岐阜県中川辺のセラドン石

       岐阜県中川辺のセラドン石

1. 初めに

 『2004年 鉱物採集納め -Part2- 能登・加賀の鉱物』のページを読まれた、千葉の石友
Mさんから次のようなご質問のメールをいただいた。

『嘗て『静岡県河津町やんだの沸石採集』の記事を拝読致しました、『やんだ』では
モルデン沸石に共生するセラドン石を沢山確認されたと思いますが、『恋路海岸の緑色霰石』
とは『セラドン石が霞石に含まれた物』の事でしょうか?』

 そこで、『石川県恋路海岸のセラドン石』なるページをまとめたところ、これを読んだ
滋賀県の石友・Nさんから次のようなメールとともに、セラドン石の結晶を採集できる場所が
あると教えていただいた。

 『こんばんは、HPにセラドン石が載っていたので一言。京都の石友・Nさんに案内して
  いただいてセラドン石の結晶を採集に行ったことがあります。
  松原先生「日本の鉱物」の「鉱物の産地ガイド14」にある中川辺です。ガイドにある様に
  ここの沸石は他の産地に比べて小さい物が多くそれ程、多くの人が興味を示す産地では
  ありませんが、エリオン沸石は偶に立派な物が出ますし、目玉のセラドン石結晶は他では
  見られない貴重な物だと思います。他に毬栗状で鶯色の結晶があり初めはこれがセラドン石
  結晶と思ったのですが褐色から肌色までよく似た結晶が見つかり火山岩特有の粘土鉱物
  かなと考えたりしています。』

 松原先生の「日本の鉱物」は持ってはいるが、産地ガイドの該当ページは読み飛ばしていた。
 今回、滋賀県鉱物巡検の旅の途上、産地に立ち寄ってみた。各種の沸石、玉髄、珪化木
など、一通りの鉱物は採集できたが、"セラドン石"”エリオン沸石”は採集できなかった。

 自宅に持ち帰った沸石を含む母岩を、40倍の実体顕微鏡で探しても見つからないので
母岩が違うのか、産出(採集)するポイントを外しているのか、悩みます。こうなると、どうしても
探したくなるのが人情で、再チャレンジを期している。
 このように、私のHPを仲立ちにして、大勢の人たちのコミュニケーションの輪が広がればと
願っています。
 情報をいただいたMさん、Nさんに厚く御礼申し上げます。
(2005年4月採集)

2. 産地

   松原先生の「日本の鉱物」に地図入りで詳しく説明されている通り、「川辺ダム」の下流
  右岸です。

     中川辺産地

3. 産状と採集方法

   川岸に広がる玄武岩、安山岩からなる崖(全体としてなだらかだが、一部急斜面)のいたる
  ところに白〜黒の「珪化木」が見られ、これらを含む母岩の気孔部分に各種の沸石が見られ
  気孔を充填する形で、玉髄が産する。
   「珪化木」には、赤、黄色、白の玉髄や方解石が塊状〜脈状に入り込んでいる。
   「珪化木」を産することから、火山噴出物が立ち木を巻き込んで流れ下り堆積して生成した
  岩体と思われる。
   真っ黒い玄武岩質(めちゃくちゃ堅い)の部分と赤渇色の安山岩質(軟らかい)の部分を
  適当にハンマーとタガネで掻き取リますが、玄武岩の部分にはあまりの堅さに、ギブアップした
  形跡がいくつも残っています。(折れたタガネの先端食い込み、タガネの穴だけ等)

         
       火山噴出物      珪化木【左上の赤茶色の点は折れたタガネ】
                   中川辺産状

4. 採集鉱物

 (1)珪化木【Petrified Wood:SiO2】
     木材の繊維や組織を蛋白石が交代したもので、砂礫層中にあった材木に地下水の珪酸が
    沈殿してできたもので、木目や年輪が判るものもある。
     その際、地下水中の鉄分など各種の元素の影響で、赤、黄色などに着色した玉髄や方解石が
    嵌入しているものもある。

         
           玉髄を伴う           方解石を伴う
                        珪化木

 (2)玉髄【Chalcedony:SiO2】
     玄武岩や安山岩の気孔内壁を”仏頭状(ぶどう状)”の乳白色半不透明の玉髄が覆っている。
    破断面には、年輪状に珪酸が積み重なった跡が見られ、長い時間をかけて生成したことが
    推測できる。

     玉髄

 (3)輝沸石【Heulandite:Ca(Al2Si7O18)・6H2O】
     母岩の気孔を埋める形で最も量的に多く産する。名前の通り、”輝き(ガラス光沢)”が強い
    短柱状透明結晶で、劈開面は(虹色に:打痕の影響?)真珠光沢を示す。
     ほかの産地では六角薄板状で産することが多いが、ここのものは、厚板であったり
    いくつかの結晶が連晶や貫入双晶をなすケースも多いため”コロッ”とした短柱状に
    見える。

     輝沸石

 (4)灰十字沸石【Phillipisite:K2(Ca,Na)4(Al3Si5O16)2・12H2O】
     全てが双晶をなして産するといわれ、真っ白〜半透明、正方細長柱状結晶で
    頭の部分は、斜めに切れ上がった”ピラミッド状”の錐面を持っている。
     長さは、最大でも0.5mm弱で、40倍の実体顕微鏡で辛うじて、結晶の形が確認できる
    程度である。
     錐面を上から見ると名前の由来である、”十文字”の形を示すのかも知れないが
    あまりに微細なため確認できない。

     灰十字沸石

 (5)方解石【Calcite:CaCO2】
     安山岩の裂罅(割れ目)を充填するかたちで、方解石脈があり、一部に結晶面も見られる。
    黄色に着色しているのは微量元素の影響と思われる。

     方解石

5. おわりに

 (1)今回、お目当てのセラドン石が採集できなかったので、どのような母岩にくるのかを
    滋賀県の石友・Nさんから次のようなメールで教えていただいた。

   『セラドン石はどの母岩にも来るようで一個あればその回りには幾つか出てきます。
    でも小さいので見落とす事があると思います。
    エリオン沸石は玄武岩から出るようです。白色短毛状で肉眼ではモルデン沸石の様に
    きれいには見えませんが濡れてもぺっしゃとしないのが嬉しいです』

 (2)古い地学雑誌を読んで、私のHPに取り上げた「セラドン石」「海緑石」がともに”雲母類”に
    属する同じ仲間であることを初めて知った。
     雲母類鉱物は、28種類あるとされ、そのうち、日本で産出が知られているのは
    「日本産鉱物種1992年版」によれば21種類で、それらは次の表の通りである。
    これらのうち、No16〜No21が独立した種として認められているのか、確認できていません。

    これらのうち、既に採集したもの、産地やその近くまで行ったが採集できていないもの
    稀産なため現金採集したものなどがあることがハッキリした。
    今後、これらの穴埋めも課題です。

No 和名 英名化学式主な産地
ソーダ雲母ParagoniteNaAl2(AlSi3O10(OH)2)兵庫県加保
白雲母MuscoviteKAl2(Al,Fe,Mg)2(AlSi3O10(OH,F)2)茨城県山ノ尾
海緑石Glauconite(K,Na)Al2(AlSi3O10(OH)2)石川県
セラドン石CeladoniteK(Fe,Mg,Al)2(Si4OO10(OH)2)岐阜県中川辺
ロスコー(バナジン)雲母RoscoeliteKV2(AlSi3O10(OH)2)群馬県茂倉沢
砥部石Tobelite(NH4,K)Al2(AlSi3O10(OH)2)愛媛県砥部町
金雲母PhlogopiteKMg3(AlSi3O10(F,OH)2)山口県六連島
黒雲母BiotiteK(Mg,Fe)3(AlSi3O10(OH,F)2)山梨県黒平
鉄雲母AnniteKFe3(AlSi3O10(OH,F)2)岐阜県河合鉱山
10リシア(鱗)雲母LepidoliteK(Li,AL)3(AlSi3O10(F,OH)2)茨城県妙見山
11チンワルド雲母ZinnwalditeKLiFeAl(AlSi3O10(OH,F)2)岐阜県蛭川村
12益富雲母MasutomiliteKLiMnAl(AlSi3O10(F,OH)2)滋賀県田上山
13真珠雲母MargariteCaAl2(Al2Si2O10(OH)2)大分県木浦鉱山
14クリントン石(旧ザンソフィル石)ClintoniteCa(Mg,Al)2_3(Al2Si2O10(OH)2)埼玉県石灰沢
15木下石KinoshitaliteBaMg3(Al2Si2O10(OH,F)2)京都府法華寺野
16絹雲母【白雲母の微細なもの】Sericite-山梨県鳳来鉱山
17加水雲母【アルカリが不足しH2Oの多い雲母】Hydromica--
18イライト(加水白雲母)Hydromuscovite=Illite(K,H2O)Al2(Si,Al)4O10(H2O,OH)2-
19加水金雲母【Kが不足しH2Oの多い金雲母】Hydrophlogopite--
20加水黒雲母【Kがやや不足しH2Oの多い黒雲母】Hydrobiotite--
21マンガン雲母【Mnに富む金雲母または黒雲母】Manganophyllite--

 (3)HPの愛読者の質問と石友のアドバイスを契機に、今まで一顧だにしなかった地味な鉱物を
    見直し、採集に行く好機となった。
    MさんとNさんに、厚く御礼申し上げます。

6. 参考文献

 1)松原 聰:日本の鉱物,Gakken,2003年
 2)松原 聰:日本産鉱物種,鉱物情報,1992年
 3)加藤昭:沸石読本,関東鉱物同好会編,1997年
 4)地学研究会:鱗雲母,地学研究 VOL.38 nos7〜9 標本玉手箱,1989年
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