岐阜県苗木地方の鉱物











               岐阜県苗木地方の鉱物

1. はじめに

    2010年8月から9月にかけて、『苗木地方の砂金』を求めて、何回か訪れ、「砂金」、「木錫
   (もくしゃく)」などを初めて採集できたのは、既報の通りである。

    ・岐阜県苗木地方の 「 砂金 」 その3
    ( Placer Gold(GOLD) from Naegi Area - Part 3 -, Nakatsugawa City , Gifu Pref. )

    砂金を求めて、川や沢を移動すると思わぬところにペグマタイト脈があったり、パンニン
   グ皿の中に思いもかけないような品が残る事もある。
    また、産地から産地に移動する際に見かけた古い採石場に居合わせた持ち主に断って
   立ち入らせてもらうと、手つかずの”晶洞(ガマ)”があった。同行の石友・Kさんにとって
   『お初ガマ』、となり、中から煙水晶、長石だけでなく、「緑柱石」が飛び出し、『古泉に水
   枯れず』
を実感した。

    同行いただいた石友・K夫妻に厚く御礼申し上げる。
   ( 2010年8月〜9月探査と採集 )

2. 産地

    長島 乙吉氏の「苗木地方の鉱物」や加藤先生ほかによる「鉱物採集の旅 東海地方
   をたずねて」にあるにある範囲だ。

 2.1 トパズ付き煙水晶産地
      ここは、サファイアを求めて訪れた場所だ。サファイアを産するXポイントは、気成鉱
     床とされ、トパズがでてもおかしくないのだが、過去10回近く訪れているのに、トパズ
     どころかまともな水晶すら見かけなかった。
     

 2.2 川沿いのペグマタイト脈
      熱水鉱床性の砂金や木錫が産出する川や沢では、気成鉱床由来のトパズをほとん
     ど見かけない。
      このような場所なので、ほとんど人が入っていないので、手つかずのペグマタイト脈
     が隠れているようだ。

       川沿いのペグマタイト脈【B川?】

 2.3 古い採石場
      苗木地方には、数多くの採石場があった。しかし、それらのほとんどが採掘を止めて
     10年、20年という長い時間が経っている。
      今回、産地から産地へ移動する際、古い採石場があった事を”ふと”思い出した。車
     を止めて近付くと、孫の子守りをしている採石場の持ち主がおられ、断って、手ぶらで
     見学させてもらい、写真だけ撮らせてもらった。
      ここは、加藤先生ほかの本に、「・・・運がよいと、煙水晶、長石、緑柱石、トパズ、・・
     が採集できます」、とあるが、今どき、そんなうまい話はないだろうと思っていた。

       採石場跡

3. 産状と採集方法

 3.1 パンニング
      パンニングしていると、ペグマタイト塊や晶洞から抜け落ちたと思われる水晶などが
     パンニングの初期の段階で見つかる事がある。
      石英の塊でも、ハロが来ているところを注意深く観察すると、希元素鉱物が見つかる
     こともある。

 3.2 ハンマとタガネ
      採石場跡や川沿いのペグマタイト脈の晶洞(ガマ)から、煙水晶、長石などの標本を
     採集するには、ハンマとタガネで欠き採るしかない。

      採石場跡で、Kさんが、バベノ式長石があるのに気付き、欲しいというので、持ち主
     に話すと快く採集を許可してくれた。
      その岩盤を眺めると、晶洞の入り口が見え、結構奥につながっているようなので、こ
     ちらを本命にして叩き始めた。
      晶洞(ガマ)から直接採集するのを見るのは、Kさんにとって初めての経験とのことで
     『お初ガマ』となった。

      非力な私が難渋しているのを見かねた持ち主が来て、ハンマとタガネで面白いように
     晶洞壁を壊し、次々と標本を取り出してくれた。

      その手元を見ていると、タガネの持ち方、ハンマの叩き方、すべてが絵になっていて
     参考に写真を撮らせていただいた。
      これと好対照なのが、松原先生の「鉱物観察ガイド」の表紙の絵である。2つ並べて
     見ていただくと、違いが良く分かるはずだ。

         
            熟練者           「鉱物観察ガイド」表紙
               ハンマとタガネの使い方

       違いの判らない読者がおられたら、下のページを見ていただければお解りいただ
      けるだろう。

      ・鉱物採集の技(4) タガネ
       ( Technology of Mineral Watching (4) " Chisel " , Yamanashi Pref. )

4. 採集鉱物

 (1) トパズ付き煙水晶【TOPAZ on Smoky QUARTZ:Al2SiO4(F,OH)2/SiO2
      ほとんど川ずれや欠けのない煙水晶の裏面に、庇面式、柱状の小さなトパズがビッ
     シリ付いている。

             
              表                  裏                 拡大
                           トパズ

 (2) 緑柱石【BERYL:Be3Al2Si6O18
      基本は六角柱状、緑色なのだが、円柱状のものが多い。左の晶洞から採集したもの
     は透明・六角柱状で、頭の部分は円柱状になっている。
      右のペグマタイト脈から産出したものは、不透明、円柱状の結晶が長石に埋もれて
     いる。

          
                晶洞産               ペグマタイト脈産
                          緑柱石

 (3) チンワルド雲母【ZINNWALDITE:KLiFeAl(AlSi3)O10(F,OH)2
      六角板状〜柱状で産する。内側と外側で組成(成分)が、”画然”と変わり、いわゆる
     累帯構造を示す。
      『チンワルド雲母は、希元素鉱物の道しるべ』、と言われる通り、この採石場跡から、
     「水晶」、「長石」などのほか「緑柱石」、「トパズ」そして「蛍石」などが産出した。

          
                  六角板状                  六角柱状
                           チンワルド雲母

 (4) 蛍石【FLUORITE:CaF2
      紫色、透明感のある粒状結晶で晶洞の中に産出する。透明の中に紫の帯が入った
     累帯構造を示すものもあり、結晶の成長環境が劇的に変化する事が何回かあったよ
     うだ。

        蛍石

 (5) ゼノタイム-(Y)【XENOTIME-(Y):YPO4
      緑褐色、不透明の正八面体だが、a面が発達し、階段状ピラミッドのような外観を示
     す。

        ゼノタイム

 (6) 曹灰長石/灰長石の組成相【Labradorite/Composition phase of ANORTHITE
                       :(NaAlSi3O850-30(CaAl2Si2O850-70
      割れた面は、”おぼろ月”を思わせ、『月長石(ムーン・ストーン)』で、独特の光沢が
     ある。結晶質の部分は透明感があり、”青白い燦光”を発し、『ラブラドライト』である。
      苗木地方では、曹長石が葉状連晶(アルバイト式集片連晶)で産する事は目にしてい
     るのだが、曹灰長石が出るとは気づかなかった。
      今回、Xポイントの転石として、そして砂金産地Y川のペグマタイト脈の2か所で採集
     しており、広い範囲で産出する可能性がある。
      Y川のペグマタイト脈から「ゼノタイム-(Y)」を伴って産出し、加藤先生の「ペグマタイ
     ト鉱物」によれば、『・・・(ゼノタイム-(Y)の)共存鉱物は、・・・灰曹長石・・・・」とあり
     灰曹長石と曹灰長石が混じっているのかも知れない。

        「ラブラドライト」

 (7) 微斜長石【MICROCLINE:KAlSi3O8
      白色、不透明、柱状結晶で晶洞の中に煙水晶と一緒に産出する。単晶で産出する
     ことは希で、ほとんど双晶をなしている。
      写真の手前側は「カルルスバット式」、奥が「バベノ式」双晶になっている。

      この長石には、「トパズ」が成長している。

        「微斜長石」

5. おわりに

 (1) 『苗木地方の魅力』
      この2ケ月あまり、「苗木地方の砂金」を求めて、4回ほど苗木地方を訪れ、「砂金」
     だけでなく「木錫(もくしゃく)」も初めて採集できた。

      これらの鉱物が採れない日でも、今回紹介したような標本が採集でき、改めて、苗
     木地方が日本有数の鉱物産地である事を認識した。

      今回、古い採石場跡での採集を楽しむことができたが、持ち主の了解を得た上です
     ので、無断で立ち入ることのないようお願いします。

 (2) レア・アースから思い出すこと
      尖閣列島の日本領海に侵入した中国漁船の船長逮捕を受け、中国が日本向けの
     レア・アース(希土)鉱物の輸出をストップするという対抗措置にでた。
      レア・アース産出量の90%を中国が占めている、と言われる。レア・アースを止めら
     れると、日本の最先端技術に支えられた輸出産業は大打撃を受けることになり、中国
     人船長を釈放せざるを得なかったようだ。

      私の好きな鉱物ジャンルの1つ、「希元素鉱物」は、その名の通り、レア・アースの
     代表的なものだが、日本国内では産出種こそあるものの、現在の最先端産業が必要
     とする量を供給するには、あまりにも少なすぎる。

      レア・アースで思い出すのは、私がいたH製作所が昭和40年代に、「キド・カラー」と
     呼ばれたカラーテレビを開発、発売したことがあげられる。
      ブラウン管の蛍光面に、希土(キド)元素を使ったのが愛称の由来だった。確か、船
     体に愛称を染め抜いた飛行船が全国を巡回したような気もする。
      次に、発売したのが、「ポンパ」だった。「ポン」とスイッチを入れると、「パッ」と画像が
     現われるのが売りで、大ヒットした。
      それまで、ブラウン管の画面を光らせる電子ビームを曲げる回路(偏向回路)には、
     高い電圧がかかるのでトランジスタでは難しく、真空管が使われていたのだ。真空管
     は、スイッチを入れても、フィラメントが加熱され、熱電子が放出されるまで10秒前後
     画像を見ることができなかったが、トランジスタ化で、瞬時に画像を見られるようになっ
     た。

      このトランジスタ、確か2SC9○5〜7シリーズ、の生産工程で使われる装置を私が設
     計した。まだ、結婚する少し前のことだった。
      この生産が成功し、年末に社長から表彰されることになり、私の上司が受賞した。
     上司は、私を寿司屋に連れて行き、「好きなものを注文しろ」と言ってくれた事を思い
     出している。

6. 参考文献

 1) 藤浪 紫峰
    桜井 欽一:おにみかげ紀行 我等の鉱物,昭和8年〜昭和9年
 2) 長島 乙吉、弘三:日本希元素鉱物,日本礦物趣味の会内
                長島乙吉先生祝賀記念事業甲斐、昭和35年
 3) 長島 乙吉:苗木地方の鉱物,岐阜県中津川市教育委員会,昭和41年
 4) 草下 英明:鉱物採集フィールド・ガイド,草思社,1988年
 5) 加藤 昭:造岩鉱物読本,関東鉱物同好会編,1998年
 6) 加藤 昭:ペグマタイト鉱物読本,関東鉱物同好会編,2000年
 7) 中津川鉱物博物館:第11会 企画展 石に聞こう! 20億年のあゆみ −岐阜県の石−
                 同館,平成19年
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