山梨県中澤第四晶洞の鉱物

          山梨県中澤第四晶洞の鉱物

1. 初めに

    2007年8月から11月にかけて、山梨県北部の水晶産地をAさん親子やYYコンビと
   何回か訪れ、その結果はHPに掲載した通りである。

   ・山梨県黒平・向山鉱山の巨晶・美晶
    ( Big , Beautiful QUARTZ from Mukouyama Mine , Kurobera Town
     Kofu City , Yamanashi Pref. )

   ・山梨県甲府市黒平の煙水晶
    ( Smokey QUARTZ from Kurobera , Kofu City , Yamanashi Pref. )

   ・2007年11月 山梨県甲府市 ”黒平” の近況
    ( Recent Information of Kurobera , Nov.2007 , Kofu City , Yamanashi Pref. )

   ・山梨県甲府市黒平の希産鉱物
    ( Rare Minerals from Kurobera , Kofu City , Yamanashi Pref. )

    その直後から、1年余り私が千葉県に単身赴任したため、山梨県北部の水晶産地を
   石友と訪れるチャンスはメッキリ少なくなっていた。

    単身赴任から戻った2009年4月、石友・A・Sさんから、「△△の産地に行きませんか」
   と誘っていただいたが、「農園」の手入れ等があり、すげなくお断りしていた。

    2009年8月、山梨県北部の産地にAさん親子と久しぶりにご一緒したが、読みがハズ
   レ、収穫は「ズングリの水晶」1本と「武石」だけだった。
    翌週、A・Sさんに、山梨県北部の産地を案内していただいた。何でも、私が山梨を留
   守にしている間に開拓していたようだ。ここでは、大きなガマ(晶洞)が開(あ)き、大き
   な煙水晶と大きな微斜長石の群晶も産出した。
    これは、Aさん親子の意向で、私が預かり、長野県川上村の湯沼鉱泉「水晶洞」に飾
   ってもらうことになった。残暑見舞いを兼ねて「湯沼鉱泉」を訪れ、社長に渡すと写真の
   ように喜んでいただいた。

       
         群晶【横40cm】        久々の大物に笑顔の社長

    さて、A・Sさんに産地を案内してもらうと、すでに何回か報告した「ここが産地??」
   という場所だった。Aさん親子が開けたガマの続きを掘らせていただき、「美麗な煙水
   晶」そして「苗木石」を始めとする希元素鉱物を採集できた。ここを、2人の名前を取り
   『中澤第四晶洞』、と名付けさせていただいた。

    貴重な産地を案内していただいた上、貴重な標本を恵与いただいたAさん親子に厚く
   感謝している。
    ( 2009年8月 採集 )

2. 産地

    この地域について、多くの情報があるので、詳細は割愛する。

3. 産状と採集方法

    この産地のでき方について、A・Sさんと何度も話し合った。結論は、『崩落ガマ』だ。
   花崗岩の山肌が風化し、ペグマタイトの晶洞(Pocket)が崩落し、中にあった水晶や長
   石が周辺に散らばった。
    その後、上に火山灰や山土が厚く堆積し、地表からは、ペグマタイト鉱物があること
   は全くうかがい知ることができない。
    晶洞の中の水晶などの移動距離は短く、水晶の頭は”ツンツン”していて、ダメージが
   全く見られない。

      
             産状            水晶の頭が出ている
                 『中澤第四晶洞』

    持ち帰った標本を水洗いした後に残った粘土を自宅で『精密パンニング』したところ
   緑色、透明の「ジルコン」があった。

4. 産出鉱物

    今回の採集・探査行で採集できたのは、@ 希元素鉱物 A ペグマタイト鉱物
   (水晶、長石、など)である。

 (1) 煙水晶/石英【Smokey QUARTZ:SiO2
      今回採集できた水晶は、全てが煙水晶だった。透明度は「かすかな煙」〜「濃い
     煙」まで、文字通り、色とりどりで、中には『茶水晶』とでも表現すべき色合いのもの
     もある。
      共通して言えるのは、山梨県産煙水晶特有の『透明感ある上品な煙水晶』
     であること『ポイントのダメージなし』そして『スマートな先尖り』だ。過去に採集した
     水晶の中で、最も美しい部類だ。
      ここでは、希元素鉱物も産出するところから、「煙」の原因は、放射能による結晶
     格子の歪だと考えている。

        
            完形最大            妻のお気に入り
          【長さ 110mm】           【長さ 88mm】

        
             薄い煙                 濃い煙
          【長さ 58mm】             【長さ 43mm】
                    煙水晶のいろいろ

 (2) 微斜長石【MICROCLINE:KAlSi3O8
      白色、ガラス光沢で短柱状〜長柱状結晶で産出する。1本の結晶に見えても双
     晶をなすものや明らかな平行連晶をなすものも多い。
      この産地のものは、結晶が大きく、しかも表面が”ピカピカ”なのが特徴で、湯沼
     鉱泉「水晶洞」に飾るものは、1辺が20cm前後ある。

        
              長柱状                     平行連晶
           【長さ 61mm】            【横 190mm クリーニング前】
                        微斜長石

      「苗木石」をジックリ探すため持ち帰った群晶に、小さいものだが自形結晶のアマ
     ゾナイト(天河石)【Amazonite/Bluish-green MICROCLINE】があった。

      アマゾナイト(天河石)【長さ 5mm】

 (3) 苗木石/変種ジルコン/ジルコン【Naegite/Altered Zircon/ZIRCON :ZrSiO4
      鮮緑色〜褐色、油脂〜ガラス光沢をしめす、頭が尖った柱状の結晶で「苗木石」
     【Naegite :(Zr,Hf,Y,etc)(Si,Nb,Ta)O4】の典型の1つである。
      石英−カリ長石帯の長石の上や中に結晶しているのがほとんどで、下の写真の
     標本のように、「微斜長石」の柱面に成長した”様(さま)のよい”ものは珍しく、
     貴重だ。
      母岩の長石に”ハロ【Halo:放射性色暈(しきうん)】”は見られない。

        
             柱状結晶          結晶図
          【A・Sさん恵与品】   【日本希元素鉱物から引用】
                     苗木石(変種ジルコン)

5. おわりに 

 (1) 「男子三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ。」
      とは、日本での慣用句。原文は「三国志演義」にある「士別れて三日なれば刮目
     して相待すべし」だ。
      意味は、 日々鍛練している人は3日も経つと見違えるように成長しているものだ。
      ( 宮本武蔵の「五輪書」に、『千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす』、とある )

      私が単身赴任していた関係で、A・Sさんと一緒にミネラル・ウオッチングに行くのは
     2007年11月以来だ。つまり、ほぼ2年ぶりになる。

      今回、Aさん親子が開発した産地を案内していただき、『新産地発見の感と技術』
     が一段と研ぎ澄まされているのを感じ、題記の諺を引用した。
      A・Sさんから「M・Hは前よりも一段と歩くのが早くなりましたね」、と言われ、これも
     鍛練の賜物か(?)。

 (2) 「T定規(π)採集」
      私が某製作所に入社して間もない頃、当時の副社長から、「T定規理論」なるもの
     を叩き込まれた。つまり、エンジニアに限らず企業人は、幅広い常識(−)と高い専
     門性(|)持つべきだ、という訳だ。”−”と”|”を組み合わせて「T定規理論」、と
     言っていた。
      近年、”リストラ”などもあり、1つの専門知識だけでは万全ではなく、複数の専門
     分野の第1人者であるのが望ましいとする”π型理論”も出ている。

      砂金採りを専門にしている石友から、「採れるものが変わり映えしないので、
     ここの所飽きてしまいました。地味でも鉱物系の方が楽しみ有りますね 」、とメール
     いただいた。
      このような石友に、「T定規(π)採集」をお奨めする。この石友の場合、”|”が砂
     金で、”−”を探せば良いのだ。

      A・Sさんは、『水晶』だけを収集しているが、”いらない長石”や、”変わったもの”も
     持ち帰るようになった。
      今回のミネラル・ウオッチングのときに、A・Sさんが「これ何ですか?」と差しだした
     鉱物は、上の写真に示した微斜長石の上に成長した肉眼でもわかる立派な「苗木
     石(変種ジルコン)」だった。
      この標本を恵与いただき、" Our Collection " に加わると同時に、これが採集で
     きたポイントを案内していただき、違った産状の「苗木石」と産出が報告されていない
     「アマゾナイト(天河石)」を採集でき記録に残すことができた。

      2重の意味で、Aさん親子に感謝している。

6. 参考文献

 1) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 2) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年
 3) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年
 4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
 5) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
inserted by FC2 system