古希記念 南極ミネラル・ウオッチング 南極探検旅行 【ラプラタ紀行】 ( Mineral Watching in Antarctica  Antarctica Expedition 2015 , - Watching in La Plata - )









        古希記念 南極ミネラル・ウオッチング
        2015年 南極探検旅行 【ラ・プラタ紀行】

             ( Mineral Watching in Antarctica
               Antarctica Expedition 2015 , - Watching in La Plata - )

4. 南極探検

 4.19 『ラ・プラタ紀行』
       南極探検に参加した人々は、往きか還りに、チリやアルゼンチンの世界遺産で氷河を見たり、
      往きにブエノス・アイレスで長旅の疲れをとり、時差を調整するなどするケースが多かった。還り
      にブエノス・アイレスに一泊して観光するのは、船室が同じだったAさんと私の2人だけだった。

  (1) どこに行こうか?
       前の晩アルゼンチン・タンゴを堪能してホテルに戻って寝たのが1時過ぎだったから、朝はユッ
      クリ7時に起きて、朝食を摂りに1階のレストランに行った。
       このホテルは閑静な場所にあり治安もよく、室も清潔で設備も整っている日本人好みなので
      日本の旅行会社の指定になっているようだ。日本人客が団体で泊まっているらしく、数人のご
      婦人がいた。
       私とほぼ同じ年代の昔乙女たちのはす向かいに座って話をすると、氷河を見た後、ブエノス・
      アイレス観光で滞在しているとのこと。参加者の7、8割が女性の団体で、旅行の感想を伺うと
      何だかパッとしない印象だ。南極探検で一緒だった女性たちが生き生きとしていたのと対照的
      だった。
       私が「南極へ行ってきた」、と話すと目を輝かせるご婦人もいた。

       さて、この日どうやって現地駐在員が迎えに来る18時まで過ごすかまだ決めかねている。逡
      巡したあげく、ラ・プラタにある「自然科学博物館( Museo de Ciencias Naturales )」に
      行くことに意を決した。

  (2) どう行けばいいの?
       ラ・プラタ市はブエノス・アイレスの南東約100km、ラプラタ河沿いにある都市だ。ホテルのフ
      ロントでラ・プラタへの行き方を尋ねると、タクシーで700ペソ(邦貨9,800円)、バスなら30ペソ
      (邦貨420円)だという。タクシーとバスの運賃の違いが日本ならせいぜい10倍だが、ここでは
      25倍なのには驚いた。しかし、驚くのは実際に乗ってみてからだった。

       前の日の駐在員の話では荷物は部屋に置きっぱなしで良いといわれていたが、部屋から出
      してくれと言われ、フロントで預かってもらうことにした。これが思いがけない幸運を呼ぶことにな
      るとは神ならぬ身、知る由もなかった。

       地図を出して、ラ・プラタ行のバス乗り場を教えてもらう。距離にして1km位で、ブエノス・
      アイレスの街は碁盤の目のように通りが走っているのでわかりやすい、と思ったのが間違いだっ
      た。

  (3) バス乗り場はどこ?
       フロントで教えてもらったバス乗り場に向かって歩き出した。外は快晴で真夏の陽ざしがまぶ
      しい。それでも、日本のように湿度が高くないせいか日陰は涼しいのでそこを選んで歩く。
       荷物はディバックにしまい、”ひったくり”されないように、背負わないで抱えるようにして運ぶ。
      誰が見ても外国の旅行者だと一目で”バレバレ”だ。

       15分ほどで教えられた場所に着いた。「ラ・プラタ行のバスに乗りたい」と英語で尋ねると、
      「あのビルの前だ」と500mも先を指差す。そこに着いて聞くと、今度は違う方を指して、「あそ
      こだ」、という。こんなことを数回繰り返し、ようやく「バス停」らしき所に着いた。

       
                ラ・プラタ行のバス停はどこだ〜?

  (4) 噂に聞いた『ケチャップ強盗』に遭う!!
       バス停で待っていると、頭の上と襟足が”ひんやり”した。街中のあちこちで建設工事が進んで
      いるので、工事現場から水がまき散らされたのかと思い上を見上げたが工事をやっている気配
      はない。
       次に思いついたのは、「鳥の糞」だった。実は、独身時代の夏休みに長野県の善光寺に寄
      った。本堂の前にいると、同じように頭の上が”ひんやり”して、手で触ってみると鳩の白い糞だ
      った。今は「ドローン」が落ちてくる時代だが、そのころはノンビリしたもので、怒るわけでもなく、
      ”ウンが向いてくるかも”と内心喜んだ節さえある。そんなわけで、思い出したのはこの時のこと
      だった。

       手で、髪の毛を触ってみると、指先に”緑色のドレッシング”のようなものが付いている。何か
      変だな、と思い後ろを振り返ると2mくらい離れたところに目つきの良くない原住民系の男が手
      に小さなバックをぶら下げて立っていた。私が睨むと、目をそらし背中を向けた。
       すかさず、2人の原住民系の女が近づいてきて、”親切そうに”濡れたティッシュを渡してく
      れたので、それで髪の毛や手などを拭いた。
       婦人が「ウオーター」と言ってペットボトルの飲み物を飲むようにすすめてくれたが、さすがにお
      かしいと思い断り、荷物をぎゅっと抱きかかえた。
       ダメだと思ったのか、男と女たちは立ち去った。このときになって、これが噂の『ケチャップ強盗』
      だと気づき、記念に写真を撮っておこうとカメラを向けると顔をバックで隠し、道路の反対側に
      停まっていたタクシーに乗り込んで走り去った。

       
           タクシーで走り去る「ケチャップ強盗団」

       この一部始終を見ていた原住民系の男性が私の方に向かって、人差し指と中指で自分の
      目を指し、”Watch(ワッチ)"のジェスチャーで、「注意してよく見ていないと危ないゾ」と教えて
      くれた。また、指を4本立て、「4人組だった」とも教えてくれた。男1人、女2人、そしてタクシー
      の運転手も一味だったのだ。まさに、「強盗団」だ。
       ラ・プラタを見て回る”ウオッチング”のはずが、自分の身の回りを警戒する”ワッチ”の旅になろ
      うとは予想もしていなかった。

       「ケチャップ(マスタード)強盗」はアルゼンチンの専売特許ではなく、スペインなどヨーロッパの
      国々でも被害に遭う人がいるらしい。
       ケチャップやマスタードであったり黒、緑、茶色などの汚物に似せた液体を掛け、親切そうに
      拭き取ってくれている間に貴重品がなくなっているらしい。私が遭ったのは、典型的な「ケチャッ
      プ強盗」だったのだ。

      【後刻談】
       夕方、ホテルに戻って別行動だったAさんに「私はケチャップ強盗に遭った」と話すと、「おれは
      2回もやられた」と言うので、われわれ日本人は彼らにとって”好いカモ”なんだろうと思う。
       「掛けられた液体はシミになるから洗った方がいい」というので、地階の洗面所でTシャツを脱
      いでみると首から背中の部分にシミができていた。被害はこれだけで、洗濯すれば元に戻るの
      で、良い経験をさせてもらったと思うことにした。

       
               「ケチャップ強盗」の被害
                  【Tシャツのシミ】

 (5) バスでラ・プラタへ
       先ほどの男性が、「ラ・プラタ行の高速バスが来た」と教えてくれたので乗り込んだのは、
      9時30分ごろだった。このバスはリクライニングシートで冷房もついた新しいバスで、料金は専用
      のカードで払うシステムになっているが、そんなカードは持っていない。近くにいた男性が、「これ
      を使いな」と言って、自分のカードを車掌に渡し代わりにラ・プラタまでの料金30ペソ払ってくれ
      た。
       アルゼンチンペソの持ち合わせがないし、と言ってタダというわけにもいかないので、10米ドル
      札を出すと、車掌が「多すぎる」というので、5米ドル札1枚(邦貨600円)を男性に渡した。
       100km近い距離を高速道路を使って真新しいバスで移動したのだから日本の感覚だともっ
      と高くてよさそうだが、公共料金はメチヤクチャ安い。

       乗客には観光客も多い。乗り込んでバスの中ほどに空席を見つけて座った。バスは高速道
      路に入り、ラ・プラタ市に向かって快調に飛ばす。
       いつもだと乗り物に乗ると眠ってしまうことが多いのだが、ついさっきの「ケチャップ強盗」の一件
      が頭から離れず、隣に座った男が気になり眠るような気になれない。バッグをシッカリ抱えて周
      りに気を配る。高速道路を下りて、ラ・プラタの街に入ったのは、10時を少し回ったころだった。

       
             線路を越えラプラタ市街に入る

       乗車時間1時間ほどでバスターミナルに到着したから、思っていたより距離は短いのかも知れ
      ない。

 (6) 「ラ・プラタ自然科学博物館」に行く
       バスを降りて、博物館への道順を聞く。ラ・プラタ駅の前の通りを西に行って、斜め左に行け
      ば良いようだ。ラ・プラタの町も碁盤の目のように街路が整備されているので目印さえ見逃さな
      ければ迷うことはない。新産地を探し出すよりは、何倍も楽だ。
       とは言え、地図があると便利だと思い、本屋に入ると市街図を売っていたので値段を聞くと、
      65ペソ(邦貨910円)だという。往復のバス代よりも高いと思ったが10米ドル札を出して、お釣り
      はペソでもらう。

       ラ・プラタ駅前の通りに出る。西に行くと回教寺院のようなドームを持つ駅が見えてきた。駅
      舎に入ると、列車の発着はまばらなようで、それほど混雑していない。何か土産になりそうな
      ものを探すが駄菓子の類しかない。
       急にトイレに行きたくなり探すとあった。入口には係の男性がいて、椅子の上の箱の中にト
      イレットペーパーとプラスチックケースの中に小銭が入っている。篤志家だけがお金をいれている
      のか有料になっているのかハッキリしなかったが、1ペソ(14円)硬貨をケースに入れてペーパーを
      持って用を足す。

          
                   ラ・プラタ駅                         駅構内のトイレ(有料?)

       ”スッキリ”して西に向かって進む。いい加減歩いたが博物館への入口らしきものが見えない。
      ジョギングしていた男性に尋ねると、「入口まで案内してやる」と言って先に立って歩き始めた。
      300mも行くと、「ここを斜めに入っていけば博物館だ」と教えてくれたので、持っていた日本の
      100円硬貨をお礼に渡す。

 (7) 「自然科学博物館( Museo de Ciencias Naturales )」見学
       緑に囲まれた道を進むと右手に白い建物が見えてきた。11時30分だったからホテルを出て
      3時間弱で着いたことになる。「ケチャップ強盗」事件などもあり、バスに乗るまでが一番手間
      取ったことになる。
       開館は10時、閉館は18時だから、もう開いているはずだ。私が訪れた2015年1月は、閉館
     日が一日もなかったが、この国らしく連続で半月くらい閉まっている月もあるので事前に調べて
     行くほうがよい。

  1) 入館料
       入口で大人料金6ペソ(邦貨85円)を払って入場する。ちなみに、12歳以下は無料、退職
      したり年金生活しているいわゆるシニアは1.5ペソ(約20円)と、メチャ安い。

       
               「自然科学博物館」外観              表              裏
                                               入館料のレシート

   2) 館の位置づけと歴史
       この博物館の名称と位置づけが気になっていた。スペイン語なので辞書を片手にレシートを
      読むと、「国立ラ・プラタ大学自然科学学部併設展示館」で、正式名称は「ラ・プラタ博物館」
      になるようだ。

       この博物館は開設したのが1884年で、前の年2014年に「130周年記念」を祝ったらしく、そ
      の名残(なごり)が館の入口に残されていた。

       
                開設 130周年記念(2014年)

   3) 館内展示
       入口でもらった館の案内パンフレットの表紙には、復元された古生物の化石を見るこどもた
      ちが描かれている。国は違っても、こどもたちは恐竜が好きなようだ。例にもれず、恐竜が好き
      な千葉の孫娘の影響で、一緒に恐竜の本を読んだりDVDを観たりするが、アルゼンチンではも
      っとも古いタイプの恐竜が生息していたと勉強した。

       
                             館内案内パンフレット表紙

       館は2階建てで、1階(Ground floor)は自然科学関係で、鉱物や恐竜の化石などは、
      入って右側に展示してある。
       2階(First floor)は民俗学や考古学関係で、現地駐在員のMさんが話していたエジプト
      のミイラは一番右奥に展示してあったものらしい。

       
                                館内展示案内

   4) 鉱物関係展示
       1階の地球儀の図がついた"LA TIERRA((地球)”と呼ばれるエリアに鉱物や岩石が展示し
      てある。入るとすぐに「隕石」が展示してあり、地球はこのような宇宙の塵(ちり)が集まってでき
      たことを暗示している。

          
                鉱物・岩石展示エリア                            「隕石」

       歩を進めると、鉱物とそれがわれわれの身の回りで何に使わせれているかを展示してる。いわ
      ば、「定番」の展示手法だ。
       「方鉛鉱と鉛の錘(おもり)」、「自然金と金メッキした半導体部品」、「鉄重石と電球のフィ
      ラメント」などはアルゼンチン産だが「自然銅と電線」はボリビア産の標本だ。

          
              「方鉛鉱と鉛の錘(おもり)」                    「自然金と金メッキした半導体部品」

          
             「鉄重石と電球のフィラメント」                      「自然銅と電線」

   5) 地学関係展示
       「大陸移動」や「プレートテクトニクス」など最新の地学関係の展示がある。パンゲアと呼ばれ
      る一つの大陸が分裂して現在の位置にあることから、南米、アフリカ、インド、オーストラリア、
      そして南極の岩石や化石に共通性があることを現物で展示している。

          
                   「大陸移動」                             「プレートテクトニクス」

       火山活動で生まれる各種の「溶岩」、「黒曜石」などの鉱物、そして「硫黄」などの鉱物標
      本が展示してある。また、火山活動で発生するガスが再び地表や海水中に循環したり、大気
      圏外に放散することもパネルで理解できるようにしてある。

          
             「火山活動で生まれる岩石・鉱物」                     「火山ガスの循環・放散」

   6) 「水晶(Cuarzo)」展示
       さらに歩を進めると、「元素鉱物」、「酸化鉱物」・・・・・など、組成で分類して鉱物を展示
      してる。
       『ミネラル・ウオッチングは水晶に始まり水晶に終わる』を標榜している私にとって、どのような
      水晶が展示してあるか興味があった。
       まず目についたのは隣国ウルグアイ産の紫水晶の晶洞だった。下から照明するライト・テーブ
      ルの上には、イタリア産水晶の晶簇(しょうそう=群晶)とブラジル産の紅石英(Cuarzo Rosa)
      も並んでいる。

          
          紫水晶晶洞Geoda de Cuarzo)               水晶晶簇(Cuarzo en drusa)

       期待した「日本式双晶」の展示がなかったのと、水晶はすべて外国産なのは少し残念だった。

   7) アルゼンチンを代表する「菱マンガン鉱(Rodocrosita)」展示
       アルゼンチンを代表する鉱物は何といっても「菱マンガン鉱」だ。日本のミネラル・ショーなどで
      販売されているのは隣国チリのものが多い。
       菱マンガン鉱は、ピンク色と研磨した時に現れる縞模様の美しさから装飾品や置物などに
      加工されたものが売られている。ここで展示してあるのも原石ではなく、塊をスライスして両面を
      研磨したものだ。

       
            「菱マンガン鉱(Rodocrosita)」
            【アルゼンチン Catamarca産】

 (8) 「自然科学博物館( Museo de Ciencias Naturales )」で現金採集
      この後、恐竜の化石などを駆け足で見た。昆虫や植物そして2階の民俗学や考古学のエリア
     は時間がないのでパスだ。ゆっくり見るのなら、丸一日かかるだろう。
      入ってすぐ右手にミュージアム・ショップがあるので、ここでお土産を買うことにした。

   1) アルゼンチンの鉱物
       鉱物標本として、3種類置いてあった。一つはラベルを見るまでもなく明らかにアルゼンチン産
      の「ロードクロサイト(菱マンガン鉱)」だ。残りはブラジル産「トルマリン」と良くわからない鉱物だ
      った。これ以外に無いのか尋ねるとこれだけだというので、「菱マンガン鉱」だけ購入する気にな
      った。
       気になるお値段は、ウシュアイアやブエノス・アイレスのお土産店だとこの大きさのものは30米
      ドル(3,600円)くらいのことを平気で言われたが、これは8.5ペソ(120円)だというので迷わず
      買った。これが沢山あれば、と思ってもないものはしょうがない。
       係の人に産地を聞くと博物館に展示してあった標本と同じ”Catamarca”だというので、持ち
      歩いているフィールド・ノートに地図を描いてもらった。チリとの国境地帯、アンデス山中にあり
      行くのは大変そうな場所だ。

          
             「ロードクロサイト(菱マンガン鉱)」                       産地地図
              【アルゼンチン Catamarca産】

    2) 絵葉書
        次はお土産の定番「絵葉書」だ。動植物や化石を描くものに混じって1枚だけ「ロードクロ
       サイト」を描くものがあったので10枚、他に、孫娘におくるため、恐竜の化石の図案のものを
       2枚、確か1枚7ペソ(100円)くらいだった。

       
         「ロードクロサイト(菱マンガン鉱)」 を描く絵葉書

    3) 鉱物書
        ショーケースの中に鉱物書が3冊ほどあった。「アルゼンチンの新鉱物標本 1828 - 2014」
       は昨年までにアルゼンチンで発見された鉱物をふんだんに写真や図表を使って解説したもの
       だ。
        1828年に発見された”Mendozita”【メンドーサ石:NaAl(SiO4)2・11H2O】から2014年*
       発見された”Ishiharaita”【石原鉱(?):(Cu,Ga,Fe,In,Zn)S】まで45種が掲載してあ
       る。97ページの小冊子ながら150ペソ(2,100円)と高いが購入した。
        * IMAは2013年承認になっている。

        もう一冊は、「アルゼンチン産鉱物標本」で、「元素鉱物」、「酸化鉱物」・・・・・など、
       組成で分類して鉱物名のアルファベット順に紹介している。ところどころにカラーの写真があ
       るだけで図は少ないが、752ページのボリュームがあり、300ペソ(4,200円)だったがこれも購
       入した。

        2冊とも当然スペイン語で書いてあるので正確な意味は辞書を引かないと解らないのだが、
       英単語から連想したり、図表の助けも借り、おおよそのことはわかる。

          
                  「表紙」                        「裏表紙」
                    「アルゼンチン産の新鉱物標本 1828 - 2014」

          
                     「表紙」                                   「裏表紙」
                                    「アルゼンチン産鉱物標本」

    4) 情報収集
        欲しいだけの数「ロードクロサイト」が買えなかったので、ほかに売っている場所を尋ねると
       「ブエノス・アイレスのフロリダ通り」と教えてくれた。ついでに持っている地図に印をつけてもら
       うと、宿泊しているホテルからそれほど遠くない場所だとわかった。
        さらに、そこへ行くための交通手段を聞くと、高速バスで"PLAZA"から"Oblisco"、または
       鉄道で”La Plata”駅から”Constitucion"駅に行く2通りを教えてくれた。

      ラ・プラタ博物館を出てみて、現地駐在員の話やガイドブックの情報とだいぶ違うと思った。こ
     れらの情報では、「何年か前にミイラが盗まれろくな展示品もないし、ブエノスアイレスから遠いし、
     おまけに危険だし、日本人で行く物好きはいない」みたいな言い方、書き方だった。
      私の印象では、展示品や方法は東京上野にある「科学博物館」と遜色ないし、高速バスで
     安く・早く行けるし、一日中ブエノス・アイレスにいたAさんが「ケチャップ強盗」に2回も遭ったこと
     からわかるように、危険さはブエノス・アイレス市内の方が高いと思う。

      「情報」は重要だが、その情報が最新のもので、しかも伝聞などでなく真実を伝えているのか、
     見抜く必要性を改めて感じた「ラプラタ紀行」だった。

 (9) ラ・プラタで昼食
      お腹が空いてきて時計を見ると12時半だった。来る途中には、旅行者が気軽に入れるレスト
     ランのようなものはなかった気がした。
      博物館を出ると、正面の木陰の下に「屋台」風のファストフードの店があるのに気付き入って
     みた。メニューは壁に掛っている写真だけが頼りだ。かろうじて、「コーラ」だけはわかる。
      しかたがないので、「あれとコーラを下さい」と注文したら写真のようなものが出てきた。両方で
     30ペソ(400円)くらいだった。

       
                    博物館前で昼食

      食事を終えて博物館の前を見ると、原住民系の人が弓矢や織物などのお土産品を並べて
     ワゴンセールをしている。値段は高いものでも70ペソ(1,000円)くらいだが、粗悪な感じなので
     何も買わなかった。

 (10) 帰りは、列車か高速バスか?
      帰りは列車に乗ってみたい気もする。ただ、ガイドブックには危ないから乗らない方が良いと書
     いてある。来る時の高速バスが早い・安い・安全の3拍子が揃っていたので帰りも高速バスにし
     た。
      博物館に入る道路とラ・プラタ駅前通りの交差するところに、”Plaza Brown(ブラウン広場)"
     があるので立ち寄ってみた。
      石造の高さ20mはありそうなエンタシス式円柱の上に銅像があり、柱の根元に"Guillermo
     Brown"の名前が読み取れ、芝の植え込みの中に大きな錨(いかり)があるところから、アイルラン
     ド生まれのアルゼンチン海軍初代提督で「アルゼンチン海軍の父」として知られているウィリアム・
     ブラウン(英語名:William Brown、スペイン語名:Guillermo Brown)(1777年-1857年)を
     称(たた)えて建てられたものだ。

          
          ウイリアム・ブラウンの記念碑と像           「アルゼンチン海軍」を象徴する錨
                            ”Plaza Brown(ブラウン広場)"

      ブラウンはアルゼンチン独立戦争や英仏によるラ・プラタ川封鎖に勝利して、国民的英雄とな
     った。全国各地にブラウンの名前を冠する通りや施設などが数多くある。われわれが訪れた南極
     にあるアルゼンチンの「アドミラル(提督)・ブラウン基地」もブラウンに因んで名付けられた。

      ・ 古希記念 南極ミネラル・ウオッチング
       2015年 南極探検旅行 【南極の楽園】
       ( Mineral Watching in Antarctica
         Antarctica Expedition 2015 , - Paradise of Antarctica - )

 (11) 帰りも高速バス
      博物館で教えて貰ったバス乗り場”Plaza"に行った。ブエノス・アイレスから乗ってきたバスが着
     いたターミナルと違い乗り場の数が多く混雑している。窓口で28ペソ(400円)払ってブエノス・ア
     イレスまでの切符を買う。切符には「半券が」ついている。ガラス越し「Constitucion行のバス
     は何番か?」と尋ねると左手で5、右手で1、指を立てている。こちらから見ると「15」番だ。そこに
     行くとスペイン語で書かれた行先がブエノス・アイレスとは違うようだ。再び窓口に戻ると同じように
     ジェスチャをする。「そうか、5+1=6番か」と思い6番乗り場に行くとそこが乗り場だった。

      乗客が乗り込んでいるバスは乗ってきたバスに比べると古いし、何だか変な感じだ。運転手に
     「"Oblisco"行だね」と念を押して切符を渡すと「半券」を返してよこした。

       
              戻りのバスのチケット 「半券」

      座席に座ると、シートは古く、エアコンの吹き出し口のプラスチック部品が垂れ下がっている。
     乗客も外国人観光客は少なく、現地の人が多い。
      まもなく13時ごろバスは発車し、混雑するラ・プラタ市街を抜け、高速道路に入ると時速100km
     で順調に走る。1時間ほどで高速を下りブエノス・アイエス市街に入って間もなく突然バスが止ま
     った。
      運転手が下りて車体後部の扉を開けてエンジンを調べに行った。しばらくして戻ってきて「この
     バスは故障して動けないから、後ろのバスに移ってくれ」と言われた。
      ( スペイン語が解ったわけではないが、現地の人がそうするので後をついていっただけだ。)

          
            車体は古いが順調に高速を飛ばすバス               故障したバス(前)から後ろのバスに移動

      別なバスに乗り移って"Oblisco"に着いたのは15時前だった。車、リヤカーのような軽車両、
     そして歩行者で混雑している。そういった中、リヤカーに段ボールを山のように載せて曳いていく
     2人組の若者がいた。これが古紙を無断で回収して生活している『カルトネラ』と呼ばれる人たち
     だ。
      この写真を撮る前に彼らと眼が会ったが、”ニコッ”と笑い、明るいのが救いだ。

       
                    「カルトネラ」

 (12) フロリダ通りで『現金採集』
      ここから博物館で教えてもらった「フロリダ通り」まで歩くとかなりありそうだ。タクシーを使うことに
     したが”ぼられる”のではないか心配だ。現地駐在員のMさんが、「車体の上に番号があり、メータ
     がついているタクシーは大丈夫」と言っていたのを思い出し、見回すと条件に叶う客待ちのタクシー
     が止まっていた。
      乗り込んで、「フロリダ通り」というと行先がわかったようで走り出した。心配なメーターは、3ペソ
     くらいから徐々に上がっているが、法外な金額にはなりそうもないので一安心だ。狭い路地をあち
     こち走り、「この先がフロリダ通りだが一方通行で行けない」というので降りることにした。メーター
     は20ペソあたりだったがチップを含め3米ドルを渡すと走り去った。

      フロリダ通りに着いたのが15時前だったので「マック」に入ってコーヒーを頼むと、20ペソ(300円)
     だった。日本国内でも100円くらいだし、ウシュアイア空港で6ペソ(80円)だったから、メチャクチャ
     高い印象だ。
      これをみるにつけ、コーヒー3杯の値段で、高速道路を使ったバスでラ・プラタまで往復できる
     ブエノス・アイレスの物価の仕組みの不可思議さを思い知った。

          
                  「フロリダ通り」                                  「マック」

      MACを出て、「ロードクロサイトを売っているのはどこか」と尋ねると、「2ブロック先だ」と教えて
     くれた。フロリダ通りは観光客でごった返していて、それを相手にするワゴン・セールや「両替」の
     呼び込み、そして物乞いまでが路面や路肩を占拠している。

      「カンビョー(cambio)、カンビョー」と声をかけてくるのは両替屋だ。中には「カンビョー ジャパン」
     と声をかけてくる売人もいるが相手にしない。レートをごまかされるのは序の口で、インフレでとうに
     使えなくなった紙幣を渡されることもあるからだ。

      物乞いには2種類いるようだ。自分や家族の身体的なハンディキャップや生活の困窮状態を
     段ボールのポスターに書いてお情けを頂戴するタイプと絵を描いたり、歌を唄ったり、何らかのパフ
     ォーマンスをしてその対価としてお金を受け取るタイプだ。

      私がこどものころ、縁日や祭りになると軍帽をかぶり白い服を着た傷痍軍人の格好で物乞い
     する人々を見かけたものだが、ブエノス・アイレスは60年前の日本の貧しかった時代そのままの
     部分もあるようだ。
      若者がチョークで路面に描いている絵は私の目には芸術品だし、父親がギターを弾き、母と娘
     が歌を唄い、赤ん坊が傍らにいる音楽一家も見かけた。これらの人々には、少ないが1米ドル札
     を渡してきた。

          
                  路上アーティスト                                音楽一家

      最初に訪れたロードクロサイトを売る店は有名らしく、途中で聞いた何人かが皆この店を教え
     てくれた。フロリダ通りの東のはずれにある、通りに面した広い店で、表のショーウインドウにはロー
     ドクロサイトで作ったネックレスなどの装飾品が飾ってある。

          
                ロードクロサイトを売る店                            ショーウインドウ

      店に入ると、ロードクロサイト製品が所狭しと並べられていて、何人かの店員が客に応対して
     いる。磨いたものは、安くても100米ドル(12,000円)くらいしている。店員は「今なら特別にディ
     スカウント(割引)しますよ」と愛想を振りまくが、半分に値引いても5,000円以上だ。

      「磨いたものでなくて原石が欲しい」というと、奥まったところからトレイに入ったのを持ってきた。
     500円玉大のものが30米ドル(3,600円)だというので、お話にならないと思い店を出た。

      店を出て、ロードクロサイトを売っている店があるか聞きながら通りを逆方向に戻る。1kmも戻
     ると、通りから少し奥まったところにロードクロサイト製品を並べたショーケースが出ていた。ここだ
     ったら安いかも知れないと思い、3m×5m(日本の4畳半間)位のこじんまりとした店に入った。

          
         ロードクロサイトのショーケース                  Ms.Malina

      店には女店主が一人だけで、隅には電気石の原石も置いてある。「磨いていない、原石が欲
     しい」というと2つのトレイを引き出して見せてくれた。

      原石とは言え、一部に磨いた面があったり、カットしかけた鋸の溝があったりする売り物になら
     ない、宝飾業界で言うところの「クズ石」だ。適当に7個くらい選んで値段を聞くと70米ドルだと
     いう。
      それならと、大きいもの3個を加えて、「100米ドル(12,000円)にしてくれ」というとOKしてくれた。
      手持ちの米ドルが残り少ないので「カードでも良いか」というと、「カードだと120米ドルだ」という
     ので、1ドル札まで動員してキャッシュで支払った。
      1つ10米ドル(1,200円)見当だから、先の店よりは安い買い物だった。『信じれば救われる』

       
               ロードクロサイト 『インカ・ローズ』
                   【現金採集品】

      アルゼンチン産のロードクロサイトであることを示す原産地証明書を購入した個数分つけてくれ
     たので、良心的なお店だと判断し、この店を選んだのが間違いでなかったと安堵した。

       
                    英語版                           スペイン語版

      右側のスペイン語版には、”La Rosa del Inca"とあり、日本で別名「インカローズ」と呼ばれ
     るのはここからきているのだ。
      ”National Stone"とあり、アルゼンチンを代表する鉱物だ。産地は、"Andalgala,Province
     of Catamarca"
とあり、ラ・プラタ博物館でみたものと同じ地域で産出したものだ。
      成因は、火山活動によるとされ、日本にも連なる「環太平洋火山帯」で産出したものだ。

 (13) ホテルに戻る
      念願だったアルゼンチンを代表する鉱物「ロードクロサイト」の”現金採集”も終えて、ホテルに
     戻ることにした。ラファエット通りのホテルまでそれほど距離はないが、安全だとわかったタクシーを
     使った。
      この時、ホテルではサプライズが待っているとは、知る由もなかった。

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