群馬県下仁田町西ノ牧鉱山の鶏冠石

群馬県下仁田町西ノ牧鉱山の鶏冠石

1.初めに

2002年8月に岐阜県関戸川でトパーズを採集していると、埼玉県から来たという
若い人(名前を伺うのを失念してしまいました。)と会った。
私のHPの愛読者とのことで、私のHPのコピーも持って鉱物産地を回っているとのこと。
話の拍子に、『西ノ牧鉱山はHPに出ていないのですね。』と聞かれ、「最新の情報を
載せるためデジカメを買った1998年以前に訪れた産地情報は、基本的に載せていない。」
と答えた。
彼にとって、地元埼玉県の近くにあり、鶏冠石であれほど有名な西ノ牧鉱山がHPに紹介して
いないのは不満だったのかなと、後から思った次第です。
西ノ牧鉱山と眼と鼻の先にある群馬県下仁田町中丸鉱山東坑で輝安鉱が採集できることもあり
その帰りに約10年ぶりで訪れた。
愛知県中宇利鉱山の中宇利石と同じように、鶏冠石は今でも作り続けられているようで
露頭脇のズリ石の晶洞から頭付き鶏冠石結晶を採集したのをはじめ、輝安鉱と共生するもの
なども採集することができた。
(2002年8月採集)

2.産地

山梨からは、清里を経て長野県佐久市から254号線(通称コスモス街道)で
群馬県下仁田町に向かう。県境の内山トンネルを抜けると右手に荒船山の異様な山塊が見える。
荒船山
トンネルを抜けて8km余り行くと「新東平橋」がありその少し先の右手に「荒船の湯」がある。
その手前を右に逆戻りするように下ると旧道に出会う。約50mも行き、右に入ると右手高台に
お墓があり、ちょうど「新東平橋」の下をくぐる格好になる。
道なりに約500m行くと前方に大きな砂防ダムが見え、道は2又になる。左に曲がる急坂を登り
約300mも行くと左手に2〜3台分の駐車スペースがあり、ここに停める。
河原の砂防ダム(上流にあるやや小さいもの)をめがけて進み、砂防ダムの上流側の河原にでて
河原を約50mも遡上すると砂防ダムで行き止まりになる。この手前を右に斜めに下流側に上る
”ケモノ道”がある。
川沿いの山道を約50mも下流に行くと(丁度駐車した場所から見て砂防ダムの反対側)に
選鉱・出荷のためと思われる施設の遺構が残っている。
選鉱・出荷の遺構?
さらに30mも行くと左手に小さな砂防ダムがある枯れ沢がある。この沢の右岸の山道を100mも
行くと公害防止の土留め工事をした鉱山跡に到着する。
ここは、試掘坑と思われる塞がれていない坑道とその下に塞がれた坑道Bとズリ
更に下に塞がれた坑道Cとそのズリがある。
試掘坑と同じレベル(高さ)で右に回り込むと塞がれた坑道Dとそのズリがある。

   左:試掘坑?            右:坑道Dとズリ
坑道B【塞がれている】とズリ
坑道C【塞がれている】とズリ
     西ノ牧鉱山鳥瞰図

3.産状と採集方法

「日本鉱山誌」によれば、『昭和特殊鉱業(株)が昭和22年より、鶏冠石・雄黄を採掘。
鉱石は、安山岩中脈状をなす鶏冠石』【原文のママ】とあります。
坑道B脇の露頭には、新鮮な鶏冠石脈があります。ここで頭付き結晶の良品を採集した。
坑道入口脇の露頭
坑道D前のズリは量的に多く、石英を伴う鶏冠石が得られる。
採集方法は、ここの目玉の「若林鉱」を狙うなら、表面に真っ赤な鶏冠石や黄色の石黄がついた
石英塊を探し割ってみる。小さな晶洞があり、若林鉱は難しいが、鶏冠石の頭付き小さな結晶は
必ず採れます。
鶏冠石だけなら、表面採集やズリを少し掘れば、良いものが採集できるでしょう。

4.産出鉱物

(1)鶏冠石【Realgar:AsS】
鶏のトサカに色が似ていることからつけられた和名で、殆どは、皮膜状やへき開面で産出するが
安山岩の空洞や石英の晶洞に赤色短柱状結晶で産します。
鶏冠石【頭付き美晶】
(2)石黄(せきおう)【Orpiment:As2S3】
初生の石黄は、レモン黄色〜帯赤黄色の柱状結晶として産出する。鶏冠石の分解物として
産するものは粉末状であるとされる。
石黄
(3)輝安鉱【Stibnite:Sb2S3】
柱状、針状これらの集塊状で産出する。鶏冠石や石黄と共生する標本も得られる。
輝安鉱【鶏冠石と共生】

5.おわりに

(1)鶏冠石の和名の元となった鶏のトサカと言われても、雄鶏(おんどり)を
見かけることが殆どない昨今ではイメージできる人は少ないと思います。
(2)真紅の鶏冠石の結晶は、非常に綺麗なものです。しかし保管・取扱いには注意が
必要です。
@日光にあたると石黄に変化するため、黒い紙に包んで保管。
A亜ヒ酸ほどの猛毒ではないが、砒素(As)を含むため、取り扱いに注意。
(3)鉱物図鑑や書籍(例えば、上記の「日本鉱産誌」)によっては、Orpimentの和訳を
雄黄(ゆうおう)イコール石黄(せきおう)と記述しているものがあり、混乱が見られます。
益富先生は「正倉院薬物を中心とする古代石薬の研究」に、”雄黄(ゆうおう)と雌黄
(しおう)”の1節を設けて、混乱に至った経過と正しい使い分けを記述しています。
それによると
『漢薬の雄黄=鶏冠石【Realgar:AsS】、雌黄=石黄【Orpiment:As2S3】である。
和田維四郎著・日本鉱物誌第1版(1904年)では、Orpiment=雄黄と和訳した。
この誤りに気づき日本鉱物誌第2版(1916年)では、Orpiment=石黄とした。』
(日本鉱物誌第1版(1904年)を読むと、既にOrpiment=石黄となっており、益富先生の
勘違い?・・・。)
これで一件落着かと思いきや、益富先生によれば、『石黄は、雄黄=鶏冠石の別名に
過ぎないのだからOrpiment=石黄とするのは当を得ない。』となります。
しかし、ここまで石黄が定着してから、これを雌黄に替えると新たな混乱を招くので
そのままにされたようです。
”水精(すいしょう)と白石英”にも似たような話があります。

6.参考文献

1)地質調査所編纂:日本鉱物誌 B-U,工業技術庁地質調査所,昭和26年
2)柴田秀賢、須藤俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
3)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
4)木下亀城:原色鉱石図鑑,保育社,1989年
5)益富壽之助:正倉院薬物を中心とする古代石薬の研究 正倉院の鉱物T
        日本地学研究会館,昭和48年
6)和田維四郎著:日本鉱物誌第1版,和田維四郎,1904年
7)福地信世:日本鉱物誌第2版,丸善,1916年
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