向山鉱山は、雄鷹山(1,522m)から上黒平の集落に向かって伸びる稜線の東西、
両側に広がっており、名前が知られている坑道の数は、西側の方が多かった。
私が鉱物採集を始めて間もない1990年頃、一度だけ西側の精進川沿いの産地
を訪れ、鮮緑色針状の「ススキ入り水晶」(頭無し)を採集した。このことが気にか
かり、頭付き完形品、できれば群晶を狙って訪れた。
大Yさんが参加できないとのことで、未知の産地の探査に心強い石友・Mさんを
誘って、小Yさんと3人での探査となった。
水晶探査のイロハである、沢筋を探ると、石英塊が無数に散らばっており、上流
に詰めるとズリがあり、その上には坑口や坑口の痕跡がいくつか確認できた。
とある坑口前のズリを掘っていると、Mさんが「不思議な水晶がある」というので
近づいてみると、『 長石を包み込んだり表面に成長させた水晶 』だった。実は
ここまで来る途中で、同様な水晶をいくつか拾ったが、その源がここだった。早速
近くを掘り、頭付き標本も採集できた。
結局、この日は、目的とする「緑の針入り水晶」は採集できなかったが、不思議な
水晶を手にでき、大満足である。
この水晶を、簡単に洗浄し、実体顕微鏡でのぞくと、「チタン石(くさび石)」が約30
%のものに確認できた。向山鉱山としては初めての産出報告だろう。
同行いただいた、Yさん、Mさんに厚く御礼を申し上げる。
( 2007年8月採集 )
握りこぶし大以下の石英塊が散らばっている沢筋を上流に詰めると斜面にズリ
そしてその上に坑口やその跡を確認できる。
ここでの採集は、@表面採集 Aズリ採集 B露頭を叩く をTPOで選択する。
今回採集した標本のうち、特徴があるものを紹介する。
俗名 鉱物名 (英語名) | 組 成 | 説 明 | 標 本 写 真 | 備 考 | くさび石 チタン石 (TITANITE) | CaTiSiO5 |
黄色〜褐色、半透明の ガラス光沢で薄板状結晶が 長石や石英の上にみられる |
「板チタン石」と同じ 薄板状だが、 「くさび石」と呼ばれる ように、縁が薄く、 尖っているので 区別できる |
金紅石 ルチル (RUTILE) | TiO2 |
暗赤〜黒色、ガラス光沢 結晶が伸びる方向に 条線がある柱状で 石英の間に産する
下の写真は、チタン石 |
柱状結晶
| 「板チタン石」 「鋭錐石」と同じ組成で 3者は”同質異像”関係 他の2つは今回未確認 |
水晶 石英 (QUARTZ) | SiO2 |
長石を包み込んだり 表面に成長させた水晶 全体として六角柱状で 水晶の形態を示す 長石が集合して”頭”が 尖っている”頭付き”も 観察できる 稀に、透明な頭付きも 観察できる |
先端とがり
| 「長石」の種類は 鑑定中 |
山入り水晶 緑泥石もしくは鉄雲母が 同一面上に成長し それが”山”に見える |
| 東側でも同様なもの が産出している |
緑簾石→べスブ石→第3松茸→第2松茸 産地の順に、堀先生とご一緒させて
いただいた。
堀先生の採集方法をそれとなく拝見すると、「綺麗なもの」だけでなく「変わった
もの」や「特徴のあるもの」なども袋に入れておられるようだった。
(2) それが頭の片隅にあり、『 長石を包み込んだり表面に成長させた水晶 』が
眼に入ったとき、”面白そうだ”、と思い持ち帰った。
これが、結果的に正解で、向山鉱山としては、初めてになると思われる「チタン
石」と「ルチル(金紅石)」の発見につながった。
図鑑には、『 「チタン石」は、造岩鉱物の1つとして、普通にでてくる 』、とある
が、山梨県では、水晶峠(バッタリ鉱山)や平沢の採石場跡でしか採集していな
い。新しい産地が加わったことにも、意味があると考えている。
(3) 私のHPの愛読者のひとり、千葉の石友・Mさんが 『 水晶造形の妙 』 、と題
して掲示板に書き込んでくれた。そこには、次のようにある。
『 水晶には形状や色、インクルージョン、など色々なバリエーションがあり興
味は尽きません・・・・・・・・・ 』
今回採集した、『 長石を包み込んだり表面に成長させた水晶 』 がどのよう
にして成長したのか、解明するのが楽しみである。
(4) 今回の探査行は、「鮮緑色針状のススキ入り水晶」の採集が目的だった。「針状
結晶」は、石英塊の中は確認できるのだが、それらが入った柱状結晶は見つから
なかった。
今回訪れたのは、名前がある坑道の1/3〜1/2に過ぎず、まだまだ探査しきれて
いない坑道もあり、継続して探査するのを楽しみにしている。
また、ここは比較的アプローチしやすく、女性や子どもでも採集を楽しめそうなので
次回のミネラルウオッチングの候補地の1つである。