長野県佐久穂町都沢鉱山の鉱物

            長野県佐久穂町都沢鉱山の鉱物

1. 初めに

   藤本 治義先生の「南佐久郡地質誌」には、旧佐久町にあった鉱山として「大日鉱山」
  「大日方鉱山」「十角平鉱山」「余地鉱山」「宝来金山」そして「都沢鉱山」が記載されている。
  「余地鉱山」は、硫砒銅鉱を産する、とあるところから、われわれが「本郷鉱山」と呼ぶところ
  であろう。
   石川県の石友・Yさんが送ってくれた戦前の佐久町周辺の地図を見ると「都沢鉱山」が
  記載されており、訪れる機会をうかがっていた。「鉱物情報」のバックナンバーをめくっていると
  草下英明氏による「明王鉱山」の採集記事が掲載されているが、場所や産出鉱物からして
  「都沢鉱山」のことらしい。
   ここでは巨大な灰鉄輝石や胆礬(たんばん)を初めとする各種の2次鉱物が採集できるとあり
  東京の石友Mさんを誘って、訪れた。
   鉱山跡には、しっかりした坑道やその前にはズリが残っているが、目ぼしい鉱物は少なく
  「灰鉄輝石」と「胆礬」のみを採集し、ややガッカリして引き上げた。
   帰宅して、お風呂に入ろうと服を脱ぎ、わき腹を見ると、血豆のように盛り上がって黒い
  虫が頭を突っ込んでいるのに気付き、取ろう引っ張ると、頭がもげて胴体だけが取れた。
  苦労の末、頭も何とか取り出した。どうやら”マダニ”のお土産が付いて来たらしい。
   この産地を訪れる方は、くれぐれもご注意ください。
  (2004年7月採集)

2. 産地

   都沢鉱山は、佐久穂町大日向の都沢川の枝沢に面している。詳細は「鉱物情報」に
  記載されているので参考にされると良いでしょう。
   ただし、沢の分岐などが省略されて書かれていますので、現地で”感”を働かせてルートを
  選ぶ必要がある。
   キーワードは「水道施設」(2箇所)と「別荘風建物」で、これらを追って行けばズリに
  到達できると思います。

3. 産状と採集方法

   「南佐久郡地質誌」によれば、『都沢鉱山は、中生層に迸入した蛇紋岩の接触鉱床で
   黄銅鉱、黄鉄鉱、サーラ輝石、水晶、方鉛鉱、閃亜鉛鉱そして方解石が産する。
   大正期に試掘したことあり』 とある。

    産地に至る沢の中や古い川床には、丸みを帯びだ石灰石が落ちており、石灰岩に
   貫入したことによって生じた接触(スカルン)鉱床であろう。ただ、蛇紋岩が貫入したと
   あるが、蛇紋岩は見られなかった。

    産地には、深さ100m以上(端まで行かなかったので正確な深さ不明)、複雑に枝
   分かれした坑道と試掘坑と思われる深さ数メートルの坑道が残っている。
    ここの主要鉱石とされる「黄銅鉱」は、坑口付近の露頭、灰鉄輝石や閃亜鉛鉱などは
   坑道前のズリ、そして「胆礬」などの2次鉱物は坑道内で採集できる。

       
         坑口                   露頭
                  都沢鉱山跡

4. 採集鉱物

 (1)灰鉄輝石【Hedenbergite:CaFe(SiO3)2】
    灰緑色、針状結晶が放射状に集合して”花びら”状で産する。その直径は大きなもの
   では20cmくらいあり、それらが複雑に集合し、一抱えもある大きな塊もある。
    「南佐久郡地質誌」には灰鉄輝石と透輝石【Diopside:CaMg(SiO3)2】の中間成分で
   ある「サーラ輝石【Salite】」として記載されている。
    ズリには新鮮なものから表面が鉄銹で覆われたボロボロのものまでがあり、新鮮な
   ものは非常に強靭で、標本に良いと思う部分をハンマーとタガネで採ろうとして断念した。
    灰鉄輝石には、点々と小さな「閃亜鉛鉱」などの硫化鉱物が含まれていることがある。

    灰鉄輝石

 (2)胆礬(たんばん)【Chalcantite:CuSO4・5H2O】
    坑道内の天井から垂れ下がった鍾乳状、床面の上に成長した石筍状で産する。青色
   半透明で、ランプに照らされて美しい。
    銅鉱脈の分布を暗示するかのように、坑道内の特定の部分で何個所か産出を
   確認できたが、標本となるようなものは少なかった。

    胆礬

 (3)その他、ここで採掘していた「黄銅鉱」などが露頭で観察できたが、如何せん周囲が
    赤錆だらけで、採集するのは見送った。
    針状の水晶、黄鉄鉱なども同様である。

5. おわりに

 (1)旧佐久町の産地をフィールドに決めて、何回かの採集行を重ねている。都沢鉱山での
    成果は今ひとつであったが、古い産地を訪ね、記録に残せただけでも満足している。
    「鉱物情報」誌には、「明王鉱山」として紹介されているが、「南佐久郡地質誌」や
    地元佐久町発行の「佐久町誌」も「都沢鉱山」となっているので、その通りにさせて
    いただいた。

 (2)明治時代、五無斎こと保科 百助がその地質・鉱物への熱心な取り組みを褒めていた
   八木 貞助著「信濃鉱物誌」に黄玉(トパーズ)の項があり、『大日方都沢の上流に於いて
   井出淳一氏の採集せるを聞くも未だ之を詳らかにせず』とある。
    都沢川の源流は四方原山(1632m)と茂来山(1718m)附近である。茂来山の長石は
   五無斎の時代にも知られており、2005年のミネラルマーケットで10cmを超える茂来山産の
   水晶を購入したことから明らかなように、この一帯にはペグマタイトがあることは確実で
   トパーズの産出もありえない話ではない。
    何とも、夢を繋いでくれる産地です。

 (3)帰宅して、お風呂に入ろうと服を脱ぎ、わき腹を見ると、血豆のように盛り上がって黒い
   虫が頭を突っ込んでいるのに気付き、取ろう引っ張ると、頭がもげて胴体だけが取れた。
   苦労の末、頭も何とか取り出した。どうやら”マダニ”のお土産が付いて来たらしい。
    ”ダニ”の仲間には、悪性の病原体を媒介するものもいるとのことなので、この産地を
   訪れる方は、くれぐれもご注意ください。
   ( もしかしたら、ここを訪れる直前に行った、十角平鉱山跡で付いた可能性もあります。
    今になって思うと、獣道に熊の糞がたくさん落ちていたので・・・・・・・・)

6. 参考文献

1)藤本 治義:南佐久郡地質誌,南佐久教育会,昭和33年
2)草下 英明:長野県佐久郡都沢の明王鉱山,鉱物情報No61,1984年
3)加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年
4)八木 貞助:信濃鉱物誌,古今書院,1921年(大正10年)
5)佐久町編:佐久町誌,同町,平成  年
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