山梨県黒平・向山鉱山の松茸水晶

山梨県黒平・向山鉱山の松茸水晶

1.初めに

 いつも私のHPを見てくれている千葉県の石友・Oさんから、「2003年1月には
雪の中、向山に採集に行ったのに、今年は何処にも行っていないようだが
身体の具合でも悪いのではないか」と、心配の電話をいただいた。

 @2003年11月に、兵庫県の石友・Nさんご夫妻に案内して頂き、四国・中国で
  鉱物採集を楽しみ、訪れた産地、採集した標本が多く、それらの整理
  (トリミング、ラベル付け)と採集記事をHPにアップ・ロードするのに
  1月末までかかった。
 A昨年結婚した次男が家を買うと言うので、その下見や契約で東京との間を
  休日毎に何往復かしていた。
 B仕事も、契約更改の時期を迎え、バタバタしていた。

  などが重なって、採集らしい採集に行けず、骨董市や古本屋で入手した
  資料でHPを作成していた次第です。

 Oさんからの電話で、「向山」を思い出し、2003年1月には、雪の中を大変な
想いをして産地にたどり着いたこと、もう一度行ってみたい坑道があることを
思い出した。
 2004年の冬は甲府地方も暖冬で、雪が少なく、ポカポカ陽気に誘われて
向山鉱山訪れ、「松茸水晶」をはじめ、向山の代表的な標本を採集することができた。
 その足で黒平の産地を回ったが、北斜面にはまだ雪が残っており、採集できる
ようになるのは、1ケ月くらい先になりそうです。
(2004年2月採集)

2.産地

 上黒平の集落を抜け、クリスタル・ラインで焼山峠に向かって800mも走ると
できたばかりの林道があり、そこに入ると平馬沢を挟んで向山鉱山があった
雄鷹山が見えてくる。

     
      2003年1月【豪雪】    2004年2月【雪はほとんどない】
               雄鷹山

3.産状と採集方法

 雄鷹山一帯は、アプライトで、その中に貫入した石英脈の晶洞部分に水晶が
族生している。
 神津博士が昭和12年(1937年)に岩石鉱物鉱床学誌に掲載した「水晶の
日本式双晶に就て(T)」を読むと、次のような記述がある。

  『古来有名な甲州の水晶は、甲府市の北約6里(24q)の金峰山国師ケ嶽を
  中心として甲府盆地の北半を囲みて露出する花崗岩地方に産出するもので
  ・・・・・・・・
   これらの水晶の産出状態は場所によって少しく相違はあるが、何れも
  この花崗岩に由来するPegmatite中に産するものヽ如く、・・・・・・
  向山に於けるが如く、殆んど水晶のみより成る所謂quartz-Pegmatite式の
  ものもある。』

  この記述の通り、向山鉱山は水晶以外の鉱物が殆んど見られない産地です。

4.産出鉱物

  向山鉱山での採集品は、水晶がメインで、普通の無色、透明のものから、各種の
 インクルージョン入りが採集できます。
(1)松茸水晶【Scepter Quartz:SiO2】
    松茸水晶は平行連晶の1種で、水晶の生成が何回かにわたって行われたことを
   示している。
    最初にできた水晶の表面には、黒雲母(緑泥石?)が生成し、それらが
   同一平面上に並んでおり、その上に透明度の高い(=純度の高い)水晶が
   成長し、あたかも山入り水晶のようです。
    柱面の黒雲母(緑泥石?)は、永い間に脱落して、凹みになっています。

   松茸水晶

(2)両錐水晶【Rock Crystal Bipiramid Type:SiO2】
    透明感と屈折率が高く薄い平板状の水晶両錐を採集した。一面には黒雲母
  (緑泥石?)が成長している。
    このことは、この水晶が、最初にできたことを示しています。

   両錐水晶

(3)虹入り水晶【Rainbow Quartz:SiO2】
    内部のクラック(ひび)起因と思われる虹入り水晶である。真っ黒い
   黒雲母(緑泥石?)と白雲母(絹雲母)をインクルージョンとして含んで
   いることから、最初に生成した水晶とその上に成長した水晶の間の隙間が
   虹の原因かも知れません。

   虹入り水晶

5.おわりに

(1)向山鉱山は、甲府市向山にあったところから名づけられたようです。
   坑道の数は30余りと言われ、名前が知られているものだけでも17坑あり
   黒平の集落に近いこともあり、江戸時代から太平洋戦争中にかけ、断続的ながら
   一時は盛んに採掘されたようで、その規模の大きさが偲ばれます。

(2)私のHPを見ていただいたHさんから、次のようなメールをいただき、
   「松茸水晶」を英語では、Scepter Quartz【米】、Sceptre Quartz【英】と
   言うのをはじめて知りました。

   『水晶をネットで検索していて、鉱物産地情報に行き当たりました。
    当方、自分の誕生石にあたる石が欲しくて探しております。
    松茸水晶
    セイプタークォーツ
    などという名前らしいのですが大抵はマダガスカルやメキシコ産だそうです。
    この水晶は日本国内では入手可能なのでしょうか?
    また、パソコンの画面上で見る限り透明度の極端に低い乳白色のものと
    極めて透明度の高いものの2種類があるようですが、後者の方は国内で
    採取可能ですか?
   (できればお店で買うのではなくて自分で探してみたいのですが・・・)

    もしご存じでしたらわかる範囲で結構ですので是非ご教示ください。』

    これに就いて、次のような返事を差し上げた。

    『松茸水晶(セプター・クオーツ Scepter Quartz:王笏(王様が持つ杖)
     水晶とも呼ばれるようです)は、比較的採集できる場所が多い。
     ざっと、私が採集したことがある産地を上げると、次の通りです。

    福島県    都路村
    山梨県    黒平、向山
    長野県    甲武信鉱山、川端下、小川山、赤面(顔)山
    群馬県    三ツ岩岳
    埼玉県    秩父鉱山
    愛知県    白鳥山
    滋賀県    小ツ組
    奈良県    五代松

    甲武信鉱山なら、一日頑張れば1つは採集できると思います。
    (1,000円入山料要)
    向山もこの列に加わりそうです。
    他の産地は、出る場所は限定できるのですが出るかでないかは運任せの
    ところがあります。』

(3)この帰りに、黒平に立ち寄りましたが、北斜面にはまだ雪が残っており
   採集できるようになるのは、1ケ月くらい先になりそうです。

   黒平冬景色

6.参考文献

1)角田謙朗:山梨県の水晶案内,山梨地学第20号〜第26,27合併号,1976〜1984年
2)神津俶祐:水晶の日本式双晶に就て(T)」,岩石鉱物鉱床学誌第17巻第1号,昭和12年
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