山梨県黒平向山鉱山の水晶

山梨県黒平向山鉱山の水晶

1.初めに

山梨県の水晶鉱山の1つに黒平向山鉱山がある。2002年12月初めに
横浜のMさん、埼玉のAさんと友人のASさんと黒平に採集に行ったときに
次回は向山鉱山に行きたいという話になった。
私は、向山鉱山には、10年近く前に行った事はあったが、坑道やズリを
確認した訳でなく、成果と言えば緑簾石(?)の入った透明度の高い頭なし水晶を
表面採集しただけであった。
皆さんを案内するには、あまりにも心もとないので、向山鉱山に関する
情報収集を開始した。
山梨県立図書館で、山梨地学会の会誌「山梨地学」のバックナンバーを見て
いると、山梨大学の角田先生が、「山梨県の水晶産地」と題して、5回の
連載記事を出されていることが分かった。
しかし、向山鉱山について書かれていると思われる号のバックナンバーが
在庫していない。
思い余って、厚かましくも、山梨大学の角田先生に電話でコピーをお願いすると
「良いですよ」との事。その日のうちに、先生の所に伺い、コピーを頂き
向山鉱山について教えを乞うが、「口で説明できる場所ではない」とのこと。
それでも、砂防ダムから、雄鷹山を目指すよう、アドバイスいただいた。
向山坑道配置【山梨地学から引用】
お蔭で、何箇所かの坑道とそれに伴うズリに到達でき、向山鉱山らしい水晶を
採集できた。
アドバイスいただいた、角田先生に、厚く御礼申し上げます。
(2002年12月採集)

2.産地

黒平の集落を抜け、クリスタル・ラインで焼山峠に向かって300mも
走ると平馬沢の右岸に入る林道入口がある。ここに車をおき、林道を上流へ
向かうと砂防ダムの下流で沢を横切る。(4WDならここまで入れる。)
上流にもう一つ砂防ダムがあり、この上流50mから、雄鷹山とその北にある
ピークの間の沢を遡上する。
雄鷹山【写真中央】
約400mも登ると、右側の支尾根近くに「出穴(であな)」と呼ばれる坑口が
ある。
「出穴」は、明治中期と太平洋戦争中に採掘された坑道で、入口付近から晶洞が
出始め、大晶洞があったことから、出穴の名前が付いた。
出穴(であな)坑口
ここから、上に登ると、そこかしこに試掘坑や坑道が見られる。
試掘坑のほとんどは、大人がハイハイしてようやく進める間口しかなく
いわゆる「狸堀」の形態で、採掘された時代の古さを物語っています。

     試掘坑A          試掘坑B
「出穴」から約150m登ると沢は分岐しており、左側を登ると、尾根近くに
「トッコ穴(?)」と思われる坑道があり、この前には、ズリが広がっている。

     トッコ穴(?)     坑口前のズリ
尾根に出て、尾根筋を200mも南に登ると、雄鷹山の三角点があり、西方のはるか
下に下黒平の集落が見えます。
黒平の集落から雄鷹山方面を見ると、峻険な山々が見えるので、雄鷹山の頂上も
そうだろうと覚悟していたら、カラマツが植林された、なだらかな山頂なので
拍子抜けします。

   雄鷹山三角点    雄鷹山から黒平集落

3.産状と採集方法

雄鷹山一帯は、アプライトで、その中に貫入した石英脈の晶洞部分に水晶が
族生している。
石英脈が地表で見える場所は少なく、黒平鉱山のようにマサ化している部分も少なく
地表面で晶洞を当てる事は難しい。坑道内で石英脈を追いかけて、晶洞部分から
採集するか、坑道内外のズリを掘り返して採集します。
石英脈の厚いところは50cm以上ありますが、晶洞は小さく、それが頭付き水晶が
少ない理由でしょう。
「出穴」坑道内のガマ

4.産出鉱物

向山鉱山での採集品は、水晶がメインで、普通の無色、透明のものから、各種の
バリエーションが採集できます。しかし、頭付きは極めて少ない。
(1)水晶【Rock Crystal:SiO2】
無色、透明で屈折率が高く、左の標本は右水晶2本がC軸を共有する透入双晶で
ドフィーネ式双晶と呼ばれます。また、薄い平板状の水晶も多数見かけますので
産出しないとされている日本式双晶も可能性は残っています。

    ドフィーネ式双晶      平板水晶
(2)両錐水晶【Rock Crystal Bipiramid Type:SiO2】
坑道内の晶洞の絹雲母質ガマ粘土に刺さるようになっていた両錐水晶を採集した。
両錐水晶【10cm】
(3)松茸水晶【Rock Crystal Pararell Growth:SiO2】
平行連晶の1種で、緑泥石と思われる緑色、球状のインクルージョンを含む
透明度の高い松茸水晶を坑道内で採集した。
松茸水晶
(4)草入り水晶【Rock Crystal including Epidote:SiO2】
緑色〜黄褐色針状の緑簾石(角閃石?)が入った草入り水晶が採集できます。
草入り水晶は、表面に白雲母(絹雲母)が晶出しているケースがほとんどですので
草の正体は、角閃石の可能性が高いと思う。
黒色の苦土電気石(?)と思われるインクルージョンを含むものは、外観が
煙水晶のようです。
残念ながら、頭付きのまともなものは今回採集できなかった。
草入り水晶【青草と枯れ草共存】
(5)武石【Limonite:不純な酸化・水酸化鉄】
黄鉄鉱が酸化して褐鉄鉱化した武石が採集できます。
武石

5.おわりに

(1)向山鉱山は、甲府市向山にあったところから名づけられたようです。
坑道の数は30余りと言われ、名前が知られているものだけでも17坑あり
黒平の集落に近いこともあり、江戸時代から太平洋戦争中にかけ、断続的ながら
一時は盛んに採掘されたようで、その規模の大きさが偲ばれます。
(2)坑道の名前は、産出した水晶の形態(トッコ)、採掘するときの様子(神楽殿)
坑道の形(大穴)、採掘者の名前(五郎兵、明電、大戸屋相場)などに因んで
名付けられたようですが、今では地元の人にも忘れ去られようとしています。
(3)文献では、向山鉱山では、各種の水晶が採掘され、その特長は次の通りです。
@色・・・・・無色、白色(表面曇り)、草入り
A晶相・・・・柱状単晶のみで、双晶は産出しない。
B特徴・・・・透明度が高く美しい。
       草入りが多く、青(緑?)色草入り、枯れ草(電気石?)入りあり。
       小型のトッコ多産
今回、雄鷹山の東斜面だけで採集したので、向山鉱山産水晶の全ての標本を網羅
できませんでした。向山鉱山の坑道は、西側斜面の方が多かったようですので
そちらも探索してみたいと計画しています。

6.参考文献

1)角田謙朗:山梨県の水晶案内,山梨地学第20号〜第26,27合併号,1976〜1984年
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