ミネラル・マーケット 2013







              ミネラル・マーケット 2013

1. はじめに

    東京新宿で国際的なミネラル・フェアが開催されるのに合わせ、アマチュアが自分の採集
   品を売る「ミネラル・マーケット」が開催される。
    昨年に続いて、9回目の訪問をした。前夜、妻と山梨から車で千葉の三男の家に向かい
   孫娘を真ん中にして”川の字”で寝た。翌朝、妻に車で駅まで送ってもらい、JR飯田橋の駅で
   降り、ノンビリと会場に向かうと、開場15分前で、大勢の人々が列を作って並んでいた。
    列の中に、愛知県の古い石友・TDさんの姿を認め、開場までのわずかな時間だったが、
   楽しいひと時を過ごすことができた。

       「ミネラル・マーケット」【2012年】

    開場すると2つの部屋にどっ、と人がなだれ込み、人気のブースは黒山の人だかりで、標本
   を見るのにも、しばらくの間待たなければならないほどだった。

    いろいろ欲しい標本はあるのだが、『そんなに買ってどうするの』、という声が聞こえてきて
   数点ほど購入して、妻と孫家族が待つ千葉に戻った。

     ( 2013年6月 現金採集 )

2. 場所と規模

    2005年からJR飯田橋駅近くの「レインボービル」の会議室が会場になった。10時30分開場
   で、千葉からだと予想外に近く、9時過ぎに京成・津田沼駅を出て、開場15分前に到着した。
    10時30分ジャストに開場。並んでいた人々が”ドッ”、となだれ込む。10m×15m程度の
   2部屋に約30店が、標本を所狭しと並べており、立錐の余地もないほどで、この状態は私が
   会場を去る12時過ぎまで続いていた。
    ここを観て、新宿のミネラル・フェアに回るのが一般的なコースのようだ。

    ここで、売られているのは、次のようなものであった。

     (1) アマチュアが自力で採集した国産鉱物や化石
     (2) 外国(中国など)産の鉱物・宝石・化石
     (3) 文献・図書・標本ケースなど

    当然、国産鉱物標本のブースは黒山の人だかりで、外国産標本、化石、宝石のコーナーは
   あまり人気がない。

3. 購入標本

 3.1 購入国産標本
    こういった売り立てで、私が購入するのは、次のような品である。

    @ 収集テーマ品・・・古い文献やそれに記載されている産地や山梨県周辺の産出標本、
                 そして、すでに採集している他の産地の標本との比較用
    A 新奇品・・・・・・・・初めて見聞きする産地あるいは標本
    B 見本品・・・・・・・・産地を訪れる際の産状見本(採れなかったときの保険)
    C 残念品・・・・・・・・産地を訪れたが、採集できなかった。(産地に行き着けなかった)
                 今後も自力採集できそうもないもの。
    D 贈呈品・・・・・・・・石友への贈呈用

    今回、購入したのは次の5点だった。
   

 No区分    鉱 物 名
  産      地   写      真  説 明
1 @
B
紫水晶(石英)鳥取県藤屋      
            全体【長さ 27mm】
 「藤屋」は、『紫水晶の4大古典的産地』の1つ

 産地所在地訪山標本入手  備  考
遊泉寺加賀(石川県)遊泉寺銅山跡
小原磐城(宮城県)雨塚山のこと
藤屋伯耆(鳥取県)××→○現鳥取県
綱木越後(新潟県)現三川村

 これで、上記の産地の紫水晶を完集

 どうにかして、藤屋を一度訪れたいと
念じている。

2 @ 鉄電気石 山梨県甲府市
黒平(くろべら)

            全体【横 15cm】


            部分【横 10mm】

 産地はM沢、とのこと
 最近、晶洞が開いたらしく
いくつかのブースで
同じ産地のものを販売
3 @ 水晶(石英)大分県尾平鉱山         
            全体【長さ 53mm】
 『山入り水晶』で
 『インターラプテド・クオーツ』と呼ぶ
柱面に”くびれ”や”段差”がある水晶

 長野県川上村湯沼産の
『角閃石入り水晶』水晶と類似

長野県川上村湯沼『インターラプテド・クオーツ』の成因

長野県川上村湯沼『朝飯前』の鉱物

4A
B
珪亜鉛鉱 栃木県日光市
野門(のかど)鉱山

            全体【横 9cm】


          ミネラライト【横 35mm】

 六角柱状結晶が見られる。

 紫外光(ミネラライト)で
緑色に蛍光する。

 青色部は水亜鉛土

5C 氷長石山梨県甲州市平沢
            【横 9cm】
 「平沢」は氷長石の古典的産地
10回前後訪れているが、このように
結晶が大きく、大きな群晶は
採集できなかった。

4.  『鉱物切手』 第2版 余聞

    開場を待つ列に、愛知県の古い石友・KDさんがいた。KDさんの発案・企画で、”奥三河の
   大地に眠る石の華”のタイトルがついた『奥三河鉱物フレーム切手』が、日本郵便株式会社
   東海支部から限定1,000シート発行されたことは次のページで紹介した。

    ・ 石友恵与の『鉱物切手』
      −奥三河の大地に眠る石の華−
      ( Mineral Stamps Presented by Mineral Friend , Aichi Pref.
       - Stone Flowers from the Earth in Okumikawa - )

    「月遅れGWミネラル・ウオッチング」で会った愛知県の石友が、「住んでいる名古屋市内の
   郵便局では販売されなかったので、豊橋まで買いに走った」 、と話してくれた。このときの
   「オークション」に1セット出品され、定価1,200円の品が1,700円で落札された。
    そのくらい人気が高く、限定1,000シートはあっという間に完売したらしい。

    KDさんから、追加で1,000シート発行した、と聞いた。KDさんが話していた通り、「フレーム
   切手」は全く同じだが、解説書の一番下に『第2版』、と入っているのが『(第1版)』との違いだ。

      
                              解説銘版
                        【 上:第2版 下:(第1版) 】

    思いもかけずKDさんから『第2版』を恵与いただいた。後日、お礼に何かと思いめぐらすと
   いつも山梨名産のワインばかりでは芸がないし、KDさんが私のHPで見た「母岩付き満礬ザ
   クロ石」を気に入っているようだったので、これと「長野県の水晶・巨晶」をお送りしたところ、
   喜びの電話をいただいた。

    何人かの石友への”暑中見舞い”に、「母岩付き満礬ザクロ石」を贈ろうと標本箱を見ると
   手持ちがなくなっていた。この週末、岡谷まで行く用事があったのでついでに補充に出かけ
   た。
    母岩の流紋岩(デイサイト)塊の間に、”コロン”と親指の爪大の分離結晶が落ちているのは
   いつもの御愛嬌だ。”晶洞(ガマ)出し”と同じなので、水洗いしただけで、宝石のような輝きを
   みせてくれた。
    ( この産地のザクロ石で巨晶、と呼べるのは、”親指の爪大”同等以上、と決めている )

         
                  ”コロン”                       洗浄後
                          満礬ザクロ石 分離結晶
                               【径 14mm】

5. おわりに

 (1) 続々と新産地、新産鉱物
      草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」を読むと、1924年生まれの草下先生ですら
     先輩コレクターから、『君、鉱物採集を始めるのが30年遅かったよ』、 と言われた
     とある。

      確かに、日本のあちこちで鉱山や採石場が稼働していたころ、「1升瓶を持参したらカ
     マス一杯の水晶をくれ、その中に日本式双晶があった」、などという夢のような話もあっ
     たらしい。

      一方、ミネラル・マーケットには、今回入手した『野門(のかど)鉱山の珪亜鉛鉱』のように
     ほとんど世に知られない新産地の日本離れした新産鉱物が売りだされている。これなどは
     草下先生はご存知なかったはずだ。

      2013年6月開催した「月遅れGWミネラル・ウオッチング」のとき、参加者のひとり三重県・
     O(兄)氏から新鉱物・『伊勢鉱』を恵与いただいた。発見された三重県の旧国名・伊勢か
     ら名づけられたらしい。希産(絶産?)なことと、鑑定が難しい事から、”甘茶”泣かせのよ
     うで、ネットや売り立てでも高い値段が付いている貴重な鉱物だ。

      
            O(兄)さん恵与の「伊勢鉱」
                 【横 3mm】

      伊勢鉱【ISEITE:Mn2Mo3O8】は、マンガン(Mn)とモリブデン(Mo)の鉱物で、神岡鉱山で
     発見された神岡鉱【KAMIOKITE:Fe2Mo3O8】の鉄(Fe)をマンガンで置き換えたものだ。
      と言うよりは、輝水鉛鉱【MOLYBDENITE:MoS2】と軟マンガン鉱【PYLOLUSITE:MnO2
     が2つずつ合体したものと言ったほうが判りやすいかも知れない。
      そのせいか、見かけは輝水鉛鉱に似ているが、硬度が少し高いらしい。分析結果でも、
     伊勢鉱の70%強が、輝水鉛鉱(MoS2)だ。

      2012年に新鉱物に認定され、7月3日に新聞発表されたものが1年も経たないうちに、
     原産地の三重県から遠く離れた地方に住む私が手にできる時代になっているのだ。

      2013年6月開催した「月遅れGWミネラル・ウオッチング」の2日目、山梨県の新鉱物産地
     を訪れる予定だったが、初日の成果の続きの希望者が多く、訪れていない。
      このマンガン鉱山で採集した不明鉱物は、滋賀・O(弟)さんが加藤先生に鑑定してもら
     ったところ、カリオピライト【CARYOPILITE:Mn6Si4O10(OH)8】で、ベメント石【BEMENTITE:
     Mn7Si6O15(OH)8】と原子数がわずかに違うだけで兄弟だ。

      以前頂いたO(弟)さんのメールには、次のようにあった。

       『 ・・・・・・・・・・伊勢鉱の産地ではベメント石が分析結果で見つかっているそうで、
        私もそれらしいものを採集しており、それが今回送っていただいた石にそっくりです。
         正確を期すならX線などでの分析が必要かも知れません。・・・・・・・・・       』

      新鉱物・「伊勢鉱」など、夢の広がる話なので、いつか訪れてみたいと思っている。

 (2) アベノミクス
      自民党政権になって半年が過ぎた。「三本の矢」なるものの三本目「成長戦略」が打ち
     出された途端、株が大暴落したのは、皮肉だ。

      H製作所の株主報告書を読み、株主の40%強が外国人だと知ると、さすが”世界のH”など
     と能天気に喜んでおられない。日本の株式取引の60%が外国人の手で操られ、東京市場
     は、行き場を失った”お金”でなく”マネー”が渦巻く”世界の鉄火場(バクチ場)”で、素人
     は火傷(やけど)をするのがオチだろう。

      さて、成長戦略の柱に、いつか、どこかで聞いた『規制緩和』、が入っているのは予想
     通りで、新鮮味もない。

      以前紹介した、内橋克人氏の「悪夢のサイクル ネオリベラリズム循環」なる本によれば、
     アメリカの日本政府への強硬な申し入れで次のような悪夢のサイクルが繰り返し起こって
     いる、ということだ。

      今回の「成長戦略」でも、これを繰り返しているだけのようだ。

      これによって、これらの引き金になった事象を操(あやつ)れ、その影響を予測できた某
     日銀総裁や国内外のファンドと呼ばれる「虚業」の連中がお金ではなく「マネー」を儲け、
     国民の多くはそのあおりを食って、貧しくなる一方だということだ。

       ・資本の自由化、規制緩和
        → 海外マネー流入
        →バブル発生(借金経営状態化、国は国債・地方は地方債を乱発)
        →海外マネーの流出(バブル崩壊)
        →労働規制緩和による非正社員比率増、累進からフラット税制による所得の2極化
          企業淘汰・合併・外資化
        →海外マネーの流入
        →バブル発生(超大金持ち出現、失業率は高止まり)
        →経済事件の頻発
        →海外マネーの流出(バブル崩壊)
        →地域荒廃、共同体破壊、治安の悪化

      「規制緩和」や「郵政改革」など、誰がやったか皆さんも記憶に新しいはずだ。
     これから先、山梨県や甲府市のように、取れる税金は必死で取ろうという自治体と2020年
     のオリンピック開催に立候補し、「財政」、「交通」などでIOCから高い評価を得た東京都
     のように余力のある自治体では暮らしやすさに大きな差が出てきて、地方を離れ大都市
     に集中する傾向が強まる、と著者は予測している。
      ただ、移住できるのは経済的に余力のある人だけで、多くの人々は、サービスや治安の
     悪い地方に住み続けなければならない、とも予測している。

      私ごとだが、『終(つい)の棲家』をどこにしようか、迷う理由の1つだ。

      こういう未来に夢や希望はあるのだろうか。著者は、「人間が市場を使いこなす」と「フィ
     ンランドに学ぶ」をヒントとして与えてくれている。

6. 参考文献 

 1) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 2) 加藤 昭:マンガン読本,関東鉱物同好会,1998年
 3) 松原 聰、宮脇 律郎著:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 4) 内橋 克人:悪夢のサイクル ネオリベラリズム循環,文藝春秋,2007年
 5) 読売新聞:IOC報告 東京 財政・交通に評価,同紙,2013年6月26日朝刊
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