古希記念 南極ミネラル・ウオッチング 南極探検旅行 【初上陸】 ( Mineral Watching in Antarctica<BR>  Antarctica Expedition 2015 , - First Landing - )









             古希記念 南極ミネラル・ウオッチング
             2015年 南極探検旅行 【初上陸】

                  ( Mineral Watching in Antarctica
                   Antarctica Expedition 2015 , - First Landing - )

4. 南極探検

 4.5 初上陸【第3日目】

  (1) 『叫ぶ60度』を無事に越え
      現地時間1月23日、朝6時に起きる。昨夜からドレーク海峡を横切っているので、一晩中船が揺れてい
     たが、今は揺れは収まりつつある。気分が悪くなっていないのは、一昨夜飲んだ「トラベルミン」がまだ効
     いているのか、それとも揺れがさほどでもなかったからだ。
      いつも通りヒゲを剃って、シャッキリしたところで一日のスタートだ。この日のスケジュールは、前夜遅く
     に配られた「船内新聞」に従う。これによると、この日は『バリエントス島クルージングと上陸』の予定で、
     初めてゾデイアックに乗って上陸だ。

       
                      船内新聞・1月23日

      6階の廊下を通って船首側にある「ブリッジ(操舵室)」をはじめて訪れた。船員たちが”チーフ”と呼んで
     いるいる一番偉そうな人に挨拶すると、チーフ・オフィサー(一等航海士)のウラジミール・セリヴェルストフ
     だった。「ウクライナ出身で、ウラジミールは(ロシア大統領の)プーチンと同じ名前だ」という。船長はロシ
     ア人のオレグ・クラビテンコだから二人だけの時はロシア語で話していた。ウクライナではロシア軍も入っ
     ているされる親ロシア派と休戦したとはいえ、戦争状態にあるのだが、船の中では仲良くしてもらわない
     と安全上困る。
      アジア系の顔立ちの操舵手と話をすると「中国から来ている」ということで、この船は多国籍の人々が
     運行しているという一面を知った。

          
              一等航海士・ウラジミールと                        海図モニター上の船の位置

      外は霧が濃く視界が悪い。海図のモニターを見ると、北西から南西に連なるサウスシェットランド諸島が
     映っているのでもう少し進んで霧が晴れれば島影が見えてくるはずだ。
      6時20分現在、GPSのついたレーダー画面から南緯61度25.1分、西経60度51.5分だと知る。『叫ぶ60
     度』
を越えたのは昨夜の22時20分で、われわれがワインパーティをやっていた最中だと知った。船の速
     度は11.5ノット(時速21km)で、霧が濃いので安全運転しているようだ。これらのデータをフィールドノー
     トに書き込む。

      この日の7時ごろの『ブリッジ(操舵室)レポート』とフィールドノートから、船の位置、天候などをまとめて
     おく。

日付
時刻
 緯 度  経 度 累積航海距離
   (海里)
   (km)
気圧
(hp)
風向き・風速
  (NM/時)
  (m/秒)
気温
(℃)
日の出
日の入
1月23日  南 緯
61°32.3′
 西 経
60°44.3′
495 997 西
20
2 4:23
午前7時 (  915.8  km) 10.3 22:07

      この一日間で、緯度にして4.5度、航海距離にして550km余り進んだ。気温は+2℃と都心の最低気温
     と同じくらいで思ったより暖かい。ただ、風が10メートルあるので、甲板に出てみると体感温度は寒く感じ
     られる。

      海図の上でこのときの位置を確認すると、ドレーク海峡をほぼ渡り終え、初クルージング、初上陸の舞
     台となるサウスシェットランド諸島は目前だ。

       
                                 航海位置
                               【1/23 7:00頃】

      目的地「バリエントス島」までの距離(長さ)を計って緯度方向の角度に直して1度(=60分)くらいだ。
     前号で『航海術』の話をしたのを覚えておられるだろうか。何時間で目的地に着くかは簡単に計算できる。
     このときの船の速度が11.5ノットだから、所要時間=60′/11.5ノット=5.2時間、つまりお昼ごろには着く
     はずだ。

  (2) 朝食
       8時になって朝食を摂りにダイニングに行くと添乗員が出欠をチェックしている。どうやら、船酔いなどで
      体調が悪い人はいないようだ。Mさんが言うように、船が大きいので、揺れが少ないのだろう。

  (3) 「南極講座」
       この日(23日)の午後、バリエントス島でクルージングそして上陸の予定なので、否が応でもテンション
      が上る。午前中は「南極講座」があった。

   1) 「ペンギン」 by ファブリスさん

       上陸すると必ず出会える動物がペンギンだ。ペンギンの種類や習性などの講義があった。ペンギンは
      ペンギンだろうと思っていたが、世界には17種生息している。当然種類ごとに名前が違う。ペンギンの
      ほとんどが南半球にいて、ガラパゴスペンギンなどは赤道直下に棲んでいる。
       南極だけに生息しているのは白瀬南極探検隊が剥製にして持ち帰った「皇帝ペンギン」のほかに「ア
      デリーペンギン」の2種だ。

       夏には動物園のペンギンの水槽に氷柱を立てたりしていることからもわかる様に、ペンギンは暑さが
      苦手で冷たい海水に適応している。低緯度で見られる種類でも寒流が流れる海が生息の場だ。

       北半球に棲んでいて19世紀に絶滅した飛べない鳥・「オオウミガラス(great auk)」は船員たちに『ペン
      ギン』とも呼ばれていた。南太洋にきた英国の船員たちが初めてみた飛べない鳥の姿や習性が『ペン
      ギン』に似ているので、「ペンギン」と呼ぶようになった。
       ペンギンの祖先は空を飛べたが、水中にしか餌がない環境に順応し、水中を”飛ぶ”かのように泳ぐ
      のに適した流線型の体、深く潜れるように密度のある重たい骨そして体を軽くして翼面面積を大きくす
      る「空気嚢」を持っていないのが空を飛べる鳥との大きな違いだ。

        
                          ペンギンの骨

       ほとんどのペンギンは5〜7分間潜れ、もっとも体が大きい皇帝ペンギンは18分潜っていられる。皇帝
      ペンギンは630メートルまで潜ることができるが、その他の種類は100m以上は潜れない。泳ぐ速度は
      時速24kmほどだが、体が小さいので実際よりスピードがあるように見える。

       どの種類でもペンギンは種ごとに集団繁殖地(ルッカリー)を形成している。上陸してペンギンを観察す
      るのはこのような場所だ。
       巣は石を積み上げて作られ、時として石の取り合いで喧嘩することもあるようだ。ペンギンの抱卵は
      5〜6週間で、Brood Patch(bare skin)、と呼ばれるように抱卵中の親の毛が抜けて体温が直接卵に伝
      わるようになるというから驚きだ。生まれた雛は親から口移しに未消化の餌をもらって食べて成長する。
      アデリーペンギンとヒゲペンギンは大体7週間、ゼンツーペンギンは14週間で巣立つ。

       ペンギンは滑りやすい氷の斜面を登るためよく発達した爪がついたたくましい足を持っている。羽毛で
      逃げる熱の80%、皮下脂肪で20%を遮っている。体温は人間より高めの38℃で、南極の冷たくて厳しい
      気候で生きていけるように造られている。

   2) 「南極の自然と観測隊(2)」 by 佐藤教授

       午後のバリエントス島でクルージングそして上陸が近づいてくると、否が応でもテンションが上る。フィ
      ールドノートや講義録そして写真を見返しても講義の内容が何一つ残っていない。ということは、講義の
      内容はすでに知識として持っていたことになる。

  (3) 初クルージングそして上陸
       12時からの昼食近くになると船は停船した。甲板から500mくらい先の初上陸地点が見える。波や風
      はそれほどないからゾディアックでの船外活動はできそうだ。霧があって陽は差していないが気温は
      5℃以上ありそうで思ったほど寒くはなさそうだ。

        
                     初上陸地遠望

       クルージングと上陸は班単位で行動することになる。最高齢の90歳女性や腰の良くない男性など、ク
      ルージングに参加しない人を除き、ゾディアックに乗る班分けのメンバー表が掲示された。この表をみる
      と男性60名、女性61名、合計121名だ。探検隊全体の数はこれよりも数名多かったことになる。

       参加者121名を1班から12班の12の班に分け、私は11班で班員は11名、全員男性だ。半数の班が
      ゾディアックに乗ったままペンギンやクジラを観察する『クルージング』、半数がゾディアックから降りて、
      島や南極半島に『上陸』しての観察を行い、途中で入れ替わることになる。
       最初にクルージングや上陸に出発する班は、ローテーションすることで公平になるようにしている。先
      にクルージング、後から上陸の場合、最終便のゾディアックが出るまで上陸地に留まっていてもよい。
      もちろん、体調が良くないなどの理由で上陸地から船に戻るのはいつでもできたが、そのような人はい
      なかったように記憶する。

   1) バリエントス島はどこ?
       船内新聞で初上陸地点が「バリエントス島」と知り、位置を確かめようと思い、事前に配布されていた
      海図を広げて探してみた。しかし、「バリエントス島」は見つからなかった。エクスペディション・スタッフに
      尋ねると、「ロバート島とグリニッジ島の間にある小さな島だ」と教えてくれた。
       海図を見ると島の間は、「イングリッシュ海峡」で、その北西側に「エイチオー諸島(Aitcho islands)」が
      ありこの内のどれからしい。
       航海記録のDVDでは上陸したのが「アイチョ島」となっているので、"Aitcho islands"のどれかだ。航海
      記録から見ると停船位置は南緯62度25分、西経59度44分の位置だから下の地図の「」印のポイント
      だ。上陸したのはその北にある島だが、名前までは判らない。
      (上陸後、GPS機能がついたカメラで撮影しているので、今後上陸地点が絞れるかもしれない)

       
                      初上陸の停船位置「

   2) 初上陸準備
       初めてのクルージングと上陸なので、どのくらいの防寒対策をすればよいのか、何が必要なのかもよ
      く判らない。ただ、途中で、あれが必要だった、気づいても船まで取りに戻ることはできないから、多め
      に着込んだり、持って行くことにした。

       ”13時30分に上陸できる支度をして4階のザ・クラブに集合”の指示があり、昼食を終えるとすぐに準備
      にかかった。

        【身支度】
        上は、下着、厚手の長袖シャツの上にセーターを着た。下は、トランクス、タイツ、ズボン、その上に
       鉱物採集で使っている撥水性のパンツをはいた。靴下は、厚手のもの。
        頭には、毛糸の帽子を被り、手には毛糸の手袋をつけた。それと、曇っていても紫外線が強いので、
       サングラスは絶対必要だ。
        この上に、支給されたパルカを着て、その上に、緊急用の浮き輪をつける。靴は、貸与された長靴を
       履く。こうして、『にわか南極探検隊員』の格好だけは出来上がった。

        
                 上陸時の服装

        船に戻るのは、2、3時間後になるので、出る間際にトイレに行っておいた。探検案内には、「紙おむ
       つを着用すると安心」とあったが、ことがことだけに聞きもしなかったが、着用していた人もいたようだ。

        【撮影用品】
         カメラ2台をケースに入れ、腰のベルトにぶら下げた。ビデオカメラと予備の電池とカードそしてDVD
        はリュックサックの中にしまった。

        【ミネラルウオッチング用品】
         「クリノメーター」を腰のベルトにぶら下げ、ハンマーとタガネそしてチャックつきのビニールの袋をリ
        ュックサックに忍ばせておいた。

        【記録用品】
         小さいフィールド・ノートと赤黒のボールペンを1本ずつパルカのポケットにしまった。

        【リュックサック】
         ゾディアックの乗船・下船の際は両手を空けておく必要があり、予備品などを入れて背負って移動
        した。
         リュックサックが濡れないように、日本から持参した大き目のゴミ袋で全体を覆ってみた。

   3) 下船まで
       13時過ぎに準備して4階ザ・クラブに集合する。完全防寒スタイルだと暖房の効いた船内では暑くて皆
      さんパルカの前をはだけている。やがて、出発順に点呼が始まった。初回なので、1班〜6班が上陸、
      7班〜12班がクルージングだ。点呼をとって班員が全部そろうと、下船口に移動だ。奇数の1班が右舷
      から、偶数の2班が船尾からゾディアックに乗り込む。各班には添乗員か講師が1名同行する。

           
                   4階ザ・クラブに集合                            下船口へ移動

       いよいよ11班、私たちの班の出発だ。3階に降りると、赤紫色の『バーコン液』を入れたバットに長靴を
      浸す。これは、雑菌を南極に持ち込まないための対策で、”足”がついている三脚も消毒が義務付けら
      れていた。
       タラップの上から見ると、先の2つのグループは島に向かい、われわれを乗せるゾディアッゥが待機して
      いる。

           
                    上陸前消毒                             ゾディアック乗船待ち

   4) クルージング
       ゾディアックに乗り込む。乗船や下船する方法の講義は受けていたのだが、方法を忘れていたり、防
      寒具と長靴の重装備なので、皆さん身体が思うように動かず、スタッフに手助けしてもらっている。
       島に近づくと水深は2mもなく、岸辺は一段と浅くなっているようで、緑や白色の丸い小石が手に取る
      ように水底に見える。
       露頭を見ると枕状溶岩が見られる。エクスペディション・スタッフの中に、地質学担当のウルフガング・
      ブルーメル(Wolfgang Bloemel)さんがいる。これから上陸する地点で観察できる岩石や鉱物について
      アポをとって、この日の午前中に話を聞いておいた。

       ウルフガングさんは、オーストリアのウイーン出身で、自宅はドイツのミュンヘンにある。「私は、鉱物
      のコレクターではないので、・・・・」、と断った上で、「南極の火山活動に伴う枕状溶岩(pillow lava)が見
      られるはず」と教えてくれた。氏は最近では、人権擁護機関でボランティア活動する際、先住民の知恵
      を利用しているということで、日本のアイヌについて話をすると当然知っていて、関心を持っているとの
      ことだった。

           
                     枕状溶岩                          ウルフガングさん
                                                     【地質学スタッフ】

       海の上からルッカリー(営巣地)のペンギンを見ると奇妙なことにほとんどが背をこちらに向けている。
      どうやら風を背にして、腹に抱いた雛を冷たい風から守るため、風上に背を向けているようだ。このよう
      な姿を若い父親や母親に見せれば、”幼児虐待”などなくなるのでは、思うMHだ。
       砂利を敷き詰めたような浜辺を見ると、餌を摂って海から戻ったペンギンの姿と探検船「オーシャン・
      ダイヤモンド号」が霧の中に見える。

           
                風を背にしたペンギンたち                      砂利浜のペンギンと探検船遠望

       ここでハプニングが起きた。この島の周囲は浅瀬になっている。サイモンさんが運転するゾディアック
      が浅瀬に乗り上げて”座礁”してしまったのだ。乗っているのは10班のメンバーで、全員女性だ。バック
      にしてエンジンを吹かしているが一向に脱出できる気配がない。
       私たちの船は男ばっかりなので「乗っているのが、重たいのバッカリだから」とか、勝手なことを言って
      いる。責任を感じたサイモンさんは、冷たい海の中に入って動かそうとしているが、12人も乗っているの
      だから1人の力でどうなるものでもない。結局、われわれの船からロープを出して引っ張ってやることに
      した。こうして何とか”離礁”することができた。

   5) 初上陸!!
       ようやくわれわれの上陸の順番になった。南極に第一歩を記す。赤い旗に沿って進むと、ペンギンが
      横ぎった。『第一ペンギン発見!!』だ。あごから耳にかけて黒い線があって、ヒゲみたいに見える「ヒゲ
      ペンギン(Chinstrap penguin)」だ。
       動物から5m以内に近づかないという『5mルール』があるのだが、相手が近づいて来る場合は通り過
      ぎるを待つしかなく、下のようなシーンも見られることになる。

           
                 『第一ペンギン発見!!』                     接近するペンギン

       この営巣地では頭に白い線が見える「ゼンツーペンギン(Gentoo renguin)」が多数を占めている。石
      を積み上げた巣には雛が1匹だけが多かったが、中には2匹育てている巣もあった。”フワフワ”した産
      毛がみられ、生まれて2週間くらいらしい。午前中のファブリスさんの講義で、石を盗むペンギンがいて
      喧嘩になることがある、と話していたが、嘴(くちばし)に石をくわえて持ち去るのを抱卵中のペンギンが、
      黙ってみている光景も目撃された。

           
                 2匹の雛を育てるペンギン                            ”石泥棒”

       海岸に見られるのは砂混じりの小石だ。それらは堆積岩と火成岩で、写真に撮ってみたが、南極以外
      の場所でもごく普通に見られる岩石だ。島の基盤は堆積岩や火成岩でできていて、そこに火山が噴出
      したのだろう。

              
                             堆積岩                          火成岩

   6) 船に戻る
       エクスペディションスタッフが赤い旗を回収し始め、陸に残っている人の数も少なくなり、そろそろ引き上
      げる時間だ。
       このとき何気なく上陸地の浜辺の端の方を見ると、岩が”ムクリ”と動いたような気がした。岩が動くは
      ずないしと思い、目を凝らしてみるとアザラシだ。それも一頭だけでなく10頭ちかくいる。南極で初めて
      みるアザラシは「ゾウアザラシ」で、「ヒョウアザラシ」のように凶暴でなく、性格がおとなしい種類だ。

        
                     ゾウアザラシ

       上陸地点から距離にして300海里(約550km)のところに、エレファント(ゾウ:象)島がある。この島は
      ゾウアザラシがたくさんいたので島の名前が付けられたくらいだ。

        船に帰って皆さんと情報交換すると、アザラシに気づいた人はごく少数だった。この後も、アザラシを
       観る機会は幾度かあったのだが、後になって思うとこれほど近くで、活動的な姿(これでも)はこれが
       一番だった。
        早起きもそうだが、最後まで粘ってみると良いことがあるのは、人生と同じだ。

        最終便のひとつ前のゾディアックに乗って島を離れる。最終便は、赤いパルカを着たエクスぺディシ
       ョン・スタッフたちだ。

        
                     島を離れる

       船のタラップを上ったところで、人員点呼を受け、靴底を洗ってから船室に戻り、パルカや長靴を脱ぐ。
      パルカは衣紋かけに掛けて、通路に出して乾かしておく。長靴は、船室の床にそのまま置いておく。

       初めてのクルージングと上陸で、服装や装備の見直しが必要なことが明らかになり、次回のクルージ
      ングと上陸に備え修正する。

        【身支度】
        撥水性のパンツでは、波しぶきで濡れた船べりに座っているとズボンだけで止まらずパンツまでビショ
       濡れになってしまった。防水のパンツは持っていないので、大き目のゴミ袋を”貫胴衣”ならぬ”貫腰衣
       (早い話、腰みの)”にしてみることにした。
        セーターを着て、タイツをはいたが、暑くて汗をかき、冷えてくると余計寒く感じるので、着けないこと
       にした。
        手袋をつけてカメラを操作すると、余計なボタンを押してしまい、誤操作して”モタモタ”している間に
       シャッターチャンスを逃しそうだ。利き手・右手は手袋をつけないことにした。そうすると指先がかじかん
       でこれまた操作性が良くない。
        そこで、持参した”ホッカイロ”をパルカの右ポケットに入れ、写真を撮らないときは手をその中に入れ
       て暖めておくことにした。

        【撮影用品】
         船室に帰ってビデオカメラのバッテリー取り付け部の電極を見ると”緑色”の粉が付いている。銅の
        電極がむき出しになっているので、濃い塩分濃度の海水が触れて、『アタカマ石(ATACAMITE:Cu2
        (OH)3Cl』
ができたようだ。

         
               ビデオカメラにできたアタカマ石

         ビデオカメラをDVD−RAMに記録するモードで使っていたら、媒体を認識できなくなり、それまで録
        画したデータも復元できなくなってしまった。雨や雪そして潮水がかかるような環境で動作するよう
        には作られていないようだ。動画はビデオ撮影の機能があるデジカメを使うことにして、ビデオカメラ
        は持っていかないことにした。
         2台のデジカメのうち、光学30倍のNikonの方が良いショットを撮れるので、こちらをメインにし、ケー
        スに入れないでパルカの右ポケットに入れておけば、シャッターチャンスを逃すことも少なくなるはず
        だ。
         Pentaxのデジカメは、マクロ撮影など”ジックリ”撮影するのに適しているので、ケースに入れ、腰か
        らぶら下げるという今までのスタイルを踏襲した。
         カメラ類は、塩水や雨、雪を浴びているので、ぬるま湯に浸したタオルで拭き取り、レンズ面は息を
        吹きかけ、乾いたティッシュペーパーで汚れや曇りを拭き取るようにした。

        【ミネラルウオッチング用品】
         ハンマーとタガネは使うことがないことが明らかになったので持っていかないことにした。「クリノメ
        ーター」はいつ、どこで使うか予測できないので、これからも腰にぶら下げていくことにした。

         汗をかいたり、塩水で濡れた下着やシャツを洗濯し、船室にぶら下げてほす。こうしておくと、室内の
        乾燥防止にも役立ち、一石二鳥だ。
         4階のザ・クラブに行き、甘い菓子をつまみながら熱いコーヒーを飲むと、ようやく人心地がついた。

  (5) 初めての氷山との遭遇
       前の日、初めて氷山に遭遇する日時を当てるクイズが出されていた。実は、この朝ブリッジ(操舵室)
      を訪れたとき、船員にいつごろ出会えるか聞くと「明日の朝だろう」というので、まだ投票しないでいた。
       ここまでも小さな氷山は見かけていたのだが、バスよりも大きなもの、という条件がついていたので
      それほど大きなものとは出会っていなかった。

       突然、「左舷に氷山が見えます!!」という放送で甲板に飛び出してみると大きな氷山が見えた。長
      さ100m、高さは30mくらいある。海水に隠れている部分を含む全体の大きさはその10倍くらいになり、
      船が衝突すれば大事だ。

         
                『初めての氷山に遭遇!!』

       南極半島の南東はウェッデル海で、ここで氷山が生まれる。ちょうど100年前、イギリスのシャクルトン
      率いる「帝国南極横断隊」の旗艦「エンデュアランス号」が氷に閉じ込められ、押しつぶされたのもこの
      海だ。
       ウェッデル海で生まれた棚氷の末端が崩れ、流氷になって、翌日訪れる予定のアンタークチック(南
      極)海峡を通ってきているようだ。

       船員すら予想できない、いつもより早い氷山との遭遇が何を意味するのか、まだ何も知らない一行だ
      った。

  (6) 「南極講座」
       急に南極講座として、17時からサイモンさんの「写真の撮り方」が追加された。サイモンさんは、ファッ
      ション業界のカメラマンとして世界各地で活躍していたという経歴の持ち主だ。多くの人がカメラに関心
      を持ってくれ、写真を通して何ができるかを理解して探検して欲しいと願っている、という自己紹介があ
      った。

       1) 良い写真を撮るコツ

        ・ 露出補正
           南極は見た目以上に日射量、とりわけ紫外線が強いので、日本など中緯度の光量を基準に
          設定されている自動撮影”Auto”機能だと、露出がオーバーになる危険性が高い。オート機能の
          ”+/−”機能をマイナス側に設定しておく。

        ・ 撮影の姿勢
            揺れやすいゾディヤックや船の上での撮影が多いので、”手ぶれ”を起こさないような姿勢で
           撮影する。

        ・ ” Stay & Watch ”
            どこにいつ現れるか予想がつかない”神出鬼没”のクジラや動きが少ないアザラシなどを撮影
           するには、”ジックリ待って一瞬を逃さない”ことが大事だ。

       2) 南極での撮影での注意点
        ・ 夜のうちにバッテリー充電
        ・ 予備のバッテリー、メモリーカードを持参
        ・ レンズクリーナー持参
        ・ 結露のチェック

       3) 写真コンテスト
           皆さんが撮った”コレぞ”と思う写真を5階のラウンジに設置してあるPCからアップロードして、
          その中からファブりスさんが優秀作品を選ぶコンテスト開催の発表があった。分野は次の3つだ。

           ・ 野生動物(Wild Life)
           ・ 風景(Landscape)
           ・ 人物(People)

       【後日談】
        この日も含め、南極での写真撮影で一番苦しめられたのが結露の問題だった。シャッターを押しても
       シャッターが下りない、どうしてかなと思うとレンズ面が曇っていたり、水滴がついていてピントが合わ
       ないのだ。これだと撮影する前に気づくのだが、シャッターチャンスは逃してしまう。
        シャッターは下りても、後で画像を確認するとボヤけているときもあるが、取り直しはできない。リュッ
       クサックに入れておいたポケットティッシュで拭いても何枚か使わないと乾燥しないので、アッという間
       になくなり、仕方なしにシャツの袖口や前身ごろを引っ張り出して乾いている部分で拭くありさまだった。
        Pentaxのデジカメは”防水仕様”で、レンズの手前にガラスが1枚あるのだが、それでも結局は同じだった。
        もう一度極地に行くとしたら、この問題は解決しておかなければならない最大の課題だ。

  (7) キャプテンによるウエルカム・カクテルパーティ
       この日の”リ・キャップ(Recap)の後、5階のメインラウンジでキャプテンによるウエルカム・カクテルパー
      ティがあった。船長とオフィサー(上級船員)が壇上にそろい、オレグ船長からの歓迎挨拶を私はシャン
      パンをいただきながら聞いた。

         
                                  船長とオフィサー
                            【at ウエルカム・カクテルパーティ】

       夕食の後、5階のラウンジでNHKスペシャル「南極 氷の世界」を見て、23時過ぎにベッドに入った。
      こうして、興奮のうちに初上陸の一日は終わった。

5. おわりに

 5.1 初上陸の印象

      この日初めて南極の大地の上に立った。地質的には、岩石類がほかの場所で見られるのと同じだった
     のは残念でもあり、当たり前だが南極も地球の一部だと知り安心した面もある。

      数千というおびただしい数のペンギンと出会い、圧倒的に数が少ない人間のほうがが観察されている
     のではないかと感じたのは私だけでなかった。

      行く前にテレビで見て、南極は一面の雪と氷に覆われた純白の世界を想像していたのだが、実際には
     氷や雪のない黒い大地がペンギンたちの糞や尿で赤や白で彩られているのだ。赤いのは、好んで食べ
     ているオキアミの色だ。
      何よりも、強烈なのはその臭いだ。この臭いを「鶏小屋のようだ」と形容した人がいたが、子供の頃飼っ
     ていたニワトリを思いだした。
      この後、何度か上陸するのだが、この臭いが記憶され、上陸する前からここにはペンギンがいるとわか
     るようになった。

      テレビを見ても、本を読んでも、このような情報はまったくなく、南極に来て初めて体験できたのは、この
     探検旅行の目的が一つ達せられたということだ。


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