「第3回 池袋 鉱物化石市場 in 東武」

       「第3回 池袋 鉱物化石市場 in 東武」

1. 初めに

   東京で開かれる鉱物標本を販売するいわゆるミネラルショー(あるいはミネラルフェア)
  には、毎年6月の新宿ショーと「ミネラルマーケット」そして、12月の池袋ショーがある。
   その合間に、私の住む山梨県から参加可能なものとして、毎年8月に名古屋ミネラ
  ルショー、そして東京池袋で開催される「池袋 鉱物化石市場 in 東武」がある。

   「池袋 鉱物化石市場」は今年で第3回と歴史も浅く、規模も小さいせいか、一般には
  あまり知られていないようだ。
   2006年、単身赴任先に戻る途中に立ち寄り、数点購入した。それらの中には、「島根
  県松代鉱山の球状霰石」など、桜井博士の「日本の鉱物50種」に載っている”貴重品”
  あった。

   2007年も古い国産鉱物を求めて訪れ、「蛭川村産ベルトランド石付き緑柱石」など数
  点を購入した。
   今回もあまり期待しないで訪れただけに、久々の”現金採集”の成果に大満足だった。

   このような展示即売会で売られている鉱物標本の値段を見ていると、鉱物標本の価
  値とは何だろうか、と考えさせられる。
  ( 2007年8月現金採集 )

2. 場所

   JR山手線池袋駅近くの東武デパートの催事場で開かれた”Tokyo Mineral Show”と
  銘打った鉱物、化石、隕石、宝石などの即売会だった。
   ジェムや飾り石そして外国産鉱物がメインで、国産鉱物を置いているのは2つの
  ブースだけだった。

    2007年8月ミネラルショー

3. 採集鉱物

   ここで、”現金採集”した標本は次のようなものである。

 鉱 物 名
 (英語名)
産 地 組成   説    明 写  真 備 考
ベルトランド石
(BERTRANDITE)
岐阜県県
蛭川村
田原
Be4Si2O7
(OH)2
 ベリリウム(Be)を
含む。国内では
1975年に行者山で
初めて採集された

   緑柱石の上に成長
       横8cm


     六角板状結晶
       横6mm

3,000円
青鉛鉱
(LINARITE)
兵庫県
辻ケ瀬鉱山
PbCu(SO4)
(OH)2
  明るい青色
ガラス光沢
柱状結晶が集合

  ラベルには
1998年採集とある
今ではこのような
良品は
採集困難だろう


     全体【横8cm】


       拡大
      横6mm

1,500円
砂鉄
/磁鉄鉱
(Iron Sand
/MAGNETITE)
千葉県
銚子海岸
Fe2+Fe3+2O4  標本よりも
「岩本鑛産物商會」の
ラベルに惹かれて
購入
1,000円
パイロファン石
(PYROPHANITE)
愛知県
久田野
MnTiO3   鋼色、鏡面の
薄板状結晶

 久田野は
綺麗な満ばん
柘榴石の
有名産地


       横8cm
2,000円
剥沸石
(EPISTILBITE)
新潟県
柿崎町
黒岩
(CaNa2)3
Al6Si18O48
・16H2O
 独特な封筒状の
薄板状結晶が
集合している。

 剥沸石の自形
結晶は、雲見で
採集したのみ

 紫水晶の上に
共生するのは
非常に珍しい
(ただ、紫水晶は
 薄い紫色)


      横6mm
300円
灰クロムざくろ石
(UVAROVITE)
熊本県
猫谷鉱山
Ca3Cr2(SiO43  緑色、ガラス光沢の
微細結晶の集合

 妻の好みで購入


       横7cm
2,000円
タンタル石
/鉄タンタル石
(Tantalite
 /FERRO
-TANTALITE)
Brazil
Genipapo
Deitinga
(Fe,Mn)
(Ta,Nb)2O6
 黒色、ガラス光沢の
柱状自形結晶

 ラベルには
「タンタル石」と
俗名が書いてある。

 表面に鉄錆びがあり
ガイガーカウンタに
全く反応しないので
鉄タンタル石と判断

  
       高さ4cm
3,000円
人工水晶
(QUARTZ)
中国 SiO2  透明、ガラス光沢の
六角柱状、両錐の結晶

 人工品の証拠に
両端に種結晶を
吊るした針金が
ある

 水晶の仲間として
1本は欲しい、と
思っていた。

 この値段で完全
結晶ができるなら
結晶の完全性も劣り
価格も高い天然水晶は
使われないはず。


        長さ20cm
840円

4. おわりに

 4.1 鉱物標本ラベル
     かつて、鉱物界の大御所が 『 標本ラベルのない鉱物は価値がない 』 と何か
    に書いておられたと記憶している。

     今回、「東京 岩本鑛産物商會」 のラベルに惹かれて、”砂鉄”を購入した、その
    くらい、1枚のラベルには重みがある。

     私の石友と開催するミネラルウオッチングの楽しみの「標本玉手箱」や「オークシ
    ョン」への出品には、ラベルの添付をお願いしている次第だ。

     10年前に比べ、ミネラルショーやネットオークションなどを通じて、鉱物標本を購入
    する(できる)機会は格段に増えている。

     『どのようなラベルが付いているか』 を確認して、購入することをお勧めする。
     ( ラベルのない標本は”価値がない”ので、買ってはいけない )

 4.2 鉱物標本の価値
      今回購入した「鉄タンタル石」はいくつかあった中から3,000円のものを1つを選ん
     だ。一番高い標本は2万円を超え、一番安いものが2,000円だった。
      2万円を超えるものは、結晶の長さが10cm、厚さが1cmほどあり、体積(∝重さ)
     なら私が購入したものの10倍はあったが、結晶面が1面も見られない”塊状”だった。

      鉱物の価値(値段)とは何だろうか、と考えさせられた。

      誰もが欲しがる標本は価値が高い、と言えるだろう。ただ、”鉱物”を欲しがる人が
     相対的に増加し、それに伴って”価値観”も多様化している。
      例えば、一番ありふれている鉱物の1つである「水晶」をヒーリング(癒し)効果の
     対象としている人々は柱面や先端の錐面を”条線”が見えないくらいにピカピカに
     人工的に研磨してあっても、結晶が透明で形が整っていれば効果が大きい(=価
     値が高い)としているようだ。
      しかし、”学術的な鉱物”の対象とする人たちにとって、このような水晶は、全く価
     値がない。それどころか、”まがい物”として唾棄すべき対象でしかない。

      このように、1つの鉱物の”価値”を定義するのは難しいが、私の周囲におおい
     『鉱物は、フィールドでの採集が中心で、時々ミネラルショーで購入する石友』の間
     での”価値観”を前提に、話を進めてみたい。

      (1) 皮膜や塊状のものより、結晶しているもの
         結晶が完全(俗に頭付き)で、より大きなもの・・・・・・・・・・前後軸
      (2) 分離単晶より母岩付−−−→母岩の大きさ・・・・・・・・・・左右軸
      (3) ありふれたもの(存在率が高い)ものは価値が低い・・・・上下軸

      これらの関係を図に示してみた。軸の目盛りは、対数(1、10、100)
      数十年以前まで、国産鉱物の主な供給源が、鉱山や採石場だった時代には、
     チェックの範囲は、博物館など展示施設向けで、一般の愛好家が採集あるいは
     購入できるたのは水色の範囲だった。
      ( 国産標本の一級品は、ほとんど博物館、大学、そして鉱山会社などのの展示
       施設に収まってしまった )

       標本の価値【同一鉱物種】

      鉱山や採石場がほとんど稼行していない現在、一般の愛好家が鉱物採集の主役
     になり、特に新鉱物などでは、『博物館級の良品を採集できる』余地も生まれて
     いるのではないだろうか。

5. 参考文献

 1)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 2)山田 滋夫:日本産鉱物五十音配列産地一覧表,クリスタルワールド,2004年
 3)松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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