群馬県茂倉沢の「鈴木石」

           群馬県茂倉沢の「鈴木石」

1.初めに

 過去に何回か、茂倉沢を訪れているが、”鈴木さんは、お留守”で、肉眼で見えるような
「鈴木石」を採集したことがなかった。
 そんな訳で、2003年に、一緒に茂倉沢に行った兵庫県の石友・Nさんの奥さんが採集した
「鈴木石」を恵与していただき、先月号のHPに掲載させていただいた次第であった。
 2005年になって、桐生市で毎月開催される恒例の骨董市に行ったついでに、1年半ぶりに
茂倉沢に立寄った。
 2004年に、立ち木の伐採をしたらしく、それらが沢の中に倒れている個所があったり、その上
真っ黒なマンガン鉱の数がめっきり少なくなり、以前より採集条件は各段に悪くなっていた。
 それでも、2時間近くの採集で、ようやく”肉眼サイズの鈴木石”を採集できた。
 また、「辰砂」をはじめ、変成層状マンガン鉱床に伴う鉱物を採集でき、実り多い採集で
あった。しかし、本格的な採集は、梅雨時や台風シーズンに大雨が降った後が良さそうです。
(2005年4月採集)

2.産地

 桐生市にある群馬大学工学部の脇の県道を「梅田」に向かって北上する。右側に「セブン
イレブン」があり、その手前で、桐生川に掛かる「観音橋」を渡り、左折し、500mほど行くと
右側に林道が見える。林道の左側にある「茂倉・・・・」の標識が目印です。
 林道を300mも行くと橋(水は大きなパイプを流れているので、普通の橋とイメージが違う)が
あるのでこの周辺の空き地に駐車する。
 沢に下り、沢の中に落ちているマンガン鉱石を叩きルーペで確認しながら、上流に進む。

     茂倉沢

 最初の橋と同じタイプの橋が3つあり、それぞれ迂回して、又沢に下りる。500m位進むと、
2つの沢が合流する。ここを左の沢に沿って進みながら採集する。合流点から約200m
上流に坑口とズリがある。

3.産状と採集方法

 ここは、変成層状マンガン鉱床といわれている。マンガン鉱物は、地表の雨水や酸素の
影響で表面が真っ黒い2酸化マンガンに変化している。
 全体として四角っぽく、しかし角は丸みを帯び、真っ黒い粉を吹いたような外観で、手にもって
重たく感じる塊を探し、大き目(2kg)のハンマで割って新鮮な面を出し、ルーペで丹念に観察する。

4.産出鉱物

(1)鈴木石【Suzukiite;Ba2V2Si4O12】
   「鈴木石」は、石英が斑晶状に入り込んでいる、やや透明感のあるバラ輝石に来るなどの
  特徴を知っていると発見の確率が高くなる、と以前教えていただいた。
   鈴木石は、透明感がある緑色の柱(針)状が特徴です。

     鈴木石

(2) ロスコー雲母【Roscoelite;K(V,Al)2AlSi3O10(OH)2】
   バナジン雲母とも呼ばれ、ここ以外では、鹿児島県の大和鉱山で発見された淡い緑色の
  薄い板状で、へき開面で全反射して金属光沢を呈する。

     ロスコー雲母

(3)緑マンガン鉱【Manganosite;MnO】
   割った瞬間、鮮緑色が目に飛び込んできて、”あっ、鈴木石だ!!”と思うが空気中の酸素の
  影響で鈍い緑色、翌日には灰褐色に変色してしまう。
   この標本は、ハウスマン鉱【Hausmannite:Mn2O4】を主とする細粒緻密な高品位鉱
  (いわゆるチョコレート鉱)に隣接しており、低い変成の結果ハウスマン鉱が部分的に還元して
  生成したと考えられる。

     緑マンガン鉱

(4)菱マンガン鉱【Rhodochrosite;Mn(CO)3】
   淡い紅色で、特有の劈開があり、一方向にキラキラ輝くので分かります。

     菱マンガン鉱

(5)辰砂【Cinnabar;HgS】
   鮮やかな朱色で、硫化鉱物を取り巻くように生成している。変成層状マンガン鉱床における
  「辰砂」の産出は、比較的変成度の弱いものの中で、菱マンガン鉱・含マンガン方解石あるいは
  カリオピライト【Caryopilite:Mn6[(OH)8Si4O10]】などと共存し、脈中に産し、あるいは炭酸塩中に
  微細粒をなす、とされています。

       
           全体                 拡大
        【白色脈はBa長石】
                     辰砂

(6)ネオトス石【Neotocite;MnO・SiO3・nH2O】
   俗に”ビール瓶のカケラ”と称されるように、黒褐色、ガラス光沢、貝殻状破面を示し
  蛋白石と同じように、脈状で産する。
   

     ネオトス石

(7)砒四面銅鉱【Tennantite;(Cu,Fe,Zn)12As4S13】
    銀白色、ピラミッド状の微細な結晶で、バラ輝石に隣接する石英の”晶洞”様の中に
  産する。

     砒四面銅鉱

5.おわりに

(1)ここでの採集は、割ってはルーペで確認、割ってはルーペで確認の繰り返しです。
  破断面を見て、”おや?” と思うものは、カケラを含め、全て個別の袋に入れ持ち帰る。
  自宅の実体顕微鏡下で、ジックリ確認しながら、小割にしていくと、思いがけない発見が
  あります。

(2)今まで、茂倉沢で良い思い出がないのは、”1cmもある鈴木石”の夢を追い求め
  過ぎていたからかも知れないと、今回、しみじみ感じました。
  今でも、小さな、鈴木石なら、なんとか採集できそうです。

6.参考文献

1)日下 英昭:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
2)加藤 昭:マンガン鉱物読本,関東鉱物同好会編,1998年
3)松原 聰:日本産鉱物種,鉱物情報編,1992年
4)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
inserted by FC2 system