ミネラルマーケット・2012







              ミネラルマーケット・2012

1. 初めに

    東京新宿で国際的なミネラル・ショーが開催されるのに合わせ、アマチュアが自分の採集
   品を売る「ミネラルマーケット」が開催される。
    昨年に続いて、8回目の訪問をした。飯田橋の駅で降り、ノンビリと会場に向かうと、開場
   15分前で、すでに会場の外にまで開場を待つ人たちが並んでいた。

       「ミネラル・マーケット2012」

    会場は例年以上に混雑していたが、懐かしい何人かの石友の皆さんとお会いする事もでき
   た。

     いろいろ欲しい標本はあるのだが、『そんなに買ってどうするの』、という声が聞こえてきて
   3点ほど購入して、孫の待つ山梨に向かった。

     ( 2012年6月 現金採集 )

2. 場所と規模

    2005年からJR飯田橋駅近くの「レインボービル」の会議室が会場になった。10時30分開
   場で、千葉からだと予想外に近く、9時過ぎに単身赴任先を出て、開場15分前に到着した。
     10時30分ジャストに開場。並んでいた人々が”ドッ”、となだれ込む。10m×15m程度の
   2部屋に約20店ほどが、標本を所狭しと並べており、立錐の余地もないほどで、この状態が
   私が会場を去る12時前まで続いていた。

    ここで、売られているのは、次のようなものであった。

     (1) アマチュアが自力で採集した国産鉱物や化石
     (2) 外国(中国など)産の鉱物・宝石・化石
     (3) 文献・図書・標本ケースなど

    当然、国産鉱物標本のブースが黒山の人だかりで、外国産標本、化石、宝石のコーナーは
   あまり人気がない。

3. 購入標本

 3.1 「あなたは、おもちですか?」
     岡本要八郎先生と桜井欽一先生が書いた ”「あなたはおもちですか?」鉱物コレクター
    の資格審査”という記事に目が止まり、その内容について、私のHPで紹介させていただいた。

        「あなたはおもちですか?」
     鉱物コレクターの資格審査
     ( How Many Specimens do you have ? , Qualification of Mineral Collector )

    それ以来、フィールドやミネラルショーでは、日本産鉱物50種+【番外4種】、計54種を積極
   的に追いかけてきた。2010年春、兵庫県の石友・N夫妻に「眉山のルチル」を恵与いただい
   たおかげで”完集”でき、『Collector』としての自分の1つの目標が達成できた。

 3.2 購入国産標本

    こういった売りたてで、私が購入するのは、次のような品である。

    @ 残念品・・・・・・・・産地を訪れたが、採集できなかった。(産地に行き着けなかった)
                  今後自力採集できそうもないもの。
    A 収集テーマ品・・・古い文献やそれに記載されている産地の標本や、すでに採集して
                  いる他の産地の標本と比較用
    B 見本品・・・・・・・・産地を訪れる際の産状見本(採れなかったときの保険)
    C 配布品・・・・・・・・石友への配布用
    D 新奇品・・・・・・・・初めて見聞きする産地あるいは産出標本

    今回、購入したのは次の3点だった。
    

 No    鉱 物 名
  産      地   写      真  説 明
1 自然金 群馬県水上町天沼鉱山
            全体


            拡大

配布品 
2 テルル石 静岡県河津鉱山
            拡大
残念品
3 弗素燐灰石 岩手県陸前高田市玉山金山
            全体


            拡大

新奇品

4. 山梨県 『森林環境税』 導入

    山梨の住所の私宛の郵便物は自動的に単身赴任先に転送されてくる。6月初旬、山梨県
   からの郵便物を開けると、「森林環境税(県民税均等割の超過課税)を導入します」、という
   パンフレットが入っていた。
    平成24年4月1日からスタート、とあり、従来から払っている県民税や市町村民税に年額
   500円を上乗せして納めるので”超過課税”とお役所では言うらしい。早く言えば”増税”だ。

    
             森林環境税導入案内

    山梨を離れているので、この税が導入された経緯は全く判らないが、導入目的として、パン
   フレットに次にようにある。

    「 森林には、災害の防止、水源の涵養(かんよう)等の多くの公益的機能があります。山梨
     県では、この重要な役割を果たす森林を健全な姿で次の世代に引き継いでいくため、・・・・
     ・・・・導入する                                              」

    たしか、2011年は、『恩賜林御下賜(おんしりんおかし)100周年』だったことを思い出した。
   山梨県では、明治明治40年(1907年)8月、甲府盆地を中心に、死傷者422人、破壊または
   流失家屋11,943戸という未曾有の大水害が発生した。これにとどまらず、明治43年(1910年)
   8月、山梨県下を集中豪雨が襲い、またもや大水害が発生し、県民は絶望の淵に立たされた。

    この窮状をお知りになった明治天皇は、明治44年(1911年)3月、県内の御料地(皇室が
   所有する土地)を県土復興に役立てるようにと山梨県に贈られた。つまり、御下賜された。
    山梨県側からみれば、いただいた森林原野は『恩賜林』、という表現になる。

    これらは、恩賜県有林といわれ、面積は164,000ヘクタールで、県有森林面積約34万ヘクタールの
   半分を占めており、県有財産としては北海道に次ぎ全国第2位の面積の森林を保有すること
   になった。ちなみに、山梨県土の総面積44.5万ヘクタールの約35%(1/3)を占める。標高も
   200mから3400mにわたる。生育する主な樹木は、栂(つが)、樅(もみ)、シラベなどの針葉
   樹から楢(なら)、栗(くり)、楓(かえで)のどの広葉樹など多様な植生に恵まれている。
    また、富士川、桂川(相模川の上流部)など、県内の主要河川の源流部のほとんどが県有
   林で、急峻な地形や脆弱な地質を保全する役割を担っている。このため、県有林の81%は水
   源涵養や土砂流出防止などの目的で『保安林』等に指定されている。

    県有林にかかわるおもなできごとを「山梨新報」の特集記事から抜き出してみる。

    明治45年3月  御下賜御沙汰書拝受した3月11日を「恩賜林記念日」に制定
    大正3年11月  大正天皇即位記念林として県、恩賜林496ヘクタールの造林を県議会で議決
    大正6年10月  「恩賜林記念日の歌」制定、歌詞は公募
    大正6年12月  謝恩碑地鎮祭
    大正9年12月  謝恩碑完成
               甲州市(旧塩山市)産花崗岩 題字は山県有朋
    大正11年9月  謝恩碑除幕式挙行

               
                        舞鶴城跡謝恩碑
                     【「山梨の治山」から引用】

    大正13年4月  大正天皇御即位記念林496ヘクタールが完成
    昭和11年6月  恩賜林御下賜25周年記念式典挙行
    昭和13年1月  富士吉田市(旧福地村)所在の恩賜林1260ヘクタールを陸軍演習場に譲渡
    昭和25年4月  第1回全国植樹祭を天皇皇后両陛下をお迎えし、甲府市片山の恩賜林で
              開催
    昭和26年5月  恩賜林御下賜40周年記念式典を挙行
    昭和32年7月  天皇皇后両陛下、野呂川及び富士山5合目の恩賜林を御視察
    昭和34年8月  台風7号(伊勢湾台風)が来襲し、県内各地で大被害
    昭和36年10月  恩賜林御下賜50周年記念式典挙行
    昭和42年11月  南アルプススーパー林道の開設工事に着手
    昭和43年8月   明治100年記念事業として、南アルプス市(旧櫛型町)の県有林
               953ヘクタールを「県民の森」に設定
    昭和46年5月   第3回山梨県県土緑化推進、恩賜林御下賜60周年記念式典挙行
    昭和48年4月   置県100年を記念して、甲府市山宮町片山の県有林195ヘクタールを
               「健康の森」に設定
    昭和52年4月   「健康の森」を核として、甲府市北部エリア2500ヘクタールを「武田の杜」に
               設定し、遊歩道等の整備に着手
    昭和52年9月   北富士演習場214ヘクタールを県が一時預かりの形で北富士県有地として
               取得
    昭和54年11月  南アルプス林道完成
    昭和56年5月   恩賜林御下賜70周年記念県土緑化推進・林業振興大会を開催
    平成元年10月  「みどりの日制定記念の森」の造成計画を樹立
    平成2年10月   第14回全国育樹祭を、皇太子殿下をお迎えし鳴沢村富士桜地区で開催
    平成3年4月   恩賜林御下賜80周年記念山梨県植樹祭を塩山市(現甲州市)牛奥で
               「第1回県民緑化まつり」を万力公園で開催
    平成3年10月   恩賜林御下賜80周年記念式典を甲府市小瀬スポーツ公園で開催
    平成13年3月   恩賜林御下賜90周年記念式典を甲府市舞鶴城公園謝恩碑前広場で
               開催
    平成13年4月   第52回全国植樹祭のグランドオープンとして、須玉町みずかき山麓の
               式典会場で「森と木のフェスティバル」を開催し、あわせて恩賜林御下賜
               90周年記念植樹を実施
    平成13年5月   第52回全国植樹祭を天皇皇后両陛下をお迎えし、須玉町みずがき山麓
               で開催
    平成14年4月   御下賜100周年に向けて、県民参加による「100万本植樹運動」を開始
    平成15年4月   世界標準の視点から森林を承認する「FSC森林管理認証」を取得
               ( 認証面積 143,000ヘクタール )

               
                          山梨県有山
                       【「山梨新報」から引用】

    平成16年3月   北富士県有地189.8ヘクタールを地元保護団体に再払い下げ
    平成20年3月   「FSC森林管理認証」を更新
    平成23年3月   恩賜林御下賜100周年
               3月11日が記念日だったが、御承知の東日本大震災が発生した。

    なぜ、このようにながながと「恩賜林」の話を書いたかと言うと、恩賜林下賜のキッカケの
   1つがが甲斐(山梨県)特産の水晶の採掘(乱掘)による森林の荒廃があったからだ。これに
   ついては、次のページですでに紹介した。

    ・山梨の水晶
     (Rock Crystal of Yamanashi,Yamanashi Pref.)

    妻から送られてきた地元紙の切り抜きを読むと、『溶岩泥棒御用』、という生々しい見出しが
   踊っていた。
    なんでも、S1県とS2県の男性2人が、販売目的や園芸用として、青木ケ原樹海から無断で
   溶岩を持ち出したとして、相次いで逮捕された。

    
                            新聞記事
                       【「山梨新報」から引用】

    こんなこともあって、山梨県内での鉱物採集に対する風当たりはますます強まるかもしれな
   い。

5. おわりに

 (1) 続々と新産地、新産鉱物
      草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」を読むと、1924年生まれの草下先生ですら
     先輩コレクターから、『君、鉱物採集を始めるのが30年遅かったよ』、と言われた
     とある。

      確かに、日本のあちこちで鉱山や採石場が稼働していたころ、「1升瓶を持参したらカ
     マス一杯の水晶をくれ、その中に日本式双晶があった」、などという夢のような話もあっ
     たらしい。

      逆に、ミネラル・マーケットには、長野県茅野市だけをとってみても、2009年の「セリウ
     ム・フローレンス石」や2010年の「長野県向谷鉱山の都茂鉱・自然金」など草下先生も
     知らなかった新産地の標本や新産鉱物が出品されている。
      何事も始めるのに遅い、はないということだろうか。『「四十(しじゅう)の手習い』という
     言葉があるが、人生五十年時代の話で、人生の8合目に差しかかって始めても遅くない
     ということだ。
      男性の平均寿命が80歳近くなった現在、還暦を過ぎて始めても遅くない、ということで
     定年退職後にミネラル・ウオッチングを始めるのも良いだろう。

      行く気と多少の情報網があれば、これらの新産地の発表からそれほど間(ま)を置かず
     に訪れ、新産鉱物を採集できる時代になっている。
      最近発売された松原先生の「鉱物ウオーキングガイド」には、「向谷鉱山」など26産地が
     地図、写真入りで紹介してあり、迷わずに到達できるはずだ。

      恒例になっている「2012年月遅れGWミネラル・ウオッチング」で、親しい石友と古典的な
     産地を訪れ、夜は「湯沼j鉱泉」でのOB・OG(YG?)会で懇親を深めるのを楽しみにしてい
     る。

 (2) 増税
      現在、国会では消費税増税論議が大詰めを迎えているようだ。民主党が政権を取った
     マニュフェストを”反故(ほご)”にして、自民・公明と修正協議で合意しようとしているのだ
     から、小沢さんならずとも『政権交代の原点』を忘れてもらっては困る、と言いたい。

      4月からの新年度を迎えて、上に紹介した山梨県以外にも甲府市からの手紙が続々と
     単身赴任先に転送されてくる。それらを開けると、「自動車税」、「国民健康保険料」、「市
     県民税」、「介護保険料」、「固定資産税」などなど税金がらみの書類ばかりだ。
      一番驚いたのは、過年度の年金収入が増えたので、平成21年、22年、23年分の市県
     民税と平成22年分の国民健康保険料の追加分を支払えと言うものだ。
      明日か明後日には、平成21年、23年分の国民健康保険料の追加分の請求が来るのだ
     ろう。

      幸い、この一年一度も病院通いをしていないのにもかかわらず、毎月☆万円余りの健康
     保険料を支払っているのに、もっと払えには、怒りを通り越して”この国はどうなっている
     んだ”、と呆(あき)れ果てる。

      古本屋を回っていると、内橋克人氏の「悪夢のサイクル ネオリベラリズム循環」なる本
     が目に入った。この本の要旨は、アメリカの日本政府への強硬な申し入れで次のような
     悪夢のサイクルが繰り返し起こっている、ということだ。
      これによって、これらの引き金になった事象を操れ、その影響を予測できたF日銀総裁
     や国内外のファンドと呼ばれる「虚業」の連中がお金ではなく「マネー」を儲け、国民の多
     くはそのあおりを食って貧しくなる一方だということだ。

       ・資本の自由化、規制緩和
        → 海外マネー流入
        →バブル発生(借金経営状態化、国は国債・地方は地方債を乱発)
        →海外マネーの流出(バブル崩壊)
        →労働規制緩和による非正社員比率増、累進からフラット税制による所得の2極化
          企業淘汰・合併・外資化
        →海外マネーの流入
        →バブル発生(超大金持ち出現、失業率は高止まり)
        →経済事件の頻発
        →海外マネーの流出(バブル崩壊)
        →地域荒廃、共同体破壊、治安の悪化

      「規制緩和」や「郵政改革」など、誰がやったか皆さんも記憶に新しいはずだ。
     これから先、山梨県や甲府市のように、取れる税金は必死で取ろうという自治体と東京都
     のように余力のある自治体では暮らしやすさに大きな差が出てきて、地方を離れ大都市
     に集中する傾向が強まる、と著者は予測している。
      ただ、移住できるのは経済的に余力のある人だけで、多くの人々は、サービスや治安の
     悪い地方に住み続けなければならない、とも予測している。

      こういう未来に夢や希望はあるのだろうか。著者は、「人間が市場を使いこなす」と「フィ
     ンランドに学ぶ」をヒントとして与えてくれている。

6. 参考文献 

 1) 社団法人 山梨県治山協会編:山梨の治山 創立二十周年記念誌,同協会,昭和42年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 松原 聰、宮脇 律郎著:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 4) 内橋 克人:悪夢のサイクル ネオリベラリズム循環,文藝春秋,2007年
 5) 山梨新報:溶岩泥棒御用,同社,2009年7月10日
 6) 山梨新報:祝 恩賜県有財産下賜100周年特集 明治末大水害の復興にと,同社,
           2011年11月11日
 7) 松原 聰:鉱物ウオーキングガイド 関東甲信越版,丸善出版,2012年
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