山梨県落合鉱山のマンガノパンペリー石







       山梨県落合鉱山のマンガノパンペリー石

1. 初めに

   最近では毎年のように、日本で新鉱物が発見されている。『石(鉱物)なし県』、と揶揄された
  単身赴任先の千葉県でも『千葉石(ちばせき)』が発見されているくらいだ。

   私の家がある山梨県では、2種類の新鉱物が発見されている。1つは、「京ノ沢の苦土フォイ
  ト電気石」、そしてもう1つは「落合鉱山のマンガノパンペリー石」だ。それぞれ、1999年と1981年
  に発見されている。

   「京ノ沢」は新鉱物が発見される前は「デュモルチ石」の産地として有名で、鉱物採集を始め
  ばかりのころから、すでに何回か訪れ、HPにも紹介した。

   ・山梨県鶏冠山林道のデュモルチ石
    (Dumortierite of Keikansan Mountain Road , Yamanashi Pref.)

   ・山梨県京の沢のデュモルチ石
    (Dumortierite of Kyonosawa , Yamanashi Pref.)

    一方の落合鉱山は、2006年ごろ探索したのだが結局探しだすことはできなかった。

    2011年、私のHPの愛読者の1人・Tさんから、「門井沢の鉱物」鑑定依頼があり、そんな経
   過から、落合鉱山のマンガン鉱物を恵送いただいた。しかし、私には、それが「マンガノパン
   ペリー石」なのか鑑定する眼力は持ち合わせていない。だれかに、お願いしなければと思い
   ながらも1年余りが過ぎた。

    2012年9月、仕事の目途も立ち、週末には山梨に頻繁に帰れるようになった。以前Tさんか
   らいただいたメールにあった御厚意に甘え、10月のある日、落合鉱山を案内していただくよう
   にお願いした。
    マンガン鉱物に詳しい石友・Mさんの同行も快諾していただいた。山梨県中央市で合流し、
   私の車に乗っていただき、「落合鉱山」を目指した。見覚えのある場所から少し離れたところ
   に駐車し、産地を目指し、20分余りでそれらしいポイントに着いた。周りを見渡すと、マンガン
   鉱物が点々と見られるが量は多くない。周辺を探査すると、崩落した坑道跡らしきものもある。
    「マンガノパンペリー石」らしきものをいくつか採集し、産地を後にした。ものがものだけにM
   さんも私も「これだ!!」、とは確信をもって言い切れない。10月末には何人かの石友にも会
   う予定なので、鑑定を依頼する予定だ。
   ( 2012年10月採集 )

2. 産地

    「日本鉱産誌」や「日本のマンガン鉱床補遺」などから、落合鉱山の地質・鉱床そして稼行の
   歴史などを断片的に知ることができる。

    【位置】
     山梨県中巨摩郡落合村○○○。身延線鰍沢駅北西5km

    【地質および鉱床】
     御坂層中の頁岩を母岩とする鉱床。山梨県が海の底にあった時期に生まれた層状マン
    ガン鉱床である。

    【鉱石と品位】
     酸化マンガン鉱。Mn28〜35%

    【稼行状況など】
     1939年〜50年にかけて採掘。玉井 開治郎、日向 清らが稼行。採掘量は、1,242トン

    落合鉱山は、南アルプス市(旧甲西町)の山中にあり、Tさんに案内していだいた場所なの
   で、詳細は割愛させていただく。

    崩落した坑道跡とズリが見られ、鉱石は点々と散らばって見られる。

     落合鉱山坑道跡

3. 産状と採集方法

   点々と落ちている真っ黒いマンガン鉱石を探し、ハンマーで割って新鮮な部分を採集する。

4. 産出鉱物

 (1) マンガノパンペリー石【Pumpellyite-(Mn2+):Ca8(Mn,Mg)4(Al,Mn)8Si12(O,OH)56
      この鉱物の特徴は、次のように、素人目には、ほかの鉱物との区別がつきにくく、鑑定が
     難しい代物である。

     ・ 加藤博士のマンガン鉱物読本には、『一見紅簾石に類似し、それより色が淡く、条痕色
      も淡い。パンペリー石族鉱物としては結晶に粘りがなく、硬度の割には容易に針でほじ
      くることができる』 とある。
     ・ 宮島先生の「日本の新鉱物」に掲載された写真を見ると、「菱マンガン鉱」に似たような
      色合いである。

      マンガノパンペリー石【推定品】

     色合いのほか、”針先で突っつくと、簡単に崩れる”ところから、マンガンパンペリー石だろ
    うと、判断している。

5.おわりに

 (1) 山梨県で発見された、新産鉱物は、2012年現在2つだ。念願だった「マンガノパンペリー
    石」の原産地を訪れることができ、それと思われる標本を採集でき、案内していただいた
    Tさんに、深く感謝している。

     「マンガノパンペリー石」、と断定されれば、Tさんは標本を地元の博物館のような施設に
    寄贈したいとの意向なので、早く決着をつけたい。

6. 参考文献

 1) 工業技術院地質調査所:日本鉱産誌(BI-C),東京地学協会,昭和29年
 2) 吉村 豊文:日本のマンガン鉱床補遺 後編,吉村豊文教授記念事業会,昭和44年
 3) 平井 進:山梨県増穂鉱山・落合鉱山,鉱物情報,1984年
 4) 加藤 昭:マンガン鉱物読本,関東鉱物同好会,1998年
 5) 松原 聰:日本産鉱物種,鉱物情報,1992年
 6) 宮島 宏:日本の新鉱物,フォッサマグナミュージアム,2000年
inserted by FC2 system