群馬県片品村根羽沢鉱山の銀鉱物

1. 初めに

   千葉の石友・Tさんを「北関東産の水鉛鉛鉱」産地に案内し、車に戻ったのが10時ごろ
  だった。この後、私がまだ訪れたことのない群馬県片品村根羽沢鉱山を案内してくれる
  ことになった。
   鉱山ズリには、大きな石英塊や石英脈の入ったズリ石が積み重ねられている。ズリを
  歩き回り、片端から叩いたが銀黒は見つからなかった。鉱物同志会の新年会のバザーに
  は必ずと言って良いくらい一袋100円程度で、「根羽沢鉱山の銀鉱物」が出品され、簡単
  に採集できるだろと思っていた私の目論見は崩れてしまった。
   雪辱を期すべく、2週間後に東京の石友・Mさんを誘い根羽沢鉱山を再度訪れた。日光
  から金精峠を越えると道路脇には積雪があり、片品村大清水の鉱山に通じる林道入口に
  ある土産物屋の中には冬囲いをして閉まっているものも多かった。
   前回の教訓から、2人で手分けして広い範囲を探索することにした。やがて、Mさんが
  割った子供の頭大の石英塊の銀黒部分に赤紫色のルビーシルバーがあった。私もその
  流れを追いかけて銀黒脈の入った石英塊を割ると、銀黒部分に”ルビーシルバー”が光
  っていた。
   間断なく降り続く氷雨の寒さも忘れて採集のひと時を楽しんだ。
   翌々日から大清水の手前8kmから先が通行止めになるとのことで、この日が実質的には
  2006年最後の採集可能日であった。産地は永い冬ごもりの季節となった。来春再び訪れる
  のを楽しみにしている。
   産地を紹介してくれた石友・Tさん、同行いただいたMさんに厚く御礼申し上げる。
  ( 2006年10月初訪山 2006年10月再訪 )

2. 産地

    片品村大清水の鉱山に通じる林道(入口にチェーンが張ってある)を片品川にそって
   約2km歩くと山のようにズリ石が積まれた広場に着く。ここを中心に、旧い坑口や
   ズリなどが広い範囲に散らばっている。

    ズリ

3. 産状と採集方法

   「ルビーシルバー」を始めとする銀鉱物は、石英塊に真っ黒い”筋状”あるいは”点
  (スポット)状に、いわゆる”銀黒”が入った部分に来る。
   西澤金山のルビーシルバーは、ズリ石を割った瞬間に鮮紅色の点々が目に入ることが
  多いが、根羽沢鉱山の場合、ルーペで注意深く真っ黒い部分を観察して初めて確認できる
  ことがほとんどである。
   採集のポイントは、”銀黒”を含む石英塊をいかに見つけるかにかかっている。

4. 採集鉱物

(1)ルビーシルバー【Ruby Silver】
     根羽沢鉱山で、紅色結晶で産出する銀鉱物には、濃紅銀鉱【Pyrargyritey:Ag3SbS3】と淡紅
    銀鉱【Proustite:Ag3AsS3】の2種がある。
     化学式をみればわかるとおり、アンチモン(Sb)と砒素(As)の違いだけであり、淡紅銀鉱
    のほうが、やや明るい紅色をしている、とされるが光にさらされると黒くなるので、外観か
    ら鑑定することはできない。

         
            銀黒              ルビーシルバー
                    銀鉱物

5. おわりに 

 (1) 大清水の土産物屋の主人の話では、根羽沢鉱山は昭和57年(1982年)ごろまで稼行
    しており、鉱石はダンプで福島県いわき市にある精錬所(三菱鉱業?)に運ばれてい
    たが、円高で休山に追い込まれた。金銀の品位の高い鉱石の埋蔵量はまだまだあるら
    しい。
     Tさんが初めて訪れた20年ほど前には、鉱山を管理している人がいたという話とも
    符合する。

 (2) 今回の探索で、広い範囲に坑口やズリが散在していることが明らかになった。ズリ
    の1つでカラミ(精錬にともない鉱石を溶かした時に出るガラス質の鉱滓)を発見し
    た。ここには、精錬所はなかったはずだが・・・・・・・・・。
     来春以降の探査が楽しみである。

 (3) 産地を紹介してくれた石友・Tさん、同行いただいたMさんに厚く御礼申し上げます。

6. 参考文献 

 1) 松原 聡:日本の鉱物,滑w習研究社,2003年
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