岐阜県苗木地方の 「 砂金(自然金)」









          岐阜県苗木地方の「 砂金(自然金)」

1. 初めに

    私の好きなフィールドの1つが岐阜県苗木地方だ。理由は、いくつかある。

    1.日本3大ペグマタイト産地の1つ
       福島県石川地方、滋賀県田上地方と並んで、ペグマタイト鉱物産地として、煙水晶
      トパズそして緑柱石など日本を代表する素晴らしい標本を産出した。
    2.日本希元素鉱物研究の誕生地
       「日本希元素鉱物」を著した長島乙吉氏の故郷であると同時に、「苗木石」、「恵那
      石」(いずれも鉱物名としては、「変種ジルコン」)などが発見された場所で、日本の
      希元素鉱物研究の誕生地
    3.多彩な人々
       錫鉱採掘の後に東京で鉱物標本店・金石舎を経営した高木勘兵衛、栃木県の山
      奥の西沢金山、そして苗木の錫鉱採掘を経営した高橋 源三郎など、多彩な人々の
      活躍の舞台だった。

     このような訳で、鉱物だけでなく、先人たちの足跡を追って、幾度となくこの地を訪れ
    ている。
     2010年7月、神奈川県の石友・kさんのブログに、『苗木地方で砂金採集』の記事が掲
    載された。湯之奥金山博物館の「砂金堀大会」でKさんに会ったとき、産地を聞くと、私が
    既に何回か訪れている場所だった。
     8月中旬、妻と2人で訪れたが、砂金は一片も見つからなかった。思いあまって、8月
    下旬、現地で砂金の採集方法を直接指導していただいた。
     K夫妻、私たち夫婦の4人で3時間あまりパンニングしたが、砂金は全く姿を見せなかっ
    た。
     何としても苗木地方の砂金を採集してみたい私のたっての希望で、午後から古い文献
    に砂金産出が報じられている別な川を探索する事になった。最初取りついたポイントで
    4人が30分以上パンニングしたが砂金は1片も採れなかった。別なポイントに移動して、
    私の2回目のパンニング皿の底に、黄金色も眩(まばゆ)い砂金が残り、思わず歓声を
    上げた。1粒見つかれば必ずあるのは確実で、ジックリ攻めることにした。

     結局、この日は、私だけが3粒採集できただけで、産出量は極めて少ないようだ。
     永年の念願だった『 苗木地方の砂金 』 を自力採集でき、ポイントを探してくれた上
    ”カッチャ”などの採集用具も貸してくれたK夫妻に厚く御礼申し上げる。
    ( 2010年8月 採集 )

2. 産地

    古い文献に砂金の産出が報じられている有名な川の1つなので、詳細は割愛する。

3. 産状と採集方法

    長島先生の「苗木地方の鉱物」、という小冊子に砂金の産地、などが掲載されているの
   で引用させていただく。

(鉱物)
名称
色沢(モース)
硬度
産地結晶其の他状況用途 備    考
砂金黄金色 B川
Y川
 板状、鱗状、苔状
含金鉱脈の風化によって
生じた砂粒が河水の作用
により運搬せられ沖積鉱床
中に産出した。
貨幣
装飾品
現在殆ど(ほとんど)
産しない

    この小冊子が編まれた昭和41年(1966年)ごろすでに、『ほとんど産しない』、という有
   様だったようだ。

    採集方法は、川底や川岸の土砂をパンニング皿に入れて揺(ゆ)り分ける単純なものだ。

    ただ、どのような場所から土砂を採集するかによって成果が大きく変わるようだ。

    川に生えている草を引き抜いて根っこに付着した土砂をパンニング皿の中で洗う「草引
   き」と呼ばれる方法や河底のブロックの隙間や甌穴(おうけつ:ポットホール)の中などの
   土砂を掬(すく)い集める方法などが良く使われる。

         
             土砂を掬う               「草引き」
                      砂金採集方法

    パンニングしていると思わぬ”金目”のものが出てくる。このように、重たいものが出て
   くるポイントは砂金が採れる確率が高いようだ。

      
         金目のものが続々・・・

4. 採集鉱物

 (1) 砂金/自然金【Placer Gold/GOLD:Au】
      黄金色、葉片状や小さな塊状で産出する。この産地では比重7前後の小さな錫石も
     産出するので、パンニング皿の隅にこれらを洗い集めると、比重約20の砂金が姿を
     現わしてくる。

       砂金(自然金)

 (2) 錫石【CASSITERITE:SnO2
      苗木地方の錫石は、多かれ少なかれ鉄(Fe)を含んでいるようだ。鉄の含有量が多
     いものは”まっ黒”になり、少ないものは”帯褐色”、とされている。
      ここの錫石には、面白いものがある。

      @ 木錫(もくしゃく:Wood Tin)
          破面をみると同心円状の模様が見える。ものの本で読んだり、写真を見たり
         したことはあったが、実物を採集できるとは思ってもいなかった。
          中津川鉱物博物館の展示品の中に、中津川市D川産の木錫標本が展示して
         あり、苗木地方で産出する事は知られていたようだ。

           
             My Collection           中津川鉱物博物館展示品
                         木錫(もくしゃく)

      A 赤色錫石
          この川の錫石には、透明な鉄礬ザクロ石を思わせる赤色錫石が多いような
         気がする。

 (3) フェルグソン石【FERGUSONITE-(Y):YNbO4
      この地方で、俗に『ネズミの糞石』、と呼ばれる黒〜褐色の丸みを帯びた粒状で産
     出する。

         フェルグソン石

5. おわりに

 (1) パンニングの楽しみ
      私がパンニングに興味を持ち始めたのは、2005年6月だった。苗木地方を代表する
     希元素鉱物で、岡本・桜井両先生が「日本の鉱物50種」に選んだ『苗木石』を自力採
     集したかったからだ。
      フルイの目から零れ(こぼれ)落ちるように小さいが比重は石英の2倍前後ある希元
     素鉱物を採集する方法はパンニング以外にないと悟り、自己流で始めた。

      『 3日間で3粒 の苗木石 』、がこのころの戦績だったが、外道でトパズは面白い
     ようにパンニング皿の底に残った。

      私とトパズ採集に同行した石友の多くが、パンニング法の有用性を認め、「フルイ派」
     から「パンニング派」に転向した。

      次にパンニング採集の目標にしたのは、『サファイア』だった。サーフィン小僧(小娘?)
     のサファイアをパニングで採集するのは、理論を知り、”コツ”さえつかめば思ったより
     簡単だった。

      そして、今回の砂金だ。苗木地方の砂金は、北海道の河川を初めとする砂金地帯
     と違い、産出量は極めて少ないようだ。2010年砂金掘り大会で砂金を1粒も見逃さず
     銀メダリストになったKさんの奥さんが1粒も採れなかったことからも、砂金の含有率が
     極めて低いことがうかがえる。

6. 参考文献

 1) 長島乙吉:苗木地方の鉱物,中津川市教育委員会,昭和41年
inserted by FC2 system