群馬県南牧村三ツ岩岳の日本式双晶分類

     群馬県南牧村三ツ岩岳の日本式双晶分類

1.初めに

 2003年5月に群馬県南牧村三ツ岩岳を宮城県の石友・Tさんご夫妻に案内して
頂いて以来、2005年GWの採集会まで、既に5回ほど訪れている。
 以前は、表面採集が主であったので、採集できる双晶は比較的大きなものだが
数量的には、1回で数個という状態であった。
 2003年10月に兵庫県の石友・Nさん夫妻と訪れ、奥さんが持ち帰ったズリの土砂を
フルイ掛けして、まとまった数の双晶を取り出し、その一部を恵与いただいた。
 2005年のGWの採集会の際、Nさんの奥さんに倣って、ズリの土砂を少し持ち帰り
フルイ掛けして、まとまった数の双晶を発見できた。
 恵与いただいたもの、今まで採集したものをまとめると、ある程度の数になり
双晶の形態を分類し、「星取表」を作成してみた。これによって、

 @形態別出現頻度
 A未採集双晶形態

 が、明らかになり、次回採集の目標を設定することができた。

 なお、分類に当っては、「ペグマタイト」誌に掲載された、高田・星野両氏による
「日本式3連双晶とその分類」を参考にさせていただいた。
(2004年5月作成)

2. 双晶の分類

 三ツ岩岳双晶の分類名を聞いても、どのような形の双晶なのかが理解できない
かも知れませんので、一度おさらいしておきたいと思います。

 2.1 命名のルール
    三ツ岩岳の三連双晶は、一般的に下記の様に命名されています。

    X 三連双晶 Y °型

    三連双晶ですから、中心となる1つの水晶(A)にたいして2つの水晶(B,C)が
   それぞれ双晶を形作っており、Xの部分は結晶全体(A,B,C)の形を、Yの部分は
   水晶(A)のC軸(頭と尻を結ぶ線)方向から見たときに、2つの結晶(B,C)がなす
   角度
を示しています。

 2.2 結晶の形
    「鳥形」「変形鳥形」そして「貫入」の3種類があります。

      説明  説明図(120度型で示す)
鳥形 胴体水晶(A)の頭もしくは尻から見たときに
鳥が翼を広げた格好に見える。
翼にあたる2つの水晶(翼B,翼C)は
対称の位置
(付け根が同じ位置)
変形鳥形鳥形と同じだが
翼にあたる2つの水晶(翼B,翼C)は
非対称の位置
(付け根の位置がズレている)
貫入 鳥形双晶の2つの貫入水晶
(翼B,翼C)それぞれが
胴体水晶(A)を貫ぬいて
反対側に(翼B',翼C')として
頭を出ている。
 貫入している水晶の軸は必ずしも
同一線上でなく、胴体水晶(A)の入口と出口で
”段違い”になっているケースも多い。
 また、2つの水晶(翼B,翼C)の一方だけが
貫入していて、翼B'、C'の一方がない
”不完全”なケースも多い。
(両方無ければ、鳥形か変形鳥形)

 2.3 結晶のなす角度
    水晶が「六角形」をして「六方晶系」と呼ばれることからも判る様に2つの「翼」や
   「貫入水晶」は、”四方八方”ならぬ”六方”に成長します。その角度は
   360°÷6=60°、つまり60°おきになり、2つの水晶(B,C)のなす角度は
   60°の倍数(0,1,2,3)倍になり、 「0°」「60°」「120°」「180°」の4種類になります。
    4倍にあたる240°型もあるのですが、360-240=120 で 「120°」型と同じ分類に
   します。

3. 三連双晶の分類

   三連双晶は 「結晶の形」3種 と 「結晶のなす角度」4種 の組み合わせによって
  3×4=12種類あることになるのですが、話はそう簡単ではありません。
   ご多分に漏れず、”例外のないルールはない”で

   @「鳥形」に「0°」型があるのは、”おかしい”と思われる通り、2つの水晶(B,C)が
     ピッタリ重なって1枚に見えるもの、つまり普通にわれわれが『日本式双晶』呼んでいる
     ものがこれに相当します。
   A「変形鳥形」の「180°」型は、『貫入日本式双晶』と呼ばれ、三連双晶には含んで
     いません。
   B「貫入」の「180°」型は、「0°」型と同じ形態を示すので、「0°」型に含めても良いと
     考えます。

   つまり、三連双晶には、12種−3種(@,A,Bの例外)=9種があることになります。
   これを一覧表にまとめると次の通りです。

   形
角度
   鳥形   変形鳥形   貫入
   【日本式双晶】変形鳥形三連双晶0°型貫入三連双晶0°型
60°鳥形三連双晶60°型変形鳥形三連双晶60°型貫入三連双晶60°型
120°鳥形三連双晶120°型変形鳥形三連双晶120°型貫入三連双晶120°型
180°鳥形三連双晶180°型   【貫入日本式双晶】【貫入三連双晶0°型と同じ】

4. 採集品の分類とまとめ

4.1 採集品の星取表
   三ツ岩岳の三連双晶と日本式双晶を一覧表(「星取表」)にまとめてみました。私の標本欄に
  写真がないものは未採集であり、当然出現頻度欄も”0(ゼロ)”になっています。

  形   角度   説明図
(矢印”←→”は双晶関係を示す)
私の標本(恵与品を含む)出現頻度(ケ)
(割合%)
  鳥形    0°
【日本式双晶】
 図のように、縦の水晶が
下にのびていると
【y字形】となる。
341(ケ)(84.8%)
60°4(ケ)(1.0%)
120°7(ケ)(1.7%)
180°0(ケ)(0%)
変形鳥形0(ケ)(0%)
60°0(ケ)(0%)
120°1(ケ)(0.3%)
     180°
【貫入日本式双晶】
 【X形双晶】
45(ケ)(11.2%)
  貫入0°(180°)0(ケ)(0%)
60°
出口側の1つが不完全
1(ケ)(0.3%)
120°3(ケ)(0.7%)
合計 402(ケ)(100%)

4.2 まとめ
 (1)三連双晶9種類のうち、5種類は採集できたが”完集”には至っていない。
    形態によって産出頻度が大きく違う。鳥形180°、変形鳥形0°、貫入0°などは産出が
    稀ということを裏付けている。

 (2)三ツ岩岳の双晶は、もともと、複雑に結晶が入り組んだ群晶の中にあったもので
    今回採集の中心となった分離結晶は、これらが自然に、あるいは先人の採集に伴って
    分離(破壊)したものである。
    ”未採集”の形態は、もともと産出が少ない上に、破壊されてより単純な形になっている
    可能性もあり、今後「群晶」の中から探すことも必要と思われる。

5.おわりに

 (1)日本式双晶、三連双晶、四連双晶と水晶の形態には奥深いものを感じます。
    ”結晶(形態)学”は、各種の電子式分析装置が開発される遥か昔、せいぜいルーペや
    顕微鏡を使った人間の目による鑑定が主流だった19世紀に発達した学問で
    19世紀末にはほぼ完成域にあったと聞いています。
    しかし、このように、21世紀でも、楽しめるのですから、『鉱物って、素晴らしい』ですね。

 (2)三ツ岩岳の産地は、2002年に発見されて以来、大勢のマニアが押し寄せ大きく変貌して
    います。 
    この産地の双晶は、大きなものでも2cmを越えるものは稀で、微細なものが
    ほとんどで、採集したものをどのように整理・展示するか、悩みの種であった。
     今回、このような形でまとめてみて、見方を変えるとまだまだ充分楽しめる産地だと
    感じている。
    今後、未採集品を気長に、集めてみたい。

6.参考文献

1)星野 由紀夫:群馬県南牧村三ツ岩岳付近から産出した水晶の日本式四連双晶と
         貫入三連双晶,ペグマタイト 第53号,2002年
2)星野、高田:群馬県南牧村三ツ岩岳産水晶の日本式双晶
         その2−日本式三連双晶とその分類,ペグマタイト 第54号,2002年
3)高田 雅介:群馬県南牧村三ツ岩岳の日本式三連双晶
        ペグマタイト 第60号,2003年
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