露頭からのグラスター
掻き採りに挑戦し、”マイ・標本”を採集できたと、喜び(歩くのは苦しみ?)の
メールをいただいた。

4.産出鉱物

4.1 水晶の各種双晶【Various Types of Twin of Rock Crystal:SiO2】
   小川山には、「日本式」と「エステレル」はじめ各種の双晶があり
  ”群晶を見たら、双晶と思え”と覚えて置いてください。
   双晶かどうかの判定は、乙女鉱山産日本式双晶を傾軸式双晶と呼んだ時期が
  あったことからも分かるように、2本の水晶の”C軸”がなす開き角度が大きな
  決め手になります。
   今回参加した東京のTさんは、下図の様な名刺を使った角度ゲージを持参し
  Mさんが採集したエステレル式双晶の鑑定に威力を発揮しました。

    
           角度ゲージ
     【エステレル:76.42°(補角103°35′)日本式:76.42°】

 しかし、”例外のないルールはない”の諺通り、小川山の近くの双晶産地で採集を
一緒にした、仙台市のTさんから、次のような、貴重なコメントをいただきました。
 このことは、小川山産の双晶にもそのまま、当てはまると考えています。

   『 エステレルは、独特の晶癖を示すタイプと示さないものがあり、難しい。
    想像以上の数のエステレルが紛れ込んでいるので、トッコをじっくりと眺めていると
    楽しいです。
     いくつか気付いたことを示します。
    エステレル式双晶は、成長の初期段階にブイ字の谷間(凸入角)に他の結晶が
    挟まってしまうと、独特の晶癖を示しません。また、左右の大きさの差がありすぎると
    やはり晶癖を示しづらくなるようです。
     それと、片方が寝てしまうと、なかなかわかりません。
    日本式の方は、やはりy字両錐双晶が一つ入っていました。これには一つの両錐水晶に
     枝が二つ生えており、幹に対していずれも日本式双晶の関係で付いており、枝は
    両者とも平行連晶の関係にありました。
     あれだけエステレルと日本式の密度が濃いと、日本式−エステレル複合双晶も
    産出しそうですね。
     エステレル式双晶と日本式双晶の産出条件の差は、どこにあるのだろうと、
    深く考えされられる一日でした。』

(1)日本式双晶【Japanese Twin】
   日本式双晶というと、”乙女鉱山産の蝶形や軍配型”のイメージが強すぎ、”C軸”
   および稜線が同一面上にあり、左右の厚さが同じで、”縫合線”がある、と思いがちです。
    ”C軸”が同一面上にあり、そのなす角が84.56°であれば、日本式双晶と呼んで
   構わないようです。
    確かに、三ツ岩岳や洞戸鉱山の日本式双晶は、乙女鉱山のものとは、大きく違っています。
    このような眼でさがしてみると、探すのはそう難しくなくなります。

         
      ”蝶型”【乙女鉱山産】         ”傾軸”【小川山産】
                   日本式双晶

(2)エルステル双晶【Esterel Twin】
   改めて”エルステル双晶の定義は?”と問われるとシドロモドロです。
   「ペグマタイト」誌に、1998年から2002年にかけ、3回にわたって、エステル双晶の
   記事がありますので、それを引用させていただきます。
    『エステレル双晶は、錐面の1つ{101}面*1)を双晶面とする双晶である。
    C軸が互いに交わる角度は、76.42°で、日本式双晶(84.56°)に比べ、やや鋭角で
   ある。』

    (*1)赤字は、1にバーがついたものを示す。)
    『日本式双晶は平板状になる事が多いが、エステレル双晶では2個体の結合している
   位置が日本式双晶とは異なるため、独特の晶癖を持った形態を示す。
    高温石英では、最もありふれた双晶とされるが、水晶(低温石英)では
   日本式双晶よりも稀で、めったに見られない。
    エステレル双晶という名称は、フランス南部 Cannes近郊の”Esterel”から
   産する高温石英の双晶に様式に付けられた名称である。
    ちなみに、水晶に見られる同じ様式の双晶の正式名称は ”Reichenstein
   -GrieserntalLow"と名付けられている。
    エルステル双晶は稀な双晶ではあるが、それにも増して結晶形態を結晶図で示した
   書物や記載がほとんどない。』

    結局、高田氏が実測した結果を元に自ら描いた結晶図は、下図のようなものです。
         
          V型                 X型
          エルステル双晶結晶図【ペグマタイトから引用】

   これらから、いえることは次のような事がエルステル双晶を見分ける
  ポイントのようです。
   @C軸が対向するのは狭まった面で、日本式双晶のように陵ではない。
   AC軸が互いに交わる角度は、76.42°と日本式双晶に比べ狭い場合と
    補角をなす103°35′の場合がある。
   B錐面は、X型のように理想的には同一平面にあるが、多くの場合
    ”段違いの平行”になっている。
    (光源にかざして見ると、同時に光る。)
         
  エステレル双晶【乙女鉱山産】  判定法B【上下端の”△(z)”面が同時に光る】

    (3)日本式−エステレル−ベローダ複合双晶
   Tさんの予想にあった、”日本式−エステレル複合双晶”にベローダ双晶が付加したと
   思われる5本の水晶が寄り集まった群晶を採集した。
    @3本の内、左2本が”エステレル”をなす。
    A右2本が55°24′の開き角をなし、{3032}面でベロ−ダ双晶をなす。

    複合双晶【エステレル−ベローダ双晶】

上の写真の上方向から見ると、
    B真ん中と上の水晶が”日本式双晶”をなす。
    複合双晶【日本式双晶】

5.おわりに

(1)小川山での採集会の翌日、日本式双晶で有名な産地で、仙台市の石友・Tさんと一緒に
   採集しながら、”双晶”についての教えを乞うことができた。
    今まで、私が抱いていた日本式双晶の概念を払拭し、採集したばかりの各種の双晶を
   目の前にして、受ける講義は、60歳近い頭にもスンナリと沁み込み、いつもながら
   ”持つべきものは、石友”の感を深くした。
    Tさんから送っていただいた、J.Drugman、H.R.Gaultそして有名なC.Frondelの英文文献を
   慌てて、読み直した次第です。
(2)水晶産地としての小川山は、魅力に溢れ、是非一度行きたいとか、また訪れたいとの要望が
   たくさん寄せられています。
    鬼に笑われるかも知れませんが、来年も小川山での採集会を計画したいと考えています。

6.参考文献

1)高田雅介・今井裕之:山梨県乙女鉱山産 水晶のエステレル双晶
             ペグマタイト第32号,1998年
2)鶴田憲次・高田雅介:水晶のX型エステレル双晶,ペグマタイト第51号,2001年
3)鶴田憲次・高田雅介・後藤慎介:岐阜県蛭川村の花崗岩ペグマタイト晶洞中から
                  産した煙水晶の日本式双晶とエステレル双晶
                  ペグマタイト第55号,2002年
4)益富寿之助:鉱物,保育社,昭和60年
5)C.Frondel:Dana's System of Mineralogy Seventh Edition VolV
                Jhon Wiley and Sons Inc ,1962年
6)C.Frondel:Quartz Twin on{3032},1968年
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