群馬県桐生市茂倉沢鉱山のバナジウム鉱物

     群馬県桐生市茂倉沢鉱山のバナジウム鉱物

1. 初めに

   2008年10月、岐阜県の「金加鉱山」、「五加鉱山」そして「中津川市(蛭川村)」で駆け
  足ミネラル・ウオッチングを行い、それぞれの産地の代表的な鉱物を採集できたことは
  既報の通りである。
   ( 中津川では、持ち帰るような標本は全くなく、”手ぶら”だった )

   「五加鉱山の2次鉱物」の「おわりに」で、次のように書いた。

   『 千葉の単身赴任先に帰って標本を整理、写真に収めてみると、「黄鉛鉱(水鉛
    鉛鉱)」
「青鉛鉱」「白鉛鉱」そして「緑鉛鉱」”4色勢ぞろい”の見事さである。

     「ヘナK」小隊長が好きな”赤い鉱物”がないのが淋しい・・・・・・・・・・    』

   関東の代表的な赤い鉱物の1つは ”ルビーシルバー”だと思い、久しぶりに西沢
  金山を訪れてみる気になった。
   栃木県の山奥まで日帰りでは勿体無いので、「北関東の骨董市」、「バナジウム鉱物
  の茂倉沢鉱山」と合わせて、1泊2日で回った。

   茂倉沢鉱山のズリ石はメッキリ少なくなったが、今まで採集した中で一番の「長島石」
  や「鈴木石」などのバナジウム鉱物が採集できた。特に、「長島石」は”肉眼サイズ”
  近来にない良品だ。このほか、「緑マンガン鉱」、「ネオトス石」なども採集でき、満足
  の1日だった。

   私の持論の1つに、『行っても採れないかも知れないが、行かなければ絶対採れない』
  がある。要は、チャレンジすることが大切だと思う。
  ( 2008年10月採集 )
   

2. 産地

   当日、同好の士にお会いするなど、あまりにも有名な産地なので詳細は割愛する。

3. 産状と採集方法

   茂倉沢鉱山は、変成層状マンガン鉱床といわれている。マンガン鉱物は、地表の雨
  水や酸素の影響で表面が真っ黒い2酸化マンガンに変化している。
   全体として四角っぽく、しかし角は丸みを帯び、真っ黒い粉を吹いたような外観で、
  手にもって”ズシリ”と重たく感じる塊を探し出す。沢水で洗われたマンガン鉱の表面は
  鉛筆の芯(黒鉛)のように青黒く、擦れた箇所は銀白色である。

   「茂倉沢」沿いに上流に遡りながらズリ石を探して割るのだが、マンガン鉱は、堅くて
  割るのに一苦労する。堅そうな石を台にして割るのだが、台のほうが割れてしまう事も
  たびたびだ。
   (簡単に割れるものは、内部まで2酸化マンガン化が進んだもので、良品はない )
   大き目(2kg)のハンマで割って新鮮な面を出し、ルーペで丹念に観察する。

    茂倉沢【2008年10月】

4. 産出鉱物

 (1) 長島石【NAGASHIMALITE:Ba4(V3+,Ti)4Si8B2O27Cl(O,OH)2
     赤紫がかったピンク色、粗粒のバラ輝石やそれに隣接する粗粒の石英の中に緑
    黒色、針〜細柱状結晶やその集合で産する。表面は真っ黒になっていることが多
    いが、破面は、ガラス質で鮮やかな緑色を示す。

     原産地は、岩手県田野畑鉱山で、ここ茂倉沢鉱山では1980年(昭和55年)に
    発見された。希元素鉱物のアマチュア研究家・長島 乙吉氏にちなんで名付けられ
    た。
     バリウム(Ba)を含むことから、比重が4.0と珪酸塩鉱物としては重い。

      長島石【左右3mm】

 (2) 鈴木石【Suzukiite;Ba2V2Si4O12
     以前ある人から『 鈴木石 は、石英が斑晶状に入り込んでいる、やや透
    明感のあるバラ輝石に来る 』
などの特徴を知っていると発見の確率が高く
    なる、と教えてもらったことがある。
     ただ、例外もないわけでなく、菱マンガン鉱などでもピンク色がかった断面は
    丹念に見るようにしている。
     鈴木石は、透明感のある緑色のスポット状〜柱(針)状〜板状が特徴である。

       鈴木石

 (3) 緑マンガン鉱【Manganosite:MnO】
     緑色、皮膜状で茶色い細粒緻密な高品位鉱(いわゆるチョコレート鉱)の「ハウス
    マン鉱」【HAUSMANNITE:Mn2+Mn3+2O4】と隣接しており、低い変成の結果
    ハウスマン鉱が部分的に還元して生成したと考えられる。

     割った瞬間は鮮やかな緑色だが、1日もたつとくすんだ暗緑色、そして最終的に
    は真っ黒い2酸化マンガンになってしまう。
     褪色(いろあせ)を遅らせるのには、100円ショップにある透明マニキュアを塗る
    方法がある。

        
             採集直後            2日後
                   緑マンガン鉱

 (4) ネオトス石【NEOTOCITE;MnO・SiO2・nH2O】
     俗に”ビール瓶のカケラ”と称されるように、黒褐色、ガラス光沢、貝殻状破面を
    示す。蛋白石と同じように結晶構造をもたない”非晶質”で、脈状で産する。

      「パイロクスマンガン石」で有名な愛知県の田口鉱山では、ネオトス石(旧名
     ペンウィス石・penwithite)が”パイマン”の道しるべ、と「鉱物採集の旅」にあるの
     だが、ここ茂倉沢では通用しないようだ。
   

       ネオトス石

5. おわりに

 (1) ここでの採集は、割ってはルーペで確認、割ってはルーペで確認の繰り返しだ。
    今は季節も良く、清冽な空気の中、ハンマを振るい硬いズリ石を割って、ルーペで
    のぞいた瞬間、緑色の鉱物が眼に飛び込んでくると、疲れも吹き飛んでしまう。

     ただ、これから冬になると寒い中で長時間これを繰り返すのは、いささか”老体”
    には堪(こた)える。
     割ってみて”ピンク色”を含む石はそのまま持ち帰り、暖房の効いた部屋で、実体
    顕微鏡下でジックリ鑑定することになりそうだ。

 (2) この地方では、秋に(にも?)咲く桜があるようで、可憐な花をつけていたので1枚
    ”パチリ”
    ( 百恵ちゃんの歌にある「秋桜」は、「コスモス」のはずだが・・・・・・ )

       秋の桜

6. 参考文献

 1) 加藤 昭、松原 聰、野村 松光:鉱物採集の旅 東海地方をたずねて
    築地書館,1983年
 2) 日下 英昭:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 松原 聰:日本産鉱物種,鉱物情報編,1992年
 4) 益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 5) 加藤 昭:マンガン鉱物読本,関東鉱物同好会編,1998年
 6) 松原 聡・宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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