・岐阜県苗木地方の「スター・サファイア」
( Star Sapphire from Naegi Area , Nakatsugawa City , Gifu Pref. )
今回、4年ぶりに訪れると、周囲の樹木が成長し、産地が狭くなったような印象を受けたが
良品がでたポイントの様子には変化はなく、むしろ多量の土砂が新たに堆積し、格好の『猟
場』になっていた。
パンニングを始めて2皿目で、破片ながら、『透明ブルーのサファイア』がパンニング皿の
表面に”キラリ”と光り、4皿目で色は今一つだが『六角板状サファイア』が皿の底に残った。
やがて、Mさんも「この小さいのがサファイアですか?」、と言うので拝見すると、まぎれも
なく『累帯構造を示す板状サファイア』だった。
パンニングするMさん
この日、選挙の投票があり、その後千葉県の単身赴任先に戻るため、私たち夫婦は、1時
間ほどでMさんと別れ、産地を後にした。
残ったMさんから、「お陰様で たいへん良い思いをさせて頂きました。お二人とお別れした
後 ■■■には、14時くらいまでいました。昼食を食べることも忘れ パンニングを続けたと
ころ 非常に微細なものまで含め 10粒採集できました 」、とメールがあり、楽しんでいただ
けたようだ。
今回は、案内が目的の短時間のパンニングだったので、われわれの採集品は今一つだっ
たが、『お前ら夫婦は、あれだけ立派な標本を既に採っているのだから、もういらないだろう』
と言う、天の声だ、と納得した。
せっかく、あそこまで行ったので、帰途「中津川鉱物博物館」に立ち寄ると、7月18日〜11
月23日まで開催する『あかい鉱物 あかい石 −鉱物の色の不思議−』展の準備の最中だ
った。
「赤い鉱物」の好きな、ヘナK小隊長にお見せしたい展示だ。期間中に図録の発行も企画
されているようなので、涼しくなってから、訪れてみる予定だ。
4年前に開拓した産地が健在な事を確認でき、同行いただいた石友・Mさんに、御礼を申し
上げる。
( 2010年7月採集 )
2. 産地
長島 乙吉氏の「苗木地方の鉱物」や藤浪 紫峰(桜井 欽一)氏の「おにみかげ紀行」
に記載されている、苗木地方でのサファイア(鋼玉)産地は、下表のとおりである。
一般には、「薬研山」が有名だが、ここは松茸山のため立ち入りが厳しく制限されている
らしい。
「薬研山」以外にも、サファイアが採集できる場所がたくさんあることにも注目して欲しい。
出 典 | 著 者 | 産 地 | 備 考 |
苗木地方の鉱物 | 長島 乙吉
| 馬場川 八幡 薬研山 木積沢 | 「青玉」とある
薬研山のサファイアは
第2次世界大戦中採掘 |
おにみかげ紀行 | 藤浪 紫峰 (桜井 欽一)
| 下澤 一色 薬研山 木積沢 山ノ田川 | |
関東地方の骨董市を巡ると、「東濃苗木名所」、という絵葉書が置いてあった。その1枚に
「東濃壙所」という1枚があった。「壙所」、とは聞きなれない言葉だが、水の流れる沢筋にあ
るので、錫鉱などを掘っていた場所の可能性もある。
そうだとすると、「青玉」は、このような場所からも採集されたのかも知れない。
苗木町全景 東濃壙所
東濃苗木名所
3. 産状と採集方法
3.1 産状
「おにみかげ紀行」には、産状が次のように記述されている。
『 薬研山にては鉄雲母石英脈(鉱物誌には黒雲母花崗岩とあり)中に結晶をなして
産し、その付近なる蛭川村下澤、一色、福岡村木積澤にては之が流出せる砂鉱を
出し、屡々(しばしば)粒状をなす。
苗木町山ノ田川にては砂鉱中に極めて六角柱状のものを出す 』
3.2 採集方法
パンニングで採集する。サファイア(鋼玉)の比重は約4.0で、トパーズの3.5に比べる
と大きく、トパーズが簡単にパンニングで揺り分けられるのだから、サファイアは簡単だ、
と思い込んでいたが大間違いであった。
鉱物の比重
六角薄板状の形状のため、私が”波乗り効果”と名づけた現象が起こり、パンニングの
初期の段階で、皿の外に流れ出てしまうのである。
そこで、「六角板状サファイア」の採集には、”薄皮を剥ぐような”繊細なパンニング技術
が要求される。
これは、文章や絵で説明できるものでなく、実地で教えるしかないだろう。(Mさんは、
わたしのパンニングの様子を動画で記録していた)
4. 採集鉱物
鉱 物 名 (英語名) | 組成 | 説 明 | 写 真 | 備 考 |
鋼玉(コランダム) (CORUNDUM) (Sapphire) | Al2O3 |
青黒色〜青色〜白色
あるいは中心部が青で
周辺が白の累帯構造を
なし、半透明、六角薄板状
結晶として産する。
下2つに見える黒い鉱物は
「鉄リチア雲母」
中心部から6つの角に
向かって放射状に光芒を
放つ、”スターサファイア”
も採集できる。
| |
古くは、「青玉」と
呼ばれていた |
5. おわりに
(1) 産地は健在
この産地を発見したのは、2006年の3月ごろだった。産地付近に立って、”ピンときた”
ポイントがあって、パンニングでサファイアが採集できた。ここは、継続的にサファイアを
含む土砂が堆積しているようで、4年後に訪れると、ちょっとやそっとでは処理できない
量の土砂が新たに積っていた。
ここでは、「トパズ」が全く採れないので、”無茶苦茶”に荒らされることがないのも幸い
しているようだ。
この採集方法だと、他の鉱物産地のように、採ってしまうと消滅するのではなく、自然
に元の状態に回復しているようだ。わたしたち老夫婦にとっては、貴重な『猟場』の1つだ。
産地へ行きしな、新たな土取り場があるのに気付いたので、帰りに立ち寄ってみた。
ペグマタイト脈が走っているが幅数cmで、晶洞はなさそうだった。それでも、梅雨時の強
い雨でできた『土柱』の上に、可愛らしい「煙水晶」が乗っていたので、新産地の記念に
持ち帰ってきた。
『土柱』 煙水晶
新産地
(2) 「あかい鉱物」展
帰途、久しぶりに「中津川鉱物博物館」に立ち寄ると、7月18日〜11月23日まで開催す
る『あかい鉱物 あかい石 −鉱物の色の不思議−』展の準備の最中だった。
「赤い鉱物」の好きな、北の大地に駐屯しているヘナK小隊長にお見せしたい展示だ。
期間中に図録の発行も企画されているようなので、涼しくなってから、訪れてみるつもり
でいる。
中津川鉱物博物館 「あかい鉱物」展
6. 参考文献
1) 藤浪 紫峰
桜井 欽一:おにみかげ紀行 我等の鉱物,昭和8年〜昭和9年
2) 長島 乙吉:苗木地方の鉱物,岐阜県中津川市教育委員会,昭和41年
3) 中津川鉱物博物館:第11会 企画展 石に聞こう! 20億年のあゆみ −岐阜県の石−
同館,平成19年