福島県玉川村の「野木沢石」(ブロック石)

     福島県玉川村の「野木沢石」(ブロック石)

1. 初めに

   2008年8月、9月と栃木県の石友・Sさん一家、兵庫県のN夫妻と福島県、茨城県の
  『希元素鉱物』産地を中心にミネラル・ウオッチングを楽しんだ。

      
         Sさん一家と            N夫妻
              ミネラル・ウオッチング風景

   石友を産地に案内すると、そこで自分が過去に採集した標本よりも1ランク上のものか
  未採集のものでないと持ち帰らず、差し上げてしまうことが多い。その結果、2回のミネ
  ラル・ウオッチングで持ち帰った標本は極めて少なかった。

   その中に、現地で”おや?”と思った標本が1つあった。それは、玉川村川辺鉱山跡
  で採集した電気石や鉄バン柘榴石がみられる石英・長石塊で、「ゼノタイム」「球状ゼノ
  タイム」に隣接して直方体の結晶が2つあるものだった。
   見た瞬間、現物は見たことはなかったのだが、「野木沢石」だろう、と直感が働いた。

   帰宅後、国内外の「ブロック石」に関する情報をインターネットや単身赴任先に持参
  した数少ない鉱物関連書籍で調べると間違いなさそうだ。

   私の持論の1つに 『 1品満足 』がある。ミネラル・ウオッチングに行くのは、良品が
  採れれば採れたに越したことはないが、それよりも石友との出会いが楽しみで、1つ
  でも記録に残せる標本に出会えれば、”大満足”、という心境だ。

   2008年11月の「湯沼鉱泉社長激励ミネラル・ウオッチング」には、東西○百キロの
  遠路を馳せ参じてくれる、多くの石友との再会を楽しみにしている。
   ( 2008年9月採集 )

2. 産地

     川辺鉱山は、希元素鉱物のメッカの中心地・石川町から少し北に行った玉川村
    にある。
     川辺鉱山は、長島 乙吉・弘三親子による「日本希元素鉱物」の記述によれば
    『 水郡線泉郷から南 川辺部落から丘陵を東に1km許(ばかり)行くと北の谷に
    堀場が見える 』
 とある。
     坑道が山道の脇に残っていて、その気になればすぐにわかる産地の筈だが
    過去に何度か訪れても、誰も採集した形跡がない。

      川辺鉱山坑道【2008年9月】

3. 産状と採集方法

     「日本希元素鉱物」によれば、ここは、花崗片麻岩を貫く脈性(ところどころ
    レンズ状に膨らんだ)ペグマタイトで、初めは長石を採掘し、戦時中には「理研」
    (理化学研究所)が原子爆弾の材料のウランを目的にサマルスキー石を小規模
    に採掘した場所で、坑道は余り深くない。
     それでも、戦争中(1940年〜45年ごろ) 軍も力を入れた鉱山なので、兵隊
    が歩哨に立ったとも聞いている。

     土砂にまみれたズリ石(選鉱カス?)から希元素鉱物を探すのは困難なので
    ズリ石を土嚢袋に詰め、水場まで運んでパンニングする。
     パンニングすると希元素鉱物の分離結晶はパンニング皿の底に最後まで残るが
    その前に洗われた長石や石英塊がパンニング皿の上部に寄せ集まる。これを
    無闇に捨てないで、1つひとつ丹念に眺めまわすと希元素鉱物が付いて部分が
    見つかることがある。
     その周辺をルーペで確認すると「野木沢石(ブロック石)」が見つかることがある。

4. 産出鉱物

  (1) 野木沢石/ブロック石【nogizawaite/BROCKITE:(Ca,Th)PO4・H2O】
      この産地のブロック石は、黄褐色、1辺数mmの直方体(立方体?)で、角が
     落ちている。電気石や鉄バン柘榴石がみられる石英・長石塊で、「ゼノタイム」や
     「球状ゼノタイム」に隣接して産する。

         
                  全体                          拡大
             【右下は8面体ゼノタイム】
                               「野木沢石」

      原産地・アメリカのものはインターネットの写真で見る限り赤銅色の皮膜状で、
     単斜晶系とされ直方体の結晶にはなりそうもない。
      したがって、石川地方の「ブロック石」は何かの鉱物の”仮晶”らしいのだが、元の
     鉱物が何かは判っていない。

      「いしかわの石の物語」によれば、石川地方で「ブロック石」が発見され採集地に
     因んで、「野木沢石(nogizawaite)」、と名付けられた経緯が次のように記されて
     いる。

      『 昭和23年(1948年)、桜井欽一先生と河合貞吉先生が特に研究されて、当時の
       野木沢村の名を仮称として(「野木沢石」と)命名されました。
        生前、桜井先生からお便りで教えていただいたことを書きましょう。

        「見かけは美しい立方体に近い結晶ですが、3種あるらしく、顕微鏡で調べると
         @ 細粒状の均一質集合体
         A 細粒状の中に透明な柱状晶を多量に含む
         B 均一質だが微粒子の集合、つめで傷がつく、ねっとりとしたもの」   』

        1994年、庄司浩、赤井純治両氏によって、石川町から産出した同じような鉱物
       が発表された。

      『 直方体は1〜5mm、黄褐色から黄白色、肉眼では粘土様に見えるが実体遺体
       顕微鏡下ではこの中に淡黄色のガラス光沢の鉱物(長石が多い)が含まれる
       ことがある。粘土状で柔らかく、弱い放射能がある。この擬晶は2種以上の鉱
       物の混合物で、その1つは「ブロック石」であることがわかった。        』

      『 ・・・・黒雲母の中に埋まっていることが多い。ゼノタイムやモナズ石とも中が
       良く、同じ黒雲母に埋まっている。                          』

        話が前後するが、昭和35年(1960年)に出版された長島 乙吉・弘三親子に
       よる「日本希元素鉱物」の「野木沢石」の項を引用する。

       『 かつて、桜井欽一氏によって注意され、ベスブ石、ゼノタイム等と考えられ
        ていた鉱物である。
         常に等軸晶系立方体の結晶をなし、しばしば小さい八面体で隅が切られて
        いる。・・・・・・・・・
         ゼノタイム、ジルコン、モナズ石と同時期の晶出とみられる。但し、一見し
        たところ「武石」に似ており、2次的の鉱物のような感じがする。
        ・・・・・・・要するに、外観は立派な単結晶であるが少なくとも2物質の集合体
        である。                                        』

5. おわりに

 (1) 「ブロック石」の誤解
      ブロック石について、調べていくといろいろな誤解があるようなので、紹介する。

      @ 名前の由来
          私は、「ブロック石(BROCKITE)の外形が、塀などをつくるときに使う直方
         体の建築材の”ブロック”に似ているからだろう、と思い込んでいた。
          石川地方で採集できる直方体の「ブロック石」は、何らかの鉱物を置き
         換えた”仮晶”であって”自形結晶”ではないことを知り、原産地・アメリカの
         標本写真をインターネットで見て、私が誤解していたことに気付いた。

          「ブロック石」の名前は、この標本を最初に提供したMaurice R. Brockに
         因むことも知った。

         ( われわれが、”ブロック”と呼んでいるのは、和製英語で、レンガを意味
          するBrick(ブリック)が訛ったものらしい )

       A 「ブロック石」=BROOKITE ?
          BROCKITE とスペルが似ている鉱物に BROOKITE がある。”O”と”C”
         の1字違いで間違われやすいようだ。

          ご承知のように、BROOKITEは、「板チタン石」のことで、”ブルッカイト”と
         でも発音するのだろう。

 (2) 玉川村の「ブロック石」
      国産の「ブロック石」は、「野木沢石」という和名が準備されたことからもわかる
     ように、石川町では多くの場所で確認されているようだ。今回、玉川村での産出は
     初めての報告ではないだろうか。

      化学式からわかるように、「ブロック石」は”PO4”を持つリン酸塩鉱物なので
     「ゼノタイム」や「モナズ石」が産出する場所なら採集できる可能性があるので
     追跡調査してみたいと考えている。

6. 参考文献

 1) 長島 乙吉、弘三:日本希元素鉱物,日本鉱物趣味の会 長島乙吉先生祝賀記念事業会
               昭和35年
 2) 三森たか子:いしかわの 石の物語,石川町教育委員会,平成8年(1996年)
 3) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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