そのとき、愛知県のSさんの奥さんが、最近岐阜県の某所(S川)で採集したというトパ
ズ(黄玉)を”チラッ”とお披露目した。何でも、ご主人が『川浚い(かわさらい)』で採集し
たらしい。
ここにその写真を示せないのは残念だが、『青緑色、透明、川ズレ跡なし』、まさに宝
石級の逸品である。普段、ふるい掛け品には全く関心を示さない愛知県の石友・KAさん
までも、産地を聞き出そうと、躍起だった。
その数日後、奈良県の石友・Yさんから、『川浚い』なる長文が送られてきた。さらに数
日後『続 川浚い』も送られてきた。これらを読むと、SさんとYさんがたびたびトパズ探し
に出かけていて、宝石級のトパズを採集した経緯などがおぼろげながら分かってきた。
そうこうしている内、当のSさんから、「トパズ採集に行きませんか?」 と声を掛けていた
だき、2つ返事でOKした。
初日に案内していただいた沢、川はいずれも『川浚い』された跡も生々しく、思ったよう
な良品は全く見つからなかった。2日目、パンニング・マップを片手に、新しい産地を探索
することにして、いくつかの川、沢でパンニングを繰り返した。
とある沢で、私の妻が「結晶のシャープなトパズ」を採集し、その同じポケット(凹み)で
「パンニングを始めて、一番の美品」を拾い上げた。
帰宅して、針鉄鉱(褐鉄鉱)で薄汚れた塊を蓚酸でクリーニングしたところ、「800
カラット余りのトパズの大塊」だったことが判明し、ビックリ仰天した。
2日間、ご一緒いただいたSさん一家に、厚く御礼申し上げる。
( 2007年6月採集 )
今回、新しい産地を探索する目的で、過去に採集できたポイントを書き込んだ2万
5千分の1の地図を持参した。
しかし、よくよく考えるとこのマップはあまり役に立ちそうもないことに気付いた。なぜ
なら、この地図に書かれた過去に産出したポイントは、既に他の人によって徹底的に
採集され尽くされていることが多いのである。
むしろ、『 ここはダメ × 』 の情報も併記された地図の方が無駄を省く点で、多く
の人に役立ちそうだ、と思い至った次第である。
地元の古老から、現在山の中の窪地のようなところに、「明治時代には錫鉱採掘場が
あった」、と言う話も聞いた。山の中では、水がないためパンニングは不可能に近い。
その点、沢や川ならふんだんに水があり、パンニングが容易なことから、『川浚い』と
なる訳である。
先にも述べたように、めぼしい場所やHPなどで紹介された場所は、既に多くの人によ
って、”浚いつくされた感”がある。そこで、私の経験から良品を得るポイントは次の通り
である
@ だれも入っていない産地を開拓する。
石をひっくり返した跡や”フルイかす” が見当たらない。
A 先にやった人が手をつけなかった場所
大岩の蔭や深みなど
B 人が見過ごしているところ
川浚いする人は、川底は見るが、川の壁は見ていないことが多い。
C 数多くのサンプリングで、その沢(川)の良否を判定する。
”川擦れ”がほとんどない採集品があることなどから、晶洞が川底にある場合
ほとんど動かずに眠っているものがある。この場合、このポイントの下流では
小さなカケラしか採れず、この沢はダメ、と判断してしまうことがある。
採集方法は、Sさん一家やYさんは”フルイ”を使っているが、Nさん夫妻や私たちは
パンニング一辺倒である。
パンニングに慣れれば小さなトパーズまで見逃すことがない。小さなものがほとんど
で、土砂に含まれる量が極めて少ない希元素鉱物は、パンニング以外採集の手はな
いだろう。
トパズや希元素鉱物は石英などを含む土砂より比重が大きく重いため川の深いと
ころに堆積しやすく、土砂をすくい上げるのにスコップだとゴム手袋をしていても腕ま
で水に濡れてしまい具合が悪い。
”カッチャ”があると、上記のAもクリアでき、極めて具合が良い。
奈良の石友・Yさんは、フルイ掛けなので、トパズと欠けた水晶や石英片と区別が
難しいと言うが、皿の底に最後まで残るので結晶の形や色がどのようなトパズでも
鑑定は簡単である。
今回採集できたトパズの代表例は次の通りである。左のものが、「パンニングを
始めて、一番の美晶」、右のものが「800カラット余りの大塊」 である。
『 大兄の仰る通り 1ct(カラット)=0.2g=200mg です。
地球の贈物たる貴重なる鉱物で有る宝石を計量するのに使用されている単位を
使う事で自分の採集した物は単なる石では無く、宝石なのだと認識しつつ、尚、
嬉しい事にカラット表記をするとグラムの5倍になりますので実に気分が良いから
自己陶酔しつつ、自分の採集したトパーズの貨幣価値は全く無視して重量表記
をカラットとしております。 』
(2) 美晶を採集した場所は、未だ浚える土砂が一杯残っていたが、遠方のわれわれは
そのままにして帰宅した。翌週、Sさん一家が残りの土砂を浚って、私たちが採集した
よりも一回り大きな美晶を採集した、と喜びの写メールがあった。
” メデタシ、メデタシ ” である。
(3) Sさんの奥さんが披露したのは、「トパズ」だけでなく、「鏃(やじり)」が2つあった。考
古学も好きな私としてはこちらの方がより興味をそそられた。
パンニングしていると、不思議な形の石がでてきた。”石器”だろう、と思い、30万点
の石器コレクションを持っている長野県の石友・Yさんに見てもらうと、『 約5000年前
の石匙(せっぴ)で、動物の肉きり、皮剥ぎ、なめしや植物の実の刈り取りなどに使用
したらしい 』
以前、パンニングをしている私たち夫婦の目の前を、母親に連れられた数匹の”ウ
リ坊(イノシシの子供)”が横切ったことがあった。苗木地方は、縄文時代には今以
上に自然の実りが豊かで、暮らしやすかったのだろう。