古希記念 南極ミネラル・ウオッチング 南極探検旅行 【南極の楽園】 ( Mineral Watching in Antarctica<BR>  Antarctica Expedition 2015 , - Paradise of Antarctica - )









             古希記念 南極ミネラル・ウオッチング
             2015年 南極探検旅行 【南極の楽園】

                  ( Mineral Watching in Antarctica
                   Antarctica Expedition 2015 , - Paradise of Antarctica - )

4. 南極探検

 4.12 『南極の楽園』【第7日目】

  (1) 乗船7日目のスタートだ
       乗船して7日目、船外活動はこの日で終わりだ。朝6時前に操舵室に行く。外の天気は小雨模様で、船首
      のアルゼンチン国旗のたなびき具合から察するに風も強そうだ。
       位置は、南緯64度34.4分、西経62度40.8分の位置で、後で海図で確認するとダンコ島の南端付近に停
      泊している。

       
                   ダンコ島沖の朝

       この日のスケジュールは、「船内新聞」によると、午前「ダンコ島」、午後「パラダイスハーバー」でのクルー
      ジングと上陸、そしてこの探検のハイライトの一つ、『南極海でダイビング』が予定されている。

       
                     船内新聞・1月26日

      この日の7時ごろの『ブリッジ(操舵室)レポート』から、船の位置、天候などをまとめておく。

日付
時刻
 緯 度  経 度 累積航海距離
   (海里)
   (km)
気圧
(hp)
風向き・風速
  (NM/時)
  (m/秒)
気温
(℃)
日の出
日の入
1月27日  南 緯
64°45.1′
 西 経
62°39.3′
1,006 990 西
18
3 4:06
午前7時 (  1,863.1  km) 9.3 22:34

      気温は+3℃だが、風が強いので寒さを感じる。横殴りの小雨も混じっているので、写真撮影のときに手が
     かじかんで難儀しそうだ。

      海図の上でこのときの位置とこの日の予定を確認する。前日のポート・ロックロイから緯度は若干北、経度
     にして約1度東に移動して、現在タンゴ島の南端西の沖にいる。この後、タンゴ島のゾディアック・クルージン
     グと上陸のため「」印に移動・停泊する。
      そのあと、ロンジェ島を一周するような形で南下し、ルメール島と南極半島のビデラ岬の間を通ってパラダイ
     ス湾に入り、「」印に停泊して湾内をゾディアック・クルージング後、アルゼンチンのブラウン基地に上陸する
     予定だ。
      『南極海でダイビング』もパラダイス湾内で行われる予定だ。そして、夕刻には、出港したウシュアイアに向
     けて出港することになっている。

       
                                航海図【1/27】

  (2) 『ヨガ教室』
       早朝7時から、船内で「ヨガ教室」が開かれていると知って、前日にエクスペディション・デスクにある申し
      込み用紙に名前を書いておいた。定員20名で、私が申し込んだのは15番目くらいだった。「船内新聞」を
      読み返してみると、最初に開催されたのは1月24日だったから、この日が4回目だ。

       講師のサラさんは、カナダ出身で、10年以上ヨガを実践していて、エクスペディションチームでの肩書きは
      ウエルネス・ガイドとなっている。船を下りているときは、都市プランナーとして、都市の緑地化や健康的な
      地域づくりなど自治体の革新的な開発プロジェクトに取り組んでいる。

       参加者の多くは普段からヨガをやっている人が多かったが、私は「ヨガ」は見聞きしたことはあっても、実
      際やるのは初めてだった。「コブラ」など動物の姿を真似たポーズや呼吸法など、船内生活でスッカリ鈍(な
      ま)った身体をシャッキリさせるのにピッタリだった。

          
                   講師・サラさん                        「ヨガ教室」参加者

  (3) オルカは、おるか!?
       南極に来て、ペンギン、クジラ、アザラシそして海鳥はたくさん見たが、オルカ(シャチ)だけは見ていない。
      朝食の後、クルージングに出発する前に集合していると、突然、「3時方向にオルカが見えます」、とアナウ
      ンスがあった。急いで右舷甲板に出てみると、2頭のオルカの背びれと独特の模様のある背中が見えた。
      それは、ほんの一瞬のできごとで、見逃した多くの人々は、「どこに、おるンか」、と言うありさまだった。

       
                          オルカ(シャチ)

       シャチはその姿の愛らしさに似ず凶暴で、集団でクジラを襲うことでも知られている。海岸にいるペンギン
      を咥(くわ)えて海に引きづり込む姿をテレビで御覧になった読者もおられるはずだ。
       シャクルトンの「帝国南極横断隊」が氷山に乗って漂流していたとき、”飢え”と同じくらい恐ろしかったの
      が”シャチ”に襲われることだと書き残している隊員がいる。

  (4) 『ダンコ島』上陸
       ダンコ島は、南極半島のダンコ海岸( Danco Coast )とロンジェ島の間のエレラ海峡の南端にある。長さ
      1.6km、幅約1km、高さは160mの小さな島だ。
       この島を最初に測量したゲーラーシェ探検隊(1897年−1899年)の一員で、探検中に病死した地球物理
      学者であるミール・ダンコの名前をつけた。
       エレラ海峡には大小の氷山が浮かび、ミンククジラやザトウクジラなどがみられる可能性が高い海域だ。
      ここには、英国が第二次世界大戦直後に設置した多くの基地のひとつがあって1959年まで使われていた。
      しかし、南極条約に基づく環境保護の取り決めによって、使われていない基地は更地(さらち)に戻す”原状
      復旧”することになり、2004年に解体され、現在ではコンクリートの礎石だけが残っている。

       われわれの班は、先に上陸するグループだ。ゾディアックに乗って島に上陸する。島の頂上まで登れば
      キヴェヴィル島、ロンジェ島、そして南極半島まで360度の景色が見渡せるのだが、われわれは中腹までし
      か登らないが、それでもキヴェヴィル島、ロンジェ島、そして南極半島の一部180度の景色を楽しむことがで
      きる。
       ゾディアックがオーシャン・ダイヤモンド号を離れるころ、早いグループは上陸して登山を開始している。黄
      色いパルカを着て一列になって進む姿はまるで”アリの行列”のようだ。

          
                 「ダンコ島」遠望                      黄色いパルカを着て行列登山

       この島の斜面には、推定で1,600番(つがい)のゼンツーペンギンの営巣地が点在していて、岩がむき出
      しで雪がない所を選んで巣を作っている。当りまえだが、雪がない暖かい場所を選んでいるのだ。ここでも、
      ある方向から見るとペンギンの集団は白く見え、反対方向から見ると黒く見える。この日のように風が強い
      日には、黒い背中を風上にして、白いおなかにこどもペンギンを抱いて風が当らないようにしているのだ。

          
             背中を見せるペンギンの群れ                   おなかを見せるペンギンの群れ

       島の頂上付近にある露岩帯もペンギンの営巣地になっていて、そのに登り降りするペンギンたちの足跡
      が雪の急斜面に深い溝になっていて、スタッフたちは”ペンギン・ハイウェー”と呼び、ここには入らないよう
      にと注意があった。
       これらの岩山では、南極アジサシや南オオセグロカモメなども子育てするらしいが、この日は盗賊カモメの
      姿を見た。

          
                ”ペンギン・ハイウエー”                         盗賊カモメ

       露岩帯でMさんがファブリスさんなどスタッフに囲まれているのを写真に撮って差し上げ、添乗員に頼んで
      オーシャン・ダイヤモンド号とゼンツーペンギンの営巣地をバックに私も記念写真に納まった。

          
                スタッフに囲まれるMさん                     O・D号をバックに記念写真

  (5) 『 ミネラル・ウオッチング in Danco Island 』
       これだけの露岩があるのだからミネラル・ウオッチングだ。岩は緑黒色の「輝緑岩」で海底火山の火山灰
      が堆積したものだろう。白い炭酸塩鉱物が脈状(層状)に入っている。私のなじみのある産地に譬(たと)え
      るなら、千葉県平久里(へぐり)あたりの地質に似ているようだ。

          
                      露頭                           炭酸塩鉱物を伴う輝緑岩

       当然持参したクリノメーターで走向・傾斜を測定して、小さなフィールド・ノートに記録する。この姿を写真
      家のサイモンさんがひそかに撮ってくれていた。

       
               フィールド・ノートを書くMH

       走向 : N2°E
       傾斜 : SE10°

       ダンコ島で観察できた鉱物・岩石を紹介する。

          
              炭酸塩鉱物を伴う輝緑岩                          緑簾石
                                  【黒雲母花崗岩の晶洞に成長】

  (6) 『ホエール・ウオッチング in エレラ海峡 』
       ダンコ島のあるエレラ海峡はクジラが観察できる可能性が高いということで、ミネラル・ウオッチングの後
      はホエール・ウオッチングだ。
       ゾディアックで沖合いに出ると、オーシャン・ダイヤモンド同じぐらいかそれ以上の大きな氷山や南極半島
      から流れ出た青くて美しい氷山が漂っている。

          
                  巨大な氷山                             青く美しい氷山

       クジラを求めて、氷山の間を縫うようにクルージングしていると、突然2頭のザトウクジラがあらわれた。こ
      れが今回の探検で見たクジラのベストシーンだろう。

       
                             エレラ海峡のザトウクジラ

       ゾディアックの中のわれわれの興奮を静めるかのように、突然「あられ」が降り出した。”バラバラ”と音を
      立て、黒い硬質ゴム製のゾディアックの上に落ちてくる。
       日本で見る「あられ」はひな祭りのあられと同じで球状だが、ここのは角ばっている。ものの数分降っただ
      けだったが、船べりには「あられ」のたまりができるほどだった。
       あられが降るくらいまで気温が下がってきて寒さを感じている人もおおいようなので、ゾディアックがオーシ
      ャン・ダイヤモンドに戻ろうとすると、いつもは雪や氷の上に寝そべっていて動かないアザラシが珍しく泳い
      で近づいてきた。まるで、われわれに別れを告げているようだ。大きな鼻を海面に出した、そのユーモラスな
      姿にゾディアックの中はしばし温(ぬく)もりに包まれた。

          
                 南極の「あられ」                             泳ぐアザラシ

       私がオーシャン・ダイヤモンド号に戻ったのは、11時を少し回ったときだった。9時前に出発したから2時間
      余りの上陸とクルージングだったが、内容が充実していたせいか長く感じられた。

       12時30分からの昼食まで間があるので、疑問に思っていることがあったので操舵室を訪ねてみた。疑問
      の1つ目は、レーダー画面が2つあることだ。画面にはそれぞれ、”X-Band”と”S-Band”と表示されている。
      無線工学では、”Band”は「周波数帯(しゅうはすうたい)」のいみで、単に「バンド(=帯)」ともいうところから
      使っている周波数が違うのだろうと予想はしていた。

        X   波長:3cm     小さいものも発見
        S   波長:10cm     大きく見えるのは山、小さいのは氷山

       このように、使い分けて衝突を防ぐようになっている。ちなみに、レーダーは日本のF電気製のもので、
      ウラジミールは「良い製品だ」と褒めていた。

       第2の疑問は水深の測定だ。クルージング初日に1艘のゾディアックが座礁し、われわれの乗ったゾディア
      ックが綱で引っ張って何とか離礁できたことを覚えておられるだろうか。それ以来、上陸やクルージングで
      沿岸に近づく機会が多いオーシャン・ダイヤモンド号が万一座礁しないかが心配だった。
       水深は、音波を海底に向けて発し、返って時間で計測しているということで、レーダー画面とそれとは独立
      した水深計の2箇所で測定していると教えてくれた。

          
                  レーダー画面                             水深計
               【水深も268mと表示】                       【水深 265mと表示】

       こうして、船の安全に関わる疑問も”氷解”し、美味しく昼食をいただくことができた。

  (7) 『ブラウン基地 』上陸
       われわれが帰船すると船は動き始めていた。ロンジェ島を反時計回りに一周し、ルメール島とプレジデント・
      ガブリエル・ゴンザレス・ビデラ基地(チリ)のある南極半島の間を通ってパラダイス湾に入る。

       チリ基地があるのは、「ウオーターボート・ポイント」と呼ばれる小さな半島で、その名前は1921年に英国
      探検隊の若い2人の隊員がウオーターボート(本船への水運搬用ボート)を使って史上初めてゼンツーペン
      ギンの繁殖調査のため越冬したことに由来する。そのボートの残骸が、かろうじてゼンツーペンギンの営巣
      地に残こされているらしい。また、ここのゼンツーペンギンには、背中の黒色が欠落する”白色変種”の遺伝
      子が受け継がれているという調査報告もある。

       われわれが上陸したのは、チリ基地から角度で4.3分、距離にして8km南にあるアルゼンチンのアルミラン
      テ・ブラウン基地だ。ここは、南極半島最北端にあるエスペランザ基地と並んで、アルゼンチンの主力基地
      だったが、1984年4月12日、2年連続で越冬するのを嫌がった医師が建物に放火し全焼してしまった。その
      後、アルゼンチン経済危機を伝えられる中、途切れながらも徐々に再建が進んでいる。
       基地の後ろの急斜面を登った岩峰の頂上からは、パラダイス湾全体の美しい景色が見渡せる。上陸のた
      め、ゾディアックに乗って、ブラウン基地の背後にそびえる黒々とした岩山を見ると急峻だし標高は200mは
      ありそうだ。年嵩の人たちにとっては、登るのはシンドイかも知れない。

          
                      遠望                              表示板
                                 アルゼンチン・ブラウン基地

       この日の昼食のデザートに、焼いたお餅に醤油をつけ海苔で巻いた「磯部焼き」が出たので、ケーキと一
      緒にいただいた。これは、『力餅』を食べて、午後の山登りを頑張りなさいというメッセージだった、と思い知
      ったMHだった。

       
               昼食のデザート『力餅』

       上陸して、基地の建物の裏手から登山開始だ。スタッフが準備してくれた「ストック」がおいてあり、利用
      する人も多い。登り口から頂上を見上げると海の上から見たより何倍も急な斜面だ。頂上まで一本のルート
      しかなく、頂上は岩山でその反対側は絶壁になっているから、女性や年嵩の人にとっては厳しいコースで、
      あちこちで”渋滞”が発生している。

          
               登り口から頂上を                  頂上から登り口を
                                  【左のクロスした赤旗の先が”ペンギン・ハイウェー”】

       15分近くかかって頂上に着いた。大汗をかいていたので、パルカの前をはだけて呼吸を整える。頂上か
      らはほぼ360度の絶景を楽しむことができる。前(西)に広がる波静かで静寂に包まれた「パラダイス湾」
      はクジラ捕りの船員たちが「パラダイス(天国)」と呼んだ理由(わけ)が説明なしに納得できる。
       南極友の一人・Tさんが岩山の直下までは来たものの、そこから2mほどの岩壁を登るのに難儀している
      ようなので、”お助けマン”出動だ。話をすると、カメラの調子が悪くて撮影できないというので、私のカメラ
      で撮って差し上げた。ついでに、私の記念写真もとってもらう。

          
                南極友・Tさん                    暑くて前をはだけた私
                           ブラウン基地・登頂記念

        頂上からはブラウン基地の全貌が良く見えるので、一枚撮影。上の写真に写っているクリノメーターを
       腰にぶら下げたケースから出して、頂上の露頭の走向・傾斜を測定する。

         走向   N38°E
         傾斜   SE38°

       岩山は、凝灰岩や砂岩など、海底火山の噴出物や陸地から流れ込んだ砂などが堆積したもので、海底で
      生まれ、隆起したものだろう。

          
              ブラウン基地全貌                     走向・傾斜の測定

       これまで2回ほど、”ド、ド、ド〜ン”という大きな音が背後(北東)から聞こえていた。基地の背後は「スコ
      ントープ入江」で、ここには「アバランチェ氷河」の先端が崩れて流れ込んでいるので、その音だった。ちな
      みに、「アバランチェ」は、英語の"Avalanche"で、「雪崩(なだれ)」の意味だ。
       テレビなどで、地球温暖化を代表するシーンの1つとして、南極の氷河が海に崩れ落ちる動画が映ること
      が多いが、いつ、どこで起きるか予測できないので、限られた上陸時間内では目撃することすら難しく、まし
      てや撮影などは、はなから諦めていた。

       
            アバランチェ氷河の先端

       上の写真でも赤い旗がクロスしてあるところに、ペンギンが繁殖のためここまで登ってきた証拠となる”ペ
      ンギン・ハイウェー”が残されているが、ペンギンの姿は見かけなかった。一方、足元や近くの岩山を観察す
      ると、コケ類や鳥類がめについたので撮影しておいた。

          
                   コケ類                               トウゾクカモメ

  (8) 思いがけない出会い at Base Brown

       Tさんをエスコートして、安全な場所まで下ってきた。すると、基地の建物のそばに佇(たたず)んでいる黒
      髪の小柄な女性が目に入った。参加者やスタッフには見かけない顔なので、話しかけると基地で働いてい
      るということだった。これが、Ms.ASTRIOとの出会いだった。

      【後日談】
       久々に探検隊以外の人に会い、彼女と話したくて興奮していて、彼女の写真を撮るのを失念していた。
      後日、船内で大阪のOさんに頼まれて、フォトコンテストに出品する写真と探検隊記録DVDに入れる写真を
      PCのサーバーに格納しようとしていたら、Ms.ASTRIOの写真があるのに気づき、モニター画面の画像を接
      写させてもらった。正に、”情けは人のためならず”だった。
       船にはWiFiの設備があるのだから、そこを経由して画像データをもらうか、PCからカードに落とさせてもら
      えば、もっと鮮明な画像だったのに、と今頃になってチョッピリ悔やんでいるMHだ。

          
                    出会い                              Ms.ASTRIO
                                     【Oさん撮影】

      【閑話休題】
       彼女の話では、「基地には10人の隊員がいる」、とのこと。ポート・ロックロイと同じようにブラウン基地に
      郵便局があれば記念押印するのだが、郵便局がないので、上陸記念に彼女の「サインが欲しい」というと、
      「ブラウン基地の記念スタンプがある」といって彼女が佇んでいた建物の中に案内してくれた。
       2人のやり取りをシッカリ見ていたSさんと添乗員の聖子さんも一緒に入ってきて、スタンプを押してもらって
      いた。

      【後日談】
       彼女のサインと基地の記念スタンプを押してもらった紙片を封筒に貼り、「ブラウン基地上陸」記念カバー
      (封筒)を作成した。ここには郵便局がないので、一番近いアルゼンチンのウシュアイア1月30日に帰港した
      ときに、郵便局で押印してもらった。
       ブラウン基地に上陸した時にもらったサインと基地の記念印であることを証明するため、紙片と封筒の地
      にまたがって切手を貼り、押印してもらうことで、がポイントだ。

          
                記念印                                    記念カバー
                                                    【ウシュアイア局で押印】
                            ブラウン基地上陸記念

  (8) 『♪♪ 思へば遠くへ来たもんだ  ♪♪』
       行きしなに、上陸地付近に都市名と方向・そこまで距離を示す表示板があるのを見たので、ここで一つ
      記念写真だ。居合わせたSさん、Yさんにも声をかけ、互いに写真を撮ってもらう。
       『 TOKIO 8866NM 』 とあるから、東京まで8,866海里(16,420km)、東京はほぼ地球の反対側だ。

      『♪♪ 思へば遠くへ来たもんだ  ♪♪』 の一節(ひとふし)も出ようというものだ。

       
                   TOKIO 8,866NM

      【後日談】
       このページをまとめながら、上の写真の矢印の方向が正しいのか、疑問に思えてきた。実は、方位磁針
      の代わりにクリノメーターを使い、東京の方位を後日調べられるように写真を撮ってきておいたのだ。画面
      の上の方が北になるようにクリノメーターを合わせたから、TOKIOの矢印は北から約30度右寄りを指して
      いる。これだと、東京は北大西洋にあることになる。

       それと同時に色々な都市の方角がわかる全体写真も撮っておいた。東京の下は、NUEVA YORK(ニュー
      ヨーク)、上はわれわれが出港したウシュアイア、さらにその上はブエノスアイレスで3都市とも同じ方角だ。
       矢印は八角形のポールの辺に釘で打ち付けられているから、最大22.5度の誤差があるから、これら3都
      市の方角が同じなのは理解できるが、東京の方角がウシュアイアやニューヨークよりも表示板の八角形の
      ポールの一辺分の角度(45度)だけポールの上から見て右(方位で東)を向いているのは変だ。

          
                クリノメーターで確認                        他の都市と比較

       南極点(南緯90度)から見た地図を示す。東京都心は東経139度45分だから、おおよそ東経140度だ。図
      の赤矢印「→」の先に緑の破線の「」印に東京があり、距離は13,979kmだ。ただし、北緯35度の北半球
      にある東京は赤道の蔭になっていて見えないので「破線」で表示しておいた。

       
                                 南極点から見た地図

       クリノメーターを使いブラウン基地で方位を調べたとき、磁針の南はどこを指していたかお解りだろうか。
      「南極点」、と答えたら”ブッ、ブー”だ。『南磁極』を指していたのだ。

       南極には4つの『極』と呼ばれる点がある。

       @ 「南極点」
           地球の自転軸が地球表面と交わる点の1つで、地理学的(地図上の)極点。北極をのぞく地球上
          のほかの場所を示すには緯度・経度が必要だが、南緯90度だけでその点が示せる特異点でもある。

       A 「南磁極」
           方位磁石が指すS極で、現在は南極点から約2,800km離れた海上の「」の位置にある。
          細かく見ると、時々刻々変化していて、過去、と言っても3億年前には、「北磁極」が日本列島上にあ
          ったことが、全世界の、そして全地質時代の岩石の残留磁気の測定結果から証明されている。

       B 「南磁軸極」
           地球磁場を一つの棒磁石と仮定したとき、その軸が地表と交わる点で、南緯78.6度、東経110度
          付近にある。オーロラの発生の要因の一つでもある磁力線は南北の磁軸極に集中する。

       C 「到達至難極」または「到達困難極」
           南極大陸の全ての海岸線からもっとも離れた点で、訪れるのが最もたいへんな点。南緯82.3度、
          東経65.7度付近を中心とした地域。標高も高く、地球上で自然環境が最も厳しい地域。

       ブラウン基地と「南磁極」を通る線を先に示した地図の上で「 - - - - - 」で示した。東京の方角「」は
      この線よりも下、つまり西寄りにある。

       結論を急ごう。ブラウン基地の東京(TOKIO)を示す矢印の向きが逆なのだ。しからば、距離は正しいのだ
      ろうか。ブラウン基地は南緯65度だから南極点まで角度にして、25度だから、25×60=1,500分、距離で、
      A=1,500海里だ。上の図で南極点から東京までの距離は 13,979km、海里にして A=7,550海里だ。A+B
      = 9,050海里となる。これは、極点を通る遠回りした計算なので、ブラウン基地と東京を結ぶ最短距離は
      これより短いはずで、8,866海里は妥当な数字だろう。
       正しい、表示にしたとしたら、次のどちらかになるだろう。

       地図は3次元の球体の表面の様子を緯度・経度が直角になる2次元の平面に投影したものだから、面積
      や角度が高緯度になるに従い、角度もしくは面積が著しく歪むという難点を持っている。
       手持ちの世界地図帳をパラパラとめくっていると、「正距(せいきょ)円筒図法」による、東京を中心とした
      方位・距離網の地図があるのに気づいた。

       
                                 「正距円筒図法」による東京を中心とした地図

       東京を中心とする同心円は東京からの距離、放射状の線は東京からの方位を示している。ブラウン基地
      は東京から南東20度弱の方向で、距離は16,000km(8,600海里)強だ。逆に、ブラウン基地から東京の方角は
      南西20度弱になるので、ブラウン基地の矢印は逆だということがご理解いただけるだろう。

       もっとも、完全な間違いかというとそうとも言えない。ブラウン基地から北東20度弱の方向に、大西洋を
      北上し、スカンジナビア半島の北、そしてシベリアを横切り、新潟方向から東京にいたるルートもある。
       この後半のルートは海外出張でパリから帰国したときに利用した飛行ルートだ。これだと、地球を半周以
      上することになり、距離は20,000km(10,800海里)以上になるはずだ。

       正しい、表示にしたとしたら、次のどちらかになるだろう。

          
               矢の向きを反対に修正                          距離を訂正
                                                     【距離は概算】

       このあと、海岸近くの露頭でのミネラル・ウオッチングやパラダイス湾のクルージングで、「アタカマ石」の
      露頭に出会うのだが、それは次回にする。

5. おわりに

 5.1 ミネラル・ウオッチングのシーズン開幕
      「菜種(なたね)梅雨」とい表現がピッタリの春の長雨が降り続き、いつの間にか桜の花が散ってしまった。
     雨が降ってもそれほど寒くもなく、先週まで堅い蕾だった庭の「山芍薬」は白い花が満開だ。赤花の園芸品
     種も植えてあるのだが、まだ土地に馴染んでいないか若いせいか、今年は花をつけなかった。庭の花々が
     咲きそろい、春本番だ。

          
                   白花                                  赤花
                                     庭の山芍薬

      いよいよ、ミネラル・ウオッチングのシーズン開幕だが、その前に片付けておかなければならないのが『MH
     農園』
だ。4月はじめから作業を始め、雨で中断する日が多かったが、延べ10日ほどかけて昨日で雑草を取
     り、耕し終えた。

       
                   『MH農園』の春

      ニンニク、赤玉ネギ、そしてネギの苗が育っている。GWには帰省する孫娘と一緒に、トマトやスイカなどを
     植える準備が整い、いつでもミネラル・ウオッチングに行ける体制だ。

      今週末は、気にかかっている産地がいくつかあるので、それらを巡ってみようと思っている。

6. 参考文献

 1) 上田 誠也:新しい地球観,岩波新書,1971年
 2) 中野 尊正監修:世界地図帳,日立製作所武蔵工場 創立30周年記念 特製限定本,昭和63年


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