長野県北部のぶどう石









           長野県北部のぶどう石

1. 初めに

    その昔、山梨県が甲斐國といわれた頃から、『 甲斐の名産は、ぶどうと水晶 』、と
   言われていた。
    『 ぶどう 』 にちなむ鉱物と言えば、『葡萄(仏頭)状玉髄』、などもあるが、ズバリ
   『 葡萄石 』、だろう。
    最近でこそ、「ぶどう石」といえば、島根県美保関町古浦ケ鼻(こうらがはな)にその
   座を奪われてしまった感がないでもないが、昭和の末までは、山梨県下部町(現身延
   町)岩欠(いわかけ:杉山とも呼ばれていた)で産するものが、国産では最も有名だった。
    「ぶどう」で有名な山梨県で、珪酸塩鉱物の一種である「ぶどう石」が産出する場所が
   ある、と知り、平成元年(1989年)、山梨県に転勤になるとほぼ同時に初めて訪れ、その
   後、2002年に、約10年ぶりに訪れた時にも、ぶどう石などを採集することができた。
    2006年5月に、月遅れGWミネラルウオッチングに参加する兵庫県の石友・Nさん
   夫妻を案内して約4年振りに訪れたが、500円硬貨大の標本を1つ発見できただけで
  ”ほぼ絶産”状態だった。

   古い文献を読んでいると、長野県北部で、「葡萄石」が採集できるとあり、2010年8月
  産地を訪れた。林道沿いの転石の晶洞には、「方解石」を伴って「葡萄石」が観察でき
  いくつか採集する事ができた。

   私より1週間前にここを訪れた愛知の石友・Kさんのメールにあった通り、この時期、
  ものすごい数の「虻(アブ)」に襲われ、虫に弱い人にはお勧めできない産地だ。
  ( 2010年8月採集 )

2. 産地

    ここは、良く知られた産地なので詳細は割愛する。

3. 産状と採集方法

    ここは、第3紀の砂岩、礫岩の互層に貫入した岩塊を林道わきにみることができる。
   貫入岩には、ごく稀に晶洞が見られ、その空隙部分に、「方解石」を伴って「葡萄石」
   が観察できる。

    「ぶどう石」産地

    林道わきの岩壁からの採集は難しく、20年ほど前の林道工事の際に崩した転石から
   晶洞部分をさがす事になる。
    貫入岩は、堅いので、大きめのハンマで、岩角を掻き取るようにして採集する。

4. 産出鉱物

 (1) 葡萄(ぶどう)石【PREHNITE:Ca2AlAlSi3O10(OH)2
      貫入岩の晶洞に、方解石を伴って、球果状をした集合体で産出する。半透明〜
     淡緑色まであり、特に淡緑色半透明のものは、マスカットを思わせ「ぶどう石」と
     名付けられた理由も納得できる。
      普通、「葡萄石」の結晶は小さく、結晶が集合しても”丸い”球顆のようにしか見
     えないのだが、この産地のものは結晶粒が大きく、方解石に似た斜方晶系特有の
     結晶形が見える。

         
             マスカット               大粒結晶集合
                         ぶどう石

5. おわりに

 (1) 千葉県でも「葡萄石」が採れる!!
      加藤先生の「分類別一覧」を読むと、『鎖状−層状移行型珪酸塩鉱物』、という
     なにやら難しい鉱物の項に、「リューコスフェン石」と「葡萄石」の2種が載っている。

      「葡萄石」の産地として次の4箇所が掲載されている。
       ・ 静岡県徳倉(安山岩)
       ・ 北海道上川郡下川鉱山(広域変成岩)
       ・ 千葉県嶺岡山(変斑糲岩)
       ・ 広島県庄原市久代(スカルン)

      「新鉱物」が発見されるまで、『 石(鉱物)なし県 』、と揶揄された千葉県でも「葡
     萄石」が採集できるとあるではないか。

      これを読んで”ピン”、ときた。最初に千葉県に単身赴任した 2008年、南房総市
     平久里(へぐり)の古い採石場跡を訪れたとき、「葡萄石」らしきものを採集し、写真
     に撮っておいたのを思い出した。改めて写真を見直してみると、”色”、”形”、「葡
     萄石」に間違いなさそうだ。

       千葉県平久里産 「葡萄石」

      このようにして、1つの鉱物、あるいは産地がきっかけになって、いろいろな標本
     や石友などを思い出すことができるのも、『ミネラル・ウオッチングの悦(よろこ)び』
     の1つだ。

 (2) 「岩欠のふどう石」
      2010年に出版された松原先生の「鉱物 ウオーキングガイド 全国版」に、「岩
     欠」の章があり、ここで産出する(した?)「ぶどう石」が紹介されている。
      ここで紹介している辺りを探したはずなのだが、いつか確認に訪れねば、と思っ
     ている。

6. 参考文献

 1) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 2) 加藤 昭:日本産鉱物分類別一覧 −無名会七十五周年記念−,無名会,2008年
 3) 松原 聰:鉱物 ウオーキングガイド 全国版,丸善株式会社,2010年
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