茂倉沢での採集での難しさは、「母岩」と「鈴木石」や「長島石」の大きさがアンバランスな
標本が多いことだ。「母岩」は握り拳大あるのに「鈴木石」がルーペサイズでは、標本ラベル
には「バラ輝石」としか書きようがない。
何とか10cm大の「母岩」に”肉眼サイズ”の「鈴木石」なり「長島石」が欲しくて、何度も足を
運んでいる始末だ。
2時間、の約束で妻を車に残し沢に入った。予想以上にズリ石が多く、淀(よど)みにあった
握り拳2つ分のズリ石を割ると、肉眼でも見える鮮緑色の「鈴木石」があり、この日一番の標
本になった。
この日一番の「鈴木石」の方割(かたわ)れを「朝日トンネル産弗素燐灰石」を恵与いただ
いた石友・Kさんに送って差し上げたところ、数ランク上の「鈴木石」を送っていただいた。
”絶産”という声も聞かれるが、まだまだ産地は健在なようだ。
( 2012年4月採集 )
今回訪れる前の週に台風並みの雨が降り、沢のアチコチにズリ石が見られそれらを熊手で
掘り出し、大きめのハンマーで叩き、割った断口をみて、『鈴木石』などのバナジウム鉱物が
観察できたものは無論、来そうな(ありそうな)ものや、「緑マンガン鉱」などが観察できた石
はバケツに入れて持ち帰る。
帰宅後、太陽光が当る明るい場所で、バケツの中の採集品を 『ルーペで観察』 →
『小割り』、を繰り返し、”ズリ石”と”標本”とに分類する。だいたい90%以上は”ズリ石”の運
命をたどるのが常だ。
GWに山梨に戻り、昔買った古書を何冊か読み始めた。その中に益富先生の「物象鉱物
学」があった。
この本は、日本が戦争に負けて1年もたたない、昭和21年(1946年)5月に印刷、6月1日
に発行した。印刷されたのは限定4,000部と少なく、今となっては「稀覯本」の仲間だ。
この本には、「鉱物採集心得」なる章の「産地に於て注意すべき事柄」として、次の7項
が説かれている。
イ. 採集は雨上り又は降雨の翌日が最も効果的である。・・・・・・・・・・・・・・・
ロ. ・・・・・鉱物を探す場合は下から上へと歩を運ぶ・・・・・・・・・・・・・
ハ. 採集にとりかかる前に現場付近を一わたり見渡した上、最も面白そうな所から
採集にかかる。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ニ. 採集品は一定の場所に集めるか新聞紙に包み布袋に入れる。岩角などに置くと
持参するのを忘れ帰宅後に口惜しがってもあとの祭りとなる。・・・・・・・・・・・・・
ホ. 採集品産出地点を地図に印し、・・・・・・・・・・・・写真を撮っておく。・・・・・・・・
ヘ. 採集は1産地について2、3度、必要あらば10数回も訪れること。筆者等の経験で
は・・・・・・回を重ねるに従い種類を増し美晶を得られる。これは1つは眼が慣れる
ことに因る。・・・・・・・・・・・・
チ. 採集道徳をまもること。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これらのほとんどは、鉱物採集ガイドブックの類に引用され御存知の読者も多いはずだ。
しかし、「ヘ項」の、 採集は1産地について2、3度、必要あらば10数回も訪れること。には
度肝を抜かれたのではないだろうか。
私などは、学識・経験豊富な益富先生ですら、1つの産地に10回以上通い詰めるのを
厭(いと)わぬ姿勢だったことに妙に安心感を覚えた。
( でも、本音は、早くこの産地を卒業したい )