山梨県黒平・向山鉱山の巨晶・美晶 その2

     山梨県黒平・向山鉱山の巨晶・美晶 その2

1. はじめに

   2007年8月、いつも産地を案内してもらっている、長野県の石友・”YY(ワイワイ)
  コンビ”
と甲府市黒平向山鉱山で「水晶の巨晶・美晶」を露頭から採集したのは
  既報の通りである。
   その後も何回か訪れ、そのときと同じように「巨晶・美晶」を採集できることもあり
  逆に目ぼしい採集品もなく、スゴスゴ帰ることもあった。そうこうする内、私の関心は
  雄鷹山(向山鉱山)西側の方に傾いていた。
   2007年10月に入って、古くからの石友のひとり、愛知・KAさんが向山鉱山を案内
  して欲しい、と言うので先導することにした。KAさんの知人Dさん、他1名も一緒だっ
  た。

   露頭全体を案内・説明した後、各自思い思いの場所に陣取って、叩きはじめた。
  私は、以前数多くの晶洞が開いた場所を攻めたが芳しくない。以前、小Yさんが「美晶」
  を出した跡の脇に移動し、石英脈を叩くが、硬いの何の、叩く度、タガネの先端から
  ”火花”が飛び散る。

   小一時間叩いたとき、ピンポン玉ほどの大きさの”穴”が開いた。ここでは、”三角
  穴”と名付けた不毛晶洞があるので、ぬか喜びに終わることも多い。周囲を掘り崩し
  手が入るまでに広げ、ライトで中を照らすと奥が見えないほど深い。

   高鳴る胸を押さえ、私の石友の中で、晶洞掘りの第一人者・KAさんを大声で呼ぶ。
   『 ガマ(晶洞)が開(あ)いたゾ〜!! 』
   近くにいたDさんらが近寄ってきて、覗き込む。遠くから駆けつけたKAさんが、中に
  手を入れたり覗いてみて、しきりに「不思議なガマだ」を連発する。確かに、手を入れ
  てもガマ粘土特有の”ヌルヌル感”はないし、”チクチク”した水晶の手触りもない。
   とりあえず穴を広げてみると褐鉄鉱に覆われたガマだった。細心の注意を払いなが
  らも手際よく、KAさんが最初に取り出した水晶は、部分的に褐鉄鉱に覆われた20cm
  しかも頭付き、透明な巨晶だった。
  ( この「巨晶」は、KAさんの采配で、ガマを開けた私のコレクションに無事収まった )
   この日は、大きな平板はじめ良品が多数出続けていたが、採集品を皆で分けて
  15時前に撤収した。開けたままの晶洞には、まだ大きな水晶の頭が見えたが、これ
  らは大Yさんのために残しておくことにした。

    初日の成果【右上が20cmの巨晶】

   翌日、大Yさんと湯沼鉱泉宿泊客のSさんをポイントに案内した。午前8時を少し
  回ったばかりなのに先客2名がいた。”ズリ派”の人たちで、われわれはガマ(晶洞)の
  続きを掘ることにした。
   褐鉄鉱を崩しながら掘り出す感じで、私の分け前は、「緑草入り平板」「両錐平板」
  そして「平板平行連晶」、と前日に勝るとも劣らぬ成果だった。

   Dさんから、「晶洞を開ける現場に初めて立ち会い、ガマ出し水晶のおすそ分け
  にも預かった」、と感謝のメールをいただいた。

   ”卒業”した筈だったが、ここは冬でも楽しめるので、息長く取り組んでみたいと思い
  直している。今回の素晴らしい成果を分かち合うことができた、同行した大勢の石友
  に感謝している。
  ( 2007年10月採集 )

2. 産地

   産地の詳細は、前のページに記載したので割愛する。

3. 産状と採集方法

   前のページにも書いたが、向山鉱山は水晶を目的に採掘した。掘るのは男性で
  推測だが、選鉱は黒平など地元の女性で、小さな水晶の頭無しまで丁寧に拾っ
  たようだ。その結果、ズリでは大きなものどころか、小さな頭付きすら良品は期待
  できない。
   したがって、露頭を叩いての”ベテラン向き採集”となる。

   晶洞には2種類ある。
    @ 石英の結晶面に囲まれた三角錐状の空間
    A 円筒状空間

   @のタイプは、奥行きが10cmを超えるくらい空間が広くないと水晶の結晶は
  見当たらない。Aのタイプは、ガマ粘土が充満し、黒平や乙女鉱山と同じように
  水晶の良品が期待できる。
   晶洞の壁にあったはずの水晶は、ほとんどがガマ粘土と共に、底に溜まってい
  て、地殻変動の激しさを物語っている。そのせいか、群晶は少なかった。

      始め

       途中【これから水晶を取り出す】

       終り【兵どもが夢の跡】

    今回開いたガマ(晶洞)の様変わり
        【タガネの長さ25cm】
 

4. 産出鉱物

   今回の向山鉱山での採集品は、水晶だけだった。表面が褐鉄鉱に覆われていて
  ”不細工”だったが、塩酸や蓚酸のお風呂に一晩漬けておいたら、信じられないほど
  綺麗な”ベッピンさん”に生まれ変わった。
   ( 今回、採集品の洗浄に初めて「塩酸」を使ったが、その威力(効果)は「蓚酸」
    の比ではない。ただ、発煙した塩酸ミスト(霧)が健康や建物に被害を及ぼさな
    いか、いささか不安ではある )

     採集して分配してもらった標本は、形が完全、大きさも大きく、そして”緑の草”
  インクルージョン入り、と今まで採集した水晶の中で、一番美しい部類に入るもの
  も多かった。

 (1) 水晶【QUARTZ:SiO2
     今回採集できた水晶を一覧表にまとめてみた。

  区   分  説    明   標   本   例   備    考
平板
(ひらばん)
 ”平板”とは
扁平な晶癖をもつ
水晶の俗称

    両錐【長さ8cm】


 巨晶【幅17cm高さ17cm】

 両端に”頭”があるので
両錐(Double Point)

 銀黒色に見えるのは
インクルージョンで
樹枝状、磁性なしから
「硫砒鉄鉱」と判断







 全体として、1つの
平板結晶になっている
 上端は、平行連晶状で
小さな頭が、並んでいる

柱状結晶  六角柱状の
もっとも普通の
結晶
   
   巨晶【径12.5cm 高さ20cm】


       草部分拡大

 2本の頭付き水晶が
寄り添った連晶
 重量は1.5kg強と
”ビッグ”

 根元部分が
『緑草入り』
なっている

平行連晶  上下軸(c軸)が
平行な結晶が
2つ以上集合して
いる
   
     平行連晶【高さ8cm】
 2つの平板水晶が
平行に成長
全体として
1つの水晶に
なっている
群晶
(ぐんしょう)
 水晶の結晶が
集合したもの
 残念ながら
今回はご紹介できる
ほどの良品は採集
できなかった
 1つの水晶に
いくつかの頭付き
水晶が接合している
草入り水晶  水晶の中に
針状結晶を
内包する
   
      全体【高さ7cm】
 薄い平板水晶の
中の針状結晶は
緑色透明〜黒色
不透明

 針の周辺には
肉眼で見えない微細な
針が入っているのか
『煙水晶』のように
薄黒くなっている

(マグネシウム(Mg)と
鉄(Fe)の含有量で針の
色が違う
 緑色のものは
鉄が少ない緑閃石
【ACTINOLITE】で
黒色のものは鉄が多い
鉄緑閃石【FERO-
ACTINOLITE】と
判断している

5.おわりに

 (1) 向山鉱山産水晶の特徴として、「透明度が高く、緑草入り」もある、と文献に
    紹介されているが、頭付きの完全な結晶で”草入り”を示すものを採集できた
    のは、これが初めてだ。それだけに、今回の成果には、大満足だ。

     私たちの成果を聞き、直後に訪れた石友・小Yさんが大きなガマ(晶洞)を開け
    た。何でも、Sさんと私が掘り込んでいた場所を、ものの10分も掘ったら、”ズボッ”
    とタガネが吸い込まれたらしい。
     ガマ(晶洞)の大きさは1m近くあり、「巨晶」など良品が多数出た、と聞いた。

      Yさんが開けたガマ【ハンマの柄の長さ約30cm】

 (2) 以前のHPで向山でのYYコンビとのミネラル・ウオッチングで 『 小Yさんが、
    「 3人の干支(えと)は、”申(サル)”、”酉(鳥)、”戌(イヌ) だ 」
    と言い出した。3人は、”桃太郎の家来、猿、キジ、犬 トリオ” なのだ 』

     とHPに書いたところ、兵庫の石友・Nさん夫妻から本場「岡山県の黍ダンゴ」を
    送っていただいた。湯沼鉱泉のお姐さんに渡したところ、居合わせた人たちが
    ご相伴にあずかった。
     黄粉をまぶした素朴な団子で、美味しくいただいた。これから、Nさんの家来に
    なることを誓った3人だった。( 「俺は食ってねエ 」 ・・・・・・・・・ 小Yさん )

      「黍ダンゴ」【「安政3年(1856年)創業」とある】

 (3) 甲府市にあるとは言え、標高が1200m前後ある黒平附近では平地より一足先に
    紅葉が始まっていた。
     この季節、向山鉱山はじめ山梨県の山々は「キノコシーズン」で、各種のキノコが
    落ち葉の間から顔を出している。
     下の写真は、私が自信を持って採集できる数少ない「食用キノコ」の「網茸(あみ
    たけ)」である。(地方によって、「いぐち」「りこぼー」などと呼ぶ)

     「自家農園の無農薬秋茄子」と一緒に味噌汁にして食べると、美味しくて、つい
    田舎を思い出す。
     ( ナスは、毒キノコの毒を消す、と一般に信じられているようだ )

        
             紅葉              「網茸」
                  黒平の秋の訪れ

  6.参考文献

 1)神津俶祐:水晶の日本式双晶に就て(T)」,岩石鉱物鉱床学誌第17巻第1号,昭和12年
 2)角田謙朗:山梨県の水晶案内,山梨地学第20号〜第26,27合併号,1976〜1984年
 3)益富 寿之助:鉱物 −やさしい鉱物学−,保育社,昭和60年
 4)中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
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