石友・Mさんから産地の情報をいただき、初めて西澤金山を訪れたのは7月中旬だった。
教えられたズリで、いとも簡単に「淡紅銀鉱」と「黄粉銀鉱」が採集でき、一時スラン
プはあったものの、「淡紅銀鉱」や「黄粉銀鉱」は確実に採集できるようになった。そ
れと同時に各種の鉱物も得られるようになった。この産地の目玉の「マチルダ鉱」の
”正真正銘品”を求めて通うこと10回近くになるだろうか。
訪れるたびに同行していただいた石友・Mさん、ご一緒した栃木のSさん一家に厚く御礼
申し上げます。
訪れ始めたのが青葉のころ、紅葉そして雪景色の中での採集を経験できた。産地は
今、雪に閉じ込められ始めている。来春訪れ、念願の「マチルダ鉱」を手にするのを
”待っちいるダ”( ウ〜 寒ぶ〜 )
( 2006年7月初訪山、7月再訪、9月〜11月 3〜8回目訪山 )
西沢金山で実際に採集できた鉱物種とその母岩から、この産地の産状を次のように解釈
して、採集するときのズリ石の取捨選択基準にしている。
@ 古生代の石英斑岩ができるときに、”斑状”に金銀が豊かな部分が生じた。
A その後、古生代の石英斑岩や珪岩の割れ目に金銀を含む鉱液(石英)が侵入した。
このとき、黄鉄鉱、黄銅鉱などの硫化鉱物やマンガン重石なども同時に生成した。
部分的には、「自然硫黄」が生成するほど、硫黄(S)の濃度が高かった。
B 数百万年前、男体山をはじめとする火山の爆発、火砕流によって、樹木が巻き
込まれ、その後珪素分を吸収し、珪化木となったり、火山灰の珪素の堆積層が
「玉髄」や「オパール」の層となった。
結論として、”不毛”と思われるような石英斑岩のにも「ルビーシルバー」が来る可
能性がある。
3.2 採集方法
西澤金山を訪れ、ルビーシルバーなどの金銀鉱物を採集した人の印象を聞くと、多くの人
から『 ドロドロのズリで、良い思い出がない 』という答えが返ってくる。
確かにズリは、重たい粘土質の土に覆われ、掘り出したズリ石が銀鉱物を含むものか
否かを外観から判断できない。
(1)栃木県の石友は、”持ってみて、重たい感じがするもの” と言うが、粘土にま
みれ、タップリと水分を吸ったズリ石は、どれもこれも重たく感じられる。
(2)いくつかの試行錯誤の末、到達したのは、次のような方法である。
@ 片っ端から割ってみる。銀黒を含むものや、「ルビーシルバー」が見える標本は
そのまま持ち帰り、丁寧にクリーニングする。
A 雨上がりなどに訪れ、ズリの表面採集
これが、最も効率が良い。
B 水を入れたバケツを持参し、泥を洗い落として表面を観察する。
C ズリの土砂を沢まで運び、ズリ石洗って見やすくし、細かい土砂はパンニングで
「ルビーシルバー」や「鉄重石」などの重鉱物の分離結晶を採集する。
Mさんは、B派、私は@派である。@は標本が小さくなってしまう欠点があるものの
a) 表面に見えないものも見逃さない
b) 新鮮な ”鮮紅色” 結晶が得られる
c) 小割りしたことになり、標本の数が増える
などのメリットがある。
ごく稀に、石英の晶洞の中に”自形結晶”が見られることがある。鉱物学の教科書にはル
ビーシルバーと輝銀鉱の結晶系は次のように記載されている。
鉱物(英語名) | 結晶系 | 結晶図 | 備考 | 濃紅銀鉱 (Pyrargyritey) | 六方晶系 | 水晶に代表される「六角柱」 | 淡紅銀鉱 (Proustite) | 三方晶系 | 方解石に代表される「菱面体」 | 輝銀鉱 (Argentite) | 等軸晶系 | 柘榴石に代表される「12面体」 |
下の自形結晶を示す写真から、左側のものの結晶系は『ざくろ石』に似ており、等軸晶系
と考えられる。そうなると、輝銀鉱の仮晶をしたルビーシルバーではないだろうかと考えら
れる。
(2)黄粉銀鉱【Xanthoconite:Ag3AsS3】
鮮やかな紅色をしめす淡紅銀鉱に隣接して、黄色で表面がギラギラと輝く皮膜〜薄板状
時に粒状結晶で産する。黄粉銀鉱(単斜)と淡紅銀鉱(三方)とは、同じ組成で、結晶系だ
けが違う、いわゆる”同質異像”の関係にある。
黄粉銀鉱は、『淡紅銀鉱の2次鉱物』という考えもあると石友・Mさんに聞いたが、隣接し
て独立して生成したと考えたほうが説明しやすい標本を数多く目にしている。
(3)鉄重石【Ferberite:FeWO4】
石英の中に、鉄黒色、葉片状結晶で産する。比重が7.4と大きく(重く)、ドロドロの
ズリ粘土をパンニングするとパンニング皿の底に残る。
ズリ石の石英脈に挟まれているものも採集できるが、その産出は、「ルビーシルバー」
よりも稀、というのが私の印象である。
また、「鉄重石」の一部には、”赤色、透明”の『マンガン重石』と呼ぶべき部分
もあり、「鉄重石」と「マンガン重石」が夾雑している。
「西澤金山大観」に、渡辺渡博士の『日光西澤金山ノ重石鉱』という論文が収録されて
いる。それによれば、西澤金山での重石鉱発見の経緯は次のようであったらしい。
( 原文は、明治41年(1908年)8月、日本鉱業会誌に掲載 )
『 (旭抗)2号ヒに在テハ40年(1907年)1月頃一塊ノ輝水鉛鉱ヲ出シタリ・・・・・
本年(明治40年)1月、3号ヒのヒ先ガ漸次北方ニ曲リ鋭角ヲ以テ2号ヒト交叉シタル
辺ヨリ採掘シタル2号ヒノ金銀鉱ヲ余ニ送リ来リシヲ見ルニ鮮明ナル黒色板状ノ鉄満
俺重石ヲ夾有シタル珍奇ノ鉱石ナリシヲ以テ直ニ該山ニ向テ其重石鉱ナルコトヲ通報
シ更ニ其附近ニ於テ或ハ錫鉱ヲ産スルヤモ斗リ難キ旨警告ヲ與ヘシガ、数日ノ後石英
ノ晶洞中ニ美麗ナル淡紅色又ハ飴色ノ半透明ナル微晶ヲ有スル鉱物ヲ輸送セリ。是本
邦ニ於テ初メテ発見シタ満俺重石ナリシナリ。・・・・・・・・
余ハ是等ノ重石鉱現出ノ状態ヲ視察センガ為メ、6月下旬該山ニ赴キ親シク実況ヲ
見ルニ・・・・・・・・・ 』
重石鉱が見られたのは旭抗であり、重石鉱には豊富な濃紅銀鉱を伴う、とあり重石鉱が
「マチルダ鉱」の道しるべになりそうである。
(4)マンガン重石【Heubnerite:MnWO4】
石英脈の中に橙赤〜赤黒色のガラス光沢を有する結晶の集合体として産する。結晶の
厚さが薄いものはほとんど透明で、マンガン(Mn)が濃集した部分には赤褐色の累体構造
が見られる。
群馬県の萩平鉱山がマンガン重石の産地として知られているが、西沢金山産のもの
が文句なしに『 日本一 』である。
ちなみに、下の写真の標本は、Mさんからの恵与品である。
(2) このページでは、西沢金山から産出する「自然硫黄」そして「オパール」などについて
言及できなかった。
これらについては、別な機会に紹介させて頂く予定である。