その直後から、1年余り私が千葉県に単身赴任したため、山梨県北部の水晶産地を
単身赴任から戻った2009年4月、石友・A・Sさんから、「△△の産地に行きませんか」
2009年8月、山梨県北部の産地にAさん親子と久しぶりにご一緒したが、読みがハズ
さて、A・Sさんに産地を案内してもらうと、すでに何回か報告した「ここが産地??」
貴重な産地を案内していただいた上、貴重な標本を恵与いただいたAさん親子に厚く
持ち帰った標本を水洗いした後に残った粘土を自宅で『精密パンニング』したところ
(1) 煙水晶/石英【Smokey QUARTZ:SiO2】
(2) 微斜長石【MICROCLINE:KAlSi3O8】
「苗木石」をジックリ探すため持ち帰った群晶に、小さいものだが自形結晶のアマ
(3) 苗木石/変種ジルコン/ジルコン【Naegite/Altered Zircon/ZIRCON :ZrSiO4】
私が単身赴任していた関係で、A・Sさんと一緒にミネラル・ウオッチングに行くのは
今回、Aさん親子が開発した産地を案内していただき、『新産地発見の感と技術』
(2) 「T定規(π)採集」
砂金採りを専門にしている石友から、「採れるものが変わり映えしないので、
A・Sさんは、『水晶』だけを収集しているが、”いらない長石”や、”変わったもの”も
2重の意味で、Aさん親子に感謝している。
( Big , Beautiful QUARTZ from Mukouyama Mine , Kurobera Town
Kofu City , Yamanashi Pref. )
( Smokey QUARTZ from Kurobera , Kofu City , Yamanashi Pref. )
( Recent Information of Kurobera , Nov.2007 , Kofu City , Yamanashi Pref. )
( Rare Minerals from Kurobera , Kofu City , Yamanashi Pref. )
石友と訪れるチャンスはメッキリ少なくなっていた。
と誘っていただいたが、「農園」の手入れ等があり、すげなくお断りしていた。
レ、収穫は「ズングリの水晶」1本と「武石」だけだった。
翌週、A・Sさんに、山梨県北部の産地を案内していただいた。何でも、私が山梨を留
守にしている間に開拓していたようだ。ここでは、大きなガマ(晶洞)が開(あ)き、大き
な煙水晶と大きな微斜長石の群晶も産出した。
これは、Aさん親子の意向で、私が預かり、長野県川上村の湯沼鉱泉「水晶洞」に飾
ってもらうことになった。残暑見舞いを兼ねて「湯沼鉱泉」を訪れ、社長に渡すと写真の
ように喜んでいただいた。
群晶【横40cm】 久々の大物に笑顔の社長
という場所だった。Aさん親子が開けたガマの続きを掘らせていただき、「美麗な煙水
晶」そして「苗木石」を始めとする希元素鉱物を採集できた。ここを、2人の名前を取り
『中澤第四晶洞』、と名付けさせていただいた。
感謝している。
( 2009年8月 採集 )
2. 産地
この地域について、多くの情報があるので、詳細は割愛する。
3. 産状と採集方法
この産地のでき方について、A・Sさんと何度も話し合った。結論は、『崩落ガマ』だ。
花崗岩の山肌が風化し、ペグマタイトの晶洞(Pocket)が崩落し、中にあった水晶や長
石が周辺に散らばった。
その後、上に火山灰や山土が厚く堆積し、地表からは、ペグマタイト鉱物があること
は全くうかがい知ることができない。
晶洞の中の水晶などの移動距離は短く、水晶の頭は”ツンツン”していて、ダメージが
全く見られない。
産状 水晶の頭が出ている
『中澤第四晶洞』
緑色、透明の「ジルコン」があった。
4. 産出鉱物
今回の採集・探査行で採集できたのは、@ 希元素鉱物 A ペグマタイト鉱物
(水晶、長石、など)である。
今回採集できた水晶は、全てが煙水晶だった。透明度は「かすかな煙」〜「濃い
煙」まで、文字通り、色とりどりで、中には『茶水晶』とでも表現すべき色合いのもの
もある。
共通して言えるのは、山梨県産煙水晶特有の『透明感ある上品な煙水晶』
であること『ポイントのダメージなし』そして『スマートな先尖り』だ。過去に採集した
水晶の中で、最も美しい部類だ。
ここでは、希元素鉱物も産出するところから、「煙」の原因は、放射能による結晶
格子の歪だと考えている。
完形最大 妻のお気に入り
【長さ 110mm】 【長さ 88mm】
薄い煙 濃い煙
【長さ 58mm】 【長さ 43mm】
煙水晶のいろいろ
白色、ガラス光沢で短柱状〜長柱状結晶で産出する。1本の結晶に見えても双
晶をなすものや明らかな平行連晶をなすものも多い。
この産地のものは、結晶が大きく、しかも表面が”ピカピカ”なのが特徴で、湯沼
鉱泉「水晶洞」に飾るものは、1辺が20cm前後ある。
長柱状 平行連晶
【長さ 61mm】 【横 190mm クリーニング前】
微斜長石
ゾナイト(天河石)【Amazonite/Bluish-green MICROCLINE】があった。
アマゾナイト(天河石)【長さ 5mm】
鮮緑色〜褐色、油脂〜ガラス光沢をしめす、頭が尖った柱状の結晶で「苗木石」
【Naegite :(Zr,Hf,Y,etc)(Si,Nb,Ta)O4】の典型の1つである。
石英−カリ長石帯の長石の上や中に結晶しているのがほとんどで、下の写真の
標本のように、「微斜長石」の柱面に成長した”様(さま)のよい”ものは珍しく、
貴重だ。
母岩の長石に”ハロ【Halo:放射性色暈(しきうん)】”は見られない。
柱状結晶 結晶図
【A・Sさん恵与品】 【日本希元素鉱物から引用】
苗木石(変種ジルコン)
5. おわりに
(1) 「男子三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ。」
とは、日本での慣用句。原文は「三国志演義」にある「士別れて三日なれば刮目
して相待すべし」だ。
意味は、 日々鍛練している人は3日も経つと見違えるように成長しているものだ。
( 宮本武蔵の「五輪書」に、『千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす』、とある )
2007年11月以来だ。つまり、ほぼ2年ぶりになる。
が一段と研ぎ澄まされているのを感じ、題記の諺を引用した。
A・Sさんから「M・Hは前よりも一段と歩くのが早くなりましたね」、と言われ、これも
鍛練の賜物か(?)。
私が某製作所に入社して間もない頃、当時の副社長から、「T定規理論」なるもの
を叩き込まれた。つまり、エンジニアに限らず企業人は、幅広い常識(−)と高い専
門性(|)持つべきだ、という訳だ。”−”と”|”を組み合わせて「T定規理論」、と
言っていた。
近年、”リストラ”などもあり、1つの専門知識だけでは万全ではなく、複数の専門
分野の第1人者であるのが望ましいとする”π型理論”も出ている。
ここの所飽きてしまいました。地味でも鉱物系の方が楽しみ有りますね 」、とメール
いただいた。
このような石友に、「T定規(π)採集」をお奨めする。この石友の場合、”|”が砂
金で、”−”を探せば良いのだ。
持ち帰るようになった。
今回のミネラル・ウオッチングのときに、A・Sさんが「これ何ですか?」と差しだした
鉱物は、上の写真に示した微斜長石の上に成長した肉眼でもわかる立派な「苗木
石(変種ジルコン)」だった。
この標本を恵与いただき、" Our Collection " に加わると同時に、これが採集で
きたポイントを案内していただき、違った産状の「苗木石」と産出が報告されていない
「アマゾナイト(天河石)」を採集でき記録に残すことができた。
6. 参考文献
1) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
2) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
同委員会,昭和45年
3) 益富 壽之助:鉱物 −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年
4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
5) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年