岐阜県苗木地方の「砂金」 その3











        岐阜県苗木地方の「砂金」 その3

1. はじめに

    2010年8月下旬、石友・K夫妻と苗木地方のミネラル・ウオッチングをご一緒し、私は
   『苗木地方の砂金』を採集できた。

    ・岐阜県苗木地方の 「 砂金(自然金) 」
    ( Placer Gold(GOLD) from Naegi Area , Nakatsugawa City , Gifu Pref. )

    さらに、翌9月にも訪れ、「砂金」と「木錫(もくしゃく)」を採集でき、私としては『再現性』を
   確認できた。

    ・岐阜県苗木地方の 「 砂金 」 その2
    ( Placer Gold(GOLD) from Naegi Area - Part 2 -, Nakatsugawa City , Gifu Pref. )

    しかし、『私以外、誰も採集していない』、のが気にかかっていた。9月の探査地の写真
   を石友・Kさんに送ったところ、”有望”とのことなので、一緒に訪れることにした。

    今回の主眼は、次の2点であった。
     @ 私以外、つまり、Kさんか妻が砂金を採集する。
     A 新しい砂金産地を開拓し、「Y川」、「B川」を確定する。

    「Y川」だろうと思われる場所に到着、ここぞと思う場所でパンニングを開始した。ほどなく
   してKさんも到着、パンニングすること、2時間、妻が「あった!!」、と歓声を上げた。
    小さい粒ながら、近くにいたKさんから、間違いないと太鼓判を押される。
    午前中ここで粘ったが、結局妻が採集した1粒しか確認できなかった。それでも、私以外
   の人が採集でき、砂金が産出する事を立証でき、長島乙吉氏の「苗木地方の鉱物」にある
   「Y川」はここで間違いなさそうだ。

    昼食の後、「B川」だろうとにらんだ場所にKさんを案内する。川相をみて、Kさんは、「この
   川は出そうだ」、と言うのに意を強くして川に入る。上下流100mも離れてパンニングする。
    開始して1時間ほど経った頃、「Kさんが大きな○を作っている」、と妻が言う。浅瀬を選
   びながら駆け寄って、パンニング皿の中を見せてもらうと、燦然と黄金色の砂金が輝いて
   いた。
    これで、元気100倍、Kさんが見つけてくれたポイントの土砂をパンニングすると、針金、
   鉄板、鉛弾など”金目”のものが次々にパンニング皿に残り、否が応でも期待が高まる。

     ”金目”のもの

    しかし、出ないのだ。妻はとうに諦め、木陰で休憩している。陽がだいぶ傾き、Kさんの
   「これだけ古鉄や鉛弾が出て、砂金が出ないのは含有量が極めて少ないのだ」、の一言
   でこの日は幕切れとなった。
    砂金が1粒だが採集でき、ここが「B川」である可能性が高くなった。

    翌日、場所を変えて砂金を求めて川に入ったが、錫石だけで、一向に姿を見せない。
   とうとう千葉県まで帰るタイムリミットになってしまい産地(候補地?)を後にした。

    今回もポイントを絞ってくれ、「Y川」産と「B川(?)」産砂金の『強引交換』に快く(??)
   応じていただいたKさんに、厚く御礼申し上げる。

    「Y川」を特定でき、「B川」の可能性のある川で砂金産出を確認でき、これで、『苗木地
   方の砂金』は卒業できそうだ。
   ( 2010年8月探査、9月再訪、9月再々訪、9月探査と採集 )

2. 産地

    長島 乙吉氏の「苗木地方の鉱物」にある産地の1つ「Y川」と「B川」だろうと思われる
   場所だ。
    川のどこでも採集できるわけでなく、極めて狭い範囲でしか採集できないようだ。

3. 産状と採集方法

    川や沢の土砂をパンニング皿に入れ、揺り分けるだけだ。ただ、砂金などの比重の大き
   な「重鉱物」は、俗に”寄せ場”と呼ばれるような地形の場所に溜まりやすいので、そこを
   見つけ出せるか否かがポイントだ。
    また、大きな石の上に生えた”苔”をむしり取って、パンニングするのが有効なことを、
   妻が実証してくれた。

         
              妻                    Kさん
                     砂金採集風景

4. 採集鉱物

 (1) 砂金/自然金【Placer Gold/GOLD:Au】
      黄金色、小さな葉片状で産出する。「B川」と思われる川でKさんが採集した標本で、
     Kさんによれば、「近くの石英脈から抜け出たものだろう」、とのこと。

       砂金(自然金)【採集:Kさん】

      「Y川」では、6粒の砂金と2粒の「木錫(もくしゃく)」を採集できた。この2つの鉱物が
     採集できたのは偶然なのだろうか。あるいは、必然的な理由(わけ)があるのだろうか。

      木錫は、錫石【CASSITERITE:SnO2】や加水錫石【VARLAMOFFITE:(Sn,Fe3+
     (O,OH)2】の微細な粒が、玉髄質石英に混じって沈殿したもので、そのため木の年輪
     に似た円弧状の模様ができたとされる。
      錫石は「気成鉱床」や「ペグマタイト鉱床」に伴われるのが一般的のようだが、木錫
     は、地下からの熱水に含まれる金属成分やケイ酸が沈殿した『熱水鉱床』で生成する
     とされている。
      自然金も代表的な熱水鉱床鉱物の1つで、苗木地方の限られた地域に、熱水鉱床が
     あり、そこで自然金と木錫が生成した、と考えると辻褄(つじつま)が合う。

5. おわりに

 (1) 『苗木地方の砂金』
      千葉県の石友・Mさんがメールで、「 『苗木地方の砂金』は、桜井鉱物標本にはない
     が、和田維四郎鉱物標本に数点ある」、と教えてくれた。

      下記のURLにアクセスし、和名に「自然金」、産地に「中津川」を入れると、岐阜県中
     津川市苗木町産の砂金が表示されるはずだ。

     ・和田維四郎 鉱物標本

      昭和41年(1966年)に出版された長島 乙吉氏の「苗木地方の鉱物」にさえ、『 現在
     殆(ほと)んど産しない』、とある標本を採集でき、同行いただいたK夫妻に厚く御礼を
     申し上げる。

      お蔭様で、「苗木地方の砂金」は卒業できそうだ。

 (2) 中津川鉱物博物館・「あかい鉱物展」
      そろそろ展示図録が出来上がる頃なので中津川鉱物博物館に電話で問い合わせ
     ると、「10月初旬になりそうだ」、とのこと。

 (3) あの暑さが嘘のように一転して肌寒さすら感じる秋が到来した。沢筋でパンニングして
    疲れた腰を伸ばそうと土手を見ると、彼岸花、別名、曼珠沙華(マンジュシャゲ)が真っ
    青な秋空を一人占めするかのように咲いていた。思わず”パチリ”。
     代わり、と言っては何ですが、とりあえず、”赤い華”をお届けします。

       彼岸花

     【後日談】
       このページを読んだ千葉の石友・Mさんからメールをいただいた。

       「 山口誓子の『つきぬけて天上の紺曼珠沙華』とは『赤い華』の写真にピッタリで
        すね。
         ・・・・・・・情けない事に高校生の頃は山口誓子を女性と勘違いしていました 」

       私は、同じ山口でも素堂の代表句『目には青葉 山ほととぎす 初鰹』を5、7、5の
      はずだから、『目に青葉・・・・』とばかり思い込んでいました。

6. 参考文献

 1) 藤浪 紫峰
    桜井 欽一:おにみかげ紀行 我等の鉱物,昭和8年〜昭和9年
 2) 長島 乙吉:苗木地方の鉱物,岐阜県中津川市教育委員会,昭和41年
 3) 草下 英明:鉱物採集フィールド・ガイド,草思社,1988年
 4) 中津川鉱物博物館:第11会 企画展 石に聞こう! 20億年のあゆみ −岐阜県の石−
                 同館,平成19年
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