岐阜県洞戸鉱山杢助坑の透輝石

岐阜県洞戸鉱山杢助坑の透輝石

1.初めに

加藤・松原・野村先生共著の「鉱物採集の旅-東海地方をたずねて-」に
「岐阜市北方の接触鉱床とスカルン鉱物」の章があり、洞戸鉱山はじめ、
関東の私にとって魅惑的な鉱物産地が目白押しに紹介してある。
この本には、洞戸鉱山杢助坑の3cmクラスの透輝石が写真入りで掲載してあり
一度は訪れてみたいと考えていた。
しかし、この本が書かれたのは、1980年前後で、それから20年以上が経ち、
最近の採集情報では、ミリ単位のものしか採集できないので、”ピンセット”
持参のこととなっている。
そんな折、愛知県の石友Kさんが、6月初めに洞戸鉱山杢助坑を訪れた際
同行の方が3cm級を採集したとの心強い情報を頂き、Kさんと息子のS君の案内で、
妻と一緒に岐阜市の北にある、美山町、洞戸村周辺の鉱山めぐりの初日に
洞戸鉱山杢助坑を訪れた。
5時間余り粘った甲斐があり何とか頭付き1cmクラスの透輝石を筆頭に
母岩付き透輝石、灰鉄(灰バン)ざくろ石、閃亜鉛鉱など洞戸鉱山杢助坑の
代表的な鉱物を一通り採集でき、大満足でした。
(2002年6月採集)

2.産地

美濃市から洞戸村高見(こうみ)地区へ向かい、「高見集会所」の脇から
林道を約1.5km登って行くと、右側に砂防ダムが見え、この手前左側に
2〜3台駐車できるスペースがある。
杢助坑登り口
砂防ダムの左岸の踏み分け道を谷沿いに登って行くと約100mで坑道とズリに
到着する。
ここが、”杢助坑”と呼ばれる、透輝石の産地です。

左:杢助坑道前          右:縦坑入口

3.産状と採集方法

「日本鉱産誌」によれば、洞戸鉱山は古生代の粘板岩、砂岩、チャート、石灰岩と
これらを石英斑岩が貫く典型的なスカルン鉱床です。
1939年、1942〜44年にかけ、閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱などを採掘した時に、これに伴って
透輝石の美晶、水晶の日本式双晶が産出したことで有名になったようです。
試掘坑と思われる深さ3m位の坑道と西鉱体、東鉱体と呼ばれた深さ40mを越す
本格的な坑道があり、これらの坑道の中と外のズリが産地です。
東鉱体はほぼ直立していたようで、縦坑が上下にあり、落ちないように注意が必要です。
下向きの縦坑には水がたまり、坑道の中でフルイがけして、水が濁って来ると縦坑が
どこにあったのか分からなくなる。
透輝石はがさがさのスカルン塊の晶洞部分に結晶したもので、母岩付きと分離結晶が
採集できます。
ズリは完全にシャッフルされ、何処が良いのか運次第です。坑道の中は、透輝石の
出る場所と出ない場所があり、出る場所を初めに探るのがコツです。
沢の水を貯め、その中で坑外の土砂をフルイで篩って、透輝石や各種の鉱物を
丹念に探します。透輝石は小さいので、摘み上げるピンセットとプラスチックの
収納ケースが不可欠です。
杢助坑前採集風景

4.産出鉱物

(1)透輝石【Diopside:Ca(Mg,Fe)Si2O6】
無色〜黄緑色透明、先端が尖った平べったい柱状結晶で産出する。無色透明で小さなものは
水晶と紛らわしい。
群晶も採集できるが、Kさんの話では、この1ケ月の間に、急激に少なくなっているとのこと。

左:透輝石群晶          右:透輝石分離結晶
(2)石榴石【Garnet:Ca3Al2(SiO4)3-Ca3Fe2(SiO4)3】
ここのザクロ石は、灰バン〜灰鉄ザクロ石と言われ、緑〜茶褐色〜黒色まで
各種の色のザクロ石が採集できる。
私は、緑〜茶褐色は灰バン、黒っぽいのは灰鉄と勝手に決めています。
雨水で方解石が溶けて、結晶面が浮き出た小さいが美しいザクロ石を妻が表面採集で
見つけた。私が採集した灰鉄ザクロ石は、結晶面が1cm近いものです。

左:灰バンザクロ石       右:灰鉄ザクロ石
(3)閃亜鉛鉱【Sphalerite:ZnS】
ここのものは、鉄閃亜鉛鉱とよぶ真っ黒い結晶で、分離結晶で、四面体の結晶形を示す
ものが採集できた。ほかに、脈石を割った破断面にへき開面がみえるものがある。
閃亜鉛鉱【四面体分離結晶】
(4)灰鉄輝石【Hedenbergite:Ca(Mg,Fe)Si2O6】
ザクロ石の晶洞の中に灰緑色で透明感のある四角柱状結晶で産出する。透輝石とは化学成分が
同じで、あらゆる割合で溶け合うため、中間組成のものは肉眼での判定は難しいとされています。
灰鉄輝石
(5)葡萄石【Prehnite:Ca2Al2Si3O10(OH)2】
スカルンでは、最末期に低温の熱水から晶出するといわれ、杢助坑ではザクロ石の表面を
覆う白色、球果状で産出する。四角い結晶の葡萄石が産出するとありますが、
採集できたのはありふれたものでした。
ぶどう石
このほか、黄銅鉱とそれに伴う孔雀石などを採集できました。
文献には、「魚眼石」を認めることがある、とありますが採集できませんでした。

5.おわりに

(1)杢助坑のはるか下には、洞戸鉱山梅保木坑があり、紫水晶の日本式双晶や
珪灰鉄鉱を探しに立ち寄ろうとしましたが、冬の雪害で折れた杉の倒木に行く手を阻まれ
ズリに到達できませんでした。次回、再度挑戦したいと思います。
梅保木坑【沢を遡る】
(2)高見から板取村に向かって約1km行くと、左手に別荘があり、その中に洞戸鉱山
杉原坑がある。ここで産出したミメットが「日本の鉱物」に掲載してある。
ちょうど週末で、別荘の持主がおり、採集はあきらめ、写真だけ撮らせていただいた。
杉原坑【坑口は閉鎖】
(3)洞戸鉱山では、はじめての採集でしたが、杢助坑の代表的な標本を殆ど採集でき
ました。案内していただいた、Kさんと息子のS君に感謝します。

6.参考文献

1)加藤昭、松原聡、野村松光共著:鉱物採集の旅-東海地方をたずねて-,築地書館,1982年
2)日本鉱産誌編纂委員会編:日本鉱産誌 T-b(銅・鉛・亜鉛),東京地学協会,昭和31年
3)名古屋鉱物同好会編:東海 鉱物採集 ガイドブック,七賢出版,1996年
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