中津川市鉱物博物館では、いろいろな切り口で鉱物や石を身近に感じてもらえるような企画を開催している。
”色”という切り口では、たしか、2010年の同じ時期に、「赤い鉱物 あかい石」という企画展を開催したはずだ。
・ 岐阜県苗木地方の「サファイア」 その2
( Sapphire from Naegi Area -Part 2 - , Gifu Pref. )
「あおい鉱物 みどりの石」、と問われると、読者の皆さんはそれぞれ思い浮かべる鉱物や石があるはずだ。12月
17日まで開催しているので、それを確かめに、訪れてみてはいかがだろうか。
入館料は、中学生以下は無料、高校生以上320円で、JAFカードの提示や団体だと割引がある。会期中の
休館日は上のポスターに書かれている。
( 2017年8月 情報 )
写真の左手前のショーケースの中には、「天河石(アマゾナイト)」のブラジル産巨晶と2つの国産標本が展示して
ある。一つは、「長野県南木曽町田立」産、もう一つは私が住む「山梨県甲府市黒平(くろべら)」産だ。
田立の”ヤンゾレ”という場所だと、「日本希元素鉱物」にはあるのだが、地元で聞いても知っている人はいなかった。
国道19号線を中津川に向かって走っていると、妻籠の8キロほど手前に「→柿其(kakizore)渓谷」の標識がある。
「其」と書いて「ぞれ」と読ませるようで、「ヤンゾレ」のゾレも「其」と書くのだろうか。現地を何回か訪れているが、
「ゾレ」は似たような地形を指すこの辺りの方言のようだ。
左のブラジル産アマゾナイトが皆さんには何色に見えますか? 私の眼には”緑色”に見えるのですが。天河石は、
”石”こそついているが立派な”鉱物”だから、”あおい鉱物”の例として展示してあるのだろうか。ここまで書いて、今回
の展示が、なぜ漢字で”青い鉱物 緑の石”、と書かなかったかが解った。
黒毛の馬の名前が”あお”であったりすることからわかるように、やまと言葉の「あお(あを)」は、緑〜青緑〜青〜
青紫まで幅が広いほか、一部「くろ(暗色)」をも指しているのだ。したがって、今回の企画展は、これら”寒色系”の
鉱物や石を展示している、と理解しておけば、変な突っ込みは入れないだろう。( Yさん、お気をつけあれ )
右手前にあるショーウインドウには、「岩絵の具」に使われる”あおい鉱物”が何種類か展示してある。一番手前の
左端にあるのは、「山梨県身延町産の石英(碧玉)」だ。
■ 鉱物を色づかせる遷移元素
鉱物が着色する代表的な理由は、遷移元素というグループ(周期表の第3族から第11族)の金属が含まれて
いるからだ。
銅が錆びた「緑青(ろくしょう)」が青緑色をしているように、青や緑に発色するのは銅(Cu)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、
チタン(Ti)、ニッケル(Ni)などが含まれるからだ。
「藍銅鉱【Cu23+(CO3)2(OH)2】」は、その主成分の銅イオン(Cu2+)によって深いを青色を示す。「ブルーサファ
イア」と呼ばれるコランダム【Al2O3】は、わずかに含まれるチタン(Ti4+)と鉄(Fe2+)によって、鮮やかな青色になる。
■ 自色と多色
藍銅鉱のように含まれる主成分によって着いた色を「自色」、ブルーサファイアのように含まれる微量元素によって
色づいたのを「他色」、と呼ぶ。
■ 色と光
夕立の後などに虹を見た経験があるだろう。プリズムを使って人工的に虹を作ることができる。
図の下から太陽光をプリズムにあてると、表面で反射する光と屈折してプリズムの中を進み、再び屈折して出て
くる。出てくる光は回折光と呼ばれ、紫→青→緑→黄→赤と色が連続的に変化する光の帯を観察できる。これを光の
スペクトルという。
無色(白色:はくしょく、ともいう)に見えた太陽の光は、いろいろな色の光が混じり合っていることがわかる。
われわれ”ヒト”が見ることができる光を「可視光線」と呼び、波長は380〜780nm(ナノ・メートル:1nmは100万
分の1mm)の範囲で、波長と色の関係は図のようになっている。
わたしたちは目で物をみている。目に入ってくるのは、物の表面で反射したり、物の中を透過してきた光だ。光が
目の中の網膜に映し出した像によって、物の形や色を認識しているのだ。
■ ヒトが色を感じるしくみ
ヒトの網膜の「錐体細胞」には短い波長(青い光)に敏感なS錐体、中くらいの波長(緑の光)に敏感なM錐体、
長い波長(赤い光)に敏感なL錐体の3種類があり、これによって色を識別している。錐体の感度は、カラスは黄色
が認識できない(感度が低い)といわれるように、動物の種類によって違い、ヒトも個人差がある。
赤(R)、緑(G)、青(B)の光の組み合わせで、すべての色が表現できる。青色発光ダイオード(LED)がノーベル
賞を受賞できたのは、それまでにあった赤、緑の発光ダイオードと組み合わせてすべての色が作り出せるようになっ
たからだ。
青〜緑色の鉱物
■ 光の吸収と物の色
先にも述べたように、物に光があたった時に色がついて見えるのは、その物がどの波長の光を吸収するかで決まる。
吸収されなかった波長の光がはね返る(反射)するか、通り抜ける(透過する)かして、目に入ることによって色を
感じるのだ。
例えば、青く見えるものは、白色光で照らしたとき、青い光だけを透過するか反射する物質、言い換えれば青色
以外の色を吸収する物質といえる。
このとき、物質の色と物質が吸収した色を「補色(ほしょく)」の関係にあるという。下の「色度図」の ◎ を挟んで
向かう色同士が補色関係にあり、この2色を加えると”白色”になる。
■ 光を吸収する電子
金属鉱物などの一部を除き、多くの鉱物は透明で、光を透過する。鉱物の集まりの岩石の塊がたいてい不透
明に見えるのは、鉱物の粒と粒の境目で光が反射や散乱してしまうためだ。鉱物の粒と大きさと同じくらいまで
薄くする(薄片にする)と岩石は光を透過するようになる。
透明に見える鉱物は、光(可視光)が結晶の中で吸収されずに通り抜けてくるからだ。石英(透明水晶)のよう
に、可視光線の全ての波長(色)色を吸収せずに透過すれば無色透明に見え、一部の波長(色)の光を吸収
すると、「紫水晶」のように、吸収された色の補色に色づいて見えるのだ。
鉱物の結晶の多くは、酸素などの陰イオンが金属などの陽イオンを取り囲んだ構造が繰り返し並んでいる。陽
イオンが銅(Cu)や鉄(Fe)などの遷移金属だと、遷移金属イオンとそれを取り囲む陰イオンとの結合状態に応じて、
遷移金属の電子が特定の波長の光を吸収する。
吸収される波長は、金属イオンの種類だけでなく、金属イオンを取り囲む陰イオンとの距離の違いなどで変化す
る。主成分の銅イオンによって発色し、化学組成もほぼ似ている「藍銅鉱」と「孔雀石」の色が青と緑で異なるのは
結晶構造のわずかな違いによって、銅イオンの吸収する光の波長が違うためだ。
青〜緑色の鉱物
■ 人造宝石「ヴィクトリア・ストーン」
ヴィクトリア・ストーン(Victoria Stone)は、理化学研究所で放射性鉱物を研究した飯盛里安博士が第二次
世界大戦後に研究・合成に取り組んだ人造宝石だ。
繊維状の結晶構造をしているので、結晶の向きに合わせてカット・研磨するとシャトヤンシー、いわゆるキャッツアイ
効果が現れる。
石英を主原料に、長石、菱苦土石、方解石、蛍石などを配合し、発色剤(顔料)を加え、さらに結晶化を促進
する晶化剤や針状結晶に成長させる晶癖調整剤などの添加物をあわせて1,400度で溶かした後、2日間かけて
ゆっくりと冷してつくられた。
1960年代に量産を開始し、アメリカなどに輸出されて人気を博したが、日本ではあまり知られていない。
■ 青く見え、青川と呼ばれる川
日本の渓谷や海岸の美しさを創り出している要素に青い水がある。2013年の夏休みに孫娘の家族を連れて
富山県黒部峡谷をトロッコ列車で観光した。沿線案内の声は、富山県出身の女優・室井 滋さんだ。2017年
9月現在、BSで再放送されている「花子とアン」では主人公・ハナの母親役だ。
「黒部川の水が青いのは、花崗岩の成分が水に溶けているため」、と列車の中で室井さんの解説があった。
花崗岩を構成する石英や長石、そして雲母などの微粒子が青以外の色を吸収するからだろう。
・
夏の観光旅行・トロッコ列車 − 北陸ミネラル・ウオッチング行 -
( Sightseeing and Mineral Watching in Hokuriku Area , Summer 2013 )
さて、博物館がある中津川市内を流れ木曽川に注ぐ付知川(つけちがわ)には、青緑色の石が多くみられる。
これは付知川の上流〜中流に広く分布する濃飛流紋岩の礫だ。
付知川の流域には、濃飛流紋岩の中でも暗緑色〜黒色をした苦鉄質鉱物(角閃石、黒雲母、輝石など)が
多く含まれる溶結凝灰岩(火砕流で運ばれた火山灰が固まった岩石)が多く、川床や河原の石が青味を帯びて
いることが、この川が「青川(あおかわ)」と呼ばれる理由の一つだ。
表 中津川市鉱物博物館 「あおい鉱物 みどりの石」 展示標本リスト
展示品の中に山梨県産の標本が「天河石」と「玉髄」で4点ある。アメリカ合衆国産が12点と一番多いのだが
国産では地元岐阜県の7点に次ぐ多さで、チョッピリ嬉しくなる。
中津川市鉱物博物館にも、ミュージアムショップがあり、国内外の鉱物標本、書籍、パンニング皿などの採集
用具、「ミネラライト」などの鑑定用具、そして標本箱・ケースなどの整理用品まで販売している。
今回は、昨年開催した企画展の図録が売られていたので購入した。
また、鉱物関係の膨大な量の蔵書がある。それらを自由に閲覧でき、私が持っていない文献のコピーが欲し
ければ、A3サイズまで1枚白黒10円、カラー50円という、コンビニと同じかそれより安い料金でやってもらえる。
今回、福井県の博物館が出している報告書にあった、「水晶学者・市川新松」や「砂金産地」などの情報を
コピーしてもらった。これで、次のミネラル・ウオッチングが一段と面白くなりそうだ。
(2) 介護雑感
妻の母親の介護にかかわるようになって1年になる。黙って観察していると、ディサービスに行かない日は、”やる
事がない”のだ。若い頃は、料理学校に通ったりした人だが、今では料理を作るということは全くない。それは
危ないので火を使わせないようにしていることもあるからだが。そうなると、テレビを見ているか、椅子に座ってうたた
寝をしている時間が多くなり、痴呆が進むのでは、と気になっていた。
お盆休みに山梨に連れて来た時、雑巾を縫ってもらった。針に糸を通すのは無理だろうと、私がやってあげよう
としたが老眼が進んだのかうまく通らない。それを見かねたのか「私にかしてごらん」、針と糸を受け取ると、一瞬で
糸を通してしまったのには驚いた。
新聞、テレビを見るのに眼鏡がいらないのは、20年も前に受けた白内障の手術で入れたレンズの度がピッタリ
あっているからだろうか。この日は、雑巾2枚を縫ってくれた。
ディサービスから帰ってくると「今日はキュウリをたくさん切って忙しかった」、と話していたのを思い出し、キュウリや
ゴーヤを刻んでもらったがその手つきは現役の主婦(妻のこと)に一歩も引けをとらない見事なものだ。
9月になって母親の家に行くと、真新しい雑巾が何枚かあった。山梨での体験で裁縫を思い出し、自分で
作ったようだ。
さて、自分の老後を考えたとき、無為にでなく、できれば有意義に時間を過ごす術を持ち合わせているだろうか、
と自問する。答えを見つけて、準備しておかねばと思う。