愛知県新城市中宇利鉱山の中宇利石

愛知県新城市中宇利鉱山の中宇利石

1.初めに

加藤・松原・野村先生共著の「鉱物採集の旅-東海地方をたずねて-」に
「愛知県東南部の鉱物」の章があり、中宇利鉱山はじめ、蛇紋岩とそれに伴う
鉱物産地が紹介してある。
中宇利鉱山は、第2次世界大戦中にニッケルを採掘し、戦後の一時期銅を
試掘したと伝えられている。ここは、真青な「中宇利石」の原産地として
鉱物愛好家なら一度は訪れてみたい産地の1つだと思います。
今回、妻と一緒に鉱物採集会の下見で訪れ、「中宇利石」や「アルチニ石」を
はじめ、この鉱山の目玉商品とともいうべき、ヒーズルウッド鉱と
コバルトペントランド鉱の集合体などを採集できた。
(2002年7月採集)

2.産地

新城市を走る県道81号線の「中宇利」の信号で「中宇利城跡」と反対方向に
入り約500m行くと「比丘尼城跡→」の小さな標識があり、それにしたがって
200mも進むと左手の山際にため池「麻布池」の堰堤が見え、鉱山は
この溜池の右奥にあります。
ため池堰堤の左脇から、時計回りに踏み分け道を辿り堰堤の反対側に行くと
左右2つの谷(沢)があり、右の谷の上一帯が中宇利鉱山跡です。
鉱山跡は、上から見るとV字型をしています。左の斜め線のズリの一番上には
坑道が残り、右の斜め線のズリの一番上には露頭があります。

左:坑道            右:露頭

左:坑道下のズリ        右:露頭下のズリ
         中宇利鉱山跡の鳥瞰図

3.産状と採集方法

中宇利鉱山は、「日本鉱産誌」に、超塩基性岩中の銅鉱脈の代表例として
紹介されているように、蛇紋岩とそれに挟まれた磁鉄鉱の鉱体からなっています。
「中宇利石」「アラレ石」や「アルチニ石」などは、蛇紋岩の表面や割れ目に
生成し、銅鉱物のデュルレ鉱や輝銅鉱は磁鉄鉱の中にあり、ヒーズルウッド鉱と
コバルトペントランド鉱はデュルレ鉱に随伴して産出します。
「中宇利石」は、露頭の蛇紋岩に生成したものをハンマとタガネで掻き採ります。
「アルチニ石」などは、ズリの蛇紋岩を割って採集します。これらは、右の露頭と
ズリが良いようです。
ヒーズルウッド鉱とコバルトペントランド鉱は、左のズリで磁鉄鉱の入った
蛇紋岩の塊を探し、それを割り断面をルーペで確認します。
昔は、肉眼でも黄色い鉱物が見える標本があったのですが、今はルーペが必要です。
磁鉄鉱が入っているかどうかは、慣れてくると、手に持った重さの感覚で分かるように
なるのですが、最初は糸のついた磁石が役に立つでしょう。
孔雀石やブロシャン銅鉱などは表面採集でも充分採集できます。

4.産出鉱物

(1)中宇利石【Nakauriite:(Cu,Ni)(SO4)4(CO3)(OH)6・48H2O】
天青色の皮膜状や微細な針状をなす鉱物です。1976年に鈴木重人先生によって
発表されたもので、銅の炭酸基を含む硫酸塩鉱物で、最近あちこちで産出の報告が
ありますが、ここが原産地です。
できるだけ、青色が深いものを採集すると針状結晶が見える場合があります。
中宇利石
(2)アルチニ石【Artinite:Mg2(CO3)(OH)2・3H2O】
蛇紋岩の割れ目に白色の薄い皮膜で、その端は微細な針状結晶が放射状に集合して
見える。
蛇紋岩の空洞部には、写真のように、毛状にまとまったものも産出する。
アルチニ石
(3)ヒーズルウッド鉱【Heazlewoodite:Ni3S2】
(4)コバルトペントランド鉱【Cobaltpentlandite:Co9S8】
これらは、それぞれニッケル、コバルトの硫化物で、黄色い色をしています。
この産地では、黄銅鉱や黄鉄鉱、ましてや自然金などの”黄色い鉱物”は
産出しないので、デュルレ鉱に随伴して、黄色い鉱物があれば、
これらの鉱物と考えて良い。
肉眼で、両者を区別するのは困難とされています。
ヒーズルウッド鉱・コバルトペントランド鉱の集合体
このほか、磁鉄鉱、銅鉱石のデュルレ鉱、輝銅鉱それらが分解して生じた黒銅鉱、
孔雀石やブロシャン銅鉱などがあります。
(5)孔雀石【Malachite:Cu2(CO3)(OH)2】
(5)ブロシャン銅鉱【Brochantite:Cu4(SO4)(OH)6】
銅鉱石のデュルレ鉱、輝銅鉱が分解して生じたもので、黒銅鉱を伴う場合がある。
孔雀石【黒銅鉱を伴う】
このほか、蛇紋岩、磁鉄鉱、デュルレ鉱、輝銅鉱などがあります。

5.おわりに

(1)ここのズリは広く、色とりどり、各種の鉱物が採集できます。
10年ほど前に、10cmを超える自然銅を採集し、愛知県の石友と分け合い
ました。今回も狙ったのですが、”柳の下の2匹目の泥鰌”は見つかりませんでした。
(2)坑道がありますが、蛇紋岩はもろく崩れやすいので、入坑するのは危険です。
鉱物採集で亡くなった人がでたのは、この中宇利鉱山が最初だったと記憶しています。

6.参考文献

1)加藤昭、松原聡、野村松光共著:鉱物採集の旅-東海地方をたずねて-,築地書館,1982年
2)日本鉱産誌編集委員会編:日本鉱産誌T-b ,東京地学協会,昭和31年
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