群馬県桐生市茂倉沢鉱山の『鈴木石』









          群馬県桐生市茂倉沢鉱山の『鈴木石』

1. 初めに

    2012年4月、土曜日の出勤をパスし、山梨から単身赴任先に来た妻と北関東の骨董市巡
   りと群馬県桐生市茂倉沢でのミネラル・ウオッチングを1泊2日で楽しんだ。
    その前の週、関東地方では台風並みの大雨が降ったので、沢のズリ石が洗い出されてい
   るはずだ、と読んでの訪山だった。
    人は同じような事を考えるらしく、産地の入口には、先行者の車が2台停まっており、相変
   わらず人気が高いようだ。

     茂倉沢駐車スペース

    茂倉沢での採集での難しさは、「母岩」と「鈴木石」や「長島石」の大きさがアンバランスな
   標本が多いことだ。「母岩」は握り拳大あるのに「鈴木石」がルーペサイズでは、標本ラベル
   には「バラ輝石」としか書きようがない。
    何とか10cm大の「母岩」に”肉眼サイズ”の「鈴木石」なり「長島石」が欲しくて、何度も足を
   運んでいる始末だ。

    2時間、の約束で妻を車に残し沢に入った。予想以上にズリ石が多く、淀(よど)みにあった
   握り拳2つ分のズリ石を割ると、肉眼でも見える鮮緑色の「鈴木石」があり、この日一番の標
   本になった。

    この日一番の「鈴木石」の方割(かたわ)れを「朝日トンネル産弗素燐灰石」を恵与いただ
   いた石友・Kさんに送って差し上げたところ、数ランク上の「鈴木石」を送っていただいた。
   ”絶産”という声も聞かれるが、まだまだ産地は健在なようだ。
   ( 2012年4月採集 )
  

2. 産地

    草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」にも詳しく書いてある、あまりにも有名な産地な
   ので詳細は割愛する。

3. 産状と採集方法

    これについても、何度か紹介している。2011年の採集納めの模様については、次のページ
   を参照願いたい。

         2011年 ミネラル・ウオッチング納め
    群馬県桐生市茂倉沢鉱山の『鈴木石』
    ( Last Mineral Watching 2011 , SUZUKIITE from Mogurasawa Mine , Gunma Pref. )

    今回訪れる前の週に台風並みの雨が降り、沢のアチコチにズリ石が見られそれらを熊手で
   掘り出し、大きめのハンマーで叩き、割った断口をみて、『鈴木石』などのバナジウム鉱物が
   観察できたものは無論、来そうな(ありそうな)ものや、「緑マンガン鉱」などが観察できた石
   はバケツに入れて持ち帰る。

       
             淀みのズリ石               バケツに入れた採集品
                    採集方法【桐生市茂倉沢鉱山】

    帰宅後、太陽光が当る明るい場所で、バケツの中の採集品を 『ルーペで観察』 → 
   『小割り』、を繰り返し、”ズリ石”と”標本”とに分類する。だいたい90%以上は”ズリ石”の運
   命をたどるのが常だ。

4. 産出鉱物

 (1) 鈴木石【SUZUKIITE:BaV4+Si2O7
     私が、茂倉沢での採集を難しいと思うのは、バナジウム鉱物が少ないだけでなく「母岩」
    と「鈴木石」や「長島石」の大きさがアンバランスな標本が多いことだ。「母岩」は握り拳大
    あるのに「鈴木石」がルーペサイズでは、標本ラベルには「バラ輝石」としか書きようがない。
     今回の採集品本は、10cm大の「母岩」に”肉眼サイズ”の「鈴木石」が見られ、マズマズの
    標本だ。

         
                 全体                       拡大
                       鈴木石【桐生市茂倉沢鉱山】

5. おわりに

5.1 「何遍行けば気が済むの」
      いかに骨董市巡りのついでにせよ、茂倉沢鉱山を訪れたのは5回や6回では済まない。
     これだけ通っても未だに納得のいく標本を採集できない自分の採集力、”運”のなさには
     われながら呆(あき)れてしまう。

      GWに山梨に戻り、昔買った古書を何冊か読み始めた。その中に益富先生の「物象鉱物
     学」があった。
      この本は、日本が戦争に負けて1年もたたない、昭和21年(1946年)5月に印刷、6月1日
     に発行した。印刷されたのは限定4,000部と少なく、今となっては「稀覯本」の仲間だ。

      この本には、「鉱物採集心得」なる章の「産地に於て注意すべき事柄」として、次の7項
     が説かれている。

      イ. 採集は雨上り又は降雨の翌日が最も効果的である。・・・・・・・・・・・・・・・
      ロ. ・・・・・鉱物を探す場合は下から上へと歩を運ぶ・・・・・・・・・・・・・
      ハ. 採集にとりかかる前に現場付近を一わたり見渡した上、最も面白そうな所から
         採集にかかる。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
      ニ. 採集品は一定の場所に集めるか新聞紙に包み布袋に入れる。岩角などに置くと
         持参するのを忘れ帰宅後に口惜しがってもあとの祭りとなる。・・・・・・・・・・・・・
      ホ. 採集品産出地点を地図に印し、・・・・・・・・・・・・写真を撮っておく。・・・・・・・・
      ヘ. 採集は1産地について2、3度、必要あらば10数回も訪れること。筆者等の経験で
         は・・・・・・回を重ねるに従い種類を増し美晶を得られる。これは1つは眼が慣れる
         ことに因る。・・・・・・・・・・・・
      チ. 採集道徳をまもること。
         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

      これらのほとんどは、鉱物採集ガイドブックの類に引用され御存知の読者も多いはずだ。
     しかし、「ヘ項」の、 採集は1産地について2、3度、必要あらば10数回も訪れること。には
     度肝を抜かれたのではないだろうか。
      私などは、学識・経験豊富な益富先生ですら、1つの産地に10回以上通い詰めるのを
     厭(いと)わぬ姿勢だったことに妙に安心感を覚えた。
      ( でも、本音は、早くこの産地を卒業したい )

6. 参考文献

 1) 益富 壽之助:物象鉱物学,高桐書院,昭和21年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 加藤 昭:マンガン鉱物読本,関東鉱物同好会編,1998年
 4) 加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会編,2000年
 5) 宮島 宏:日本の新鉱物 1934-2000 ,フォッサマグナミュージアム,2001年
 6) 松原 聡・宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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