2012年、私たちの定宿・長野県川上村湯沼鉱泉に一泊してのコースで案内させて
いただいたところ、日程的にも余裕があり、違ったタイプの産地で違った鉱物を観察でき
季節によって蛍や星空などの自然を満喫でき、川上犬との触れ合いなど、大都会に住
むこどもたちにとって忘れられない思い出になったようだ。
2013年も新学期が始まって間もなく、東京KS校のG先生から1泊2日での「鉱物学合
宿」の講師依頼があったのを皮きりに、小学生、中学生そして大学生まで、引率の先生
や保護者を含めて延べ6回、150名近くの皆さんをミネラル・ウオッチングに案内させて
いただいた。
古い鉱山跡で水晶を発見したり、湯沼鉱泉で川上犬の子犬などに接するときのこども
たちの笑顔をみると、下見や準備の苦労も吹き飛んでしまう。こどもたちが学校に帰って
から描いて送ってくれた絵入りの礼状は、私の宝物だ。
これからも、身体の続く限り、ミネラル・ウオッチングを通して、次世代を担うこどもたち
に自然の不思議や魅力そして大切さを伝えていこうと思う。
( 2013年7月〜10月 案内 )
1泊2食の宿泊費は5,000円で「水晶洞」の見学料込みだ。日帰りの場合、「水晶洞」の
見学料が団体割引でこども200円(300円)、大人500円(600円)と、社長とお姐さんが
格安にしてくれているのがありがたい。( )内、通常料金
巡検の足は、次の3通りだが、最近Bの全員電車で甲府駅まで来て、レンタカーを借り
るのが先生や保護者が車を運転する負担が少なく、好評のようだ。
@ 小型バスを貸し切り、IC出口で私の車と合流
A 電車組と自家用車組にわかれ、電車組は甲府駅で私の車に乗り、IC出口で自家
用車組と合流
B 全員電車で甲府駅まで来て、レンタカーを借り、私の車にも分乗する。
@ 自然を大切に
鉱物は、植物、動物と違って再生しない。余分に採らない。採った標本は、
洗浄・整理して記録に残し、家族にも見て楽しんでもらう。
A 安全第一
自然は美しい。しかし、危険が潜んでいるので引率の先生の注意を守り、事故
がないようにしよう。
3.2 地域の地質・歴史・文化・産業説明
鉱物産地に向かう途中で、トイレ休憩などの時間をつくり、地域の地質はむろん、
歴史・文化・産業などを説明する。
レタス等の高原野菜の一大産地の川上村では、中国やフィリピンそしてインドネシ
アなどからの研修生がレタス苗の植え付けから収穫に従事している現状なども知っ
てもらう。
3.3 産地と産出鉱物説明
産地に着くとこの産地の地史(大地の歴史)を数千万年、時として数億年前に遡っ
て説明する。その過程で、ここの鉱物がどのようにして生まれたかを理解してもらう。
甲武信鉱山貯鉱場での説明を例にとれば、次のようになる。
@ 昭和10年代まで、ここから500mほど標高が高い位置に鉱山があって、そこで
採掘した品位の高い鉱石を索道(ケーブル)でここまで運んでいた。
A 甲武信鉱山は「スカルン(接触交代)鉱床」と呼ばれ、南の海で生まれた珊瑚礁
などが起源の石灰岩と山梨県側に水晶をもたらした花崗岩とのコラボレーション
でいろいろな鉱物が生まれた。
B それは、今から1,200万年くらい前だった。
「鉱物図鑑」代わりに、ここで採集できる鉱物の特徴や産出頻度をチェック・リスト
(一覧表)にまとめたものを一人ひとりに配る。
採集できたものには、チェック(”レ”)マークをつけ、まだ採っていないものを探すこ
とで、この産地の代表的な標本をもれなく入手できる、という寸法だ。
3.4 採集方法説明と実演
ミネラル・ウオッチングでの採集方法は、つぎのように3通りあることも説明する。
@ 表面を見て回り、「方解石」、「水晶」、「柘榴石」などを探す。大きすぎる標本は、
持参した金槌(かなづち)で小さく割る。このとき、石の破片が目に入るのを防ぐ
ため、眼鏡(めがね)やゴーグルを着けるのを忘れないように。
A 川岸には崖になっている場所(ズリと呼ぶ場所)があり、そこを掘ると水晶など
が出てくる。
B 私が持参した何枚かのパンニング皿を使って土砂をパンニングすると、「自然
金」や「Bi(蒼鉛)−Te(テルル)鉱物」そして「灰重石」など、比重の大きな重た
い鉱物が採集できる。
パンニングのやり方を知らない子がほとんどなので、私と一緒に土石を皿に
入れて、水の中で揺すりながら泥を落とし、水晶や方解石などを拾い出し、残っ
た土砂のうち、比重の大きな重鉱物だけを残し、指先に貼り付けて回収すると
ころまでを習得してもらう。
早く採りたくてうずうずしているこどもたちに、行方不明や事故にあわないため、「こ
こを中心に半径○○m」とか「この木(岩)が見える範囲」、と採集範囲を決めて採集
を開始してもらう。
3.5 採集鉱物鑑定と特徴説明
名前が判らない鉱物のを見つけたら、私のところに持ってきてもらい、鑑定して鉱
物の名前や特徴を説明してあげる。
代表的な鉱物や珍しい鉱物を採集した子がいると全員に集まってもらい、鉱物の
名前、チェック・リストのNo、そして特徴を説明する。
・ 「灰重石」の蛍光
持参した風呂敷を暗幕代わりにして、「灰重石」にミネラライトを当てると、青白
く光る蛍光の特徴を実感してもらう。
・ 「方解石」のへき開と複屈折
方解石は割っても割ってもマッチ箱を押しつぶしたような形で細かくなるへき開
の性質が強いことと、チェックリストの直線の上に透明結晶をおき、結晶を回転
すると1本の線が2本に見える複屈折作用があることを理解してもらう。
また、このような透明感のある方解石を「アイスランド・スパー」、と呼ぶことな
どの蘊蓄(うんちく)も傾ける。
・ 「ざくろ石」の名前の由来
私の住む地域では、10月ごろになるとあちこちでざくろの実が熟(う)れている
のを目にするようになる。農の駅や道の駅などでも販売しているので買って持
参し、ざくろの実にそっくりなので「ざくろ石」、と名付けられた由来を説明する。
聞かれたら答えるばかりを繰り返していては、こどもたちの鑑定力は向上しないの
で、少し経ったら次のように逆に質問する。
( バード・ウオッチングの講習では、ある程度観察力がついた受講生に一番身近
な鳥、”スズメ”を指して名前を当てさせる、と聞いた。色、形、大きさなど鑑定の
ポイントになる項目から候補を絞り込んで、自信を持って”スズメ”、と言えるよう
にするらしいのを真似てみただけだ。 )
こども 「この鉱物は何ですか?」
MH 「君(あなた)は、何だと思います?」
こども 「・・・・・・・・・・水晶かな・・・・・
」
MH 「
どうして水晶だと思います?」
こども 「・・・・・(断面が)六角形をしているから、それに・・・・・」
MH 「正解!!
透明で、鉛筆のような形をしているネ、割れ口もギザギザだし・・・」
こうして、この子はたくさんある鉱物の中から「水晶」は確実に見分けられるように
なる。
3.6 ミネラル・ウオッチング後の楽しみ
ミネラル・ウオッチングを終えた後の楽しみは季節の果物だ。夏なら、MH農園の無
農薬スイカが定番だし、それを外れるとメロンやリンゴだ。行きしなに子どもたちに手
伝ってもらって天然冷蔵庫の沢水で冷やした果物をみんなで頂くと疲れもとれ、子ど
もたちの顔も一段と輝く。
湯沼鉱泉「水晶洞」の見学と鉱物採集の順番は、その日の天候などによって、臨機応
変に変更する。雨が降っていて、午後から回復する時は、午前中に「水晶洞」を見学す
るし、午後から天気が崩れる予報の時は「水晶洞」の見学は午後にする、といった具合
だ。
(2) 「水晶洞」の特徴と見どころ
@ 湯沼鉱泉社長の私設鉱物博物館
鉱物を展示している博物館のほとんどが、国、県、市あるいは会社などによっ
て建設・運営されている。「水晶洞」は、湯沼鉱泉社長がポケット・マネーで建設・
運営している、世界でも珍しい私設鉱物展示博物館だ。
建設にあたっては、社長自身が重機を動かしたりした”手作り”の博物館だ。
A 地下にあったままの鉱物展示
鉱物を展示している博物館の多くは、国内外から購入したり、鉱山や個人から
寄贈された標本を展示しているのがほとんどだ。「水晶洞」にもその種の標本が
展示してあるが、展示の目玉は、1,000万年以上前から湯沼鉱泉の地下で眠っ
ていたままの『緑水晶の日本式双晶群晶』だ。
社長が露頭を崩していたときに出てきた『緑水晶の日本式双晶群晶』に保護の
ケースをかぶせ、雨露をしのぐ屋根を付けて展示をしようとしたのが「水晶洞」
建設の動機らしい。
B 地元『川上村の鉱物』標本
1900年に開催されたパリ万博に日本を代表する鉱物のひとつとして出品された
「穴沢(赤面山:あかづらやま)の偏平電気石」や昭和15年(1940年)に櫻井先
生が発見した「甲武信鉱山の柱石」など、日本を代表する地元川上村産の鉱物
標本が並んでいる。
これらの多くを社長自身が採集・運搬・展示したことを話すと、ほとんどのこども
たちが驚きの声を上げる。
(3) 見て、さわって、体感、そして学習
「水晶洞」の中には、馬蹄形の磁石が置いてあり、磁鉄鉱に近づけると”吸いつき”
磁鉄鉱に『磁性』があることが体感できる。
紫外線を当てて蛍光している「珪灰鉄鉱」(緑色)や「山口県喜和田鉱山の灰重石」
(青白色)標本に、持参したキャップ・ランプのLED(白色)光を当てると、何の変哲も
ない石の塊に見える変化は、こどもたちに人気だ。
研磨した「瑪瑙」の表面を手で撫(な)でてみて、その”すべすべ感”は、瑪瑙が二
酸化珪素(SiO2)の微細な粒(コロイド状)が降り積もってできた証(あかし)だと体感咸
してもらう。
「水晶洞」の内部の説明が一通り終わると、自分の興味がある標本のスケッチだ。
自分の眼を通して脳に伝わった標本の形、色彩などを逆に自分の手で紙の上に再現
することで、より確かな知識になる。
(4) 「水晶洞」出口でのサプライズ
「水晶洞」見学の前日やその日の朝に湯沼鉱泉を訪れ、川上村などの水晶産地で
採集した頭付き水晶の群晶や単晶を出口付近に隠しておく。これらの水晶は、ガマ
(晶洞)が開(あ)いた時に、誰も持ち帰えらなかったものをもったいないので貰って、
塩酸で洗って綺麗にしたものだ。
「水晶洞」から出てきたこどもたちは、『宝探し』で大喜びだ。
「水晶洞」から戻ると、子どもたちに感想を社長に伝えてもらう。「社長はスゴイ博物
館を作った」、とか「大きな水晶がキレイだった」、とか、お世辞抜きのこどもたちの素
直な感想に普段無愛想な社長の顔もほころんでいる。
(5) 湯沼鉱泉の楽しみ
@ 川上犬との触れ合い
湯沼鉱泉では、10頭前後の川上犬を飼育している。繁殖期がいつなのか良く判ら
ないが、運が良いと生まれたばかりの”モコモコ”の子犬に出会える事がある。
2013年は、子犬を手元に置いておく期間が長かったせいで、9月から11月まで子犬
を抱いて触れ合え、都会っ子にとって貴重な体験だった。
A 自然
7月の夜には、湯沼大池から水車小屋にかけて蛍が飛び交い、宿泊コースの子ど
もたちは蛍鑑賞だ。
秋から初冬にかけてだと、人工の光がほとんど見えない闇の中、満天の星空観察
ができる。
B 食事
子どもたちだけでなく、先生や保護者にとって、湯沼鉱泉の食事は楽しみの一つだ。
2013年夏は、BBQが人気だった。BBQの設備があるのは知っていたが、十何年間か
湯沼鉱泉を利用させてもらっているがBBQは初めてだった。
アレルギーのある子やベジタリアンのために、お姐さんが特別料理を準備してくれ
るのも嬉しい。
(6) 湯沼鉱泉にお別れ
最後に湯沼鉱泉社長とお姐さん、そして川上犬にも入ってもらい記念写真撮影だ。
そして、お二人にお礼を言って、お別れだ。
下の「緑水晶の日本式双晶」は、2013年10月に甲武信鉱山の貯鉱場でこどもの
一人がパンニングで採集したものだ。パンニング皿の底に残ったのではなく、泥を洗
い流して変わった形の水晶に気付いたようだ。
左右の頭は完全で、翼の大きさが左右アンバランスな甲武信鉱山特有の『鎌(形)
水晶』だ。
(2) 私の宝物
案内が終わって一週間ほどすると、引率の先生からの分厚い封筒が届く。封を開
けると、こどもたちが採集した鉱物のイラスト入りの感想文+礼状だ。
持ち帰った鉱物標本を家族に見せたら、綺麗なので驚いた様子や行ってみたい
という家族の反応、そしてもてなしてくれた湯沼鉱泉の社長とお姐さんと案内した私
へのお礼のことばが綴ってある。
これらを読むと、下見や準備の苦労も吹き飛んでしまい、私の宝物だ。
(3) ミネラル・ウオッチングの将来
10月24日朝、読売新聞の朝刊を読んでいると、「市有林で水晶盗掘した疑い」、と
いう記事が目に飛び込んできた。
甲府市に住む柴田容疑者が8月13日に甲府市御岳町の(みたけちょう)の山林で
2〜3センチの水晶5本を岩から掻き採ったところ甲府市職員に発見され、10月23日
に甲府署に逮捕された、という。
詳細を知りたくて、コンビニに車を飛ばし地元紙・山梨日日新聞を買った。そこには、
押収された水晶が入ったケースやPCなどの写真とともに「水晶盗掘容疑で男逮捕」
の記事がデカデカと載っていた。
逮捕されたのは森林法違反(森林窃盗)の容疑で、このような事例が過去10年な
かったのに、柴田容疑者が逮捕されたのは10年以上前から大量の水晶を盗掘し、
悪質と判断したためらしい。同署は、盗掘した水晶を売却した可能性を含め、盗掘の
実態を調べる、とある。
確か、2012年6月のページに、『溶岩泥棒』が御用になった新聞切り抜きを載せた
記憶があるが、水晶盗掘容疑で逮捕は記憶にない。
・
ミネラルマーケット 2012
( Mineral Market 2012 , Tokyo )
山梨の水晶は希少性が人気で、ネット取引(オークションのことか)も、とある。確か
にネットオークションを「山梨 水晶」で検索すると、数十件が出てきて人気が高いよ
うだ。
売却していたとなると、”売って金に換えるため盗っていた”ことになり、より悪質と
判断されるのだろうか。
( 以前、”売るために採る輩”が産地荒廃の一つの原因と書いたことがあったが・・・)
新聞には、「森林法では、水晶などの森林内の産物を無断で持ち出すことは禁止
されている」、とある。
これを厳密に適用し、子どもたちが山で水晶を拾う行為も違法となれば、フィールド
での鉱物授業はやりにくくなり、今後の警察・検察・(裁判所)の判断に注目している。