仕方がないので、われわれは「楢山」を訪れ、そこで待つことにした。「楢山」は松原先生
の「鉱物ウオーキングガイド」に載っているのは知っていたが、訪れる気もなく読み飛ばして
いたのだが、今回、”隊長”が案内してくれるというのと、「そろばん玉石」が採集できるとあ
るので訪れてみる気になった。
産地はすぐに分かったのだが、露頭はさほど叩かれた様子もない。「セラドン石入り玉髄」
や「カリフェリエ沸石」では遠くからくる物好きは少ないのだろうか。
最初に取りついた露頭では、「カリフェリエ沸石」がなさそうに思えたので、広い範囲を探索
することにしたが、それらしい場所はなく、元の所に戻って叩くと、『沸石のオンパレード』で
「どれが、カリフェリエ沸石?」状態だった。沸石の好きな石友の顔を思い浮かべていくつか
採集した。
「そろばん玉石」が見つからないので、下の河原に降りてみることにした。河原には、玉髄
の球顆を含む真珠岩はあるのだが、「そろばん玉」状になっているものは、全くと言ってよい
ほど見つからない。それでも、それらしいものを1つだけ採集し、産地を後にした。
車の中で待っていた妻の話では、若い2人連れが露頭に向かったようで、そこそこ訪れる
人がいるようだ。
こうして、往復1,020kmのミネラル・ウオッチングは無事終了した。その内、960kmを一人で
運転してくれた石友・Tさんに厚く御礼申し上げる。
( 2010年6月採集 )
分かりにくいのもそのはず、1997年に出版された加藤先生の「沸石読本」に、『苦土沸
石【Ferrierite:(Na,K)Ca0.5Mg2[Al6Si30O72]・20H2O】』、とされていたものがカリウム(K)
マグネシウム(苦土:Mg)そしてナトリウム(Na)の比率で50%を越えていれば、FERRIE
RITEの後ろにハイフン”−”と元素記号をつけ、3種類の鉱物に分けたからだ。
松原先生の「造岩鉱物各論 沸石の種類」の中に、日本で産出する沸石41種(2002年
現在)の組成(成分)について、横(X)軸に「Al(アルミニウム)/Si(珪素)」の比、縦(Y)軸
に(Ca+Mg+Sr+Ba)/(Na+K+Ca+Mg+Sr+Ba)の比をとって、存在範囲を示している。
( 元論文には、( )がないが、( )がないと全く意味の違う図になると思い追加した )
カリフェリエ沸石は
・X軸=Al/Si=6/20
=0.2
A=Ca+Mg+Sr+Baとすると
=(0.5+0.5+0+0)=1
・Y軸=A/(Na+K+A)
=1/(1+1+1)
=1/3=0.33・・・
図の赤○の位置になり
モルデン沸石や
ダキアルディ沸石(系列名)
と共生する可能性を
示している。
(2) そろばん玉石/石英【QUARTZ:SiO2】
石英・蛋白石・玉髄からなる”そろばん玉”状の形をしたものを俗に『そろばん玉石』、と
呼んでいる。円錐が合体したような形が本来のそろばん玉石だが、この産地のものは
”コロンとした球顆”で、そろばん玉石というより、『数珠玉(じゅずだま)』がふさわしい。
それでも中には、不完全ながら『そろばん玉石』と呼べるようなものもある。”球顆”なら
河原を探せば必ず見つかるはずだ。
(3) セラドン石入り玉髄/石英【Chalcedony/QUARTZ:SiO2】
緑色、半透明のガラス質で、微細な石英の集合をなし、セラドン石【CELADONITE:
KFe3+(Mg,Fe)Si4O10(OH)2】を含んでいる。
(4) 黒雲母【Biotite:K(Mg,Fe)3(Al,Fe3+)Si3O10(OH,F)2】
まっ白い沸石の中に、まっ黒い金属光沢、鏡面の六角板状結晶として産する。余りに
黒光りしているので、「鏡鉄鉱(赤鉄鉱)」ではないか、と思ったほどだ。
さて、現地で見つけた玉髄質の石英細脈が走る大きな真珠岩を叩くと、真っ白い沸石
様の鉱物が見つかった。ルーペで確認して驚いた。
カールした毛状のものはどう見ても「モルデン沸石」だし、透明な六角板状は「輝沸石」、
細柱状結晶が糸巻き状に集合したのは「中沸石」、・・・・・・・・・・・・・まさに『沸石のオン
パレード』だ。どれが、『カリフェリエ沸石』なんだ?!
帰宅して、実体顕微鏡をのぞきながら『カリフェリエ沸石』を探して写真を撮ったのが、
上の写真だ。
沸石が好きな石友・Mさんにサンプルを贈ったところ次のような返信メールがあり、この
産地の沸石を『楢山沸石』、と名付けたらしい。
『 新潟県阿賀町楢山 の沸石ありがとうございました。 暑い中、山野を駆けまわる
MHの元気さが標本から立ち上っていました。
グリーンタフの典型的特な緑がかった母岩は白い沸石を引き立たせる標本ですね。
細い針状結晶が多い沸石は同定が困難なケースが多く悩ましい鉱物の一つです。
子細に調べるには最新の機器が必要なのですが・・・・・・・。 一つの針状で、根元が
トムソン沸石、中間が中沸石、先が曹達沸石となっているものもあります。 フェェリエ
沸石 トムソン沸石 ソーダ沸石 スコレス沸石. モルデン沸石 の何れかとは思い
ます。
「楢山沸石」としておきます。 』
(2) 「そろばん玉石」の成因
私の持論の1つに、『鉱物採集は、水晶(石英)に始まり水晶に終わる』がある。今回、
楢山を訪れる気になったのは、石英(蛋白石?)からなる「そろばん玉石」が採集できる、
とあったからだ。
鉱物の魅力は、人それぞれだと思うが、「 どのようにしてこの鉱物ができたのか? 」
つまり、『成因』を推理するのも私の楽しみの1つだ。
「そろばん玉石」は、推理心を十分くすぐる対象の1つだ。益富先生は、「鉱物」の中で
次のように述べておられる。(○付番号は、私が付けた)
@ 流紋岩質マグマの地表への噴出
A 上昇に伴う圧力の減少
B ガス気孔の膨張と鉱化剤の流入
C 珪長質鉱物(方珪石・斜長石等)の円盤状放射針状結晶の晶出と
そろばん玉状鋳型の形成
D 珪酸を溶存する熱水の流入によるそろばん玉状珪酸鉱物の充填
これを読んだほとんどの方が、「 なるほどそうか! 」、とは思わないだろうか。なぜな
ら、気孔が”球”になるのは経験から理解できても、”そろばん玉状”になるメカニズムが
説明されないと、成因が解ったことにはならないのだ。
逆にいえば、まだまだ解明されていないので、自由に想像する余地が残されていると
いうことだろう。