岐阜県苗木地方の希元素鉱物

       岐阜県苗木地方の希元素鉱物

1. 初めに

   愛知県の石友・I さんは、自宅から比較的近い岐阜県苗木地方をフィールドに
  している。ご当地の名前がついた「苗木石」を採集したいと、「苗木地方の鉱物」を
  片手に何度か訪れているとメールをくれた。
   この小冊子は、中津川市鉱物博物館の前身・長島鉱物コレクション展示館が
  昭和41年(1966年)に開館するのに際して、長島乙吉氏が書いたもので、昭和
  35年(1960年)に出版した「日本希元素鉱物」にある「岐阜県苗木地方・・・・」の
  章を抜書きし、地図はその当時の実情に合わせ改訂したもので20ページ余りの
  ものである。
   Iさんから、そのコピーと「苗木石」を含むとされる山ノ田川の砂が届いたので
  早速パンニングしたところ微細な「褐簾石」が1、2ケあるのみで、「苗木石」は
  なかった。
   Iさんは、土砂をルーペでのぞきながら、青緑色をした結晶を探し出しているとの
  ことで、これが「苗木石」だろうと考えているものが追っかけて送られ鑑定依頼が
  あった。しかし、残念ながらそれらは全て「高温石英」であった。
   2005年の冬の寒さも一時ほどではなくなったので、立春を機に次回のミネラル
  ウオッチングの下見を兼ねた「パンニングによる希元素鉱物ウオッチング」を
  開催した。
   I さんとSさんの案内で、「狩宿川」、「中津川市鉱物博物館」、「山の田川」
  「ろくがほった」そして「恵比寿鉱山」など、私が初めて訪れる産地もあり、パン
  ニングを楽しむことができた。
   I さんは、トパーズ(6ミリ角・狩宿)スズ石(最長部1cm・狩宿)、煙水晶(3センチ
  ・ろくがほった)鉄重石(3ミリトパーズ付・恵比寿)などを採集したが、「苗木石」は
  採集できなかった、とメールいただいた。

   『 希元素鉱物が希(まれ)なる所以が判った 』 とは、Iさんの弁です。

   私たち夫婦は、「かんぽの宿恵那」に一泊し、翌朝起きてみて一面の銀世界に
  びっくり仰天したが、「木積沢」、「ろくがほった」そして「狩宿川」を訪れた。2日間
  掛けたこともあって、「苗木石」「フェルグソン石」を初めとする希元素鉱物やチン
  ワルド雲母を内包するトパーズなどを採集できた。実体顕微鏡サイズなら「苗木石」は
  確実に採集できることも解った。
   案内、同行していただいたIさんとSさん一家そしてKさん夫妻に厚く御礼を
  申し上げます。
  ( 2006年2月採集)

2. 産地

    長島先生の小冊子にはペグマタイト鉱物や砂鉱の産地の解説と地図が付いて
   いるが、40年も前のものである上、10万分の1の地図なので詳しい場所までは
   わからない。今回のように知っている人に案内していただくか、自分で嗅覚を
   働かせてポイントを探さないと無駄骨になり兼ねない。

   
           産地【「苗木地方の鉱物」から引用】

3. 産状と採集方法

   今回は、「パンニングによる」と銘打ったとおり、花崗岩ペグマタイトにあった
  トパーズ、希元素鉱物などが花崗岩の風化・崩落で川に流され堆積した土砂を
  水の中でパンニングしながら採集した。補助的に”フルイ”を使ったり、産地に
  よっては表面採集も有効な場所もあったが、パンニングに慣れれば小さな
  トパーズまで見逃すことがない。小さなものがほとんどで、土砂に含まれる量が
  極めて少ない希元素鉱物は、パンニング以外採集の手はないだろう。
   希元素鉱物は比重が大きく重いため川の深いところに堆積しやすく、土砂を
  すくい上げるのにスコップだとゴム手袋をしていても腕が水に濡れてしまい
  2005年12月に冷たい思いをしたので、急遽”カッチャ”を持って行ったが
  正解であった。
   山梨県身延町の湯之奥金山博物館に行き、カッチャ大(10,000円)を買い、ホーム
  センターで鍬の柄(1,480円)とクサビ大(288円)を買い、夜なべ仕事で組み立てた
  ものであった。
  ( 北海道出身のKさんの実家には”カッチャ”があるとは、うらやましお話です)

      
       カッチャ          Kさん夫妻とI さん         Sさん一家
                       採集風景

4. 産出鉱物

   産出鉱物と訪れた産地毎の産出頻度を示す。
   記号は、◎:多量にある ○:採集可能 △:産出は確認  空欄:未採集
  であるが、1回だけの結果であり、何回か通ったり違う場所なら産出を確認できる
  かも知れない。逆に言えば、われわれが訪れた場所と違うとところでは採れない
  ことも考えられる。これが、希元素鉱物の難しさであり、面白さでもある。

  鉱  物
 【英語名】
 【化学式】
     採 集 品   産   地 備   考

宿










寿



トパーズ(黄玉)
【Topaz】
【Al2SiO4(F,OH)2
  
       全体

 チンワルド雲母を内包
   恵比寿鉱山産
  内包物は
葉片状結晶の集合で
表面の多色反射光から
チンワルド雲母と判断

和田維四郎の
「日本鉱物誌」初版に
美濃(岐阜県)産の
”黄寶石”(トパーズ)の包嚢物として
緑柱石、電気石
錫石、緑泥石
液体および気体、とある

変種ジルコン
/苗木石
【Altered Zircon
/Naegite】
【(Zr,Hf,Y)(Si,Nb,Ta)O4
  
       結晶


     狩宿川産

    
フェルグソン石
【Fergusonite-(Y)】
【YNbO4
  
        結晶

  
      川ズレ品
      狩宿川産

   「日本希元素鉱物」に
土地の人たちは
鼠の糞石
(ねずみのくそいし)
と呼んでいた、とある
モナズ石
【Monazite-(Ce)】
【CePO4

     狩宿川産
  頭付き結晶を
初めて確認
サマルスキー石
【Samarskite-(Y)】
【Y,Ce,U,Fe3+)3
(Nb,Ta,Ti)5O16
  
      狩宿川産
   
錫石
【Cassiterite】
【SnO2

      狩宿川産
最大のものは
直径7mm
鉄重石
【Ferberite】
【FeWO4

    恵比寿鉱山産
    

5. おわりに

 (1) 産地では微細な希元素鉱物は識別できなかったが、自宅に戻って実体顕微鏡
    下で見ると各種の希元素鉱物があることが判った。
     今回も立派なフェルグソン石を確認できた「狩宿川」は、2005年12月のミネラル
    ウオッチングのページで報告したように、希元素鉱物の種、量とも多いのを再認識
    した。
     しかし、苗木地方はこれらの小河川に至るまで護岸工事が完了し、新たな供給は
    望み薄の状態にある。とは言っても膨大な量の堆積土砂があり、まだまだ楽しめ
    そうです。

 (2) われわれが「山ノ田川」から引き上げる時、近くの男性が声を掛けてくれた。「あそこ
    (山ノ田川)は、何も出ないんだ。少し先に行けば錫石、あそこの山にトパーズ、そこの
    ハゲには水晶が落ちている」と話してくれた。
     このように、地元の人だけが知っている産地がたくさんありそうです。長島先生の
    「苗木地方の鉱物」にも私が知らなかった産地(例:ろくがほった)が数多く記載されて
    おり、未訪問の場所を少しずつ回ってみたいと考えている。
     今回、「山ノ田川」と「ろくがほた」の新産地を教えてくれた石友・Iさんに厚く御礼を
    申し上げます。

         
          山ノ田川               ろくがほった
                     新産地

 (3) Kさん夫妻は、以前買ったパンニング皿が今回使い初めであったし、Iさんは私が
    お貸ししたのがパンニング皿を手にする最初であった。
     パンニングによる採集は、砂金だけでなく、トパーズなどにも有効なことを参加
    された皆さんが認識されたようであった。

    『 習うより慣れろ 』 のパンニングですが、私なりのパンニング方法を
    HPにまとめてみたいと考えています。

 (4) 苗木地方の象徴は、「恵那山」らしく、その名前の地酒もある。ミネラルウオッチングの
    翌日、前の夜降った新雪で化粧した「恵那山」がくっきりと姿を現わした。
     ここは、長島乙吉氏や前田清邨画伯(長島弘三博士に娘が嫁している)の故郷で
    そんな関係で、「日本希元素鉱物」の表紙には、前田画伯の筆になる「恵那山」が
    描かれている。

         
        新雪で薄化粧             「日本希元素鉱物」表紙
                       恵那山

6. 参考文献

 1)長島 乙吉:苗木地方の鉱物,中津川市教育委員会,昭和41年
 2)長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,長島乙吉先生祝賀記念事業会,1960年
 3)松原 聡:日本産鉱物種,鉱物情報,2002年
 4)和田 維四郎:日本鉱物誌(初版),東京築地活版製造所,明治37年
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