奈良県吉野郡東吉野村三尾鉱山の自然銅

奈良県吉野郡東吉野村三尾鉱山の自然銅

1.初めに

もう10年も前に、愛知県の中宇利鉱山で大きな自然銅の標本を採集し
その片割れを一緒に行った愛知県の石友に差し上げた。
しばらくしてから、奈良県三尾鉱山産の自然銅をお返しに頂いた。
緑色の結晶片岩の片理に沿って、文字通り”赤銅色”の自然銅が挟まった標本は
私の好きな標本の1つで、実際に産地を訪れ、自分の手で自然銅を採集したいと
思っていた。
今回の奈良県での鉱物採集地に無理にお願いして三尾鉱山を加えて頂き、Aさんと
息子のT君の案内で、念願の三尾鉱山を訪れることができた。
産地ではこれぞ自然銅と言える標本は見つからなかったが、自然銅(?)と思われる
ものがついた母岩を持帰って、自然銅を確認することができ、これで念願の1つが
叶いました。
案内していただいた、Aさんと息子のT君に感謝しています。
(2002年11月採集)

2.産地

五代松鉱山から、来た道を国道370号線まで戻り、吉野川に沿って東へ進み
桜で有名な吉野村を横目に見て、東吉野村に入り、三尾の集落を目指すと左手の
川の対岸に高さ、幅とも50m以上はあろうかと思われる三尾鉱山の広大なズリが
眼に飛び込んでくる。
三尾鉱山ズリ
鉱山施設だったと思われる建物の先に、手すりが付いたコンクリート製の階段があり
川原まで下りる。流石に吉野川の上流だけあり、この時期でも川の水量が多いので
浅瀬を選んで渡るが、長靴の上まで水がきて、靴の中がグチュグチュになる。
川を渡るとズリの末端で、このズリ一帯が産地です。

3.産状と採集方法

「日本鉱産誌」によれば、三尾鉱山は古生代の粘板岩・緑泥片岩からなり
鉱床は緑泥片岩中の層状含銅硫化鉄鉱鉱床(いわゆる、キースラガー)である。
キースラガー鉱床の代表は、四国の別子銅山で、キースラガー鉱床は西南日本を
東西に走る中央構造線に沿った三波川結晶片岩帯にあります。
三波川帯【関西地学の旅より引用】
1951年から閉山する1967年まで、銅を中心に採掘したようです。
1955年の採掘粗鉱品位は、Cu:5%、Ag(Auの間違い?):7〜30g/t、Ag:1.5〜3g/t
とあります。
自然銅を求めて、ひたすら緑色の結晶片岩のズリ石を叩き割ります。自然銅を含む
結晶片岩は粘り気があり、割れにくいと言われますが余り当てにはなりません。

4.採集鉱物

(1)自然銅【Native Copper:Cu】
自然銅は、緑色片岩の中に苔状や箔状で産出します。このような出方は珍しいと
されています。
採集した標本は、結晶片岩に石英脈がサンドイッチされた状態になっていて、石英の
中にも粒〜樹枝状の自然銅が分布しており、石英の色がうすい赤色になっています。
石英の中の自然銅は、新鮮で文字通り赤銅色ですが、結晶片岩の片理に沿う自然銅は
ズリに永い間あったせいか、茶色味を帯び、良く見ないと分かりません。
自然銅
(2)斑銅鉱【Bornite:Cu5FeS4】
斑銅鉱は、品位の高い銅鉱石で、赤紫〜青紫色をしています。
斑銅鉱
(3)重晶石【Barite:BaSO4】
重晶石の晶洞内に白色板状の自形結晶で見出された。重晶石が結晶した後に、苦灰石や
方解石が重晶石の上を覆った。
重晶石
(4)このほか、ここでは黄鉄鉱、黄銅鉱とそれらから生じた2次鉱物の孔雀石は
ふんだんに見られる。
四面銅鉱も産出するとありますが、採集できなかった。(わからなかった?)

5.おわりに

(1)愛知県の石友にいただいたような一目で自然銅と分かる標本は現地で
探せず、自然銅(?)と思われるものがついた母岩を持帰った。
自宅でジックリ見直して、何とか3個体(元は1ケを割ったもの)見つけ出すことが
できた。
産状や産地の様子も飲み込めましたので、次回は、もっと良品を採集できそうな気が
します。

6.参考文献

1))大阪地域地学研究会:関西地学の旅 宝石探し,東方出版,1998年
2)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
3)東京地学協会編:日本鉱産誌 T−b,砧書房,昭和31年
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