2014年を迎え、今年も皆様にとって素晴らしい一年になるよう、お祈りしています。
2013年暮れは、29日に最後の年賀状を書き終え、正月に帰省する息子の家族を迎える準備を
始めたが、私は買い物の運転手と畑からネギやチンゲン菜などを採ってくるくらいで手持無沙汰
だった。
30日に心ばかりのお歳暮を持って湯沼鉱泉に行き、社長とお姐さんにお礼の気持ちを伝えた。
2013年は子どもから大人まで、延べにすれば200名以上が宿泊や「水晶洞」の見学でお世話に
なった。
穏やかな日和だったので、早めに湯沼鉱泉を辞して、『2013年採集納め』、を兼ねて、以前から
気になっていた新産地の探査にでかけた。標高が湯沼鉱泉に比べれば1000mも低い場所なの
で、日蔭は凍っているが、雪もなく、新産地の探索にはピッタリの午後だった。
林道を進み、車を停めて、露頭を目指して斜面を登ると、足元には『崩落ガマ』の晶洞壁やそこ
から分離した単晶等が点々と落ちている。それらの中には、”紫水晶”や”チョロギ水晶”があり、
以前訪れた栃木県の古い銅山跡の産状に良く似ている。
露頭を丹念に見て回ると、石英脈が太くなった部分に、晶洞が観察できた。冬の陽が傾くのは
早く、寒くなる前に下山した。
2013年は、3月まで千葉県で仕事でミネラル・ウオッチングどころではなく、山梨に戻ってからも
フィールドにでるのは、子どもたちはじめ湯沼鉱泉利用者を案内するときくらいだったが、年末に
なってようやく『採集納め』に相応しい標本を観察できた。
( 2013年12月 観察 )
・ 透明度が高い
・ 紫水晶もある
・ 骸晶などの結晶面の異常が観察できる
・ インクルージョンとして液体・ガスを含む
・ 山入りで山の面に硫化鉱物が成長
・ 松茸や両錐などの形態が楽しめ、”チョロギ水晶”もある
・ 一つおきの面の成長が卓越し、断面が”三角形”に見えるものもある
産状や産出する水晶の特徴が長野県北部の水晶産地に酷似している。
・ 長野県北部の水晶
( QUARTZ from Northern Nagano Pref. )
a) 群晶
群晶は、砂岩の裂け目(クラック)に生じたもので、珪酸を含む熱水がしみ込んで晶洞壁(俗に
「ゲス板」)となり、その内側に水晶が成長したようだ。
b) 紫水晶【Amethyst:】
薄い紫色の品のある紫水晶だ。
c) 水入り水晶【QUARTZ including water and gas:】
液体やガスを内包するものがある。液体の中のガスは球状になっているが、隙間が狭いた
め、水晶を傾けても動くのは確認できない。
液体の層は何層かあり、それが”山”になってみえる。後から紹介する『松茸水晶』なども産
出するところから、水晶の成長は何回か反復して行われたようだ。
d) 黄鉄鉱入り水晶【QUARTZ including PYRITE:】
インクルージョンとして黄鉄鉱と思われる硫化鉱が含まれるものがある。黄鉄鉱は、最初に
できた水晶の表面に結晶している。そうなると、水晶と水晶が成長する間に硫化鉱物が析出
する期間があったことになり、この産地の鉱化作用は単純でなかったようだ。
e) 松茸水晶【SCPTER QUARTZ:】
最初に成長した水晶(松茸の軸)の上に、松茸の傘(かさ)に相当する部分が成長したもの
で、少なくとも二回成長するプロセスがあったことになる。
f) チョロギ水晶【Artichoke QUARTZ:】
お正月のオセチ料理に赤く染めたチョロギの塊茎がでることがある。長さは1〜3cmくらいで
巻貝のような形でもとの色は下の写真のように真っ白だ。英米ではArtichoke(アーティチョー
ク)、と呼ぶらしい。
これにそっくりな水晶を観察できた。両端に頭と錐面があるので、両錐水晶【Double Point】
と呼ぶべきものだろう。
g) 骸晶など結晶面の異常【Abnormal Crystal surface on QUARTZ:】
水晶の面に比べ稜や隅角の結晶成長が早く、面の部分の充填がはなはだしく遅れた場合、
「骸晶」ができる。そのため、面は陥没凹入する。これは、結晶の成長【Crystal Growth】に
伴う異常だ。
これとは反対に、結晶を溶かす強い酸などの溶剤が短〜長時間接触した場合、「蝕像」が
できる。「蝕像」が増大すると大きな陥没になり、これを「融蝕」という。これらは成長と逆の
溶解作用によるものだ。
下の写真には、典型的な結晶面の異常を示す。
・ 2013年12月 「第22回 東京ミネラル・ショー」
( 22nd Tokyo Mineral Show , Dec. 2013 )
その塊茎に似ている水晶が『チョロギ水晶』、と呼ばれるとは、アーティチョークはよほど水晶
に縁のある野菜だ。
(2) 『山梨水晶事情』
2013年は、山梨県の昇仙峡(その後の情報で、正しくは乙女鉱山だったと聞いて合点がい
った)で水晶を盗掘した容疑で逮捕される人が出るなど、鉱物採集を取り巻く環境は以前では
考えられないくらいに厳しくなっている。周辺の県も山梨県に同調する動きがあると石友が教
えてくれた。
新しい産地が発見されると、一つの産地に大勢の人が ”ドッ”と押しかけ、叩きまくり、掘り
まくり、地元から顰蹙(ひんしゅく)を買い、挙句の果てに産地が荒廃するのがいつものパター
ンのようだ。
2014年も次のような心がけで、ミネラル・ウオッチングを楽しもうと思っている。
・ 『少欲知足』
たくさん採らないで、一品満足
以前のページで、「一物満足」と書いていたが、「一物」には良くない意味もあると知り
修正だ。
・ 『自分なりの楽しみ方の確立』
自分なりの努力で新しい産地(市や店そして会)を探し、手に入った標本(骨董品、古書
郵趣品などを含む)とそれにまつわる歴史・人文・科学の調査・研究と論文作成までを
ミネラル・ウオッチングのサイクルとする。
このサイクルを回すことで、いわゆる”採集”に充てる時間が相対的に少なくなり、産地
荒廃を多少は遅らせることになるし、採集した標本も”死蔵”だけは免れるだろう。
息子のお嫁さんには、「お父様だけがやっても・・・・」、とは言われるが、”貧者の一灯”
だ。