日鉱記念館と日立鉱山の菫青石

日鉱記念館と日立鉱山の菫青石

1.初めに

故日下先生の「鉱物採集フィールドガイド」には、日立鉱山のズリで
菫青石が採集できるとあり、柴田博士の「原色鉱物岩石検索図鑑」
にも長さ5cmに達する柱状結晶が出る、とある。
過去に2回ほど訪れ、空振りでした。それもその筈、どのような母岩に
どのような色・形で産出するのか知らないで探していたのですから。
茨城県自然博物館で実物を見て、産状をシッカリ頭に叩き込んで3度目の
挑戦でようやく採集できたのが、2001年1月でした。
今回、福島県の石友3名と私のHPが縁で知り合ったMさんを案内して、
日鉱記念館を見学の後、裏手にある日立鉱山ズリで菫青石を採集した。
これが、2001年の採集納めとなりました。
(2001年12月採集)

2.産地

常磐道日立中央ICでおり、日立有料道路(100円)を通り日立市街に
向かうとT字路になる。ここを右折して進むと、右手に東洋一といわれた煙突
(今は、根元の部分しか残っていない)をもつ、日立鉱山精錬所がある。
日立鉱山精錬所
ここを過ぎ、さらに登って行くと、左手に「日鉱記念館」がある。
「日鉱記念館」
さらに「きららの里」を目指して登って行くと頂上に「本山トンネル」がある。
トンネルを抜けると左手に大きな駐車スペースがあり、ここに車を止める。
駐車スペースの南側に旧道が残っており、これを登っていくとトンネル
(「フィールドガイド」にあるトンネルだが今は入口が塞がれている)がある。
トンネルの手前から右にはいる道が「高鈴山ハイキングコース」になっており、
ここを約100m行くとゲートがあり、そこがズリ入り口である。
ここから、轍のある広い道を約200m進むと、左側の斜面一帯が日立鉱山の
ズリである。ちょうど、「日鉱記念館」の裏手になっている。

3.日鉱記念館

日鉱記念館は、(株)ジャパンエナジーと日鉱金属(株)の前身である日本鉱業(株)が、
創業80周年を記念して、創業の地である日立鉱山の跡地に昭和61年(1986年)に
開設した。
展示館である「本館」、「鉱山資料館」のほかに、屋外施設があり、明治38年
(1905年)に創業以来、昭和56年(1981年)に閉山するまでの歴史とそこで使われた
各種の機械や鉱物コレクションなどが展示してある。
入場料は無料です。
本館には、日立鉱山の菫青石をはじめとする、世界各地の鉱山の標本が展示してある。
日立鉱山産の黄銅鉱に埋もれた菫青石
鉱山資料館の一室には、日本・外国の鉱物標本が展示してある。
日鉱記念館の標本展示室【日鉱記念館パンフレットから引用】

4.日立鉱山の産状と採集方法

「日立鉱山史」によれば、明治末期、茨城県に赤沢と呼ばれる小さな銅山が
あった。久原房之助がここを買い取り、日本有数の大鉱山に成長し、これが
日立鉱山であり、日立製作所もここから生まれた。
日立鉱山は、別子銅山と同じように含銅硫化鉄鉱(キースラガー)鉱床を採掘し
菫青石は含銅硫化鉄鉱床を切るペグマタイト質石英脈に産出する。
白い石英を含むズリ石を探し、表面を観察すると菫青石が付いていることがある。
大きな石英脈は、割ってみると中から現れることもある。
表面は、緑色のピニ雲母に覆われている場合もあるし、紅柱石と共生するよう
なので、緑や赤紫がかった部分がある石英脈が有望である。
日立鉱山ズリでの採集風景【高鈴】

5.産出鉱物

(1)菫青石【Cordierite:(Mg,Fe,Mg)2(Al,Fe)4Si5O18】
斜方晶系であるが、面角が60度に近いので、反復双晶をなす場合、六方晶の
ように見える。結晶の形は、多様なので、怪しいと思ったら持帰った方が良い。
今回採集した菫青石は、今まで採集した中で一番大きな結晶で、沢山結晶が
ついており、母岩の大きさも手ごろで満足している。
この標本も白雲母と緑色雲母を伴っている。日立鉱山の緑色雲母は、Cr2O3
(酸化クロム)を含むためと言われていたが、近年の研究で、FeO(酸化鉄)を含有
することに因ることが明らかになった。
日立鉱山の菫青石【結晶長さ13mm】
(2)黄銅鉱【Chalcopyrite:CuFeS2】
石英に接する層状の黄銅鉱を採集した。このほか、変成絹雲母片岩の中に
産するものもある。
日立鉱山の黄銅鉱

6.おわりに 

(1)今回、私の休日出勤の合間を縫ってのあわただしい見学・採集でした。
Mさんは、昼食後にもう一度ズリに行き、2cmを超える菫青石を採集できたとの
メールをいただきました。
まだまだ、採集が可能です。
(2)日鉱記念館には、中国革命の父と仰がれる孫文が久原房之助に宛てた手紙が
展示してあります。
久原が物心両面で支援していたことが伺えます。
孫文からの手紙
(3)日立精錬所の傍らに、「日立製作所 創業小屋跡」の記念碑があるのに初めて
気づきました。
日立鉱山のモータ修理小屋からスタートし、今日の日立製作所まで成長したことを
考えると感無量です。

日立製作所創業小屋跡の碑

7.参考文献 

1)吉本 文平:鉱物工学,技報堂,昭和42年 inserted by FC2 system