岐阜県中津川市鉱物博物館 第19回私の展示室 「中部地方の鉱物」展

   岐阜県中津川市鉱物博物館 第19回私の展示室
           「中部地方の鉱物」展

1. 初めに

   2005年12月、ミネラルウオッチング納めの一環で、岐阜県苗木地方に行ってみると
  ここも例に漏れず、既に一面雪野原で、ズリでのミネラルウオッチングは難しいと思い
  中津川市鉱物博物館を訪れた。
   運良く、2005年12月11日〜2006年3月5日(日曜日)まで、「中部地方の鉱物」と副題が
  ついた 『第19回 私の展示室 鉱物は語る大地の記憶 』 の展示が開催されており
  これを観覧した。
   名古屋鉱物同好会に所属する猪飼 一夫氏と石橋 隆氏が採集した中部地方の地質
  帯毎の代表的な鉱物と新鉱物を展示している。
   標本のすべてが、”ビックリ”するような良品ばかりではないが、体系的にまとめて
  展示されたものを見る(見せられる)と、圧倒される。
   採集するだけでなく、いかに見せるかが大切だと痛感した次第である。2006年は
  展示、発表元年にしたいものだ、と思っている。
  ( 2005年12月訪問 )

2. 場所

   中津川市夜明けの森 高峰湖の北側にあり、苗木地方を代表する鉱物の”水晶”を
  イメージした六角柱ガラス張りのエントランスが印象的です。
   過去に何回か訪れているが、雪に覆われた建物を見るのは、初めてであった。

    中津川市鉱物博物館

3. 展示内容

 3.1 企画展 「中部地方の鉱物展」
     2005年9月現在、世界では約4,000種の鉱物が知られており、日本列島では
    1,000種を超える鉱物の産出が知られている。これは、日本列島がプレート境界
    付近に位置し、地殻活動や火山活動が活発で、幾多の地質現象を経ているから
    である。
     中部地方として、山梨県・静岡県・新潟県・石川県・福井県・長野県・愛知県
    岐阜県そして三重県で、名古屋鉱物同好会の猪飼 一夫氏と石橋 隆氏が
    採集した標本を展示している。

  (1) 中部地方の地質
       中部地方には、下の地質図に示すように、南北に走る糸魚川−静岡構造線
      を挟んで、いくつかの構造帯があり、それぞれから独特の鉱物が産出する。

       中部地方地質図

  (2) 展示鉱物
       今回の展示は、次のように構成されている。
       @ 各地質帯を代表する鉱物
       A 中部地方の新鉱物

             
           展示全体            フォッサマグナ地域展示
                各地質帯を代表する鉱物
  

      各地質帯を代表する鉱物の主なものは、次の通りである。

地質帯概要代表的産出鉱物(産地)
数字は標本一覧の番号
備 考
飛騨帯  片麻岩類や花崗岩類よりなる
片麻岩類は日本列島最古の
先カンブリア紀〜古生代のもの
1.水晶/鉄礬柘榴石(富山県黒嶽)
3.菱亜鉛鉱(富山県亀ケ谷鉱山奥ヒバコ坑)
5.ユークセン石(富山県南砺市祖山)
7.コランダム(岐阜県河合町羽根谷)
12.紫水晶(石川県尾小屋鉱山)
14.自然砒(福井県足羽郡赤谷鉱山)
25.弗素魚眼石(岐阜県飛騨市神岡鉱山)
  
飛騨外縁帯  高圧型変成岩が見られる
蛇紋岩を基質とする
メランジユからは
ひすい輝石岩や曹長石なども
産する
32.ひすい輝石(新潟県糸魚川市小滝川転石)
34.コスモクロア輝石(新潟県糸魚川市大野転石)
39.ストロンチオ斜方ホアキン石
  (新潟県糸魚川市金山谷)
41.ストロナルス石
  (新潟県糸魚川市小滝川転石)
42.蓮華石(新潟県糸魚川市小滝川転石)
43.新潟石(新潟県糸魚川市宮花海岸転石)
旧名:ジョアキン石
美濃帯  ジュラ紀の付加体で
玄武岩・石炭紀〜ペルム紀の石灰岩
ジュラ紀の泥質岩や砂岩が分布
 チャート中にはしばしば
層状マンガン鉱床がみられる
44.方解石(岐阜県大垣市金生山)
47.閃亜鉛鉱(岐阜県中津川市恵那山鉱山)
49.鉄礬柘榴石(岐阜県恵那市河合鉱山)
52.コバルト華(岐阜県関市洞戸鉱山)
53.硫砒鉄鉱(岐阜県山県市相戸鉱山)
55.蛍石(岐阜県下呂市笹洞鉱山)
59.バナジン銅鉱(岐阜県犬山市木曽川左岸)
 
美濃帯〜領家帯 美濃帯と領家帯が入り組んだ地域 61.アレガニー石(長野県辰野町浜横川鉱山)
70.パイロクスマンガン石
  (愛知県設楽町田口鉱山)
73.パイロファン石(愛知県音羽町久田野)
 
領家帯 高温低圧型の変成帯で
領家変成岩と大量の花崗岩類からなる
 花崗岩類にはしばしばペグマタイトが
みられ、花崗岩類の貫入に伴って
ペグマタイト鉱床、気成鉱床、スカルン鉱床
なども形成されている。
76.紅柱石(長野県天龍村向方)
81.褐簾石(三重県津市福田山鉱山)
84.ゼノタイム(三重県津市美杉鉱山)
86.ガドリン石
  (三重県菰野町湯の山温泉近く)
87.鉄礬柘榴石(三重県鈴鹿市入道ケ岳北)
88.蛍石(三重県いなべ市石槫南)
93.トパーズ(岐阜県中津川市蛭川田原)
96フェナス石(岐阜県中津川市蛭川下沢)
100.自然蒼鉛(岐阜県中津川市蛭川恵比寿鉱山)
101.水晶(愛知県瀬戸市暁町丸藤鉱山)
107.フィリップスボーン石
   (岐阜県中津川市蛭川遠ケ根鉱山)
114.黒辰砂(三重県多気町丹生鉱山)
 
三波川帯 低温高圧型の変成帯で
主に緑色片岩などが分布する
 蛇紋岩も分布し小規模ながら
ニッケル・銅などの鉱床も確認され
キースラガー鉱床もある
115.霰石(長野県大鹿村塩鹿)
118.ひすい輝石(静岡県浜松市西黒田)
121.ヒーズルウッド鉱
   (愛知県新城市中宇利鉱山)
124.自然銅(三重県鳥羽市鶴田石材)
127.ゾノトラ石(三重県鳥羽市白木)
 
秩父帯・四万十帯 秩父帯はジュラ紀の付加体で
層状マンガン鉱床などもみられる
 四万十帯は、白亜紀から第3紀にかけての
付加体で、砂岩、泥岩、チャートなどが
分布する
129.マンガノパンペリー石
  (山梨県南アルプス市落合鉱山)
130.ダトー石(静岡県島田市千葉山)
131.サセックス石(三重県度会町栗原鉱山)
134.黄銅鉱(三重県熊野市紀州鉱山)
 
フォッサマグナ地域
伊豆半島
 フォッサマグナはラテン語で「大きな溝」
を意味する
 現在も活動を続ける新しい火山が
南北に連なっている
 伊豆半島は、南方にあった島が
フィリピン海プレートの移動に伴って
第四紀に本州に衝突・付加したもの
137.苦灰石(新潟県新発田市飯豊鉱山)
141.尾去沢石(新潟県三川村三川鉱山)
143.方解石(長野県大町市高瀬川)
144.満バン柘榴石(長野県長和町和田峠)
145.自然金(長野県川上村甲武信(梓山)鉱山)
148.灰鉄ザクロ石
   (長野県川上村居倉(湯沼鉱泉))
151.ヂュモルチ石(山梨県京山梨市京の沢)
152.水晶(山梨県山梨市乙女鉱山)
155.灰重石(山梨県南アルプス市鞍掛鉱山)
156.石膏(山梨県身延町夜子沢)
157.透輝石(山梨県南部町上佐野)
158.自然テルル
   (静岡県下田市河津鉱山桧沢坑)
164.手稲石(静岡県下田市河津鉱山猿喰坑)
167.銀黒(静岡県伊豆市清越鉱山)
 

      新鉱物として展示されていた標本は、次の通りである。

 鉱 物 名
数字は標本一覧の番号
産地備 考
170.園石京都府和束町園鉱山原産地
愛知県・田口鉱山の
ものも展示
171.河津鉱静岡県下田市河津鉱山大沢2号坑 
172.青海石新潟県糸魚川市金山谷 
173.ストロンチオ斜方ホアキン石新潟県糸魚川市金山谷 
174.中宇利石愛知県新城市中宇利鉱山 
175.欽一石静岡県下田市河津鉱山桧沢坑 
176.マンガノパンペリー石山梨県南アルプス市落合鉱山 
177.神岡鉱岐阜県飛騨市神岡鉱山 
178プロト鉄直閃石岐阜県中津川市蛭川田原 
179.糸魚川石新潟県糸魚川市青海川転石 
180.苦土フォイト電気石山梨県山梨市京の沢 
181.蓮華石新潟県糸魚川市姫川転石 
182.松原石新潟県糸魚川市小滝川転石 
183.新潟石新潟県糸魚川市宮花海岸転石 
185.苦土定永閃石岐阜県揖斐町春日 
186.白水雲母愛知県設楽町田口鉱山 
187.セリウムヒンガン石岐阜県中津川市蛭川岩畔石材 

      
                   新鉱物展示

 3.2 常設展示
     2005年、パンニングによって希元素鉱物をアチコチで採集した。改めて常設展示を
    見直してみた。
     ここには、次の3つのコーナーがある。

    (1)日本の3大ペグマタイト鉱物産地である苗木地方の鉱物
    (2)希元素鉱物の研究で著名な長島コレクション
    (3)世界の鉱物

      長島父子の展示コーナ

     手で触れたり、紫外線での蛍光実験、希元素鉱物の放射能強度測定など
    体験を通して、岩石や鉱物をより身近に感じる工夫もなされている。

     
        放射能強度測定器
        【苗木石、フェルグソン石、モナズ石、ウラノトール石の4種】

4.おわりに

 (1) 私たちが訪れた時、見学者は私達だけで、貸切状態でした。
    この日は雪が降っており、東名道や中央道の一部が通行止めになるなど条件が
    良くなかっただけではなさそうです。
     私も、博物館に行ってはじめてこの展示を知ったありさまでした。

 (2) 改めて常設展示を見回してみると、苗木地方で採集された各種の鉱物の立派な
    標本が展示してあるのに気付いた。
     2005年に私が採集した「苗木石」は砂粒に毛が生えた程度であったが、ここには
    長島乙吉氏が採集した1cmを超える標本がある。
     このほか、今では幻の”薬研山のサファイア”などもあり、ため息がでてしまう。

          
        苗木石(木積沢産)         コランダム(薬研山産)
                 長島コレクションの逸品

 (3) 常設展示、特別展示ともに一見の価値があり、この方面にお出かけの折には立寄ら
    れることをお奨めします。

 (4) この日は、恵那峡の川岸にある「かんぽの宿 恵那」に宿泊した。10年ほど前に
    宿泊したときにくらべ、リニューアルして建物、部屋が見違えるように綺麗になり
    ふんだんなお湯につかった後に食べた地元産の牛肉、野菜を生かした料理は
    絶品であった。
     翌朝、前の晩に降った雪で一面銀世界となった恵那峡の眺めも見事であった。

      恵那峡

5.参考文献

 1)中津川鉱物博物館:第19回私の展示室 鉱物は語る大地の記憶
               −中部地方の鉱物− 展示図録,同館,2005年
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