長野県北部の「水入り水晶」

              長野県北部の「水入り水晶」

1. 初めに

    私のHPを見て頂き、産地の情報を提供したり、案内して差し上げた人たちと長野県北部の
   水晶産地を訪れたのは2009年の晩秋だった。
    このときの様子は、既にHPに掲載したが、滋賀の石友・Oさんはじめ、ほぼ全員が満足で
   きる水晶をズリで採集できたようだ。

    ・2009年 秋のミネラルウオッチング
     ( Mineral Watching Tour in Fall 2009 , Nagano Pref. )

     「松茸水晶」【2009年採集・撮影:Oさん】

    そのすぐ後、私の石友の中で、産地探査能力では1、2を争う石友・ASさんと再び訪れ、産
   状を確認するとともに、各種の水晶を採集でき、これもHPに掲載した。

    ・長野県北部の水晶
     ( QUARTZ from Northern Nagano Pref. )

    古い文献を読むと、この産地が一般に知られるようになったのは、今からちょうど20年前の
   1990年頃らしい。
    「 ・・・・水晶・・・・林道開削当時は多量にあったようだが、今ではあまり見つからない。
     Max5cmくらい。・・・・・・」、とあり、20年も経ってから7cmを越えるのを採った横浜・Tさん
   は、よほど運が強いようだ。また、この当時、林道工事は続いていたようだ。

    別な情報では、『水入り水晶』 が採れる、ともあり、訪れてみることにした。湯沼鉱泉に宿
   泊していた名古屋支部のS一家に連絡したところ、予定が空いているとのことなのでご一緒
   することにした。

    ○△ICでSさん一家と合流し、目的地に直行。先人が掘ったズリの表面を見ると、小さな水
   晶が散らばっている。ズリ採集は女性陣に任せ、私は脈を読んで、露頭を見渡すと、赤茶色
   のガマ粘土がある。Sさんから、ドライバーを借り、”ホジホジ”すると大きくはないが綺麗な
   水晶が出始めた。Sさんの奥さんにバトンタッチし、『お初ガマ』 を楽しんでいただいた。

     『お初ガマ』 を楽しむ

    その場で気付くような大きな「水入り水晶」はなかったが、単身赴任先に戻って、洗浄後
   確認すると、小さいものだが4本あった。Sさんから、「奥さんの採集品に、肉眼で水が動くの
   が見えるのがあった」、と喜びのメールがあった。

    件の文献によると、水晶を採集できる場所は、何箇所かあるようで、他に「葡萄石」や「沸
   石」も採集できそうなので、涼しくなったら、探査してみたいと思っている。
    同行いただいたSさん一家に、厚く御礼申し上げる。
    ( 2010年7月 採集 )

2. 産地

    ここは、有名な産地で、インターネットなどにも情報がたくさんあるので割愛する。

3. 産状と採集方法

    次のような2つの産状が観察できた。

    (1) 堆積岩に縦に貫入した石英脈に伴うタイプ
         比較的新しい時代の堆積岩(砂岩〜礫岩)に貫入した石英脈が太くなった部分に
        ガマ(晶洞)があり、黄褐色や黒色の”ガマ粘土”が見られ、その中に水晶が産出
        する

            
               石英脈          ガマ(晶洞)
                    石英脈に伴う

    (2) 『崩落したガマ(晶洞)』タイプ

      


水晶が生まれたガマ(晶洞)が
崩落し、中にあった水晶が、
斜面の下に転げ落ちて、地山の
土に中に埋もれている。

地山が固く粘結しているので、
ツルハシや熊手で掘り進むと、
”ポツポツ”と出てくる。


    両方の産状から、それぞれの代表的な標本を採集することができた。やはり、ガマ(晶洞)
   から採集した標本は、大きくはないが、”無傷”、”テリ(表面の光沢)が強い”など、素晴らし
   いものだ。

4. 採集鉱物

    今回採集したのは、「水晶」のみだった。「松茸水晶」など形がおもしろいものや「内包物
   (インクルージョン)入り水晶」、特に『水入り水晶』 がある。さらに、『食い違い水晶』が採集
   できた。

    これらから、この産地での成長過程で、成長が休止する時期があり、時期によって熱水の
   組成に変化があったり、水晶が成長した後も地殻変動があったことがうかがえる。

  区 分 小区分     写   真 備 考
母岩付き砂岩  
礫岩  
松茸正常     ”軸”の上に”傘”が
ついた一般的なもの
内包物
(インクルージョン)
入り
水入り


             拡大

”負晶”全体に水が
入っている
気泡入り
 両錐水晶の形をした
負晶(空隙)の中に
水(液体)と
気泡(ガス)が
内包されている。

 水晶を傾けると
気泡が動くのが
わかる。

食い違い  斜め    
斜めに食い違って
再び接着している。

5. おわりに

 (1) 『水入り水晶』
      鉱物の中に、『水入り水晶』、『水入り瑪瑙(めのう)』、と呼ばれるものがある。鉱物を
     動かすと中に内包される気泡(ガス)が動く様が、水の中で泡(あぶく)が動くのに似てい
     ることから呼び習わされたものだろう。

      益富先生の「鉱物」には、『水入水晶』について、1ページを割いて説明しているので、
     引用させていただく。

      『 ・・・・・水入水晶の中の液体がなんであるかということになるが、ふつうの水の場合
       と液体炭酸であることがわかっている。また気泡は炭酸ガスのことが多く、次にチッ素・
       痕跡の程度に硫化水素・亜硫酸ガス・アンモニアが報告されている。・・・・・・
        新潟県佐渡金山は、水入水晶で有名であるが、水晶中の液体は水であるという。
       滋賀県田上地方の紫褐色の水晶中の液体は液体炭酸で、気泡は炭酸ガスである。
       この水晶を31〜32℃に温めてみると、気泡は消失し、冷やすと気泡がふたたび現れ
       る。上記の温度は炭酸の液相と気相とが平衡する臨界温度で、この温度より高くな
       ると液相は膨張し、気相は収縮して消滅し、低くなると液相が収縮し、気相が膨張し
       気泡を再現する。
        佐渡鉱山産や山梨県金峯(峰)山産水入水晶についての実験では32℃を越えても
       気泡は消滅しないので、水晶中の液体は液体炭酸でなく、水ということになるのであ
       る。・・・・・・・                                            』

        長野県北部の産地の『水入り水晶』を32℃以上に温めても、気泡は消滅しないので
       液体は『水』で、『水入り水晶』 で間違いなさそうだ。

6. 参考文献

 1) 益富 壽之助:鉱物 − やさしい鉱物学 − ,保育社,昭和60年
 2) 山田 滋夫:日本産鉱物五十音配列産地一覧表,クリスタル・ワールド,2004年
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