岐阜県苗木地方のトパズ(黄玉)

       岐阜県苗木地方のトパズ(黄玉)

1. 初めに

   2007年4月に開催した恒例の「GWミネラルウオッチング」の初日は、雪、雷雨に会い
  早々に宿の「湯沼鉱泉」に引き上げた。いつもなら夕食後に開催する「標本玉手箱」と
  「オークション」を15時から始めた。

   そのとき、愛知県のSさんの奥さんが、最近岐阜県の某所(S川)で採集したというトパ
  ズ(黄玉)を”チラッ”とお披露目した。何でも、ご主人が『川浚い(かわさらい)』で採集し
  たらしい。

   ここにその写真を示せないのは残念だが、『青緑色、透明、川ズレ跡なし』、まさに宝
  石級の逸品である。普段、ふるい掛け品には全く関心を示さない愛知県の石友・KAさん
  までも、産地を聞き出そうと、躍起だった。

   その数日後、奈良県の石友・Yさんから、『川浚い』なる長文が送られてきた。さらに数
  日後『続 川浚い』も送られてきた。これらを読むと、SさんとYさんがたびたびトパズ探し
  に出かけていて、宝石級のトパズを採集した経緯などがおぼろげながら分かってきた。

   そうこうしている内、当のSさんから、「トパズ採集に行きませんか?」 と声を掛けていた
  だき、2つ返事でOKした。

       採集風景

   初日に案内していただいた沢、川はいずれも『川浚い』された跡も生々しく、思ったよう
  な良品は全く見つからなかった。2日目、パンニング・マップを片手に、新しい産地を探索
  することにして、いくつかの川、沢でパンニングを繰り返した。
   とある沢で、私の妻が「結晶のシャープなトパズ」を採集し、その同じポケット(凹み)で
  「パンニングを始めて、一番の美品」を拾い上げた。
   帰宅して、針鉄鉱(褐鉄鉱)で薄汚れた塊を蓚酸でクリーニングしたところ、「800
  カラット余りのトパズの大塊」
だったことが判明し、ビックリ仰天した。

   2日間、ご一緒いただいたSさん一家に、厚く御礼申し上げる。
  ( 2007年6月採集 )

2. 産地

    長島先生の小冊子「苗木地方の鉱物」にはペグマタイト鉱物や砂鉱の産地の解説と
   地図が付いている。発行が昭和41年(1966年)と、40年以上前のものである上、10万
   分の1の地図なので詳しい場所まではわからない。
    今回のように知っている人に案内していただくか、自分で嗅覚を働かせてポイントを
   探さないと無駄骨になり兼ねない。

    今回、新しい産地を探索する目的で、過去に採集できたポイントを書き込んだ2万
   5千分の1の地図を持参した。

   
                  パンニング・マップ【公開延期】

    しかし、よくよく考えるとこのマップはあまり役に立ちそうもないことに気付いた。なぜ
   なら、この地図に書かれた過去に産出したポイントは、既に他の人によって徹底的に
   採集され尽くされていることが多いのである。
    むしろ、『 ここはダメ × 』 の情報も併記された地図の方が無駄を省く点で、多く
   の人に役立ちそうだ、と思い至った次第である。

3. 産状と採集方法

   苗木地方でパンニングで採集できる鉱物は、もともと花崗岩ペグマタイトの晶洞の中
  にあったものである。周りの花崗岩が永い間の雨風で風化・浸食され、堅い晶洞部分も
  崩落し、低い部分に転がり落ちて集積(堆積)したものである。

   地元の古老から、現在山の中の窪地のようなところに、「明治時代には錫鉱採掘場が
  あった」、と言う話も聞いた。山の中では、水がないためパンニングは不可能に近い。
   その点、沢や川ならふんだんに水があり、パンニングが容易なことから、『川浚い』と
  なる訳である。

   先にも述べたように、めぼしい場所やHPなどで紹介された場所は、既に多くの人によ
  って、”浚いつくされた感”がある。そこで、私の経験から良品を得るポイントは次の通り
  である

    @ だれも入っていない産地を開拓する。
       石をひっくり返した跡や”フルイかす” が見当たらない。
    A 先にやった人が手をつけなかった場所
       大岩の蔭や深みなど
    B 人が見過ごしているところ
       川浚いする人は、川底は見るが、川の壁は見ていないことが多い。
    C 数多くのサンプリングで、その沢(川)の良否を判定する。
       ”川擦れ”がほとんどない採集品があることなどから、晶洞が川底にある場合
       ほとんど動かずに眠っているものがある。この場合、このポイントの下流では
       小さなカケラしか採れず、この沢はダメ、と判断してしまうことがある。

       今回のポイント

    採集方法は、Sさん一家やYさんは”フルイ”を使っているが、Nさん夫妻や私たちは
   パンニング一辺倒である。
    パンニングに慣れれば小さなトパーズまで見逃すことがない。小さなものがほとんど
   で、土砂に含まれる量が極めて少ない希元素鉱物は、パンニング以外採集の手はな
   いだろう。
    トパズや希元素鉱物は石英などを含む土砂より比重が大きく重いため川の深いと
   ころに堆積しやすく、土砂をすくい上げるのにスコップだとゴム手袋をしていても腕ま
   で水に濡れてしまい具合が悪い。
    ”カッチャ”があると、上記のAもクリアでき、極めて具合が良い。

4. 産出鉱物

 (1) トパズ(黄玉)【TOPAZ:Al2SiO4(F,OH)2
     無色透明〜青緑色〜酒黄色(古酒やウイスキーの色)、短柱状〜長柱状結晶で
    産する。石友・Mさんによれば、苗木地方で産出するトパズのうち、短柱状結晶は
    ペグマタイトの晶洞起因で、細長い柱状結晶はグライゼンのような脈が大元らしい。
     苗木地方の柱状結晶は、f(021)面が発達している「庇面式(ひめんしき)」と呼ば
    れ、m(110)面とl(120)面には”縦に条線”が見られる。

     庇面式結晶図

     奈良の石友・Yさんは、フルイ掛けなので、トパズと欠けた水晶や石英片と区別が
    難しいと言うが、皿の底に最後まで残るので結晶の形や色がどのようなトパズでも
    鑑定は簡単である。

     今回採集できたトパズの代表例は次の通りである。左のものが、「パンニングを
    始めて、一番の美晶」、右のものが「800カラット余りの大塊」 である。

          
        完全結晶【105カラット】      大きい結晶【815カラット】
                      トパズ

5. おわりに

 (1) ”カラット”という単位を用いた理由は、奈良の石友・Yさんからいただいた次のよう
    なメールがキッカケである。

     『 大兄の仰る通り 1ct(カラット)=0.2g=200mg です。
      地球の贈物たる貴重なる鉱物で有る宝石を計量するのに使用されている単位を
      使う事で自分の採集した物は単なる石では無く、宝石なのだと認識しつつ、尚、
      嬉しい事にカラット表記をするとグラムの5倍になりますので実に気分が良いから
      自己陶酔しつつ、自分の採集したトパーズの貨幣価値は全く無視して重量表記
      をカラットとしております。                               』

 (2) 美晶を採集した場所は、未だ浚える土砂が一杯残っていたが、遠方のわれわれは
    そのままにして帰宅した。翌週、Sさん一家が残りの土砂を浚って、私たちが採集した
    よりも一回り大きな美晶を採集した、と喜びの写メールがあった。

     ” メデタシ、メデタシ ” である。

 (3) Sさんの奥さんが披露したのは、「トパズ」だけでなく、「鏃(やじり)」が2つあった。考
    古学も好きな私としてはこちらの方がより興味をそそられた。

     パンニングしていると、不思議な形の石がでてきた。”石器”だろう、と思い、30万点
    の石器コレクションを持っている長野県の石友・Yさんに見てもらうと、『 約5000年前
    の石匙(せっぴ)で、動物の肉きり、皮剥ぎ、なめしや植物の実の刈り取りなどに使用
    したらしい 』

       石匙

     以前、パンニングをしている私たち夫婦の目の前を、母親に連れられた数匹の”ウ
    リ坊(イノシシの子供)”が横切ったことがあった。苗木地方は、縄文時代には今以
    上に自然の実りが豊かで、暮らしやすかったのだろう。

6. 参考文献

 1)和田 維四郎:日本鉱物誌(初版),東京築地活版製造所,明治37年
 2)長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,長島乙吉先生祝賀記念事業会,1960年
 3)長島 乙吉:苗木地方の鉱物,中津川市教育委員会,昭和41年
 4)松原 聡:日本産鉱物種,鉱物情報,2002年
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