標高1522mの雄鷹山(おすたかやま)の東側の坑道跡を巡るように案内した。
坑口前のズリでは、予想通り小さな水晶が拾えただけで、大した収穫はなかった。
”ズリ派”の私と違い、”露頭派”のYYコンビは、露頭を叩き、小Yさんが、晶洞を
開け、素晴らしい群晶や単晶を出した。
写真の群晶は、長さ12cmの薄い平板両錐水晶がついたもので、透明度が高
く、大Yさんをして 『 いい〜もんだ 』 と唸らせた。
大Yさんと私は、大した収穫もなく、スゴスゴと引き揚げ、結局、翌週同じメンバーで
再チャレンジ、となった。
翌週は、私も”露頭派”に変身し、3時間にわたって堅い石英脈と対峙し、小さな
晶洞をいくつか開け、向山産水晶の特徴の1つである、透明度が高いものをいく
つか採集できた。
帰宅後、クリーニングを終えた標本を観察すると、『水入り水晶』があることに気
付いた。それらは、他のインクルージョンと同じように、同一平面上に並んでおり
結晶が成長する段階で取り込まれたことをうかがわせる。
10年以上前、雄鷹山の西側にも坑道やズリがあるとの情報を知り、一度だけ訪
れ、小さな「緑水晶」を採集したことがあった。こちらも、本格的な探査を行うため
近々訪れる予定である。
( 2007年7月採集 )
『 古来有名な甲州の水晶は、甲府市の北約6里(24q)の金峰山国師ケ嶽を
中心として甲府盆地の北半を囲みて露出する花崗岩地方に産出するもので
・・・・・・・・
これらの水晶の産出状態は場所によって少しく相違はあるが、何れも
この花崗岩に由来するPegmatite中に産するものヽ如く、・・・・・・
向山に於けるが如く、殆んど水晶のみより成る所謂quartz-Pegmatite式の
ものもある。 』
この記述の通り、向山鉱山は水晶以外の鉱物が殆んど見られない面白い(?)
産地である。
ここでの採集は、ズリを掘るか露頭を叩くかだが、ズリでは良品は難しそうだ。
(1) 水晶【QUARTZ:SiO2】
今回採集できた水晶を一覧表にまとめてみた。
区 分 | 説 明 | 標 本 例 | 備 考 | 平板 (ひらばん) |
”平板”とは 扁平な晶癖をもつ 水晶の俗称 |
この露頭の水晶は 多くが平板 |
平行連晶 |
いくつかの水晶が 上下方向の結晶軸 (c軸)が同じ向き (平行)に成長 | 曲がり |
上下軸(c軸)が 湾曲して成長 | 四角柱状 |
断面が菱形の 四角柱状結晶 | 先端から見る |
水晶はふつう 六角柱状 この標本は、6面の内 2面が未発達 断面が”菱形”で 四角柱状に見える |
インクルージョン (包有物) |
空隙の中に 液体(水?)を含む |
全体
|
中の液体は表面張力で 丸まって集合して いる
石英と”濡れない”ので
空隙は同一面上に
それだけ、結晶の |
草入り 緑〜茶色の 針状結晶を 含む | 角閃石/緑閃石? |
雲母入り 鉄雲母に似た 黒色六角板状 結晶を含む | 鉄雲母/緑泥石? |
(2) スコロド石【SCORODITE:Fe3+AsO4・2H2O】
淡緑色、皮殻状の集合として、硫化鉄(硫砒鉄鉱+白鉄鉱?)の周辺に見
られる。
向山で観察できる、水晶以外の数少ない鉱物である。
それでも、隙間が液体の体積よりも大きいことから、水晶ができてから温度が
下がり、液体が収縮したことを示している。
この収縮率を調べれば、この水晶が生まれたときの、温度や圧力などの条件
を求めることができそうだ。
(2) 向山鉱山は、甲府市向山(”むかいやま”でなく、”むこうやま”)にあったところ
から名づけられたらしい。
坑道の数は30余りと言われ、名前が知られているものだけでも17坑あり
黒平の集落に近いこともあり、江戸時代から太平洋戦争中にかけ、断続的な
がら一時は盛んに採掘されたようだ。
2000年ころ、黒平の古老から、『 太平洋戦争中(1941年〜1945年)明電坑
から軍が水晶発信子用に水晶を掘り出し、索道で集落まで下ろした 』、と聞
いた。水晶坑附近には、コンクリート製の遺物がのこり、大規模に採掘したと
推測できる。
(3) 文献では、向山鉱山では、各種の水晶が採掘され、その特長は次の通りで
ある。
@色・・・・・・無色、白色(表面曇り)、草入り
A晶相・・・・柱状単晶のみで、双晶は産出しない。
B特徴・・・・透明度が高く美しい。
草入りが多く、青(緑?)色草入り、枯れ草(電気石?)入り
小型のトッコ多産
今回、雄鷹山の東斜面だけで採集したが、向山鉱山の坑道は、西側斜面の
方が多かった、と書かれた文献もあり、そちらも近々探索してみたいと計画
している。