三田市のNさん宅を8時に出て、Nさんの車の後を追う。日曜日の朝なので渋滞もなく、宝塚市を抜け
鉱山があった猪名川を経て車はスイスイと進む。30分余りで産地の入り口に到着した。
どんな産状の産地で、どのように採集するのか、”ワクワク”のミネラル・ウオッチングになった。
( 2015年12月 採集 2016年1月 マネバハ式双晶 追加 )
走った跡をトレースしようと道路地図を見ていると宝塚市にも「長谷」という地名がある。多田銀山の
北にあたっているようで、ここも”ながたに”と読む。
県道602号線から南に入ったが、すれ違いできないような狭い道で路面はえぐれた所や水たまりがあり、
車高が低い普通乗用車で走行するのは厳しかった。1〜2キロ走ったところで車を降り、さらに狭い山道
を200mも歩くと産地だ。
山梨県だと、「平沢の氷長石」産地へのルートに似た雰囲気だった。もっとも、ここほど急な坂はなか
ったが。
分離結晶として採集できるのは、「正長石」と「高温石英」だ。
(1) 正長石【ORTHOCLASE:KAl3O8】
表面のガラス光沢を失った灰白色の短柱状結晶で産出する。長石は粘土鉱物化しやすいため、
表面にチョークのような粉を吹いていたり、鉄分で茶褐色に染まっているものが多い。表面が”すべ
すべ”しているものは20%くらいだろうか。
このような産地での私の楽しみ方の一つは、採集した標本を結晶の形態で分類して出現頻度を
統計的にとらえてみることである。
水洗い・乾燥させた後で頭と柱面の両方が観察できる標本は全部で74個あり、それを大まかに
分けてみた。
パッと見て、「単晶」が少なく、「双晶」が多いのに気づかれるだろう。単晶は5個しかなくて、全体
の7%弱と貴重だと知った。
正長石の双晶には、主なものとして「カルルスバッド式」、「マネバハ式」、そして「バベノ式」がある。
分類している段階で圧倒的に多いと判った「カルルスバッド式」は、仮にA,B,Cと名付けて細分化し
てみた。これらの分類結果を下の一覧表に示す。
大分類 | 中分類 | 小分類 (私案) | 標本数 | 出現比率 | 結 晶 図 | 写 真 | 備 考 | 単晶 | 5 | 7% | 双晶 | カルルスバッド (Carlsbad) | A | 9 | 12% | 2つの結晶の C軸が交差 ”ちがい石” |
B | 28 | 38% | 2つの結晶の C軸は平行 |
C | 28 | 38% | 2つの結晶の C軸は平行 ”並行連晶”に似る |
バベノ (Baveno) | 2 | 3% | 「黒平(くろべら)」など 微斜長石の産地では 産出が希な結晶形 |
マネバハ (Manebach) |
1/343 | 0.3% | N夫妻恵与品 |
今回、産出を確認できず
後日、N夫妻から恵与 |
輪座(3連晶) | 2 | 3% | 3個の結晶が ”巴(ともえ)” |
全 体 | 74 | 100% |
難しいだろうと思っていた「バベノ式」双晶が採集できたのに、「マネバハ式」双晶が全く採れなかっ
たのは意外だった。
長谷の「マネバハ式」双晶の結晶図なども見かけるので採れるはずだ・・・・・。また一つ、再訪す
る課題ができたようだ。
【後日談】
2015年12月に訪れた「兵庫県大身山鉱山」のページの最後に、 『 人が採れるものは採れる 』
と書いたところ、N夫人から、『 人が採れないものを採る!! 』、と豪語する(!?)メールがあった
のを思い出し、「マネバハ式双晶の重品があれば、恵与いただきたい」、とメールした。
2日ほどして、「マネバハ式1つと それかな?というのを送ります」とメールがあり、今朝宅配便で届
いた。
その中の1つは、明らかに「マネバハ式」で、上の表に写真を追加した。送っていただいたほかのは、
私の分類の「カルルスバッド式」BかCタイプだった。
折り返し、お礼とともに「何個の採集品の中にあったのか」 を問い合わせると2014年採集197個
2015年採集156個、合計343個の中に1個だけだったと教えてくれた。「マネバハ式」双晶の出現確
率は、0.3%で、まさに”千に三つ”だ。( Yさん、本来の”せんみつ”の意味は違いますね。 )
このように貴重な標本を恵与いただいたN夫妻に、改めて感謝している。
(2) 高温石英【High Tempareture QUARTZ:SiO2】
黒ずんだガラス光沢の12面体(水晶の錐面を2つ合わせた形)で母岩の中や分離結晶として見ら
れる。石英が870〜573℃の高温で示す結晶形が12面体だということを読者はご存知のはずだ。
産地には、長石と高温石英どっちが多いかというくらいにあるのだが、持ち帰った標本は7粒だけ
だった。長石が「長谷」の主役だとすると、高温石英は”脇役”だが、なかなかの役者だということを
帰宅してから知り、「もう少し持ち帰れば良かった」、とい悔やんだが後の祭りだった。
その理由は、長谷の高温石英には、 c{0001}面 をもつものがあるということだ。c面の理想形は
c軸(上下軸)に垂直な正六角形を示すことから”底面”と呼ぶこともある。ただ、理想的な形は希
なのは結晶の常で、”窪みがいくつかある曲面”にしか見えないから、知っていなければ見逃してしま
いそうだ。これを発見された高田雅介氏の慧眼(けいがん)には恐れ入る。
7粒しかないから発見するのは難しいかな、と思いつつルーペで探すと3粒にc面を観察でき、出現
頻度は高いので、お持ちの方は探してみてはいかがでしょう。
高温石英の単晶は少なく、写真のようにいくつかの結晶が複合して産出するので、双晶もありそう
だが、調べ切れていない。
結晶と結晶の間に緑色塊状の鉱物が見られるものがあり、「緑簾石」だろうと思っている。
ミネラル・ウオッチングに行くと、石友に教えてもらった〇秘産地でもない限りHPに掲載することに
しているので、HPの更新回数がアクティビティのバロメータになっているはずだ。
HPを立ち上げた1999年に遡って、年ごとの更新回数をグラフにまとめてみた。
日本経済と同じように、2002年をピークに長期下落傾向にあったが、2011年を底にして、”V字”
とまではいかないが、徐々に増加傾向にあるのが分析してみてはじめてわかり、われながら驚いてい
る。
2015年は、直近5年では一番多かったことになる。63回更新しているから、6日に1回更新している
計算になる。もっとも、ピークの2002年には3日に1回更新していたから、その半分のペースだ。
HPが更新できるということは、ミネラル・ウオッチングに行けるということで、案内したり誘ってくれる
石友や案内を頼まれる教育関係者やこどもたちがいるからで、感謝している。
今回、『2015年 ミネラル・ウオッチング納め』を普段訪れることが全くない関西の産地を石友・
N夫妻に案内していただき、貴重な標本を恵与していただき、『新井鉱山の自然銀』を自力でも
採集でき深く感謝している。
2016年も大勢のこどもたちから老若の善男善女の石友と新しい産地をご一緒できるのを楽しみに
している。