2015年 ミネラル・ウオッチング納め 『長谷(ながたに)の正長石』











         2015年 ミネラル・ウオッチング納め
           『長谷(ながたに)の正長石』

1. はじめに

    『2015年 ミネラル・ウオッチング納め』の3日目、つまり最終日はN夫妻に「大阪府長谷の長石」産地
   を案内していただいた。
    最近では、新鉱物「大阪石」などが発見され大阪府でも鉱物が採れることが知られるようになったが、
   私が「長谷の正長石」を知った30年以上前は、「大阪府に石が採れるところがある」とは全く知らず、
   長谷の産地がどんなところなのかイメージすることすらできなかった。

    三田市のNさん宅を8時に出て、Nさんの車の後を追う。日曜日の朝なので渋滞もなく、宝塚市を抜け
   鉱山があった猪名川を経て車はスイスイと進む。30分余りで産地の入り口に到着した。

    どんな産状の産地で、どのように採集するのか、”ワクワク”のミネラル・ウオッチングになった。

    ( 2015年12月 採集 2016年1月 マネバハ式双晶 追加 )

2. 産地

    「日本の鉱物」には大阪府豊能郡能勢町長谷(ながたに)とある。N夫妻に案内してもらうまで、産
   地は ” はせ ” だとばかり思いこんでいた。長谷寺は ” はせでら ”、長谷川一夫は ” はせがわ
   かずお ”、だから、当然 ” はせ ” だと30年以上も思い込んでいた。

    走った跡をトレースしようと道路地図を見ていると宝塚市にも「長谷」という地名がある。多田銀山の
   北にあたっているようで、ここも”ながたに”と読む。

    県道602号線から南に入ったが、すれ違いできないような狭い道で路面はえぐれた所や水たまりがあり、
   車高が低い普通乗用車で走行するのは厳しかった。1〜2キロ走ったところで車を降り、さらに狭い山道
   を200mも歩くと産地だ。

    
                     産地地図

    山梨県だと、「平沢の氷長石」産地へのルートに似た雰囲気だった。もっとも、ここほど急な坂はなか
   ったが。

3. 産状と採集方法

    長谷あたりから兵庫県篠山にかけて「佐曽利凝灰角礫岩」と呼ばれる中生代後期の火山砕屑岩が
   分布している。おおよそ1億年も前、ちょうど「丹波竜」が生きていた時代に生まれた岩石だ。
    この中に「正(アルカリ)長石」と「高温石英」が斑晶として入っている。それが長い年月で風化・分解
   して、斑晶が山道に散らばって落ちている。
    この季節は落ち葉を掻きわけてこれを拾うだけのお手軽採集だ。しかし、”Mineralhunters" たる
   者、分離斑晶を拾って喜んでばかりはいられない。やはり、母岩付きを採りたくなる。道端に一抱えも
   ある岩が落ちている。それを見ると凝灰角礫岩で、これをできるだけ大きくて完全な「正長石」結晶が
   でている箇所をハンマーで掻き取ることも忘れない。
    さらに、カルルスバッド式双晶など結晶形がシッカリして、しかも大きいものを探すには地面を熊手で
   掘ってみるという手もある。

      
                 採集風景

4. 採集鉱物

    『鉱物標本は、母岩付きがベスト』なので、母岩の凝灰角礫岩に「正長石」と「高温石英」の結晶が
   ついたものをいくつか採集した。

      
                 母岩付き「正長石」と「高温石英」

    分離結晶として採集できるのは、「正長石」と「高温石英」だ。

 (1) 正長石【ORTHOCLASE:KAl3O8
      表面のガラス光沢を失った灰白色の短柱状結晶で産出する。長石は粘土鉱物化しやすいため、
     表面にチョークのような粉を吹いていたり、鉄分で茶褐色に染まっているものが多い。表面が”すべ
     すべ”しているものは20%くらいだろうか。

      このような産地での私の楽しみ方の一つは、採集した標本を結晶の形態で分類して出現頻度を
     統計的にとらえてみることである。
      水洗い・乾燥させた後で頭と柱面の両方が観察できる標本は全部で74個あり、それを大まかに
     分けてみた。

       
                   正長石の大分類

      パッと見て、「単晶」が少なく、「双晶」が多いのに気づかれるだろう。単晶は5個しかなくて、全体
     の7%弱と貴重だと知った。

      正長石の双晶には、主なものとして「カルルスバッド式」、「マネバハ式」、そして「バベノ式」がある。
     分類している段階で圧倒的に多いと判った「カルルスバッド式」は、仮にA,B,Cと名付けて細分化し
     てみた。これらの分類結果を下の一覧表に示す。

大分類 中分類 小分類
(私案)
標本数 出現比率      結  晶  図       写     真     備   考
単晶 5 7%  
双晶 カルルスバッド
(Carlsbad)
A 9 12% 2つの結晶の
C軸が交差

 ”ちがい石”
タイプ

B 28 38% 2つの結晶の
C軸は平行
C 28 38% 2つの結晶の
C軸は平行

 ”並行連晶”に似る

バベノ
(Baveno)
2 3%  「黒平(くろべら)」など
微斜長石の産地では
産出が希な結晶形
マネバハ
(Manebach)
1/343
 0  
0.3%
0% 

      N夫妻恵与品
 今回、産出を確認できず

 後日、N夫妻から恵与
いただいた。
 出現確率 0.3%

輪座(3連晶) 2 3%  3個の結晶が
”巴(ともえ)”
   全        体 74 100%      

      難しいだろうと思っていた「バベノ式」双晶が採集できたのに、「マネバハ式」双晶が全く採れなかっ
     たのは意外だった。
      長谷の「マネバハ式」双晶の結晶図なども見かけるので採れるはずだ・・・・・。また一つ、再訪す
     る課題ができたようだ。

      【後日談】
      2015年12月に訪れた「兵庫県大身山鉱山」のページの最後に、  『 人が採れるものは採れる 』 
     と書いたところ、N夫人から、『 人が採れないものを採る!! 』、と豪語する(!?)メールがあった
     のを思い出し、「マネバハ式双晶の重品があれば、恵与いただきたい」、とメールした。

      2日ほどして、「マネバハ式1つと それかな?というのを送ります」とメールがあり、今朝宅配便で届
     いた。
      その中の1つは、明らかに「マネバハ式」で、上の表に写真を追加した。送っていただいたほかのは、
     私の分類の「カルルスバッド式」BかCタイプだった。
      折り返し、お礼とともに「何個の採集品の中にあったのか」 を問い合わせると2014年採集197個
     2015年採集156個、合計343個の中に1個だけだったと教えてくれた。「マネバハ式」双晶の出現確
     率は、0.3%で、まさに”千に三つ”だ。( Yさん、本来の”せんみつ”の意味は違いますね。 )

      このように貴重な標本を恵与いただいたN夫妻に、改めて感謝している。

 (2) 高温石英【High Tempareture QUARTZ:SiO2
      黒ずんだガラス光沢の12面体(水晶の錐面を2つ合わせた形)で母岩の中や分離結晶として見ら
     れる。石英が870〜573℃の高温で示す結晶形が12面体だということを読者はご存知のはずだ。

      産地には、長石と高温石英どっちが多いかというくらいにあるのだが、持ち帰った標本は7粒だけ
     だった。長石が「長谷」の主役だとすると、高温石英は”脇役”だが、なかなかの役者だということを
     帰宅してから知り、「もう少し持ち帰れば良かった」、とい悔やんだが後の祭りだった。

      その理由は、長谷の高温石英には、 c{0001}面 をもつものがあるということだ。c面の理想形は
     c軸(上下軸)に垂直な正六角形を示すことから”底面”と呼ぶこともある。ただ、理想的な形は希
     なのは結晶の常で、”窪みがいくつかある曲面”にしか見えないから、知っていなければ見逃してしま
     いそうだ。これを発見された高田雅介氏の慧眼(けいがん)には恐れ入る。

         
                   結晶図                          採集標本
                         長谷産『c{0001}面』をもつ高温石英

      7粒しかないから発見するのは難しいかな、と思いつつルーペで探すと3粒にc面を観察でき、出現
     頻度は高いので、お持ちの方は探してみてはいかがでしょう。
      高温石英の単晶は少なく、写真のようにいくつかの結晶が複合して産出するので、双晶もありそう
     だが、調べ切れていない。
      結晶と結晶の間に緑色塊状の鉱物が見られるものがあり、「緑簾石」だろうと思っている。

5. おわりに

 (1) 石友に感謝
      2015年は、2年任期の町内会役員最後の年であったりして、ミネラル・ウオッチングに行く機会は
     少ない年だった、と思い込んでいた。

      ミネラル・ウオッチングに行くと、石友に教えてもらった〇秘産地でもない限りHPに掲載することに
     しているので、HPの更新回数がアクティビティのバロメータになっているはずだ。
      HPを立ち上げた1999年に遡って、年ごとの更新回数をグラフにまとめてみた。

      
                            HP更新回数の推移

      日本経済と同じように、2002年をピークに長期下落傾向にあったが、2011年を底にして、”V字”
     とまではいかないが、徐々に増加傾向にあるのが分析してみてはじめてわかり、われながら驚いてい
     る。
      2015年は、直近5年では一番多かったことになる。63回更新しているから、6日に1回更新している
     計算になる。もっとも、ピークの2002年には3日に1回更新していたから、その半分のペースだ。

      HPが更新できるということは、ミネラル・ウオッチングに行けるということで、案内したり誘ってくれる
     石友や案内を頼まれる教育関係者やこどもたちがいるからで、感謝している。

      今回、『2015年 ミネラル・ウオッチング納め』を普段訪れることが全くない関西の産地を石友・
     N夫妻に案内していただき、貴重な標本を恵与していただき、『新井鉱山の自然銀』を自力でも
     採集でき深く感謝している。

      2016年も大勢のこどもたちから老若の善男善女の石友と新しい産地をご一緒できるのを楽しみに
     している。

6. 参考文献

 1) 益富 寿之助:鉱物,保育社,昭和60年
 2) 益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1995年
 3) 高田 雅介:日本産鉱物の結晶形態,ペグマタト誌100号記念出版,2010年
 4) 下林 典正:大阪府能勢町長谷産の”底面をもつ”高温石英中のc{0001}面の
            カソードルミネッセンス観察,日本鉱物科学会2012年年会講演要旨集,2012年








inserted by FC2 system